異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬

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第38話 月の親子と祝福の夜

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初夏の陽射しが牧場全体を優しく包み込む朝。悠真は納屋の掃除を終え、汗ばんだ額を腕で拭った。青空に浮かぶ白い雲は、風に押されてゆっくりと形を変えていく。

「今日も良い天気だな」

独り言を呟きながら、彼は周囲を見渡した。アクアとフレアがいつものように追いかけっこをしており、ウィンドは丘の上で風に吹かれながら休んでいる。牧場は平和そのものだった。

リーフィアが家から出てきて、手を振った。銀色の髪が朝の光を受けて輝いている。

「悠真さん、朝食の準備ができましたよ」

「ありがとう、リーフィア。すぐに行くよ」

悠真が応えると、テラが「ミュウ!」と鳴きながら、リーフィアの足元に駆け寄った。彼女は優しく微笑み、カーバンクルの頭を撫でる。

「テラも一緒に食べましょうね」

テラの額の赤い宝石が喜びに輝いた。

――――――

朝食を終え、悠真はリーフィアと一緒に畑の世話をしていた。夏野菜の苗が健やかに育っており、トマトの実が少しずつ色づき始めていた。

「この調子だと、来週には最初の収穫ができそうですね」

リーフィアが嬉しそうに言うと、悠真も頷いて微笑んだ。

「ドミニクさんも喜ぶだろうな」

二人が会話を続けていると、突然、牧場の入り口の方から物音がした。振り返ると、ミリアムが小さなバスケットを持って走ってくるのが見えた。

「悠真さーん!リーフィアさーん!大変です!」

息を切らしながら、ミリアムは二人の前で立ち止まった。亜麻色の髪が風に揺れ、エメラルドグリーンの瞳には興奮の色が浮かんでいる。

「どうしたんだ、ミリアム?そんなに慌てて」

悠真が尋ねると、ミリアムは深く息を吸い、落ち着かせようとした。

「村の外れの森で、見たことのない生き物を見つけたんです!」

リーフィアが首を傾げた。

「見たことのない生き物、ですか?」

「はい!スノーラビットのような形なんですが、耳がとても長くて……それに、不思議な模様が体中に浮かんでいたんです!」

ミリアムの興奮した様子に、悠真は興味を持った。

「スノーラビットのような……?」

彼は頭の中で『世界の希少生物図鑑』の内容を思い出そうとした。長い耳と不思議な模様というと……

「もしかして、ルナーホップじゃないか?」

ミリアムの目が大きく見開かれた。

「ルナーホップ?」

悠真は頷いた。

「図鑑で見たことがある。月の光を浴びると体に模様が浮かぶ珍しい生き物だ。滅多に人前には現れないらしい」

リーフィアも驚いた表情を見せた。

「ルナーホップがこの近くに……」

「それで、その子に何かあったのか?」

悠真の質問にミリアムは首を振った。

「いえ、そういう訳じゃないんですけど。変わった子だったので、また悠真さんの牧場に何か関係がありそうかなって。あ、あと何かを探しているような様子でした。でも、私が近づくと、すぐに逃げてしまって……」

悠真はその言葉に苦笑いをしながらも、思案顔で腕を組んだ。

「いや、別に変った動物を集めてるわけじゃないんだけどな……。にしても探しものか……確か、今夜は満月だったよな?」

「はい。そのはずです」

悠真は少し考えてから、リーフィアとミリアムを見た。

「それじゃ今晩、俺達も一緒に探してみないか?」

二人の女性も興味が湧いたらしく、笑顔で頷いた。

――――――

夕暮れ時、三人は森の入り口に集まっていた。ミリアムはランタンを、リーフィアは小さな布袋を持っていた。

「袋の中には何が入っているんですか?」

ミリアムがリーフィアに尋ねると、彼女は微笑んで袋を開けた。中には紫色の花びらが入っていた。

「これは月下香と呼ばれる花です。ルナーホップはこの香りを好むと聞いたことがあります」

悠真は感心した様子で頷いた。

「さすがリーフィア、知識が豊富だな」

彼女は照れたように微笑んだ。

「私の記憶の断片にあったんです……月影の民は、自然界の生き物との繋がりを大切にしていたようで」

空が徐々に暗くなり、満月が顔を出し始めた。三人は森の中へと足を踏み入れた。月の光が木々の間から漏れ、幻想的な雰囲気を作り出している。

「ミリアム、どの辺りで見かけたんだ?」

悠真が小声で尋ねると、彼女は前方を指さした。

「あの月光草が生えている辺りです」

三人はそっと近づいていった。月光草は青白い光を放ち、周囲を美しく照らしていた。しかし、そこにはルナーホップの姿はない。

「いないようですね……」

ミリアムががっかりした様子で呟いた時、リーフィアが突然立ち止まった。

「なにか聞こえませんか?」

三人は息を潜めて耳を澄ました。すると、かすかに何かが跳ねるような音が聞こえてきた。

「あっちです!」

リーフィアが指さした方向に目を向けると、月の光に照らされた小さな姿が見えた。それは確かに、スノーラビットのような生き物だった。長い耳と、体に浮かぶ星座のような青い模様が特徴的だ。

