アレキサンドライトの憂鬱。

雪月海桜

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【最終章】ダイヤモンドの消失。

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「か、可愛いですわ……!」
「男の子の装いでも消える事のない溢れんばかりの愛らしさ……さすがミアお嬢様です!」
「こういうのも新鮮でいいですね~」
「おお、うちの弟もこう言う服持ってます! 懐かしいなぁ」
「あ、あの……凄く、良いと思います!」

 後日完成した少年服を着用すると、アメリアもメイド達も褒めてくれた。
 旅先で目立たぬよう、貴族と平民のちょうど中間位に見えるような当たり障りのないもの。
 生地は良いもののシンプルなデザインのシャツとジャケット、装飾品はループタイのみでスマートに。
 膝までのパンツにソックスガーターを合わせて、長い髪は一つに纏め、キャスケット帽子の内側にしまう。
 大きな鏡の前でくるりと一回転してみたが、思っていたよりいい感じだ。

 今回の行き先は南部『ダイヤモンド侯爵領』。その中でも最も深刻な異変が発生したのは、クリスタル辺境伯の統治する『クリスタル領』だ。
 前の大戦で最も被害を受けた、隣国との国境に位置する場所。

 首都と同様、当時魔法使いを総動員して優先的に土地や田畑の回復をしたものの、人々の心の傷までは簡単には治せない。
 その土地の住民は、終戦後十数年経つ今でも尚、外部からの訪問には神経質になっているらしい。そのため、出来るだけ威圧感を与えないよう素朴な装いに仕立てた。

「それで、今回同行するのは……」
「私は今度こそお供致します! 前回は風邪でダウンした挙げ句、お嬢様にお気遣い頂きましたもの……今度こそ、今度こそは!」
「あはは……宜しくね、アメリア。あと、メイドも一人くらい……ラナとエミリーは行ったし、えーと、シャーロットは東部生まれだから、東部の異変があれば里帰りしたいって言ってたっけ?」
「そうですね~……でもリーゼがしょっちゅう遊びに来るので、最早ここに居るだけで里帰り完了というか……?」
「た、確かに……」

 あれから幾度となく遊びに来る彼女を思い出して、思わず苦笑する。
 社交界での評判回復に努めているとは聞いたけれど、その割には社交界に関係のないわたしの元に来る頻度が高い。

「というか、リーゼのあのやさぐれ感が寧ろ異変だったような……? あの子、わたしが家に居た時はあんな過激な子じゃなかったので~」
「そ、そうなの……?」
「はい、お嬢様みたいに、いい子で可愛かったんですよ~」

 シャーロットの言葉に、改めて初対面時からのルビー侯爵令嬢を思い出す。不遜な態度に無礼な振る舞い、近頃は大人しくなったものの、良い子な彼女はいまいち想像出来なかった。
 けれど、確かに彼女の評判が落ちたのはここ一、二年の出来事だったと聞いた気がする。
 もし彼女の言う通り、性格や言動の豹変が異変だったとするならば、魚や木々だけでなく人間にまで影響するとは何事なのだろう。

 そもそも、各地で多発する異変と言うのは、皇室が公表した通り『闇属性の魔法使いの少女』が関係しているのだろうか。それが、わたしである可能性も否定出来ないのだ。他人事ではない。
 しかしいくら考えても分かる訳がなく、わたしは話を戻すことにする。

「えっと、ダイヤモンド侯爵領は南部だから……南部生まれの子、確か居たよね?」
「……? いえ、お嬢様。お嬢様付きの四人のメイドに、南部生まれの者は居りませんね」
「えっ、四人……? 待って、わたしのメイドは五人でしょ?」
「ん~? アメリアさんを入れたら五人ですね?」
「そうじゃなくて! アメリアと、他に……シャーロット、エミリー、ラナ、シンシア……、……あれ?」

 辺りを改めて見回すけれど、わたしの部屋に居るのは四人のメイドと侍女のアメリアだけだった。
 着替えの間、廊下で待機していたリヒトにも確認するけれど、不思議そうに首を振られる。

 今まで存在していたはずのものが、当たり前だと思っていたものが、唐突に奪われたような喪失感。けれど、その失ったものが何なのか、わからない。

 確かに居たはずで、なのに見た目も、名前も、声も思い出せない。
 わたしは一体、誰を五人目だと思っていたのだろう。

 奇妙な感覚を胸に抱えたまま、わたしは男の子の装いでステラ達と共にダイヤモンド侯爵領へと向かうことになった。
 今回のお供のシンシアとアメリアは、そんなわたしを気に掛けてくれた。あの後屋敷の皆に聞いて回ったけれど、結局五人目のメイドは誰も覚えていなかったのだ。

「お嬢様、お疲れではありませんか? 私に出来ることが有りましたら、何なりとお申し付け下さいね?」
「大丈夫、ありがとう、シンシア」

 今回の聖女の任務は、皇帝の命でレオンハルト殿下もオリオン殿下も現地集合らしい。皇太子と皇子を同行させると言うことは、危険はないものの何かしらの重要案件と言うことだろう。

 深呼吸して気を引き締める。
 移動中馬車の窓からそっと町を眺めると、やはり余所者に対して警戒心があるのだろうか、遠巻きに向けられる住民の視線が険しかった。

「おっ、モルガナイト公爵、ミア、待ってたぜ!」
「おや、ミア嬢、今日はまた珍しい格好をされているのですね?」
「レオンハルト殿下、オリオン殿下。御機嫌よう……えっと、ちょっと色々あって……変、ですか?」

 ダイヤモンド侯爵邸にてわたし達を出迎えてくれたのは、先に到着していた殿下達だった。
 エメラルド侯爵領で会った時のように皇族の証の黒髪を染めて、身分を隠しているようだ。今回は二人とも金髪だ。それも良く似合う。

 わたしはいつものようにスカートの裾を摘まもうとして、それがないことに気付き苦笑してしまう。
 男装していてもすぐにわたしだと気付かれてしまったので、この格好はあまり変装的な意味では役に立たないのかもしれない。

「変だなんてとんでもない、ミア嬢はいつだって愛くるしくていらっしゃる。とても素敵ですよ」
「あ、ありがとうございます、オリオン殿下……」
「そうそう、しょっちゅうすっ転んだりするんだし、そういう格好のが似合ってるじゃん」
「完全にお転婆カテゴリー……」
「あらやだ、息子が居たらこんな感じなのかしら……」

 いつの間にか到着していたステラもわたしの姿をまじまじと見詰め、息子としてのわたしを想像したのか恍惚とした様子だった。
 相変わらずぶれない。
 皆がそれぞれ褒めてくれる中、親馬鹿代表の父だけがどこか憮然としている。いつもなら全力で肯定しそうなところ珍しい。不思議に思い視線を向けると、マントに隠すように抱き寄せられた。

「……お父様?」
「ヘリオドール令嬢には、お婿に出さないからな……!」

 あ、そっち……?
 寧ろ自分が彼女の婿候補だとは考えても居ないのか、お父様はしばらくステラの視線から頑なにわたしを隠すようにしていた。


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