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4th フェーズ 奪
No.75 誘拐されたその先で
しおりを挟むウルティメイト社が所有するある施設で。
「アヒル―」
ユキチカは風呂に入っていた。
「あーせやなーアヒルさんやなー。ほな、シャンプー流すから目ぇ閉じやー」
「んー」
ジャケットを脱ぎ、シャツの袖をまくったオニツノに頭を洗って貰っていた。
「ってちゃうわ!!なんでワシがお前の頭シャンプーしてんねんッ!!」
「はぁーもう、なんでワシがこんな事を」
嫌そうな顔をして風呂場から出てくるオニツノ。
「あら、お疲れさまです、お風呂担当さん」
「張っ倒したろか。まぁ、あんたみたいな奴に背中は預けられやんやろうし、そこは人の差と言いますか、なんと言いますかなぁ」
外にいたヒメヅカにそう言うオニツノ。
「なんですって?」
「なんや?」
睨み合う二人。
「にしても、何なんやこの場所。いつまでおらなアカンのや」
話していると奥からキリサメが歩いて来た。
「ん?おお!あの時の殺し屋やん」
キリサメはスッとオニツノに距離を詰めて、顔が引っ付きそうな距離で小声で話す。
「どうもオニツノ・モチ。私はキリサメ、キリサメ・スズメ」
「お、おう、どうもな。まさかこんなべっぴんさんやったとは、顔近ないか」
「モチー、タオル―」
「ふふ、呼ばれてますよお風呂担当さん」
「ああもう!タオルそこに置いてあるやろ!!」
呼ばれたオニツノが風呂場に戻った。
タオルで身体を拭いてもらい、服を着るユキチカ。
「そうや!お前ワシと喧嘩せんか?どうせ汗なんかかかんやろ?ワシも一風呂浴びたいからその前の運動に付きおうてくれ」
「えー、でももう遅いから寝ないと消灯時間過ぎてる」
「なーに細かい事いっとんねん!今日は夜更かしや」
そう言ってユキチカに肩を組むオニツノ。
「なにを言い出すかと思えば、重要人物相手に喧嘩をふっかけるなんて。野蛮人の考える事は分からないですね。ねーキリサメさん」
「え」
キリサメに近づくヒメヅカ。
「なんや、スズメちゃんはどちらかと言えば武闘派のワシ側やろ。あの坊ちゃんの戦闘力を調べるにも戦う必要あるやろ?なぁスズメちゃん」
キリサメを側に抱き寄せるオニツノ。
「え」
「ちょっと、ついさっき名前を知ったばかりなのに馴れ馴れしいですよ」
「ああん?友情に時間なんて些細なもんなんや」
二人の間に挟まれたキリサメは困惑していた。
「キリサメ、モテモテ」
そんな3人を見てユキチカはそう言った。
「なんの騒ぎですか」
騒ぎを聞きつけたのかコウノがその場にやってきた。
「おー、なんや裏切り者やん」
「……勝手な行動は困ります」
オニツノはユキチカとの戦闘訓練を提案した。
「戦闘力を調べる、そうあんたらの大好きな実験や。OKしてくれやんと暴れんで」
「また子どもみたいな事を」
ヒメヅカがため息をつく。
「分かりました。少し確認してきます」
コウノはそう言って部屋を後にする。
「よーし、鬼丸とこの坊っちゃん、運動の時間や」
「いいよー」
屈伸をしたり、体を横に傾けたりと準備運動をするユキチカとオニツノの声が無機質な広い部屋に響く。
部屋は外部から内部が見えるようになっていた。外にはヒメヅカ、キリサメ、そしてコウノが立っていた。
「よく許可が出ましたね」
「オニツノさんが暴れそうだと言ったら意外とすんなりと」
「ああ、それなら納得です」
ヒメヅカの質問にコウノが答える。
「さあ、行くで!!」
オニツノがユキチカを目掛けて突撃した。
「それにしても、あなたが最初からこっち側だったなんて。いや少し違いますか」
「キリサメも初めて知った、コウノ」
ヒメヅカとキリサメがそう言う。
この時もキリサメは顔をくっつく寸前まで近づけている。
「今はベータと呼んでください。あと顔近くないですか」
「キリサメさんはパーソナルスペースとかの概念が希薄で。彼女に相対する人間は基本死んでますから。それでもだいぶ改善された方で、最初の頃は耳元で話していましたから」
ヒメヅカが説明する。
「まだ近い?」
「少しずつ進歩してますよ」
今度はヒメヅカの側に来て話すキリサメ。
その間もユキチカとオニツノは闘っていた。
「なんやそのグネグネする動き、関節どこにあんねん」
「グネグネけんぽー」
それから暫く戦闘訓練を行う2人。
するとコウノの元に連絡が入り、二人を呼び止めた。
「調査はそれくらいに。準備ができました、こちらに」
コウノに案内され皆は会議室のような所に通される。
その部屋にはヴァ―リ・ジョーンズが椅子に座り待っていた。
