追放された魔法使いの巻き込まれ旅

ゆり

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3章 依存国ツィーシャ

吹雪の日の話題 1

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それから何か起こるわけでもなく、ただ時間が流れ、ツィーシャも本格的に寒くなってきた。
ツィーシャより北に位置するルクレイシアでも見舞われたように、今日は街の明かりがかろうじて見えるほどの吹雪になった。

とはいえ、ツィーシャの商人区画までは『結界』が張られているようで、吹雪が入り込むことなく寒さを感じる程度で過ごせているらしい。
リュカオンの家は商人区画よりも外側で吹雪も寒さも耐える必要がありそうだが、そうでもなかった。

ギィ………

建て付けの悪い玄関の扉の音が聞こえて、クレアが玄関へ行くと、全身が真っ白になったリュカオンが立っていた。
リュカオンは犬のように体を振って大体の雪を落とし、残った雪を手で落とした。

「おかえり。魔法石渡せた?」
「うん。まあ毎年やっていたら警戒されることもないからね」

クレアにローブを預けて着替えをしながらリュカオンは返事をした。

例年は予兆のように前日が少し吹雪くそうなのだが、今年はそういった前触れがなかったため、急遽商業区画の外に住む住民に熱魔法石を配布することになったのだ。
リュカオンが魔導具を造っている部屋に入る前の暗い部屋には、この時期に備えて遠方から仕入れた大量の魔法石や薬草があったようで、部屋から持ち出してきたと思えばすぐに家を出て行ったのだ。
国の構造が円状なのもあって、反対方向まで相当な時間を要して配布して帰ってきたため、昼の時間が近かった。

クレアはリュカオンが帰ってくるまで急な寒さに対応するべく、魔法で家のどこを歩いても暖かいようにしていた。
おかげで寒さに怯えることなく今日を越すことができそうでリュカオンは安心した。

着替え終えてダイニングに向かうと、料理が並んでいるのを見てリュカオンは入り口で足を止めてしまった。

いろんな具材がごろごろと入っているトマトスープに、チーズがのったハンバーグと紫キャベツが特徴的な美味しそうなドレッシングがかかったサラダが食卓に並んでいる。

とても美味しそうな料理が並んでいることに驚いて、入り口から動けないでいるリュカオンを見つけたクレアははずかしそうに笑った。

「帰りが遅かったから暇で、勝手に作っちゃったんだ。って言っても、野営のときに教わったものをアレンジしたくらいなんだけど……食べる?」
「食べる」

いい匂いにお腹がちょうど鳴って、リュカオンは食い気味にクレアに答えてすぐに席についた。
その様子にクレアは笑いながら向かいの席に座った。
食事の挨拶を済ませて、トマトスープから食べたリュカオンは目を輝かせた。

「これ……すごい美味しい。『シャルア』は料理がうまいね」
「大げさだよ。具材を適当に切って入れただけだし」
「それでもすごい」

リュカオンがスープの味に感動してクレアを褒め称えると、クレアはまた恥ずかしそうに笑った。
確かに、リュカオンの料理の技能的にはこの仕上がりと味は革命かもしれない。
ご飯が進むというのはこのことで、止まらない美味しさをしている。
食べ進めながら、リュカオンは話題を振った。

「さっき、野営で作ってたって言ってたけど、グラントにいたときの話?」
「うん、どんな経験でも一度はしたほうがいいって公爵様が連れて行ってくれたんだ」

リュカオンは思い出しながら話してくれるクレアの言葉に、食べ進める手を止めた。
聞き逃せない単語があったようで、リュカオンはおそるおそる問いかけた。

「………まさかグラント公爵家?」
「そうだけど」
「そっか…………まあそうだよね」

リュカオンは何か言おうとしたが、そのままご飯をまた食べ始めた。
フレンティアでもそうだったが、グラントの名を聞くとみんなしてあまりいい反応をしない。

それは、閉鎖的で冷たい態度に、家系に伝わる固有魔法の氷属性から冠された『氷の守護者』の名で呼ばれていることにも起因しているのかもしれない。
野蛮で罪を犯した者がたくさんいるとか、血を見ないと気が晴れないから毎日狩りをして魔獣や人を殺しているとかいった噂がたくさんある。
グラントに足を踏み入れるのは容易なことではない。
それだけ閉鎖的で、内情を知らずに偏見を持っている人が多いのもしばしばある。
国民は気にしておらず、クレアが公爵家にいたときには「言わせておけ」と一蹴される始末だった。
だからといって、クレアは5年間過ごしてきた国の人々が偏見を持たれていることが気に食わなかった。

