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5th フェーズ 決
No.131 相性最悪
しおりを挟む身体の変形、炎、氷、電気を操るという万能とも思える能力を支えていた核、その核を破壊されても以前健在のヴァ―リ。
「人々を死に追いやり、世界を破壊する兵器を生み出したのは貴様ら天才だ!そしてそれを利用しようと群がる我々凡人も同罪だ!全ては裁かれねばならない!」
ヴァ―リは腕を発火させる。
「燃えるパンチか、派手だなぁ。次は冷たいパンチ?それとも痺れるパンチ?」
ジーナはヴァ―リに距離を詰める。
「黒鉄・連!」
連続で黒鉄を叩き込むジーナ。
(カラ・ジーナ、ふんっ貴様はこの中で一番、俺との相性が悪い!)
ヴァ―リは右腕から炎を発生させ、左腕から電撃を発生させる。
その両腕を使いジーナに猛攻を仕掛けた。
「おっと!」
ジーナはヴァ―リの攻撃を全てギリギリで回避する。
(小さな機械で構成されてる身体はやりづらいな。人体の急所とか関係ない、あれ?肉弾戦主体の私との相性最悪じゃない?)
彼女の気づきは正しかった。
格闘技や武術というのは人体に対して使う事が大前提とされている。
特定の部位を急所とする存在をいかに効果的に無力化するか、それを体系化したのが格闘技、武術である。
しかし、微細な機械であるアサルトボットによって身体を構成しているヴァ―リに急所は存在しない。唯一急所と呼べる核はもうすでに破壊してしまっている。
「どうしたカラ・ジーナ!得意のカラテはもうおしまいか?」
「やっば!」
ヴァ―リは身体を変形させジーナの足を取る。
「核を失おうがこの程度の変形は可能なんだよ!」
捕らえた足を引きよせ、ヴァ―リは火を噴く拳を叩き込んだ。
煙を上げながら殴り飛ばされたジーナ。
「っち」
ジーナと共に鉄板が地面に転がる、その鉄板は中央が溶けていた。
「ふぅーあっぶな。鉄板で防がなかったら終わってた」
彼女は足を掴まれた瞬間に地面に敷き詰められた鉄板を破壊し、盾に利用したのだ。
「大丈夫ジーナ?」
「うん、大丈夫。まだ変形ができるみたいだね。みんなも気をつけて!」
「高い耐久度に加えてあの攻撃性能は厄介だな」
ジーナは軽くステップして余裕を見せて前に出る。
「何か策を考えないとですね、それは任せていいですか?その間私はヴァーリを足止めします」
「私も手伝うよ!ちょっと耳貸して、足止めに使えそうな事思いついた」
シャーロットはジーナに近づいて耳打ちする。
どうやら彼女は先ほどのジーナの戦いを見て閃いていたようだ。
「どうかな、行けると思う?」
「うん!良いねそれ!」
ジーナは頷く。
シャーロットはスリングショットを取り出す。
「これ使えば出来る!」
「頼んだよシャロ!それじゃあ私達二人でアイツを足止めします!」
ジーナはイヴとウルルに振り向く。
「わかった、アイツを倒す流れは頭の中にあるの、その準備にはウルルちゃんの演算能力が必要なんだ。なるべく急ぐけど、準備中の私達は戦えないから」
「ジーナ様シャロ様、どうかお気をつけて」
イヴが道具を用意する、その横でウルルが頭を下げる。
「了解です!準備に専念してください!」
「それじゃあ、行ってきます!」
ジーナとシャーロットはヴァ―リの前に立つ。
「たった1人増えただけでどうこうできるのか?カラ・ジーナのカラテは俺には通用せんぞ」
ヴァ―リは二人を見下す。
「さあ、試してみなきゃ」
「そうそう、もう少し私達と踊ろうよ」
ジーナとシャーロットはヴァ―リを挑発するようにニヤニヤと笑う。
「出しゃばり共が。ここは子どものいて良い場所じゃない」
ヴァ―リが構える。
「行くよ!」
シャーロットは銃を取り出して撃ち始めた。
(シャーロット・バベッジは撹乱要員か?ならば最初はカラ・ジーナからだ!)
ヴァ―リはシャーロットを無視してジーナに標的を絞る。
彼は猛攻を仕掛けた。
アサルトボットにより構成された彼の身体スペックは人類の比ではない。そのスペックから生み出される一撃は岩を破砕し、鉄を破る。
(なぜ?なぜ……当たらん!)
しかし、当たらない。
なぜかカラ・ジーナには攻撃が一切当たらないのだ。
「すごよ!ジーナ!ヴァ―リの攻撃なんてヘッチャラだ!」
シャーロットが手を叩いてはやし立てる。
(くそ!なんで当たらん!俺の身体は人類を超越している!なのになぜ!)
この時ヴァーリは気づいていなかった。自分が抱える最大の弱点に。
(だったらまた脚を奪ってやる!)
「そこ!」
シャーロットはスリングショットでコロちゃんを放った。
彼女が狙ったのはヴァ―リの足、今まさに変形し始めた場所だった。
ヴァ―リはこの攻撃によって変形を中断させられてしまう。
「っ!?シャーロット・バベッジ!」
(ヴァーリは身体を変形させる時に癖がでる!瞬き、目線、脚の配置、腕の挙動、私はそれを見逃さない!兆しを見抜いて変形箇所をピンポイントで叩く!)
