強制ハーレムな世界で元囚人の彼は今日もマイペースです。

きゅりおす

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エピローグ

No.000 この愛しき世界は進む

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 ウルティメイト社との戦いから少し日にちが経った。

 戦いの後、ウルティメイト社は出資していた企業らが部分的に買収し、分裂。世界最大の企業のニュースに一時期メディアなどはこのネタで持ち切りだったが、それもすぐに収まった。

「そろそろ季節の変わり目、みなさん気温の変化にはお気をつけてお出かけください。さて、本日のニュースです……」
 朝のニュースを背景に私達は荷物の確認をしていた。 

 そこにおばあちゃんがやってくる。

「ほら、お弁当よ」
 お弁当を手渡してくれるおばあちゃん。

「ありがとうおばあちゃん、チザキさん知らない?もう出発の時間なのに……」
「チザキちゃんならそこにいるでしょ」
 おばあちゃんが壁を指差す。

「ん?なんでバレた?」
 壁に同化し隠れていたチザキさんが現れる。

「うわ!そんな所に!てかそんなこと出来たの?」
「さいきん、おぼえた」
 チザキさんは島での戦い以来うちに住む事になった。意外と家事が得意みたいで色々と手伝ってくれている。

 聞いた話によると、彼女が吸血鬼みたいになった原因の一つである微生物にはチスイコウモリという動物の遺伝子が入っていて、それが強い母性本能を生み出しているらしい。だからかチザキさんはシャロにべったりだ。最近は私にも似た対応を取るようになり、お風呂やトイレにも心配してついて来ようとする。

「このおべんとう、わたしも手伝った」
「そうなんだ!楽しみにしてるねーチザキさん」
 シャロがチザキさんの頭を撫でる。
 うん、なんかこの光景をみていると母と子が逆に見える。

「よし!それじゃあ行こう、おばあちゃん行ってくるね!」
「行ってきます!」
「いってきます」
 私とシャロとチザキさんが玄関を開けるとそこにはみんなが立っており、その後ろには車が止まっていた。車は皆が乗れる大きめのファミリーカー。

 今日は皆でピクニックだ。
 夏も終わり、暑さが落ち着いてきて、絶好の行楽日和だ。

「やっほー!」
 ユキチカが手を振る。 

「お!丁度のタイミングだな!」
「ユキチカの工作がギリギリまで終わらなくて遅れたかと思ったよ」
 彼の後ろにはイヴとシドーさんがいた。

「まったくユキチカ様は……」
 彼の隣でウルルがため息をつく。

 戦いのあとイヴさんとシドーさんはユキチカの家に住む事になった。
 警備係のケイさんは突然現れた2人に驚いていたようだが、今ではすっかり馴染んだようだ。
 
「ユキチカ、どう?進み具合は」
「イイ感じだよ!シャロに今度みせてあげるね!」
 シャロとユキチカは今イヴさんと協力して世界中に散布されていたグレイボットのプログラムを書き換えるものを開発しているみたいだ。

 人体を攻撃するのではなく、人の体内から治療する存在に書き換えようとしている。


「さ、荷物を後ろに乗せるよ、これで全部かい?」
 シドーさんが私達の荷物を受けとって止めてある車のトランクの中に収納してくれた。

「ぼく1番うしろ~」
「じゃあおれも後ろ行くか」
 車にユキチカが最初に入り、続いてシドーさんが乗り込む。


「皆様、シートベルトは着用されましたか?では参りますね」
 ウルルがそう言って車を発進させる。

「ウルルー!窓開けよ、窓!」
 ユキチカがウルルに聞く。

「そうですね、折角の良い天気ですから外の空気を入れましょうか」
 ウルルは窓を開ける。

 爽やかな心地いい風が車内に入ってくる。
 
「はぁ、幸せだな」
 自然とそんな言葉が出た。

「そうだね~、ついこの間まで命懸けの戦いをしてたとは思えないよ。よく生きてるよね私たち」
 と隣に座るシャロが言った。
 
「私たちが生き残るなんてね。ね?シドー」
「なんだよ先生、おれは別に死にたがりじゃねぇ」
「そう?あの時の顔は自分もろともーって顔だったと思うけどなぁ。全くユキチカと2人揃ってさ」
 イヴさんがシドーさんを笑いながらおちょくる。

「ならイヴさんも同じですね。あの時、ユキチカに私たちを連れて行かせて、自分たちでなんとかしようとしたじゃないですか」
 私がそういうと笑っていたイヴさんが固まる。

「う……それはなんと言いますか」
 イヴさんがそう言うとみんなが笑い出した。


 目的地について皆が車から降りる。

「ついたー!」
 ユキチカが向かった先にはヤスシさんとキビさんが立って彼に手を振っていた。

「来たな!ユキチカー!」
「みんなもよく来たな!酒の味見はしといたぞー」

 ヤスシさんは全身を使ってユキチカが来たことを喜んでいる。どうやらキビさんはもうお酒を飲んでいるようだ。

「あ!先輩勝手に!まだ乾杯してないのに!未成年がいる場でだらしない!」
「味見だって言ってるだろ、ノーカンだ。世界を救った連中に不味い酒飲ませらんないだろ?」
 キビさんの隣に座っていたコウノさんがキビさんを怒った。キビさんは意に介さず、もう一杯と味見をしている。

 コウノさんはキビさんの部下として復帰し、毎日忙しそうにしている。

「まったく……」
「ほらコウノ、今日はあなたもリラックスして楽しんで」
「そうだよ、折角の機会なんだから」
 彼女の隣にはアルファさんとシータさんがいた。

 2人はあの日以来、コウノさんと共に暮らしているそうだ。現在は彼女と共に働く為に警察学校に通っている。


「まだなのかい?こっちはもう準備万端だよ?早くこのユキチカに作って貰った新しい腕で酒を飲みたいんだがね」
 ヤスシさんの端末から声がする。
 ストレングスさんだ。

「お前ら!鬼のいぬ間になんとやらだ!お前も飲んでるか?新入りの看守!」
 マチェットさんの声も聞こえる。

「うるさいな……マチェット酒臭い」
 嫌そうなキリサメの声もした、彼女は現在その腕を買われてインファマス刑務所の看守として働いている。

「お前ら羽目外しすぎんなよ?」
 ヤスシさんが端末に向かってそう言った。

 そんな話をしているとまた新たに車が到着した。

「皆様、もうお揃いでしたか。ほらブルジョ様、荷物が多すぎると詰め込みに時間がかかるから減らしてくださいと言ったではないですか」
「そりゃあお前折角お呼ばれしたのだから、色々持って行くだろ!」
「そうよ!ヴィクトリアさん!」
 車からヴィクトリアさんが降りて、扉を開ける。

 車から降りて来たブルジョとアンジェラは両手にいっぱいの紙袋を持っていた。

「おー!ユキチカくん!世界から選りすぐりの料理や飲み物を持ってきたぞ!」
「ウルルちゃーん!呼んでくれてありがとう」
 ブルジョさんはユキチカの所に、アンジェラちゃんはウルルの所に向かい嬉しそうに話す。

「いやぁ、お招き頂いてありがとうね」
 プライスさんがその後に続いて車から降りる。
 
「皆様、お久しぶりです」
 アンジェラに抱き着かれながらウルルが挨拶をする。

「まったく、みんな好き勝手やってるなぁ」
 そんな彼らをみてイヴさんが笑いながら言った。

 ふと、イヴさんと戦いの後に話した事を思い出す。


「私達って他の人とどう違うと思う?つまり天才と他の人さ」
「え?」
 イヴさんがそんな質問をしてきた。

「私たちは他の人より独創的だ、だがそれだけなんだ、それしか違わない。なのに全世界だとか、未来とか人類とか、大きな事も自分の支配下にあると勘違いする。その勘違いは善悪の境目を曖昧にしてしまうんだ。技術に善悪は無いが利用する人間は善悪両方兼ね備えている。善意を引き出してくれる人がいた私は、本当に幸せ者だ。もし私が一人だったら、きっとヴァ―リと同じように、いやそれ以上に世界を滅茶苦茶にしてただろうね。ほら、私あいつよりも才能あるからさ」

 そう言って彼女は笑っていた。

「ユキチカには感謝しかない。目の前の現実と丁寧に向き合う事が出来た、未来や過去に逃げることなくね」
 彼女はこう続けた。
 
「様々な事があったが、世界は明日も進む。誰かが推し進めようとせずとも、勝手に進む。世界は勝手に進むのだから、私たちはただ世界を愛と共に楽しめばいいんだよ。ようやくそれが分かったよ……」
 そう話す彼女の顔はとても穏やかで、幸せに満ちているように見える。


「さあ!みんな集まったな!既にフライングしてるやつもいるが……まあ良いだろう。よしユキチカ!乾杯の音頭だ、ガツンと決めろ!」
 ヤスシさんがユキチカの方を見る。
 ユキチカが立ち上がる。

「みんな大好きー!」
 ユキチカがコップを掲げる。それと同時に彼が服についているボタンを引っ張ると、彼の背中から花火が放たれる。

 みんなも続いてコップを掲げた。

『大好きー!』

 もしかしたらウルティメイト社のような企業が今後も出てくるかもしない、あるいは既に見えない所に現れているかもしれない、それは分からない。ただこれだけは分かる。

 この世界は今日も進む。

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2023.05.30 ユーザー名の登録がありません

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