追放された魔法使いの巻き込まれ旅

ゆり

文字の大きさ
95 / 119
3章 依存国ツィーシャ

休憩

しおりを挟む
リュークから告げられた言葉を聞いて、クレアは自分がどこか遠くにいる気がした。
何も聞こえなくなって、真っ暗になって、一人でいる気がした。







──────!


あの日、あのとき。


自分を呼んだあの人の顔が浮かぶ。

いつまでも笑顔を崩さないでいたあの人の顔が、初めて涙で歪んだ。


それが、信じられなくて、慰めたくて、伸ばした自分の手が、あの人の頬を伝う涙に触れた感触が、鮮明に思い出される。
とても暖かい涙を。


あの人が顔を涙でぐしゃぐしゃにして、抱きついて何度も言ってきた言葉を。






──────巻き込んでごめんなさい。





言葉の意図がわからなかった自分が悔しくてたまらない。
巻き込んだのは自分のほうだと言いたくても言えない空気だった。
言えていたら、教えてもらえたのだろうか。









「……っ子』!……『ちびっ子』!!」
「あっ………」

肩を揺らされて、現実に引き戻される。
クレアはこちらを心配そうに見てくるリュークを呆然と眺めていた。

息が荒い。

リュークは咄嗟にクレアの状態に気づいて、クレアの肩に手を置いて、目線を合わせるように床に膝をついた。

「ほら、大丈夫だから。まずは、ゆっくり吸って──」

リュークはそう言って手本のように息を吸う。クレアも無意識にそれに倣う。

「はぁーって、吐いて──」

少しずつ息を出していくリュークを見て、クレアも息を出していく。
そして、リュークはクレアの口角を指で無理やり上げた。

「はい、笑顔。……落ち着いた?」
「………うん、ありがとう」

クレアの言葉にリュークは胸を撫で下ろした。
今までもそうしてきたかのように、リュークは慣れた手つきでクレアの呼吸を整えた。
そうして、リュークはクレアを見てため息をついた。

「………悪かったよ。いろいろと端折ったし、早すぎた」
「…………うん」

クレアはリュークから視線をずらして俯きがちに机の方を見る。

二度と思い出したくないあの瞬間が、目の前に広がって気落ちしてしまう。
わかってしまったこともあって、少し落ち着かない。

机の木目を目で追って、できるだけ違うことを考えようとすればするほど、離れない。


それを知ってか知らずか。
リュークは立ち上がって髪と瞳の色を変えた。
クレアが困惑していると、リュークはクレアのローブを渡した。

「昔話は一旦休憩。少し気分転換に街でも歩こうか」






リュークの提案で、クレアたちはまた賑やかな街に戻ってきていた。
とはいえ、転移のために人気のない路地に出ていて、聞こえるのは声だけだった。
リュークの後ろをついて歩いていくと、視界が開けて、たくさんの人が行き来しているのが見えてくる。

「………たくさんいるね」

まだ気持ちに整理がつかないクレアは、少し上の空の感じで前を歩くリュークにそうつぶやいた。
リュークは少し考えるそぶりをしてクレアの言葉に答えた。

「小さな国だからね。面積も人口も多くなくて、中心地に集中してるんだ。
ここはツィーシャの中心地だから多いだけで、もう少し外に行くと、本当に誰もいないよ」
「じゃあ……リュークのあの家もツィーシャの郊外ってこと?」
「そうだね、あそこに建てたのは僕だけど、そうなるかな」

リュークは答え終えると、クレアの手を取って人混みへ引き込んだ。
突然のことに驚きながらついていくクレアにリュークは意地悪そうな顔をした。

「今度は本当に迷子になっちゃうかもしれないね?でしょ、『ちびっ子』?」
「………もう『ちびっ子』じゃないよ」

少し拗ねた声を出したクレアにリュークは少しだけ笑った。

「じゃあ、まずはご飯だね」

そう言って、リュークはクレアの手を握りながら慣れたように人混みを歩いていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

職業ガチャで外れ職引いたけど、ダンジョン主に拾われて成り上がります

チャビューヘ
ファンタジー
いいね、ブックマークで応援いつもありがとうございます! ある日突然、クラス全員が異世界に召喚された。 この世界では「職業ガチャ」で与えられた職業がすべてを決める。勇者、魔法使い、騎士――次々と強職を引き当てるクラスメイトたち。だが俺、蒼井拓海が引いたのは「情報分析官」。幼馴染の白石美咲は「清掃員」。 戦闘力ゼロ。 「お前らは足手まといだ」「誰もお荷物を抱えたくない」 親友にすら見捨てられ、パーティ編成から弾かれた俺たちは、たった二人で最低難易度ダンジョンに挑むしかなかった。案の定、モンスターに追われ、逃げ惑い――挙句、偶然遭遇したクラスメイトには囮として利用された。 「感謝するぜ、囮として」 嘲笑と共に去っていく彼ら。絶望の中、俺たちは偶然ダンジョンの最深部へ転落する。 そこで出会ったのは、銀髪の美少女ダンジョン主・リリア。 「あなたたち……私のダンジョンで働かない?」 情報分析でダンジョン構造を最適化し、清掃で魔力循環を改善する。気づけば生産効率は30%向上し、俺たちは魔王軍の特別顧問にまで成り上がっていた。 かつて俺たちを見下したクラスメイトたちは、ダンジョン攻略で消耗し、苦しんでいる。 見ろ、これが「外れ職」の本当の力だ――逆転と成り上がり、そして痛快なざまぁ劇が、今始まる。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...