「ナイスシャーロット!」
ジーナは隙をついてヴァ―リに再び攻撃を仕掛けた。
「私達が破壊した核は身体の機能をフルに使うためのサポート。だから無くなっても基準の姿は維持できる。でも基準から大きく外れた変形を行うには、かなり詳細にイメージする必要があるんでしょ?だから外部から衝撃を受けるだけで変形が中断される」
シャーロットの説明を聞き顔をしかめるヴァ―リ。
「……ッ!」
「その程度の事に気付いたからなんだ!」
ヴァ―リは声を荒げ反撃し始める。
迫りくる攻撃を回避し、ジーナは目突きを放つ。
ヴァーリは咄嗟に目を閉じた。そんな無防備になった彼の脚を彼女は蹴り払う。
派手に倒れるヴァ―リ。
「クソ!」
倒れた彼はジーナの追撃から逃れる為に大きく後ろに飛び退く。
「あんたには致命的な弱点があるんだけど、自覚してないみたいだね」
「ほんの少しのラッキーを得ただけで何をほざいている。この俺に弱点?そんなものは無い!この身体は……」
ヴァ―リが彼女の意見を否定しようとするとジーナが頷く。
「そう、あんたの身体にはなんの弱点もない。でも中身はどうかな?今のあんたの身体に精神が追いついてないんじゃない?」
「っ!ふざけたことを!」
ヴァーリはジーナに拳を放つ。
しかしジーナはこの一撃を最小限の動きで躱し、再び目突きを繰り出した。
ヴァーリは再びこれに反応し頭を動かしてしまう。
「ほらまた」
ジーナはヴァーリの腕を掴んで彼を投げた。
「全身機械なのに、なーに目突きなんかにビビってるの?」
「キサマ……!」
ジーナの言う事はもっともだ。今のヴァ―リは全身アサルトボットにより構成されている。目であろうが心臓であろうが、その全てが微細な機械で構成されている。目を突かれようが大した損傷にならない。
だが反射的に避けようとしてしまう。
「そりゃそうだよ、最近までずーっと生身だったんだもん。習性は抜けないよね」
「何を得意げに!」
ヴァーリが起き上がり際に身体を変形させようとするが、シャーロットに妨害されてしまう。
「駄目だよ、それは私がさせない」
「私達は最高の師匠たちに鍛えられたんだ。ここで負ける訳にはいかないよ」
作戦への準備を進めながらこの戦いを見ていたイヴは内心驚いていた。
(すごい、あの子達、本当にヴァーリを抑え込んでる。身体能力の数値で言えば間違いなくヴァーリが上。だけどそれだけで勝敗は決まらないという事か。ヴァーリと彼女らに差を生んでいるもの、それは……)
ヴァーリは困惑していた、なぜ自分はこの者たちを殺せないのか、それどころか圧倒されている。
答えは先程ジーナが言った事にある。身体に精神が追いついていない、この言葉には【習性からは逃れ難い】という意味と、もう一つの意味があった。
(経験の差だ。あの二人とヴァ―リの間には大きな戦闘経験の差がある)
ヴァーリには戦闘経験が殆どなかった。当然といえば当然な話、彼の経歴は学者、そして企業の代表。研究開発を行ったり策を練ることはあれど、タイマンの肉弾戦などまずしない。
(落ち着け!奴のペースに乗せられ過ぎだ!攻撃が当たろうが当たるまいがかまわない、攻撃を受けても俺には関係ない!)
ヴァ―リは攻撃をしながらジーナの様子を観察した、殴り返されそうが構わずジーナを観察する。そして気付く、決定的な事に。
(はっ!そうだ俺は勝てる!この戦いは最初から決まりきったものだ!俺は必ずこいつらに勝てる!)
攻撃を受けてヴァ―リは後ろに下がった、彼は笑みを浮かべていた。
「素晴らしい格闘センスだ、カラ・ジーナ。シャーロット・バベッジも、よく俺の行動をよく見ている。しかし……」
ヴァ―リの口角が吊り上がる。それはみたものを凍てつかせるような不気味な笑顔だった。
「もう身体が限界のようだな」
ヴァ―リはゆっくりとジーナに指を差す。
「っぐ!」
「ジーナ!手から血が!」
ジーナの手袋に血の染みが現れ、血が流れだす。
「貴様はここまで戦い続きだった、オニツノ・モチとの戦闘では素手での戦闘をしていたな。いくら貴様の骨格が常人離れした強度であろうとも、ダメージが蓄積されない訳ではない」
ヴァ―リは手を広げる。
「さて、あと何発私の身体を殴れるのかな?」
「拳が砕けようとも!殴り続けてやる!」
今度はジーナがヴァ―リの挑発にのり攻撃をしかけた。
「ダメ!ジーナ!」
シャーロットが呼び止めようとしたが遅かった。
「捕らえたぞ……」
「しまった!」
ヴァ―リの身体に、ジーナの拳が埋まっていた。
(攻撃が当たる瞬間に身体に穴を開けて、私の腕を捕らえるなんて。さっきまで怒り狂ってたのに一瞬で冷静に対処して来た。なんてやつだ)
「確かに戦いでは貴様らの方が経験があるかもしれん。だが俺だってなんども死線を潜り抜けて来た!さて、散々コケにしてくれた礼をしないとなッ!」
ヴァ―リは握りしめた拳を振り上げる。
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