異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬

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第39話 ベルの気遣い

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太陽が高く昇り、白石牧場に柔らかな光が降り注ぐ午後。悠真は納屋の前で、ルナーホップ親子の様子を見守っていた。

「すっかり馴染んできたようだな」

一週間前、満月の夜に保護したルナーホップ親子は、今では牧場の仲間として溶け込んでいた。親ルナーホップには「ステラ」、子ルナーホップには「ルミ」と名付けられ、二匹は納屋の隅に作られた小さな巣で過ごすことが多かった。

悠真が微笑みながら観察していると、リーフィアが水の入ったバケツを持って近づいてきた。

「ステラとルミの水を替えてきました」

「ありがとう、リーフィア」

彼女は柔らかな微笑みを浮かべながら、納屋の中を覗き込んだ。

「本当に可愛いですね。ルミは特に、テラと仲良くなったみたいです」

その言葉通り、小さなルミはテラの周りをぴょんぴょんと跳ねまわり、カーバンクルの額の赤い宝石を興味深げに見つめていた。テラは「ミュウ!」と鳴きながら、嬉しそうに応える。

「テラも新しい友達ができて喜んでるみたいだな」

二人が会話を続けていると、遠くから羊の鳴き声が聞こえてきた。振り返ると、ベルが小高い丘の上で何かを見つめていた。その姿勢から、何か警戒しているようだ。

「どうしたんだろう?」

悠真が不思議に思い、ベルの方へ歩き始めた。リーフィアも水やりの手を止め、一緒についてきた。

丘に着くと、ベルの視線の先には黒い雲が見えた。それは牧場のはるか彼方に浮かんでいるが、徐々に近づいてきているようだった。

「雨雲でしょうか……?」

リーフィアが首を傾げた。だが、その雲は普通の雨雲とは少し違う。不自然な動きをしているのだ。

「違うな……あれは……」

悠真が目を凝らしていると、ベルが突然「メェー!」と大きく鳴いた。その瞬間、羊の体から小さな電気が走った。

「ベルが反応してる……雷雲か!」

そう言った矢先、遠くでゴロゴロという雷鳴が轟いた。どうやら急に天候が変わりつつあるらしい。

「悠真さん!作物が心配です」

リーフィアの言葉に、悠真は急いで牧場の状況を確認し始めた。ルナーホップの親子は納屋の中にいるから無事だろう。問題は最近植えたばかりの苗だ。

「まだ根付いてない苗は、強い雨に打たれると駄目になるかもしれない」

悠真は急いで小屋から防水シートを取り出し、リーフィアと共に苗床に向かった。しかし、作業を始めたところで、さらに大きな雷鳴が響き渡った。

「かなり近いな……!」

見上げると、黒い雲はもう牧場の上空に迫っていた。風も強くなり始めている。

その時、丘の上のベルが再び大きく鳴いた。その全身が青白い光に包まれ始めた。

「ベルが……」

リーフィアが驚いた声を上げる。ベルは普段、危険を感じた時にしか雷を放たない。今もその力が徐々に高まっているようだった。

「危ない!下がってて!」

悠真はリーフィアを守るように前に出た。しかし、ベルは彼らの方ではなく、空を見上げていた。

突然、空から強烈な稲妻が落ちてきた。

「!」

悠真とリーフィアは思わず顔を覆った。しかし、予想していた衝撃はなかった。目を開けると、稲妻はベルに引き寄せられ、羊の体に吸収されていくのが見えた。

「ベルが雷を……吸収している?」

悠真は驚きの声を上げた。ベルの体は今や輝くような青白い光に包まれ、まるで電気そのものになったかのようだった。

次の瞬間、ベルの体から強烈な雷が放たれた。それは黒い雲に向かって一直線に伸び、雲を貫いたのだ。

「すごい……」

リーフィアが息を呑む。

雲を貫いた雷は、不思議なことに黒い雲を分断していった。雲は徐々に小さくなり、やがて晴れ間が見え始めた。

ベルの体からの放電が終わると、羊はフラフラとその場に座り込んだ。

「ベル!」

悠真は急いで駆け寄った。羊は疲れた様子だが、怪我はないようだった。

「大丈夫か?」

悠真が心配そうに尋ねると、ベルは「メェー」と弱々しく鳴いた。彼は優しく羊の頭を撫でた。

「すごいことをしてくれたな。ありがとう」

リーフィアも近づき、ベルの様子を確認した。

「体温が少し高いですね。でも、大きな問題はなさそうです」

彼女はそう言って、持っていた水筒からベルに水を飲ませた。羊は感謝するように目を細めた。

