追放された魔法使いの巻き込まれ旅

ゆり

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3章 依存国ツィーシャ

情報交換 (リュカオンside)

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爆発が起きたところから少ししたところで、僕は振り返った。

「………ばれましたか」
「キルナ、何の用だ?」

キルナが結構離れた距離から尾けていた。
少し申し訳なさそうにして頭を下げるキルナは、僕が質問するやいなや距離を詰めてきた。

「まだ話は終わってませんよ。何があったか聞かせてください」

興味津々といった様子で僕に詰め寄るキルナは、さっき見せた怯えはなかった。
僕も、さっきのような怒りは湧いてこなかった。
一体どうしてあんなに苛ついたのかわからないけど、今考えても仕方がないだろう。

僕はキルナをじとっと見た。

「………記事のネタにでもするのか?」
「いえっ、断じてそんなことは!ただの知的探究心です」

まったくぶれないキルナに、僕は感心なのか、呆れなのかわからないため息をついた。

キルナには聞きたいこともある。
また有益なことが聞けるなら、この機会は逃せない。

僕はキルナの横に並んだ。

「……どこで話そうか?」
「………!じゃあ私の行きつけで話しましょう!!」

キルナは嬉しそうにその行きつけに案内してくれた。






「ほほーう………つまり、『ルフト』さんは大魔協に喧嘩を売っちゃって、狙われている。さっきも歩いていたら突然襲われかけたから正当防衛をした、と」
「まあ、そんなところだ」
「面倒なことをしましたね………」

キルナの行きつけというカフェの端の席で向かい合わせに座った僕は、胸を撫で下ろした。
結構嘘ではあるけど、この反応からして信じてくれたみたいだ。
頼んだコーヒーをひと口飲んで心を落ち着かせると、僕は自分の事情を結論づけた。

「増援とかが来たら困るから、闇に飲ませて逃げるしかなかったんだよ」
「………とりあえず、今『ルフト』さんが超やばい立ち位置にいるってことはわかりました」
「ならよかった。今度は邪魔しないで」

僕が念を押すと、キルナは微妙に頷きつつも疑問ありげな顔を向けてきた。

「『ルフト』さんはここを即刻立ち去ったほうが身のためだと思うのですが……なぜ立ち去らないんですか?」

もっともな意見だ。
実際前にも『シャルア』に聞かれた質問だった。
僕はカップの中身を見ながらキルナの質問に答えた。

「知ってるかもしれないけど、アナスタシア王国が滅んだ一因に、大魔協が関連しているんだ。この国は状況が似てるから、なんだか放っておけないんだ」
「へぇ…………」

僕が顔を上げると、いつものようににこりと笑うキルナがいた。
いかにも、この状況が楽しいといった表情だ。
またため息をつきそうになったけど、いちいち反応するのも疲れた。
僕が呆れた視線を向けているのがわかって、キルナは頼んだ紅茶を少し飲んでからまた笑った。

「私と話して正解でしたね。何か新しいことがわかるかもしれませんよ?」
「………肝心なところは忘れるくせに?」
「あはは………」

僕の言葉に苦笑いをして頬をかくキルナを見ながら、僕はテーブルの下で拳を握りしめた。

ビンゴだ。

情報はさておき、やっぱり知っていることが多い。
僕は口もとがほころばないように注意しつつ話を続けた。

「それじゃあ、最近この国で大魔協がどう動いているかとかわかるか?」
「うーん………私は今中間区域の宿にいるんですけど、少なくともこの数日で結構見かけるようになりました。普通に歩いてますし。
あとは……最近国から何かを言われた気がしたのですが何だったか………」

結局肝心なところを忘れているキルナに、僕は軽く笑った。

でも、店主の答えと似ている。
中間区域で何かをしようとしているのかもしれない。
明日やることが定まった。

「じゃあそれは思い出したらまた教えてくれ。他にも聞きたいことがあるんだ」
「答えられることならなんでもどうぞ」

気前よく笑顔で僕の質問を待つキルナをありがたく思った。
いつのまにか飲み終えていたコーヒーを横に置いてテーブルを拭いて話を続けた。

「この前僕の家で話していたことって、あれから何かわかったこととかある?」
「話していたこと…………あぁ、線形魔法と『銀の魔女』のことですか?」

僕は思い出したように聞いてくるキルナにひとつ頷いた。

あれから2日くらい、キルナの話していたことを調べていた。
線形魔法や『シャルア』に似た指名手配の人物について。
だけどどちらも目ぼしい収穫はなくて、だから2日でやめてしまった。

