49 / 119
2章 魔法の国ルクレイシア
セイルクのお願い
しおりを挟む
書店を後にしたクレアは、気づけば賑やかな中心地へ来ていた。
走り疲れたクレアは目の前にあるベンチに腰掛け空を見上げた。
鼠色の雲が立ち込めている。
そろそろ雪が降るかもしれない。
視線を上から下に落とし、さっき起きた出来事を思い出す。
ハシュアたちは大丈夫だろうか。
簡単な対処をしてすぐに出ていったせいでわからない。
ハシュアの驚いた顔と、クレアの魔力を拒絶しようとしたセイルクの体。
頭から離れない2人を交互に思い出していると、雪が降り始めた。
しんしんとおとなしく降る雪を見つめていると、目の前に誰かが立ちはだかった。
ゆっくりと顔を上げてみると、そこには紫紺色の長い髪をひとつにまとめ、小麦色の切れ長の瞳を潤ませ、目を腫らしたセイルクが立っていた。
寒さのせいなのか、それともその目の腫れと同じ理由なのか。
セイルクは鼻まで赤くさせてクレアを見定めていた。
クレアは何も喋らないセイルクが見つめてくるのが怖くなり、その場を立ち去ろうとした。
しかし、クレアがベンチを立った途端にセイルクがクレアの腕を掴んだ。
「………何か、ありましたか」
おそるおそるクレアが尋ねると、セイルクは口を開いては閉じてを繰り返す。
何を言い淀んでいるのか。
長い間セイルクの言葉を待っていると、セイルクが何かを小さく呟いた。
クレアが聞き取れず首を傾げると、セイルクは次は大きな声を出した。
「~~~っ、暴走止めてくれて助かった!
……それだけだ」
「え?あ、あぁ……どういたしまして」
突然の大声に驚きつつも返すクレアにセイルクはまだ何か言いたそうな顔をしている。
一体なんだというのか。
クレアが少し歩き出すと、親に置いていかれそうな子供みたいに見てくる。
「………あー、今日は疲れたし、図書館に寄ったら宿に戻って休もうかな」
クレアはセイルクに聞こえるように大きな声で言って後ろを気にせず歩き出した。
雪が降る中、白くなっていく視界の中でクレアのローブは黒色なので、すぐに追うことができる。
トントン……
クレアの足音に続くように後ろから気づかれないように慎重に歩く足音が聞こえてきた。
結局、図書館への道中一度も話しかけられることはなかった。
【ルクレイシア国立図書館】
『一般的な』魔法の本が珍しいものから赤子の入門編まで幅広いレベルが収蔵されている。
魔法を学ぶならここだとお勧めされることもしばしば。
クレアが図書館の入り口まで来て振り返ると、案の定セイルクが跡を追っていた。
急に振り返ったクレアに驚いてセイルクは歩みを止めた。
クレアが無言で見つめていると、責められていると感じたのか、それとも何か話す勇気でもできたのかわからないが、セイルクが口を開いた。
「………お前、俺よりも魔力が多いんだって」
「そうなんですか?」
「あぁ、それに、コントロールも上手いって」
「それは……ありがとうございます」
クレアが正直にお礼を言うと、セイルクは少し顔を歪めた。
プライドが許さないのだろうか。
「…………あ、のさ」
少し不満そうに、そして悲しそうに声を震わせてセイルクはもう一度口を開く。
クレアが黙って待っていると、セイルクは言いたくなさそうに何度か顔をしかめさせたが、腹を括ったのかクレアを見つめ返した。
「俺に、魔法を教えてほしい」
「……………は」
唐突な頼みにクレアはぽかんと口を開けることしかできなかった。
自分の魔法を手品だと馬鹿にしたセイルクが、なぜ教えを乞うのだろうか。
クレアが何も言えないでいると、セイルクはクレアの手を取って図書館へ引っ張る。
「そうと決まれば魔導書借りるぞ」
「え…ちょっと!?」
了承もしていないのに魔法を教えることになったらしく、クレアは困惑しながらセイルクに連れて行かれる。
中に入ったらゆっくりしたかったクレアは、セイルクのせいで入り口を風のように通り過ぎ、調べたいコーナーを通り過ぎ、あっという間に魔導書がある棚までやってきてしまった。
慣れた歩きからして、セイルクはここにはよく来ているのだろう。
しかし、そんなこと関係なくクレアは図書館で調べ物をする予定が狂ったことに少しだけ憤りを感じていた。
セイルクはそんなクレアに気づかず、いろんな魔導書を手に取っては腕の中に収めている。
(自己中心的ってこういう人かな……)
クレアはじとっとした目でセイルクを見ながら思った。
ひととおり選び終わったのか、5冊くらいの魔導書を借りたセイルクはクレアの手を引いて図書館の階上へ連れていく。
上の階は本が収蔵されているわけではなく、外の景色が見えるドーム状のガラスが天井の代わりになった、とても広い空間だけだった。