空を見上げると、黒い雲はすっかり消え、穏やかな青空が広がっていた。牧場は平和を取り戻したようだ。

「どうやらベルのおかげで、嵐を防ぐことができたようですね」

リーフィアがほっとした表情で言った。悠真もそれに同意して頷いた。

――――――

昼過ぎ、悠真とリーフィアはベルを小屋に連れて行き、休ませていた。カーバンクルのテラも心配そうに傍に寄り添っている。

「お疲れですね。さすがにあれだけの雷を放つのは、ベルにとっても負担だったようです」

リーフィアがベルの体を優しく撫でながら言った。

「ああ。でも、おかげで牧場は無事だった」

悠真は感謝の気持ちを込めて、ベルの好物の特製エサを準備していた。エサの匂いを嗅いだベルは、少し元気を取り戻したように見えた。

小屋の入り口から、ルナが静かに入ってきた。黒猫はベルの様子を確認すると、悠真の足元に座った。

「お前も心配してたのか」

悠真が微笑むと、ルナは「ニャー」と鳴いた。

突然、外から声が聞こえてきた。

「悠真さーん!リーフィアさーん!」

ミリアムの元気な声だ。悠真たちが外に出ると、彼女が小さなバスケットを持って走ってくるのが見えた。

「ちょうど良かった!あのね、村で変なことがあったの!」

息を切らしながら、ミリアムは話し始めた。

「変なこと?」

「うん!村の上に黒い雲が現れて、みんな嵐が来ると思ったんだけど、突然、すごい雷が空から降りてきて、それからまた雷が雲に向かって上がって行ったの!それで雲が消えちゃった!」

ミリアムの話を聞いて、悠真とリーフィアは顔を見合わせた。

「それは、さっきのベルの……」

リーフィアが小さく呟いた。

「ベル?あの雷ってベルのだったの?」

ミリアムは興味津々で尋ねた。

「ああ。ベルがその雲に向かって雷を放って、消してくれたんだ」

悠真の説明に、ミリアムの目が輝いた。

「すごい!ベルのおかげで村も助かったのね!」

ミリアムはそう言って、持っていたバスケットを差し出した。

「それでね、村のみんなが『きっとあの牧場のおかげだ』って言って。お礼にこれを持ってきたの!」

バスケットの中には、色とりどりの野菜やパン、手作りのジャムなどが詰められていた。悠真は少し照れながらも、そのバスケットを受け取った。

「ありがとう。でも、俺たちは特に何もしてないよ。全部ベルのおかげだ」

「それでもベルさんはこの牧場の一員なんだから、悠真さんとリーフィアさんのおかげでもありますよ!」

ミリアムは朗らかに笑った。

「それより、ベルさんの様子はどうですか?大丈夫?」

「少し疲れているけど、大きな問題はなさそうだよ」

悠真が答えると、ミリアムは安心した様子で頷いた。

「よかった!あ、そうだ!ルナーホップたちはどう?」

「ステラとルミなら、元気にしてるよ。納屋で休んでる」

「見せてもらってもいいですか?」

ミリアムの目が期待に輝いた。

「もちろん。こっちだ」

三人は納屋へと向かった。中では、ステラとルミが干し草の上でくつろいでいた。テラも一緒に遊んでいるようだ。

「わぁ、かわいい!」

ミリアムはルナーホップ親子を見て、目を輝かせた。ステラは警戒心を見せたが、ルミは好奇心からか、ミリアムに近づいてきた。

「こんにちは、ルミちゃん」

ミリアムはそっと手を差し出した。小さなルナーホップは恐る恐る鼻先でミリアムの指に触れ、匂いを嗅いだ。そうして、ミリアムがルミと遊んでいると、突然、納屋の入り口からベルがゆっくりと入ってきた。

「あれ?ベル、もう起きたの?」

ミリアムが声をかけると、ベルは「メェー」と弱々しく鳴いた。羊はゆっくりとステラの方へ歩み寄った。

ステラは初め警戒したが、ベルが穏やかに近づいてくるのを見て、少しずつ緊張を解いた。ベルとステラは、しばらくお互いを見つめ合っていたが、やがてベルは優しく頭をステラに寄せた。

「なんだか挨拶してるみたいですね」

リーフィアが小さく笑った。

「もしかしたら、ベルはステラたちを怖がらせないためにあの雷雲を追い払ったのかもしれないな」

「なるほど、ベルは優しいですからね」

悠真の考察に、リーフィアも納得したように頷いた。

悠真が「良く頑張ったな」とベルを撫でると、ベルは疲れた様子ながらも、満足そうに目を細めていた。ステラとルミも、彼の隣でくつろいでいる。そこへテラとルナも加わり、動物たちは穏やかに寄り添っていた。
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