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4th フェーズ 奪
No.77 魂の当て布
しおりを挟むコウノがアルファとシータ、幼馴染の二人に再会した翌日。ろくに眠れなかったコウノはユキチカを起こしに部屋に向かう。
「何かあったの?」
疲れた様子の彼女をみてユキチカは心配した。
「なんでもありませんよ、さあ行きましょう」
「おはようございますベータ、鬼丸ユキチカ様」
「本日の朝食は……」
外に出るとアルファとシータが立っていた。
コウノの顔が曇る。
「おや、顔色が優れませんね。昨日は休めなかったのですか?」
シータがコウノの顔を見て尋ねる。
気づかっているように見えるが、声や表情に感情は読みとれない。
コウノは昨日みた背中に正方形の傷を思い出す。恐らく手術痕だろう、なぜそれが二人の背中にあるのか、疑問が頭にまた浮かび上がる。
「さあ、鬼丸ユキチカ様。朝食を共に頂きましょう」
アルファがユキチカに近づくと、彼は一歩下がった。
彼はとても怪訝そうな顔をしている。
「たろー?」
とても小さな声で彼はそう呟く。
(たろー?)
コウノにはユキチカの一言が聞こえたようだ。
食事は皆でテーブルを囲んで行われた。
「なんで誘拐した坊ちゃんと飯食っとるんや。良いんかい?」
「まぁ、私達も軟禁状態ですし」
ご飯をかきこむオニツノにヒメヅカが答えた。
朝食はご飯に焼き魚、サラダそして味噌汁だ。
「ザ・ゴキゲンな朝食って感じやな」
オニツノは鮭を頬張る。
コウノが食べながら横に目線を向ける、目線の先には微笑み立っているアルファとシータがいた。微笑んでいるものの、相変わらず感情が読み取れない。
「その……二人は食べないんですか?」
「ええ、私達は既に食事を終えたので」
「なので私達の事は気にせずに」
「ごっつおーさん」
「ごちそうさまでした」
食事を早々に終わらせ、オニツノとヒメヅカは自分の部屋に戻る。
「ねえコウノ」
「……はい、なんでしょうか」
食事を終えたユキチカがコウノに話しかける。
「たろーのおまもり、なんで二人が持ってるの?」
「たろーのお守り?」
彼の言葉にコウノは首をかしげる。
「流石に気づいたか。そう、あれは君が発明した【ソウルパッチ】をアレンジしてもらったのだ。君はあの素晴らしい技術を小汚い犬なんぞに使っていたが、私はそれを利用し彼女たちの心を作り替えたのさ」
そう話しながらヴァ―リ・ジョーンズが現れた。
「たろー……いつも一緒に遊んでくれた友達」
説明を聞いてユキチカはうつむく。
「そ、その、……【ソウルパッチ】とは一体?」
恐る恐るコウノはそう質問した。
「【ソウルパッチ】とはその者の魂を、まるで瓶に入った水をまた別の容器に移すように、新たな肉体に宿す技術だ」
「!」
「信じられないという顔をしているね。だが見たんだろ?ベータとシータの背中にある正方形の手術痕。それが【ソウルパッチ】だ」
椅子に座るヴァ―リ・ジョーンズ。
「これを利用すれば致命傷を負った者でも、不死の病で死の淵をさまよう者でさえも、たちどころに復活するというものだ。ユキチカ君はそれを使用してガラクタの寄せ集めに犬の魂を宿させたのだ」
「たろー、ぼくのともだち」
ユキチカがコウノにそう言った。
「私は【ソウルパッチ】をベータとシータに使用した。だがそれは改良品でね、その者の精神や記憶さえも操作できるのだよ。まあまだ完全に再現できる方法が確立されておらず、量産の目途は立っていないがね」
「どうして、そのような事を……?」
弱弱しい声でコウノは再び質問する。
「あの二人は君が知っているように、とても賢明で強かった。だが私のやり方に異を唱えるようになってね。二人はそのことを隠し通せると思っていたらしい、彼女らにしては珍しく浅はかな考えだ。だからチューニングしたまでだ」
そう話す仮面越しの彼の目に、罪悪感などというものはこれっぽっちも無かった。
自分の行いに100%の自信を持っている、当たり前の事をしたと思っている目だ。
コウノはこの男の底知れなさに怯え、一歩下がった。
「おや?どうしたベータ?安心したまえ、君にチューニングの必要はない。そうだろ?何年間もついていた先輩の背中を撃てたじゃないか。君はちゃんと自分の役目を全うできる人間だ」
彼の声には何の気持ちも感じられない。ベータとシータのような感情が表に出てこない、という訳ではない。彼が言葉に乗せる感情、そのどれにも本心がないように思える。