わかったことは、指名手配の人物に関して、『銀の姫』と呼ばれていた人が西方の広範囲で探されていたということだけだった。
クーデタの後からは『銀の姫』の指名手配のビラはどこにも見当たらなくなって、代わりに『銀の魔女』が指名手配されるようになったようだ。

この数年間で、西方の変化は激しい。
西方の弱小国が指名手配していたけど、トランスヴァールが征服後にやめさせたという可能性を視野に入れている。
問題なのは、トランスヴァールが征服した国が多すぎるということだ。
たった7、8年で20くらいの国が征服された。
その大半が歴史が浅かったり小さかったりするせいで、情報は少ない。

キルナは自主的に調べていたし、あれから進展があってもおかしくない。
そう思って聞いてみたが、キルナの反応はあまりいい感じではなかった。

「一応調べていたのですが……これといったものはまだ見つかってないです。
あ、でも。思い出したことなんですけど、線形魔法を見たのは西にいたときだったんです。服装からして明らかに西でした」
「……!僕も調べてたんだけど、『銀の姫』は西で指名手配されていたみたいなんだ」
「そうなんですか!?」

あまりの驚きに大きな声を出して席を立ったキルナに、店にいる人の視線が注がれた。
キルナはすぐに気づいて、一度謝ってからまた座って僕のほうを見てきた。
きっと、同じことを考えている。

この2つの事柄には、何らかの関係があると。
根拠はないけどそう思ってしまった。

僕が何も言わずにただ頷くと、キルナは表情を明るくさせた。

「すごい発見です!明日から調べてみますね」
「あぁ、頼んだ」

さっきよりかは声をひそめて喜ぶキルナと握手を交わすと、僕たちは店を出ることにした。

店を出て大きく伸びをするキルナのほうを見ると、もう日が傾き出していた。
進展した高揚感か何かがあって、心に少し余裕ができた。
まだ油断はできないけど、大きく前進した。

今日はもう切り上げて帰ろうかと思っていたところで、またキルナに聞きたいことができた。

「キルナは魔法に詳しいか?」
「んぇ、魔法ですか?
んー………私は魔法が使えないので、興味本意で調べた分なら詳しいですよ」

伸び切ったところで聞いたせいで、間抜けに返事をしたキルナは、先を歩いていたところから僕の隣にまで戻ってきた。
その目は『ぜひ聞いてください』と言っているようで、僕は少し笑いそうになった。

「もし詳しいなら、闇魔法の魔法書を知らないか?」
「闇魔法……ですか」

僕の問いかけに黙り込んで考え出したキルナを見て、無理なお願いだったと気づいた。
僕が断ろうとしたのも束の間、キルナは言葉を被せるように口を開いた。

「珍しい属性なので少し驚いてしまいました。たしかに、さっきの大魔協を飲み込んだのも闇魔法だと言われると納得です。
一応、魔法書を2冊ほど持っていますが、貸しましょうか?」
「本当か!?」
「はい、お気に召すならいいですが」

思いがけない言葉に驚いて聞き直すと、キルナは微妙な表情をしながらも頷いた。
そうして肩掛け鞄から2冊の本が取り出された。
厚さからして、あの鞄は亜空間収納が施されているのかもしれない。

キルナがさっき言ったとおり、闇属性は希少で、その分魔法書も出回っていない。
お貴族様だと財力や繋がりを伝って魔法書を手に入れたり、お抱えにしたりするんだろうけど、残念ながら僕にはそんなことはできない。

大魔協が大陸で大きな勢力を誇っていたから、あそこには闇属性の魔法書も置いてあった。
今使える魔法はそのときに覚えたものしかないから、少しレパートリーを増やそうと思ってどこかいいところを知らないか聞こうと思っただけなのに、まさか2冊も結構厚めの魔法書が借りられるとは思いもしなかった。
僕はキルナから手渡された2冊の魔法書をじっと見つめてから鞄に入れた。

