強制ハーレムな世界で元囚人の彼は今日もマイペースです。

きゅりおす

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3rdフェーズ 散

No.67 司祭さま

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デウス・エクス・マキナという宗教団体で体験入会をしたジーナ達。

そこで行われている経典の読み聞かせという名の芝居を見終えた3人。


「どうでしたか?」

またあの白布に光るラインが走った服装をした者がやって来た。

「あ、ああ、えーっと素敵でした。ね?二人とも」
「はい、そのー演出とか音楽も素晴らしく」
「廃材を組み立てるだけでAIを作りだすとか、AIはそういうのじゃなくて人間の知的活動のプロセスを模倣させたもので……っ!」

余計な事を言いそうになったシャーロットの前に立つジーナ。

「2人とも凄い気に入ってくれたみたいで」

「本当?それは何より!そんなあなた達に朗報ですよ。今日はなんと司祭様がいらっしゃる日なんです!司祭様は月に何度かしかいらっしゃらないから、体験入会の日に司祭様を生で見られるなんて、これもAIのお導きでしょう、是非お会いしてください」

「司祭様?」
ジーナが首をかしげる。


その頃、教会に向かう一台の車の中。

車の後部座席には白い服装をした者が座っていた。彼女の隣には大きな長方形で水色の帽子が置かれている。

「ねぇ運転手ちゃん、今日の昼ごはんは何?」
「特に決まってません。教会の近くですと中華、ハンバーガー、最近出来た野菜専門店ですかね。出前が取れるのは」

運転席と後部座席は壁で区切られているが、お互いの声はマイクとスピーカーを通じて相手に聞こえるようになっていた。

「出前ばっかり、偶には店舗に行って食べたいよ」
「それは出来ません」

ため息をついて白い服の女性は席にもたれかかる。

「そうですか……ベジタリアンだよ」
「え?」

「野菜専門店って言っただろ?それはベジタリアン向けの店だ、いやなんだっけもっと別の言葉があったような……。最近増えたよね、ひょっとしてテレビ見ないタイプ?」

「あまり見ません」

「そう、賢明な判断だ。テレビに映るものは不安を煽るものばかり、でも最近は日課のように見てるよ。老人ホームにいる母が毎回尋ねるたびにテレビを観ている理由が最近わかったよ。暇でしょうがないんだね、ヒステリーなお年寄りが多い訳だ」

窓の外を見る白い服の女性。

「話をベジタリアンに戻すんだけどさ。彼女達ってある意味人間らしいよね、興味深いよ、観察対象としてね。ああ、これは罪を犯さない為に肉を喰わないって人達の話だよ。でもさ、人類種なんて誕生以来ほかの種族を滅ぼしまくって今日まで栄えてきた種族だよ?歴史上こんなに他種族を滅ぼした奴なんていない。それを今更少し食生活を変えた所でさ、本気で贖罪なんて出来るとか思ってるのかね?その精神が大事なのかな?でも都合がよすぎじゃない?」

「さあ、私にはなんとも」
肩をすくめる運転手。

「植物だって生きてるし、育てるには森を開拓する事も必要だろう、安定して供給するには害虫の駆除も必要だ。結局は自分達の視界に映らない所に罪を押し込みたいだけだ」

オープンしたての野菜専門店に人が大勢並んでいるのを横目にみる。中にはなにやら看板を首から下げている者もいる。

「なんとも個人主義的な考えだ。君はそう言う人達じゃないよね?つまり思想強めなベジタリアンの事。そんな訳ないよね、それなら今頃私は死んでるもんね」

「野菜以外も食べます」

再びため息をつく白い服の女性。

「私が言いたいのはさ、みんな余裕が無いのさ。だから自分に罪がある事を認めたくないんだ、だから攻撃する対象を血眼になって探してるのさ。それは時に他国であったり宗教であったり文化であったり、その全てに人が関わっている。他の種族は散々虐げた、もういじめる手はない、だから次のいじめる相手を探している。余裕の無さとは怖いね」

一通り話を終えた後、再び運転手に話しかける。

「お肉好き?」
「私は魚のが好きです。昔から肉は胃がもたれてしまうので」

「ああ、そうなんだ。先週の運転手は肉派だったよ。その前の運転手は、そうだその人こそ野菜しか食べない主義でね、凄い押しつけようとしてくるんだ。彼女は家畜には優しいのに私には厳しいみたい」

そんな話をしていると車が教会の前で停まる。

「到着しました」

「ああ、残念ながらそのようだ。あ、出前はうーん中華で、ハンバーガーは昨日食べたからね。炒飯に追加でカシューナッツかけてもらって、それとテリヤキチキンね、ソースは多めで、ソースを炒飯にかけると美味しいんだ」

