追放された魔法使いの巻き込まれ旅

ゆり

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3章 依存国ツィーシャ

飛んで火に入る (クレアside)

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その日は、とても寒くて、雪がたくさん降っていた。
そして、違う街に移るために北上する日でもあった。





ざくざくざく


「いやぁ、朝は少ししか降ってなかったから大丈夫だと思ってたんだけど………こんなに降るなら明日にすればよかったかもね?
大丈夫?─────ちゃん、寒くない?」

手を繋ぎながら、あたたかく私につけてくれた名前を呼んでくれた『クレア』を見上げて、首を縦に動かした。

「ん………。さむいの、へいきだから」
「そっか………」

ざくざくざく

雪を踏みしめる音と会話が、よく響いていた。
少し複雑そうな顔をして私を見てきたかと思えば、『クレア』は突然口を尖らせた。

「私も寒いのが平気だったらよかったな……」

そんな不満を口にして体を震わせながらも、握る手だけは魔法であたたかくした『クレア』と、ゆっくり北上していた。


「あ………」

そんな道中。
『クレア』が突然足を止めた。
見上げてみると、とても青ざめた顔をしてから、申し訳なさそうにこちらを見てきた。

「『クレア』まさか……」
「うん、そのまさか。ごめん!すぐ戻ってくるからここで待ってて?」

『クレア』はこんなふうに、忘れ物をすることが多かった。
ただ、それはいつも些細なもので、旅に支障が出るようなものではなくて取りに行くことはなかった。
だから、初めて忘れ物を取りに行く『クレア』に私は驚いた。

…………そして、同時に胸騒ぎがした。

いつもと違うことをすると、落ち着かなくなるというのは、このときのことを言うのかもしれない。

「………一緒に行くよ?」

その胸騒ぎを無視するように、そして拭い去ってほしいと思って私はそう提案した。
でも、『クレア』は少し困った顔をしてからにこりと笑った。

「………今日は次の街までたくさん歩くから、ここで休んでてよ。すぐ戻ってくるから」
「……………わかった」
「ありがとう、いい子ね」

『クレア』は私をあたたかく抱きしめてからすぐに来た道を戻って行った。
嘘だと言うのはわかっていた。
多分、『クレア』も私に嘘がばれているとわかっていたと思う。
でも、『クレア』にも隠し事のひとつやふたつがあって、それに関連した大切なものだとしたら申し訳ないから。
そう言い聞かせて、近くの木陰に座った。

追い出されてから、だいたい三年が経とうとしていた。
また、フードを深く被り直す。

指名手配の意味は、わかっていなかった。
『クレア』から、かくれんぼだと言われてきたから。


少しずつ北へ向かっている。
最初のころはアナスタシアから東に向かっていた。
しかし、アナスタシア王国でクーデタが起きたあたりで北上するようになった。
その理由を聞いたときも、今日みたいににこりと笑っていた。

わからないけれど、今は『クレア』しか信頼できない。
『クレア』について行くしかない。
漠然とそう思っていたことだけ覚えている。
いつかは定住するのだろうか、とも考えていた。


ただ、あのころはまだ、国から追われるということの本当の意味がわかっていなかった。


(それにしても………)

私はちらりと『クレア』が戻って行った道を見る。
帰ってくる気配がない。
迷子はさすがに有り得ないと思うが、あまりに戻ってこなくて、心配になった。
それに、南西に行くと旧アナスタシア王国がある。
指名手配をされている中で近くを通るなんて馬鹿な真似はしないで、北上してきてはいるが、そこまで遠く離れているわけでもない。
いつ、どこで、誰と会うかわからない。
リスクを負ってまで近くを通る理由はわからない。

どこかで捕まってしまったのだろうか。

自分の足をもぞもぞと動かす。
捕まってしまったらどうなるのかなんて、考えてこなかった。
『クレア』が捕まったらどうすればいいかなんて、考えてこなかった。









答えはすぐに得られた。


ざくざくざく

「!『クレア』…………」

近づいてくる足音に、私は思わず立ち上がって、名前を呼んで、肩を落とした。
知らない男の人だった。

ただ、『クレア』やリュカオンのように、黒い髪に、サファイアのピアスを耳にして揺らしていた。

その人は、私の目の前にやってきて足を止めた。

「キミ………たくさん魔力があるんだね」

不気味に目を細めてきた男は、私と視線を合わせて話しかけてきた。
今なら警戒してすぐに立ち去る選択をすることが最善だとわかる。
でも。

「おにいさんもたくさんだね」
「…………へぇ、キミ『視える』人なんだ?」

迂闊にも答えてしまった。
あのまま逃げればよかったのに。

男は興味ありげな顔を向けて笑いかけてきた。
そうして、手を差し出された。

「面白いものをたくさん見せてあげよう。
一緒に来ないかい?」
「おもしろいことは、気になるけど、『クレア』をまってるから行けない」

面白いことにとても惹かれた記憶があるが、誘いを断った。
私が勝手にいなくなったら困るだろうと思ってのことだった。


いつも、『クレア』のことは『クレア』で呼んでいた。
それが、よくなかった。


「クレア………?それってクレア=モルダナティス?」
「おにいさん……ともだちなの?」

聞かれた質問に正直に答えてしまったのだ。
つくづく、馬鹿だと思う。
返答を聞いて、男はお腹を抱えて笑い出した。
退屈な日々に、希望を見出したような喜びの笑い声だった。
突然笑い出すから、本当に驚いた記憶がある。





固まっていると、次の瞬間には体が浮いていた。
持ち上げられていた。

「え………………っ?」
「あー、悪いねキミ。ちょっと面白くなりそうだから連れてくわ」
「ど、どこに?それとおろして……………っ!」
「無理なお願いだね」


何もかも、わからなかった。

ただ話していただけなのに。

どうして持ち上げられているのだろうか?

子供の抵抗虚しく、ただ連れられるしかなくなって、全身から血の気が引いていくのを感じた。


どうしよう。





どうしよう。





どうしたらいいんだろう。





わたし、どうなるの?














「『クレア』………………………………っ!!!」


















「───Стцккчиклньэллгыяышкйп」







ズガァァァァァァァンッッッ!






目の前で火花が散った。
紫色の稲光が、目の前に落ちた。




「………お出ましか」

私を抱える男はそれだけ呟いて抱える力を強くした。

視線の先には、息を切らした『クレア』がいた。


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