「本当にルナーホップだ……」

悠真は小声で驚きを漏らした。ルナーホップは彼らに気づいたようで、ピタリと動きを止めた。

リーフィアはゆっくりと月下香の入った袋を開け、花びらをそっと地面に置いた。香りが風に乗って広がる。

ルナーホップはしばらく動かなかったが、やがて香りに誘われるように少しずつ近づいてきた。三人は息を殺して見守る。

「あっ……」

ミリアムが小さく声を上げた。ルナーホップの後ろから、さらに小さな影が現れたのだ。よく見ると、それは子供のルナーホップだった。体の模様はまだ薄く、おぼつかない足取りで親の後を追っている。

「子供がいたんだ……」

悠真は理解した様子で頷いた。おそらく親は子供のために安全な場所を探していたのだろう。

月光が強まるにつれ、親子のルナーホップの体の模様はさらに鮮やかに輝き始めた。それは本当に、夜空の星座のようだった。

三人はその美しさに見入っていたが、突然、遠くから物音がした。親のルナーホップは耳をピンと立て、警戒している。

「森の獣が近づいているのかも……」

リーフィアが心配そうに呟いた。悠真は決断を下した。

「ルナーホップ親子を牧場に連れて行こう。少なくとも、安全が確保できるまで」

ミリアムとリーフィアは頷いた。しかし、警戒心の強いルナーホップをどうやって連れて行くかが問題だった。

その時、森の暗がりからテラとルナが駆け寄ってきた。二人に気づいて付いてきたようだ。

「テラ、ルナ!ちょうど良かった」

悠真が声をかけると、テラは「ミュウ!」と元気に鳴き、ルナーホップの方へ向かった。カーバンクルの赤い額の宝石が柔らかく光り、不思議と親のルナーホップはテラに警戒心を示さなかった。

ルナも静かに近づき、子供のルナーホップの周りをゆっくりと歩き始めた。黒猫の黄金の瞳が月明かりに反射して光っている。子ルナーホップは好奇心からか、ルナの後をついていった。

「この子たち、意思の疎通ができているみたいですね……」

ミリアムは驚きの声を上げた。リーフィアは静かに微笑んだ。

「動物同士には、私たちが理解できない言葉があるのかもしれませんね」

テラとルナに導かれて、ルナーホップ親子は少しずつ森を出て、牧場へと向かい始めた。三人はそっと後をついていく。

――――――

牧場に戻ると、他の動物たちがルナーホップ親子を好奇心いっぱいの目で見ていた。アクアとフレアは少し距離を置いてじっと見つめ、ウィンドは翼を広げず、できるだけ威圧感を与えないようにしている。

「みんな、この子たちは当分の間、ここで過ごすことになるかもしれない。仲良くしてやってくれ」

悠真が動物たちに語りかけると、彼らは理解したかのように静かに頷いた。

リーフィアは納屋の隅に柔らかい干し草で小さな寝床を作った。

「ここなら安心して休めますよ」

彼女が言うと、ルナーホップは慎重に寝床を確かめ、満足したように子供を呼び寄せた。子ルナーホップは小さく跳ねながら親の元へ行き、二匹は丸くなって休み始めた。

「可愛いですね……」

ミリアムは目を輝かせながら見つめていた。悠真も心地よい気持ちで頷いた。
ふと彼は、リーフィアが少し寂しそうな表情をしていることに気づいた。

「どうしたんだ?」

「いえ……ただ、ルナーホップの親子を見ていて、私の村のことを思い出してしまって……」

リーフィアの目には、少し潤みが浮かんでいた。

「月影の民の村では、自然の生き物を守ることが大切な使命だったんです。でも私は……村を守れなくて……」

悠真はそっとリーフィアの肩に手を置いた。

「リーフィア、君は一人で全てを背負う必要はないんだ。俺たちがいる。それに、今、目の前でルナーホップ親子を守れているだろう?それは立派な『守護者』の役目を果たしているってことじゃないか」

ミリアムも優しく頷いた。

「そうですよ、リーフィアさん。あなたのおかげで、このルナーホップ親子は安全な場所を見つけられたんです」

リーフィアの表情が明るくなり、彼女は二人に微笑みかけた。

「ありがとうございます……本当に、この牧場に来ることができて良かったです」

三人が談笑していると、テラが「ミュウ!」と鳴きながら、納屋の外を指さした。

外に出てみると、牧場全体が月の光に照らされ、幻想的な光景が広がっていた。ルナーホップ親子の体の模様と同じような星座のような模様が、一瞬、大地に浮かび上がったように見えた。

「あれは……?」

ミリアムが驚いて指さす。

「ルナーホップの祝福……」

リーフィアが静かに答えた。

「月影の民の言い伝えでは、ルナーホップが感謝の気持ちを表すとき、大地に星の模様を描くと言われています」

悠真は息を呑んだ。

「つまり、俺たちに感謝してくれているってことか」

リーフィアは頷いた。徐々に地面の模様は薄れていったが、三人の心には鮮明に残っていた。

「素敵な夜になりましたね」

ミリアムが満足げに言うと、リーフィアも悠真も頷いた。

納屋の中では、ルナーホップ親子が安心した様子で眠っており、テラとルナがそばで見守っていた。牧場の他の動物たちも、それぞれの場所で寛いでいる。

月明かりの下、牧場は穏やかな夜を迎えていた。白石牧場は新たな仲間を迎え入れ、また一つ思い出を増やしたのだった。
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