「畏まりました」
運転手は席に座ったままボタンを押して扉を開ける。

「毒とか盛らないでね。それじゃあ今日も罪を重ねるとしますかね」
彼女が車から降りると、車の周りに待機していた多くの者が拍手をし始める。

「どうぞお気を付けて行ってらっしゃいませ、司祭様」


ジーナ達もその様子を遠目から観ていた。

「へぇー、普通に近づけるんだ。ちょっと行ってくる」
「一人で大丈夫?」
「うん、でももし15分経って連絡なければ発信機頼りに探してね」
時計をトントンと叩いてジーナはシャーロットとウルルに伝えた。

「ジーナ様お気をつけて」
「ウルル話し方、それじゃあ行ってくるね」

ジーナは二人の側を離れ司祭の元に向かう。

一通り他の信者と挨拶を終えたのか、司祭の周りは落ち着いてきていた。

「司祭様、どうも初めまして」
「ああ、そのバッジは体験入会の方ですね。ご興味を持って頂き誠にありがとうございます」

ジーナが司祭に対しお辞儀をすると司祭もお辞儀をし返した。

「とっても素晴らしい場所ですね、素晴らしい教えを説いている場所にふさわしい」
「それはどうも、ありがとうございます」

周囲を見渡して、監視カメラの位置を確認するジーナ。

「ここの設備。ハウンドのですよね?どれも最新のもの」
「……そうですが、それが何か?」
司祭が一瞬言葉に詰まったのをジーナは見逃さなかった。

「ハウンドってなんか嫌な噂が多くないですか?なんだかなーって」
「あ、あのね、君ね。そういう噂が気になる年頃なのかもしれないけど、あんまりそういうのを声高に言うのは……」

相手の反応を見て、ジーナは何か確信し、次の行動に出た。
司祭に一歩歩み寄り、彼女にしか聞こえない声で囁いた。

「目を一瞬見開いた。発声も最初よりはっきりしなくなった所を見ると何かハウンドについて知ってますね」
「ッ!ああ!君は我らが経典の簡略版が欲しいのかね!安心したまえ!私の部屋に沢山あるから!さ、こっちにいらっしゃい」

司祭はジーナの肩を掴んでそう言うと、彼女をどこかに連れて行く。

「司祭様?」
「ああ、彼女は素晴らしい、経典を友人に配ってくれるそうだ。少し私の部屋に通すが構わないね」
「そうなんですね!素晴らしいです!どうぞ!」

部屋に入るとすぐに扉を閉める司祭。

室内の広さは普通でそこに作業用のデスクとイスが置かれており、少し離れた場所に一人用のソファがあるだけだった。

「なんですか、急にこんな部屋に女の子を連れ込んで。言っておきますが、私結構強いんで変な気は起こさない方が良いですよ」
「違う違う、そんな事はしないよ。ハウンドについてここではあまり話さない方が良い。連中は私達の様子をあの設備で監視しているんだ。この部屋だけは死守したけどね。はぁ、久々に心臓がギュってなったよ」

司祭は扉から離れて自分のデスクの側に向かう。

「ハウンドからわざわざお安く警備設備を提供して貰ってる割に随分と警戒されてるんですね」

ジーナの発言を聞いて再び目を見開く司祭。

「どこでそれを!まったく!君は一体何者なんだ?!」
「私はただ探し物の手がかりがないか、調べに来ただけです」

「はぁ、君がどうして契約内容を知っているのかは聞かないでおくよ。余計な情報は知らない方が良いからね。君はそう思ってないようだがね」
帽子を外し机の上に置く司祭。

「友達の為です、あなたは一体なにものですか?」

「友達ね……君は今非常に危険な事をしていると理解しているのかな?」
「もちろん、ここで貴女に銃を向けられる事も覚悟の上です」

またまたジーナの発言で驚く司祭。この短い間で何度驚いたのだろうか。

「なんで銃の事を!」

「貴女が一瞬テーブルの方に目を向けた、テーブルのそこに引き出しがあってそこの一番上に隠してるんですか?その帽子を置いたのも取る所を私に見られないようにですよね?私がハウンドとの契約の話をした時。私が危険な人物かもしれないと警戒したんですよね」

全てを言い当てられたという顔をする司祭。

「まあ銃ってのは勘で言いましたがね」
ジーナはそう言ってニヤッと笑う。

「はぁ、分かったよ。正直に話す」
諦めた司祭はテーブルから離れる。

「私は元ハウンドの代表だ」

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