「そ、その、アルファとシータがあなたにも同じ傷があると。もしかしてあなたは本当のヴァ―リ・ジョーンズ様ではないのですか?」
「確かに今の文脈からすると私も誰かに操られている存在とも言えそうだな。だが違う、私の【ソウルパッチ】はオリジナルだ」
「という事は、その体は……」
コウノはヴァ―リ・ジョーンズの話を聞いている間に、一つの仮説を思いついていた。
「そうだ、この肉体は借りものだ。そう言えば君にはまだ見せたことが無かったか」
彼は仮面を外してみせる。
「……!」
「さて、そろそろお話しはここら辺にしておこう」
ヴァ―リがユキチカ達に背を向ける。
「なぜ君を尋問しなかったと思うかね、ユキチカ君」
「……」
ユキチカは黙ったまま、ヴァ―リに鋭い目線を向けた。
「機械の肉体を持つ君に拷問した所で意味がない、尋問もね。それよりもっと確実な方法を使えばいい」
すると突然警報が鳴り響く。
「君の大切な、お友達に協力してもらおうじゃないか」
警報が通路に響き渡る中、ヴァ―リは不敵に笑みを浮かべた。
「なんや?!」
オニツノ、ヒメヅカ、そしてキリサメも部屋から出て来た。
「さあ、君たちの出番だ。侵入者の相手をしてくれ、全滅はダメだ。最低でも一人は生かして捕らえてくれよ」
部屋から飛び出して来た3人にそう命令するヴァ―リ。
「ベータ、ユキチカ君を部屋に連れて行ってくれ。アルファとシータも侵入者の対応にまわるんだ」
「今度は爆破されずに済みましたね」
「という事はここにいるんだね」
「皆様、私が先行いたします」
「ユキチカ、待ってろよ」
ジーナ、シャーロット、ウルル、そしてキビ達が施設に侵入して来た。
「なるほど、そう言う事かい!それなら喜んでやったるで!」
映像に映し出された侵入者を見てオニツノが駆け出す。
「……仕事、始める」
「はぁ、私いつから戦闘員になったんでしょうか」
オニツノに続いてキリサメとヒメヅカも向かう。
キビ達を見つけたオニツノは歓喜した。
「今日はよりどりみどりやなぁ!」
オニツノの後ろからキリサメが飛び出す。
「あ、こら!」
飛び出したキリサメの足を掴んで引き留めるオニツノ。
「ッ!?なにする」
「お前なに抜け駆けしようとしてんねん!先頭走ってたのはワシやろ!」
「本当、付き合ってられませんね」
二人をよそにヒメヅカが銃を構える。
「これでも喰らえ!」
キビは筒状のものをオニツノ達に向かって投げた。
筒から閃光が放たれる。
「しまった!目が!」
「うお!まぶし!」
目を覆うオニツノとヒメヅカ。
「キリサメ、それ効かない」
キリサメがキビに斬りかかる。
「知ってるよ!」
「ッ!」
二人の間にジーナが割って入り、素早いキリサメの斬撃を拳で受け流した。
「そらぁッ!」
すかさず一撃を叩き込むジーナ。
キリサメは辛うじて刀でガードしたものの、壁に叩きつけられる。
(グローブ、金属仕込んでる。やっぱり強力、骨にヒビ入った)
「どうしたの?電気でも消してあげようか?」
彼女に向かって構えるジーナ。
「あー!スズメちゃん何ジーナちゃんとやっとんねん!」
目くらましから回復したオニツノが叫ぶ。
「言ってる場合ですか、先に行かれちゃいましたよ!」
ヒメヅカは既に二人を通過して奥に進むキビ達を追いかける。
「しゃーないな!ジーナちゃんそいつに殺されやんといてな!」
オニツノもヒメヅカの後を追った。
「侵入者の捕縛命令、実行します」
ベータとシータが通路を進むキビを標的にする。
二人の前にウルルとシャーロットが立ち塞がった。
「はじめまして、ユキチカ様に仕える従者アンドロイド、ウルルと申します」
「私はシャーロット!ってなんで名乗るの?」
「シータ権限を発動、シャットダウンプロトコルを開始せよ」
アルファはウルルに向けてコードを発動。
しかし、廃倉庫の時と違いウルルには何も起きなかった。
「シャットダウンプロトコル、そんな機能が備わっているとは想定外でした。ですがもう対策済みです」
「それと足元注意ね」
シャーロットが指を下に向ける。
ベータとシータの足にコロちゃん達がひっつく。充分に電気を蓄えたコロちゃんズが彼女たちに張り付き、一気に蓄えた電気を放つ。
「ぐっ……!」
「任務の障害となる、存在の排除をッ!優先する」
二人は高電圧の電流をうけたにも関わらず倒れなかった。
「うえっ、倒れないの?気絶させるつもりだったのに」
「さぁシャロ様、ユキチカ様の元へ参りましょう」
ウルルがシャーロットの肩を優しく叩く。
「うん、行こう!」
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