「……ここは?」
「魔法が使える場所だ。中級魔法までなら耐えられる構造をしてる」
「へぇ……」
クレアは壁から微細な魔力を感じ取った。
きっとこれが結界だろう。
図書館の本は持ち出し禁止のものもあり、そう言った本の魔法を使いたいときや、試しに使う場所がないときなどに誰でも使えるように開放されているらしい。
クレアが部屋の構造に気になっていると、セイルクがクレアの目の前に本を突き出した。
魔法文字による呪文が書いてあり、隣には魔法陣が載っている。
(これは……)
クレアが本から視線を外してセイルクを見ると、とても真剣な表情でこちらを見ていた。
「これを教えてほしい」
セイルクがクレアに頼んだ魔法は『飛行』の魔法だった。
走り疲れたクレアは目の前にあるベンチに腰掛け空を見上げた。
鼠色の雲が立ち込めている。
そろそろ雪が降るかもしれない。
視線を上から下に落とし、さっき起きた出来事を思い出す。
ハシュアたちは大丈夫だろうか。
簡単な対処をしてすぐに出ていったせいでわからない。
ハシュアの驚いた顔と、クレアの魔力を拒絶しようとしたセイルクの体。
頭から離れない2人を交互に思い出していると、雪が降り始めた。
しんしんとおとなしく降る雪を見つめていると、目の前に誰かが立ちはだかった。
ゆっくりと顔を上げてみると、そこには紫紺色の長い髪をひとつにまとめ、小麦色の切れ長の瞳を潤ませ、目を腫らしたセイルクが立っていた。
寒さのせいなのか、それともその目の腫れと同じ理由なのか。
セイルクは鼻まで赤くさせてクレアを見定めていた。
クレアは何も喋らないセイルクが見つめてくるのが怖くなり、その場を立ち去ろうとした。
しかし、クレアがベンチを立った途端にセイルクがクレアの腕を掴んだ。
「………何か、ありましたか」
おそるおそるクレアが尋ねると、セイルクは口を開いては閉じてを繰り返す。
何を言い淀んでいるのか。
長い間セイルクの言葉を待っていると、セイルクが何かを小さく呟いた。
クレアが聞き取れず首を傾げると、セイルクは次は大きな声を出した。
「~~~っ、暴走止めてくれて助かった!
……それだけだ」
「え?あ、あぁ……どういたしまして」
突然の大声に驚きつつも返すクレアにセイルクはまだ何か言いたそうな顔をしている。
一体なんだというのか。
クレアが少し歩き出すと、親に置いていかれそうな子供みたいに見てくる。
「………あー、今日は疲れたし、図書館に寄ったら宿に戻って休もうかな」
クレアはセイルクに聞こえるように大きな声で言って後ろを気にせず歩き出した。
雪が降る中、白くなっていく視界の中でクレアのローブは黒色なので、すぐに追うことができる。
トントン……
クレアの足音に続くように後ろから気づかれないように慎重に歩く足音が聞こえてきた。
結局、図書館への道中一度も話しかけられることはなかった。
【ルクレイシア国立図書館】
『一般的な』魔法の本が珍しいものから赤子の入門編まで幅広いレベルが収蔵されている。
魔法を学ぶならここだとお勧めされることもしばしば。
クレアが図書館の入り口まで来て振り返ると、案の定セイルクが跡を追っていた。
急に振り返ったクレアに驚いてセイルクは歩みを止めた。
クレアが無言で見つめていると、責められていると感じたのか、それとも何か話す勇気でもできたのかわからないが、セイルクが口を開いた。
「………お前、俺よりも魔力が多いんだって」
「そうなんですか?」
「あぁ、それに、コントロールも上手いって」
「それは……ありがとうございます」
クレアが正直にお礼を言うと、セイルクは少し顔を歪めた。
プライドが許さないのだろうか。
「…………あ、のさ」
少し不満そうに、そして悲しそうに声を震わせてセイルクはもう一度口を開く。
クレアが黙って待っていると、セイルクは言いたくなさそうに何度か顔をしかめさせたが、腹を括ったのかクレアを見つめ返した。
「俺に、魔法を教えてほしい」
「……………は」
唐突な頼みにクレアはぽかんと口を開けることしかできなかった。
自分の魔法を手品だと馬鹿にしたセイルクが、なぜ教えを乞うのだろうか。
クレアが何も言えないでいると、セイルクはクレアの手を取って図書館へ引っ張る。
「そうと決まれば魔導書借りるぞ」
「え…ちょっと!?」
了承もしていないのに魔法を教えることになったらしく、クレアは困惑しながらセイルクに連れて行かれる。
中に入ったらゆっくりしたかったクレアは、セイルクのせいで入り口を風のように通り過ぎ、調べたいコーナーを通り過ぎ、あっという間に魔導書がある棚までやってきてしまった。
慣れた歩きからして、セイルクはここにはよく来ているのだろう。
しかし、そんなこと関係なくクレアは図書館で調べ物をする予定が狂ったことに少しだけ憤りを感じていた。
セイルクはそんなクレアに気づかず、いろんな魔導書を手に取っては腕の中に収めている。
(自己中心的ってこういう人かな……)
クレアはじとっとした目でセイルクを見ながら思った。
ひととおり選び終わったのか、5冊くらいの魔導書を借りたセイルクはクレアの手を引いて図書館の階上へ連れていく。
上の階は本が収蔵されているわけではなく、外の景色が見えるドーム状のガラスが天井の代わりになった、とても広い空間だけだった。
「……ここは?」
「魔法が使える場所だ。中級魔法までなら耐えられる構造をしてる」
「へぇ……」
クレアは壁から微細な魔力を感じ取った。
きっとこれが結界だろう。
図書館の本は持ち出し禁止のものもあり、そう言った本の魔法を使いたいときや、試しに使う場所がないときなどに誰でも使えるように開放されているらしい。
クレアが部屋の構造に気になっていると、セイルクがクレアの目の前に本を突き出した。
魔法文字による呪文が書いてあり、隣には魔法陣が載っている。
(これは……)
クレアが本から視線を外してセイルクを見ると、とても真剣な表情でこちらを見ていた。
「これを教えてほしい」
セイルクがクレアに頼んだ魔法は『飛行』の魔法だった。
11
あなたにおすすめの小説
#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について
国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”
人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!
職業ガチャで外れ職引いたけど、ダンジョン主に拾われて成り上がります
チャビューヘ
ファンタジー
いいね、ブックマークで応援いつもありがとうございます!
ある日突然、クラス全員が異世界に召喚された。
この世界では「職業ガチャ」で与えられた職業がすべてを決める。勇者、魔法使い、騎士――次々と強職を引き当てるクラスメイトたち。だが俺、蒼井拓海が引いたのは「情報分析官」。幼馴染の白石美咲は「清掃員」。
戦闘力ゼロ。
「お前らは足手まといだ」「誰もお荷物を抱えたくない」
親友にすら見捨てられ、パーティ編成から弾かれた俺たちは、たった二人で最低難易度ダンジョンに挑むしかなかった。案の定、モンスターに追われ、逃げ惑い――挙句、偶然遭遇したクラスメイトには囮として利用された。
「感謝するぜ、囮として」
嘲笑と共に去っていく彼ら。絶望の中、俺たちは偶然ダンジョンの最深部へ転落する。
そこで出会ったのは、銀髪の美少女ダンジョン主・リリア。
「あなたたち……私のダンジョンで働かない?」
情報分析でダンジョン構造を最適化し、清掃で魔力循環を改善する。気づけば生産効率は30%向上し、俺たちは魔王軍の特別顧問にまで成り上がっていた。
かつて俺たちを見下したクラスメイトたちは、ダンジョン攻略で消耗し、苦しんでいる。
見ろ、これが「外れ職」の本当の力だ――逆転と成り上がり、そして痛快なざまぁ劇が、今始まる。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜
まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。
ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。
父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。
それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。
両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。
そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。
そんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。
☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。
☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。
楽しんでいただけると幸いです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる