93 / 135
4th フェーズ 奪
No.93 施設に潜入せよ
しおりを挟む朝の明るい光が介護施設に差し込む。
「おはよーございます!」
シドーが元気に他スタッフへ挨拶する。
「まずは潜入方法だけど内見で行くのは得策じゃない。ずっと案内係がついてまわるからね」
プライスは施設への潜入計画について話す。
「じゃあどうするんだ?」
「身内として潜入するのさ」
シドーが質問し、プライスはその問いに答えた。
「あなたが新人さんね」
「はい!よろしくお願いします!」
シドーはスタッフとしてのふりを装い、先輩スタッフとのやり取りをする。笑顔と元気な挨拶で信頼を得ようとしていた。
「元気がいいね、ここでは貴方みたいな元気な若い子はすぐに人気ものになれるよ」
「頑張ります!」
「にしてもあんた良い体してるね」
「はい!何かあったときにすぐに皆さんを運べるように日々鍛えてます!」
「へぇ、それは素晴らしい心がけだね。頼りにしているよ」
腕に力を入れるシドー。
「あのー」
「おっと早速出番だよ」
「はい、ただいま~」
シドーは笑顔で入居者の呼び出しに応じる。潜入計画の為、しっかり扮している役職に徹している。
「シドーさんは本当は目立つから向かって欲しくないという気持ちもあるんだけどね」
「それはできねぇ相談だ!ちょっと化粧したら行けるだろ?介護ってのはようは爺婆の相手をするんだろ?力仕事も汚れ仕事も経験があるぜ!まあダイキの身体を汚すことになっちまうが。キッチリ洗って返すさ」
「分かったよ」
化粧をして潜入する事に対し若干の抵抗を覚える皆だったが、シドーの熱意を抑える事は出来ない。
「施錠よし!」
「あなた様になってるわねぇ、流石経験者ね」
「転職して正解でしたよ。こんな素敵な施設の警備を任せて貰えるんですから。気合も入ります!」
キビは警備員として施設内の施錠を確認。ビシッと姿勢を正して敬礼する。
「キビさんは警備員として入ってもらう。少し前から募集がある。刑事さんならうってつけでしょ?ハウンドに来てるこの求人を利用しよう」
「そいつは都合がいいね」
こうしてキビは警備員として潜入する事になった。
「整備の人入りまーす」
施設に来た整備士の対応に向かうキビ。
「はい、それではパスを」
「はい」
「確認終わりました。どうぞお入り下さい」
整備士を通す。
「シャーロットちゃんは整備士として入る。事前にこの施設のカメラをいくつか誤作動させておくから」
「私は!」
「アンジェラちゃんは監視カメラやシステム周りをいきなり任されて出来る?」
「う……それは」
アンジェラにそう言うとプライスはウルルをみる。
「でしょ?だからそれにみんながみんな行くともしもの時のバックアップが無くなる。だからウルルちゃんと"一緒に"私達がのる車で待機して、中にいる私達をサポートして」
「え!ウルルちゃんと一緒に!?やった!」
「共に頑張りましょうね、アンジェラ様」
表情を明るくしたアンジェラはウルルに抱き着く。
「それじゃあ私は!」
「ジーナちゃんはー」
「終わりました!」
「もうかい?随分と早いね。それに丁寧に出来てる。うん!合格だよ」
「ありがとうございます!」
ジーナは化粧室の清掃をしていた。
「あ、清掃員の仕事があるよ」
「おー!掃除なら私得意だよ!」
ジーナは清掃員として潜入していた。
「整備士、警備員、清掃員、介護士として潜入する。そしてもう1チーム内見係も一緒に向う」
プライスは皆にそれぞれの役割を割り振った。
一通り話を聞いたうえでシャーロットが質問する。
「アンドロイドじゃないんですか?特に警備や清掃ってどこもアンドロイドを使ってますよね」
確かに今時それらの仕事はアンドロイドを使用している、これほどの人数の新人が入れる程の人員が不足しているとは思えない。
「それがこの施設の弱点、利用してるのは富裕層、多少のわがままを通せる連中だ。その中にはアンドロイドをよく思わない人が結構いてね。ほら、ハウンドにもいくつか警備員派遣の依頼が来てる」
プライスはこの施設におけるアンドロイド利用事情を説明した。
「確かに人間の警備員を要求してますね」
ウルルはプライスが見せてくれた求人票をみてそう言う。この場所ではアンドロイドよりも人間を積極的に採用しているようだ。
「ウルティメイトの息がかかっている施設なのにな」
「他の役職も利用者の為に殆ど人間を雇ってるんだ。公開されるような求人ではないけど。私なら皆を各外部委託会社の人間として紹介できるよ。こういう職種は人手不足だから即採用されるよ」
アンドロイド利用の代わりに人間のスタッフを使っていることが今回は有利に働くみたいだ。
「内見は?」
「そこは残った私が行くよ。一人でも中の構造を知ってるし、最新式の警備設備も観たらどういうものか分かるからね」
プライスは内見役を引き受けた。
従業員として潜入した組は一仕事を終えて人目につかない場所に集まっていた。
「どうだいそっちは」
シドーがキビに話しかける、彼女は首を振った。
「全然、地下があるって話だけどそもそもエレベーターとかじゃ地下に行けないし。非常階段も、普通に違法建築だぞここ」
次に来たその場に来たのはシャーロットだ。
「今監視カメラの映像を抜いてる所、にしても綺麗な設備だね」
「そりゃ私達が掃除してるからね」
そう言ってジーナが現れる。
「こっちも通路は見つけられなかった、でも怪しい事はあったよ」
「何?」
シャーロットがジーナに聞く。
「社員が使っている化粧室や給湯室は清掃に入らないの。ゴミの回収も私達とは別の人がやるみたい。滅茶苦茶怪しいよね、わざわざそんな事の為に別の人を雇うか、社員が自分達でやってるって事だよね」
「そりゃ凄い無駄な事してるよな。一緒にやって貰った方が楽なのに」
「という事は何か外部の人間を警戒するような情報があるって事か」
ジーナの話を聞いてシドーとキビがそう言う。
「とりあえずシャーロットちゃんの情報をあとでみてみよう。それじゃあな」
シドーたちは再び持ち場に戻る。
「おかえり皆」
「おつかれさまー」
「お疲れさまでした」
プライス、アンジェラ、ウルルは翌日の準備をして皆を迎え入れた。
「ふぅ、ご老人の相手もかなり体力使うんだな」
「このクリーム本当に一日持ったね」
「じゃないと困る」
シドー、ジーナ、キビは顔に塗ったクリームを落とす。
「それで成果はあった?」
「まずは私から、監視カメラの映像」
シャーロットが抜き取ったカメラ映像を皆にみせる。
「映像自体には怪しい場所が映ってない」
一部の監視映像にフォーカスするシャーロット。
「でもこれみて、この人はカメラの範囲から出て20分も経ってる」
「その先には何があるの?」
ジーナが質問するとシャーロットは監視カメラの配置を施設の見取り図に重ね合わせてみせる。
「何も無い通路だけまっすぐ進んでいたら次に映るまでは遅くても1、2分程度」
「なのに20分かそりゃ変だな」
「それにみて、こっちだと何か持ってるけど、次に映った時は何も持ってない」
シャーロットが言う通り、最初に映っていた従業員は何かを持っているが次の映像では何も持っていない。
「ああそれ出前だよ。配達の人から私が受け取った、書類とかにサインしてもらってな。それ所長の昼飯って聞いたけどな」
キビが映像をみて、昼頃に配達対応をした事を思い出す。
「受け取ってそのあとは?」
「社員が運ぶからって言われてね。そのまま渡したんだ」
シドーの質問に答えるキビ。
「このお店、多分ウルティメイトの傘下だよ。私も職場での食事は全部予め決められた店からの出前しか許されてなくてね」
出前の袋を指さしてそう言うプライス。
「結局その昼ご飯はこの通路を通っている間になくなったと……」
「絶対何かあるよね」
ジーナとシャーロットが見取り図を見つめる。
「社員は秘密の通路を知ってるのか。遠目でみたんだけどみんな飯食う時でも手袋して、怪しい感じだったな。介護士のおれらもそんないつも手袋をつけてる人なんていなかったのに」
介護をしている間にシドーは何度か手袋をつけたものを見たようだ。
「明日は私が内見に行くから、皆はこの周辺を探ってほしい。明日で終わらせよう」
プライスの発言でしめくくり、夜の会議は終わった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界で農業を -異世界編-
半道海豚
SF
地球温暖化が進んだ近未来のお話しです。世界は食糧難に陥っていますが、日本はどうにか食糧の確保に成功しています。しかし、その裏で、食糧マフィアが暗躍。誰もが食費の高騰に悩み、危機に陥っています。
そんな世界で自給自足で乗り越えようとした男性がいました。彼は農地を作るため、祖先が残した管理されていない荒れた山に戻ります。そして、異世界への通路を発見するのです。異常気象の元世界ではなく、気候が安定した異世界での農業に活路を見出そうとしますが、異世界は理不尽な封建制社会でした。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
異世界亜人熟女ハーレム製作者
†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です
【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる