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第67話 空に浮かぶ島
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爽やかな風が牧場を吹き抜ける午後。悠真は納屋の前でシギュラと話し込んでいた。大きなドラゴンは翼を半分たたみ、人間が会話しやすいように身体を低く保っている。
「シギュラさん、あれから魔族が来たりは?」
悠真が尋ねると、シギュラは黄金の瞳を細め、ゆっくりと首を振った。
『いや、来てはいない。だが、これからを考えれば警戒しておいても損はないだろう』
悠真は考え込みながら空を見上げた。そのとき、シギュラが突然首を上げ、視線を空の一点に固定させた。
『……ほう?』
「シギュラさん、どうかしたのか?」
『珍しいな。空島がこの上空に来ている』
悠真は首を傾げた。
「空島?」
「ああ、文字通り空に浮かぶ島だ。私と同じで島の周囲を透明化しているため、普通の人間が気づくことはほとんどない。基本的には風の流れに乗って不規則に空を移動している」
シギュラの説明に、悠真の好奇心が刺激された。空に浮かぶ島——それはこの異世界でさえ珍しいものだろう。
「それって見に行くことはできるんですか?なにか危険だったりとか……」
シギュラは少し考え、ゆっくりと答えた。
「空人の不興を買わぬ限りは大丈夫だろう。空島の住人たちは穏やかな性格をしているが、領域を侵されることを嫌うからな」
「空人……空の住人か」
悠真は興味が湧き、家の方を振り返った。
「よし、せっかくだしリーフィアたちも誘って見に行こう。こんな機会はそうそうないだろうし」
――――――
家に戻ると、リーフィアはハーブティーを淹れ、リオンとミリアムはテラと一緒に床で何かの図面を描いていた。
「皆、ちょっといいか?」
悠真の声に全員が顔を上げる。
「えぇ、何でしょうか?」
「実は今、この上空に空島が来ているらしい。シギュラさんが教えてくれたんだ。見に行ってみないか?」
「空島ってなんですか?」
リオンが聞いたことのない言葉に首を傾げる。
「私、図書館で読んだことがあります!空に浮かぶ島で、非常に稀にしか目撃されないって!」
「そんなものがあるんですか!?僕も行ってみたいです!」
リーフィアは穏やかに微笑み、立ち上がった。
「私も興味があります。でも、どうやって行くつもりですか?」
「ウィンドとレインに頼もうと思う。リオンとミリアムならレインでも運べるだろう」
悠真の言葉に、皆が頷いた。
準備を整え、牧場の広場へと集まる。ウィンドは銀色の翼を広げ、悠真たちを迎える準備をしていた。レインは空中を泳ぐように浮かび、おだやかな光を放っている。
「二人ともよろしくな」
「はい!」
悠真が声を掛けると、ウィンドとレインは嬉しそうな声を上げ、張り切った様子で彼らを乗せた。
空へと飛び立つと、しばらくして悠真たちの目の前には信じられない光景が広がった。最初は透明で見えなかったが、近づくにつれて姿を現した巨大な浮島——それは直径数百メートルはありそうな、緑豊かな楽園だった。島の周りには淡い光の膜が張られ、その中では滝が流れ、木々が風に揺れている。
「すごい……」
リオンの声が風に消えていく。皆、言葉を失い、その美しさに見とれていた。
島に近づくと、透明な膜が一部開き、彼らを中へと招き入れる。ウィンドとレインはゆっくりと膜の中へと入っていった。
島の上に着陸すると、数人の人影が彼らに近づいてきた。半透明の薄い布をまとった、風のように軽やかな姿——空人たちだ。一人の老人が前に出て、手を広げた。
「ようこそ、地上の旅人たち。シギュラ様からの伝言で、あなた方の来訪を聞いておりました。歓迎します」
悠真は恭しく頭を下げた。
「お迎えいただき、ありがとうございます。俺は白石悠真です。こちらはリーフィア、リオン、ミリアムです」
空人の老人は微笑み、自らを紹介した。
「私はフロード、この空島の長です。大したものはありませんが、ゆっくりしていって下さい」
そのとき、空人たちの視線がレインに向けられた。老人が少し驚いたように目を見開く。
「おや?ソライルカを連れているとは……」
「レインのことですか?」
悠真が問いかけると、フロードは頷いた。
「ソライルカは本来、私たち空島の生物なのです。めったに地上には降りないのですが……」
悠真はレインを見て、少し納得した。空島の生物なら空を飛べても不思議はないと思ったのだ。
「彼はある日突然牧場に現れて、それ以来、私たちと一緒に暮らしています」
「それは興味深い。彼はあなたたちに特別な縁を感じたのでしょう」
フロードの導きで、悠真たちは空島の中を巡り始めた。見渡す限りの豊かな緑、水晶のように透き通った湖、そして果実をたわわに実らせた木々。
「私たちの島は『フリーティア』と呼ばれています。太古の昔、大地から切り離され、風の魔法によって永遠に空を漂う運命を授かりました」
ミリアムが興味深そうに質問する。
「どうやって食料を確保されているんですか?」
「島自体が豊かな魔力を持ち、すべての植物が実を結びます。また、雲から水を集め、島の生態系を維持しています」
彼らは丘の上まで歩き、そこから地上を見下ろした。眼下に広がる景色は圧巻だった。はるか彼方までの大地が、一枚の絵のように広がっている。
「これは……」
悠真は言葉を失った。ウィンドから見る景色も素晴らしいが、こうして安定した足場から見る大地は、まったく別の感動を呼び起こした。
「地上を見る時、私たちは常に自然の偉大さを思い知らされます」
フロードの言葉に、皆が静かに頷いた。
空島を歩き回る中で、悠真たちは様々な生物に出会った。半透明の羽を持つ鳥や、空気の泡に包まれた小さな魚のような生き物たち。そして、ある森の中に入ると——翼のあるコアラのような生き物が木の上から彼らを見下ろしていた。
「あれは?」
「エアーラートです。私たち空島の象徴とも言える生物です。とても人見知りで、空人以外に心を許すことはほとんどないので……」
フロードが言い終わる前に、そのエアーラートの一頭がゆっくりと木を降り、悠真たちの方へと歩み寄ってきた。空人たちは驚いたように見つめている。
「これは珍しい……」
エアーラートは体長60センチほどで、淡い水色の毛に覆われていた。背中には半透明の翼があり、時折空気を切る音が聞こえる。大きな瞳で悠真たちを見つめ、特にリーフィアの近くに寄ってきた。
リーフィアは静かに手を差し出し、エアーラートがその手の匂いを嗅いだ。一瞬の緊張の後、エアーラートはリーフィアの手にそっと頭を擦りつけた。
「彼はあなたに興味を持ったようですね」
フロードが不思議そうに言った。
「そう、なんでしょうか?慕って貰えるのは嬉しいですね」
リーフィアはエアーラートをそっと撫でながらそう答えた。エアーラートは悠真にも近づき、好奇心いっぱいの目で見上げてきた。
「彼はあなたたちに付いていきたいと思っているようです」
フロードの言葉に、悠真は驚いた。
「それは……大丈夫なんですか?」
「彼がそう望むなら、私たちが止める権利はありません」
悠真はエアーラートを見つめ、優しく頭を撫でた。エアーラートは嬉しそうに小さな鳴き声を上げる。
「ありがとう。大切にするよ」
時が経つのは早く、夕暮れが近づき始めた。フロードが空を見上げる。
「そろそろこの地域を離れる時間です。風の流れが変わり始めています」
名残惜しさを感じながらも、悠真たちは帰る準備を始めた。エアーラートは悠真の肩に乗り、新しい仲間入りを果たしていた。
「今日は貴重な体験をさせていただき、ありがとうございました」
悠真が深々と頭を下げると、フロードも同じように応えた。
「また機会があれば、ぜひ訪れてください。私たちはあなたたちを歓迎します」