「やぁ諸君。よくぞ集まってくれた。そしてよくぞ彼を連れて来てくれた」
部屋に入って来たユキチカを見てヴァ―リ・ジョーンズは立ち上がる。
「どうも、鬼丸ユキチカくん」
「あ、ヴァ―リ!久しぶり、なんで仮面つけてるの?」
ユキチカは手を振って返す。
「やはりすぐに分かるか」
そう言うと彼はコウノに顔を向ける。
「ベータ、彼に検査を」
「畏まりました。ユキチカくんはこっちに行きましょう」
コウノはユキチカを連れて別の場所へ。
「ベータ?」
「私の、本当の名前です」
ユキチカは前を歩くコウノの背中を見る。
「なんでコウノはこれしてるの?」
「それはヴァ―リ・ジョーンズ様の為です」
「楽しいの?」
「……この検査服に着替えて、カプセルの中で横になってください」
人間一人くらいなら問題なく入りそうなカプセル型の装置がある部屋につき、コウノはそう言った。
「はーい」
ユキチカは言われた通り、衣服を着替え、カプセルの中に入る。
一方その頃会議室のような部屋では。
「さて、そちらの方とは初めてお会いするね。私はあなたの事をよく知っているが、どうも初めましてヴァ―リ・ジョーンズと申します、ウルティメイト社の代表取締役をしているものです」
「どうも、オニツノ・モチです。黒幕のストーカーはん。なんでもええからはよこっから出して貰えへんかな?ワシの部下が今頃必死に探し回っとる」
オニツノはそう言って部屋から出ようとする。
ヴァ―リ・ジョーンズはゆっくりと彼女の前に立つ。
「なんや、止めるんやったら力づくでも出ていくで。ワシは人に指図されんのが大っ嫌いなんや、特にお前みたいな気色悪い奴からの命令は一番嫌なんや」
オニツノはヴァ―リ・ジョーンズに殴りかかる。
「ッ!」
キリサメが彼女目掛け背後からナイフを投げる。
「読めとるわッ!借りるでこれ!」
一瞬振り返りナイフを掴んだオニツノはそのままナイフをヴァ―リ・ジョーンズ目掛け突き立てる。
しかし、ナイフが彼を捉える寸前で何者かが壁を破壊しオニツノを押さえた。
「こらこらキリサメ、ダメじゃないかこの人は仲間だ、ナイフを投げるだなんて」
「なんやこいつ……?!」
オニツノを取り押さえたのはアンドロイドだった。
「ナイフを置いた方が身のためだ。頭部の無いその身体を貴方の部下の元へ送り届ける事になっても良いなら別だが」
アンドロイドの腕が変形し、大口径の銃になる。
「ックソ」
ナイフを手放すオニツノ。
アンドロイドがオニツノを離す。
「少し散らかったが、さっそく本題に入るとしよう。君たちには鬼丸ユキチカがどんな存在か説明しておくとしよう」
大きなテーブルを囲み、ヴァ―リは話を始めた。
「機械の体のことですか、というかリリィさんはどこですか?」
ヒメヅカはリリィに会う事が出来ずにイライラしているのだろうか、語気が少し強い。
「彼女には会社の事をしてもらっているからね、ここに来ることは無い。まあ、そう焦らずとも事が終われば普段通りの生活に戻れる」
「ワシらも人質ってか」
テーブルの上に足を置きオニツノがそう言ってヴァ―リにつっかかる。
「それは君の見方次第さ、蝶を見て美しいと思う人がいれば気持ち悪い虫だと思う人もいる。好きに捉えてくれ」
彼はそう軽くオニツノの発言を受け流し、リモコンでディスプレイに映像を表示した。
「彼の体は完全に機械化されている、俗に言うサイボーグだ」
映像はユキチカがインファマス刑務所で戦闘を行っていたものだ。
彼が放たれた銃弾をものともしないユキチカに皆息を吞んだ。
「まてや!鬼丸の坊ちゃんも凄いが、相手の腕なんや?!他の連中のも」
一番に声を上げたのはオニツノだった。
「あれは私が作らせたサイボーグだ。皆軍人上がりで優秀だったのだが、相手が悪かったな。彼女らは体の一部あるいは大部分を改造する事までは成功したのだが、やはり完全機械化出来る程の彼の技術力の前ではね。あの刑務所には人間離れした連中が多いから良い実戦データは取れたがね」
「……」
ヒメヅカはただ黙ってその映像を見ていた。
「だがそれだけではない、彼にはまだまだ素晴らしいものがある」
映像が切り替わり、今度は光を放つ立方体が映し出された。
「なんですか、これは?」
「これこそ私の求めるものだ、これが今正に彼の身体の中にあるのだ……この世界の叡智が私たちのような存在にも認識できるよう収束し顕現した姿!この世界に秘宝があるとすればこれの事だ」
ヒメヅカの質問に対しヴァ―リは嬉しそうに答えた。
「禁断の果実……この世で最も美しい立方体の名だ」
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