リュカオンもそういった偏見にとらわれているかと思うと、クレアには許せないことだった。
クレアはリュカオンに少し鋭めの視線を送った。

「……グラントは、いいところだよ。こんな私を助けてくれたし、いろんなことを教えてくれた。
だから、いくらリュカオンでもグラントに偏見を持つのはやめてほしい」

低い声音で、でも怒りが出過ぎないようにしてクレアは自分の気持ちを述べた。
クレアにとってはグラントは家族であり、故郷でもある。
それだけ大事な場所だ。
そして、リュカオンも大事な人だからこそ、どちらも大切にしたいがための言葉だった。

リュカオンはさっきまでと違う声色に顔を上げた。
クレアの様子に気づいて、食器を置いて机に置いたクレアの手を握った。

「……ごめん、誤解させたみたい。僕はグラントに偏見は持ってないよ。
昔はあったけど……逃げてる途中でグラント出身の人に会ったことがあったからさ。それでいろいろ聞いてたから」
「じゃあなんであんな反応したの?」

余計にわからないといった表情でクレアはまだ少しだけ睨みをきかせていた。
リュカオンはそんなクレアに気圧されて、渋々口を開いた。

「そのとき会った人から、グラント公爵家の当主様が………小さいものが好きって話を聞いたんだけど…………本当なのかなって」
「…………………えっ?」

クレアは想定外の答えに思わず聞き返してしまった。
理解するのに時間がかかって、固まったクレアは、リュカオンの言葉の一つ一つを処理してようやくその言葉の意味がわかったように突然笑い出した。
他にも聞いただろうに、気になった話が意外すぎたみたいだ。
クレアはひと通り笑ってから自身の手を握ってくれているリュカオンの手に、もう一方の自分の手を重ねた。

「ごめん、あまり聞かれないことだったから笑っちゃった。
たしかに、公爵様は小さいもの……小鳥とかうさぎとかが好きだよ。まだ家を継ぐより前の本当に幼かったときに、うさぎを飼ってから目覚めたらしくて」
「そうなんだ……結構冗談だと思ってたけど本当だったんだ」
「あはは、うん」

さっきまでの殺伐とした空気は過ぎ去り、クレアがグラントでの話をリュカオンにすることになった。
拾われたところから野営の話までをできるだけ端的に話す。

「……大魔協から逃げだしたときに、危ないところを公爵様に拾ってもらったんだ。みんなすごい優しくて……グラントでの生活の仕方とか魔法や言葉の基礎知識とかを教えてもらったの。
それから生活に慣れ出したころに、ファル……公子様が初めての魔物狩りに連れて行ってもらうことになって、そのとき私も一緒に行って野営を経験したんだよ」

嬉しそうに話すクレアを見て、グラントでの思い出はクレアの支えになっているとリュカオンは感じ取った。
空気が和んだのを察して、リュカオンはまた食事に手をつけながら話を聞いて質問をする。

「へぇ……グラントはそれこそ魔物の巣窟って言われてる獣王山があって、強くてたくさん魔物が出てくるって聞いたけど大丈夫だったの?」
「うん、見たことない魔物ばっかりだったけど、公爵様の言うとおりに攻撃したらびっくりするくらい簡単にいけたんだよ。
他にもね…………」


クレアはグラントでの思い出をたくさんリュカオンに話した。
リュカオンはさっきのように、聞いて質問してを繰り返してクレアの話をちゃんと聞いてくれた。

そうして話しているうちに昼ごはんを食べ終わり、2人は食器を片付けて場所をリビングに移した。
ちょうどクレアのグラントの話も終わりそうなときに移動して、2人はまたソファに座ってくつろいだ。

「………だから、私はグラントが家族でもあり故郷でもあるんだ」
「そっか。そんなにたくさん思い出ができたら、もう家族だね」

優しく微笑んで聞いてくれたリュカオンにクレアも思わず笑みをこぼした。
クレアはまた口を開いた。

「………あのさ、リュカオンのこともいろいろ知りたいな。クーデタの後、どうやってここまで来たのか」

それは一度話を遮ったことだった。
リュカオンのかくしごとに、気が動転して聞けなかったことがたくさんあるのだ。
リュカオンは少し間を置いてから返事をしてくれた。

「………平凡な話だよ。聞いてて面白くないと思うけど」
「面白いかどうかじゃなくて、知りたいから。もちろん、無理にとは言わないけどね」

クレアの返答に、リュカオンはまた言葉を詰まらせた。
少し顔をしかめて、悩んで、腹を括ったように息を吐いた。
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