ウィンドとレインに乗り、空島を後にする悠真たち。振り返ると、フリーティアは徐々に透明になり、やがて空の彼方へと消えていった。
地上に戻る途中、エアーラートは翼をバタつかせ、悠真の肩から飛び立った。しかし、すぐに戻ってきて、安心したように彼の肩に再び収まった。
「おまえにも名前を付けてやらないとな」
悠真が考えていると、エアーラートが小さく「クルルー」と鳴き声を上げた。
「……ラクル。どうだ?」
そう呼ばれたラクルは嬉しそうに頷いた。
「ラクル。いい名前ですね」
牧場に着くと、他の動物たちがスカイを興味深く見つめた。特にフレアとアクアが近づき、新しい仲間を歓迎するかのように鳴いた。
その夜、悠真は窓から星空を見上げながら、今日の出来事を振り返っていた。エアーラート——ラクルは、その横で丸くなって眠っている。
「空島か、貴重な経験だったな……」
悠真がつぶやくと、ルナが足元で「ニャ」と鳴き、同意するかのように頭を擦りつけてきた。
「この世界には、まだまだ知らないことがたくさんあるな」
悠真の言葉に、牧場は静かな夜の闇に包まれていった。
「シギュラさん、あれから魔族が来たりは?」
悠真が尋ねると、シギュラは黄金の瞳を細め、ゆっくりと首を振った。
『いや、来てはいない。だが、これからを考えれば警戒しておいても損はないだろう』
悠真は考え込みながら空を見上げた。そのとき、シギュラが突然首を上げ、視線を空の一点に固定させた。
『……ほう?』
「シギュラさん、どうかしたのか?」
『珍しいな。空島がこの上空に来ている』
悠真は首を傾げた。
「空島?」
「ああ、文字通り空に浮かぶ島だ。私と同じで島の周囲を透明化しているため、普通の人間が気づくことはほとんどない。基本的には風の流れに乗って不規則に空を移動している」
シギュラの説明に、悠真の好奇心が刺激された。空に浮かぶ島——それはこの異世界でさえ珍しいものだろう。
「それって見に行くことはできるんですか?なにか危険だったりとか……」
シギュラは少し考え、ゆっくりと答えた。
「空人の不興を買わぬ限りは大丈夫だろう。空島の住人たちは穏やかな性格をしているが、領域を侵されることを嫌うからな」
「空人……空の住人か」
悠真は興味が湧き、家の方を振り返った。
「よし、せっかくだしリーフィアたちも誘って見に行こう。こんな機会はそうそうないだろうし」
――――――
家に戻ると、リーフィアはハーブティーを淹れ、リオンとミリアムはテラと一緒に床で何かの図面を描いていた。
「皆、ちょっといいか?」
悠真の声に全員が顔を上げる。
「えぇ、何でしょうか?」
「実は今、この上空に空島が来ているらしい。シギュラさんが教えてくれたんだ。見に行ってみないか?」
「空島ってなんですか?」
リオンが聞いたことのない言葉に首を傾げる。
「私、図書館で読んだことがあります!空に浮かぶ島で、非常に稀にしか目撃されないって!」
「そんなものがあるんですか!?僕も行ってみたいです!」
リーフィアは穏やかに微笑み、立ち上がった。
「私も興味があります。でも、どうやって行くつもりですか?」
「ウィンドとレインに頼もうと思う。リオンとミリアムならレインでも運べるだろう」
悠真の言葉に、皆が頷いた。
準備を整え、牧場の広場へと集まる。ウィンドは銀色の翼を広げ、悠真たちを迎える準備をしていた。レインは空中を泳ぐように浮かび、おだやかな光を放っている。
「二人ともよろしくな」
「はい!」
悠真が声を掛けると、ウィンドとレインは嬉しそうな声を上げ、張り切った様子で彼らを乗せた。
空へと飛び立つと、しばらくして悠真たちの目の前には信じられない光景が広がった。最初は透明で見えなかったが、近づくにつれて姿を現した巨大な浮島——それは直径数百メートルはありそうな、緑豊かな楽園だった。島の周りには淡い光の膜が張られ、その中では滝が流れ、木々が風に揺れている。
「すごい……」
リオンの声が風に消えていく。皆、言葉を失い、その美しさに見とれていた。