「貸してくれてありがとう、キルナ」
「……それで『ルフト』さんが強くなれるならお安いご用です。あっ、でも4日後にはここを発つ予定なのでそれまでに返してくださいね?」

歯切れが悪そうに返事をしたキルナが4日後に発つ予定と初めて知った。
吹雪がおさまり出したから、最速なら3日、4日後くらいでここを発てるだろう。
何を急いでいるかはわからないけど、とにかく早く出たいのだろう。
『シャルア』もそのくらいに発ってもらえば、巻き込まずに済むかもしれない。

「キルナはここを発ったら次はどこに行くんだ?」

僕は何気なくキルナに質問したつもりだった。
もし西に行くなら、途中まで『シャルア』と行ってほしいと頼めるんじゃないかと思ったから。

僕が顔を上げてキルナのほうを見たとき、キルナは一瞬、いつもの笑顔が抜けきった表情をしていた。
とても背筋が凍る、そんな恐ろしいほど鋭い表情だった。

しかしそれが嘘のようにすぐにまた笑顔になったキルナは、少し考えるそぶりを見せてから答えてくれた。

「そうですねぇ、あと4日で成果が出るかどうかで決める予定です。
今のところは、西を目指しつつ北上、ですね」
「北上、か………」

ツィーシャから北上となると、この国より数倍広い面積をもつリレンタールに次は行くのかもしれない。
北上となると、『シャルア』が危ないかもしれない。
リレンタールは南北に広い分、東西には、あまり広くない。つまり、リレンタールを通って西に行けば、場合によってはイェルガ───大魔協の本部がある国に足を踏み入れてしまう。

………『シャルア』はもっと話したそうにしていたけど、キルナに頼むのはやめたほうがいいかもしれない。

「………これからもっと寒くなるのに北上なんて、尊敬するかも」
「えっ、そんなに寒いんですか!?
防寒具を新調したほうがよさそうですね……」

変な空気になっていたけど、僕の一言でその雰囲気もなりをひそめたみたいだ。
僕は魔法書のお礼にいい防寒具を売っている店を数軒紹介してあげると、キルナは感動した様子で僕にお礼を言った。

「本当に助かります……!この国にいると、冬だと思えないくらい住みやすくて……」
「結界様々ってところだな」

商業区域の関所まで話したいと言われて一緒に歩いていると、キルナは不意に視線を見上げた。
つられて僕も見上げてみるが、鈍色の空が立ちこめてきただけで、いつものことだから何もおかしなところはない。
キルナのほうを見ると、僕が真似をしたのが面白かったのか、にんまりと笑いながらこちらを見ていた。

「………なんだよ」
「いいえ?ちょっとかわいいなと」
「はぁ?」

僕が眉根を寄せると、キルナはすぐに保守に走って「なんでもないです」と言った。
急に見上げるほうが悪いだろ……。

「なんで上なんて見たんだ?」

僕がそう聞くと、キルナはきょとんとした顔を見せてから、考えるそぶりを見せた。

なんだ?そんなに大事なことだったのか……?

僕がキルナの返答を待っていると、キルナは僕に満面の笑みを向けた。

「忘れました!」

笑顔でそう言われて、僕は思わずこけそうになった。
何でも忘れる奴だな……。

そんな会話をしていたらあっという間に関所に着いてしまい、キルナと別れることになる。

「じゃあ調べもの頑張って」
「はいっ!『ルフト』さんも魔法頑張ってください」

軽く別れの挨拶をしてキルナに背を向けたとき、一瞬疑問がよぎった。


今日はどうして僕を見つけられたんだろうか。


店主の前ではフードを被っていなかったから発動しなかった『認識阻害』は、キルナに会ったときには発動していたはずだ。
路地に入る前に僕はフードを被ったから。
それに、今日のローブは、この前会ったときのローブとは違って、『シャルア』には手伝ってもらっていない。
線形魔法に見惚れたなんてことはまずあり得ない。

それなら一体どうやってあの路地に来て、僕がいるとわかったのか。


「キルナ、どうして─────」


僕が気になって後ろを振り返ったときには、キルナの姿はどこにもなかった。
帰った、にしては早すぎると思う。
今日はキルナと最初に会ったとき、自分がおかしかった自覚がある。

謎の違和感を覚えながらも、僕は家路を急いだ。
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