島に近づくと、透明な膜が一部開き、彼らを中へと招き入れる。ウィンドとレインはゆっくりと膜の中へと入っていった。
島の上に着陸すると、数人の人影が彼らに近づいてきた。半透明の薄い布をまとった、風のように軽やかな姿——空人たちだ。一人の老人が前に出て、手を広げた。
「ようこそ、地上の旅人たち。シギュラ様からの伝言で、あなた方の来訪を聞いておりました。歓迎します」
悠真は恭しく頭を下げた。
「お迎えいただき、ありがとうございます。俺は白石悠真です。こちらはリーフィア、リオン、ミリアムです」
空人の老人は微笑み、自らを紹介した。
「私はフロード、この空島の長です。大したものはありませんが、ゆっくりしていって下さい」
そのとき、空人たちの視線がレインに向けられた。老人が少し驚いたように目を見開く。
「おや?ソライルカを連れているとは……」
「レインのことですか?」
悠真が問いかけると、フロードは頷いた。
「ソライルカは本来、私たち空島の生物なのです。めったに地上には降りないのですが……」
悠真はレインを見て、少し納得した。空島の生物なら空を飛べても不思議はないと思ったのだ。
「彼はある日突然牧場に現れて、それ以来、私たちと一緒に暮らしています」
「それは興味深い。彼はあなたたちに特別な縁を感じたのでしょう」
フロードの導きで、悠真たちは空島の中を巡り始めた。見渡す限りの豊かな緑、水晶のように透き通った湖、そして果実をたわわに実らせた木々。
「私たちの島は『フリーティア』と呼ばれています。太古の昔、大地から切り離され、風の魔法によって永遠に空を漂う運命を授かりました」
ミリアムが興味深そうに質問する。
「どうやって食料を確保されているんですか?」
「島自体が豊かな魔力を持ち、すべての植物が実を結びます。また、雲から水を集め、島の生態系を維持しています」
彼らは丘の上まで歩き、そこから地上を見下ろした。眼下に広がる景色は圧巻だった。はるか彼方までの大地が、一枚の絵のように広がっている。
「これは……」
悠真は言葉を失った。ウィンドから見る景色も素晴らしいが、こうして安定した足場から見る大地は、まったく別の感動を呼び起こした。
「地上を見る時、私たちは常に自然の偉大さを思い知らされます」
フロードの言葉に、皆が静かに頷いた。
空島を歩き回る中で、悠真たちは様々な生物に出会った。半透明の羽を持つ鳥や、空気の泡に包まれた小さな魚のような生き物たち。そして、ある森の中に入ると——翼のあるコアラのような生き物が木の上から彼らを見下ろしていた。
「あれは?」
「エアーラートです。私たち空島の象徴とも言える生物です。とても人見知りで、空人以外に心を許すことはほとんどないので……」
フロードが言い終わる前に、そのエアーラートの一頭がゆっくりと木を降り、悠真たちの方へと歩み寄ってきた。空人たちは驚いたように見つめている。
「これは珍しい……」
エアーラートは体長60センチほどで、淡い水色の毛に覆われていた。背中には半透明の翼があり、時折空気を切る音が聞こえる。大きな瞳で悠真たちを見つめ、特にリーフィアの近くに寄ってきた。
リーフィアは静かに手を差し出し、エアーラートがその手の匂いを嗅いだ。一瞬の緊張の後、エアーラートはリーフィアの手にそっと頭を擦りつけた。
「彼はあなたに興味を持ったようですね」
フロードが不思議そうに言った。
「そう、なんでしょうか?慕って貰えるのは嬉しいですね」
リーフィアはエアーラートをそっと撫でながらそう答えた。エアーラートは悠真にも近づき、好奇心いっぱいの目で見上げてきた。
「彼はあなたたちに付いていきたいと思っているようです」
フロードの言葉に、悠真は驚いた。
「それは……大丈夫なんですか?」
「彼がそう望むなら、私たちが止める権利はありません」
悠真はエアーラートを見つめ、優しく頭を撫でた。エアーラートは嬉しそうに小さな鳴き声を上げる。
「ありがとう。大切にするよ」
時が経つのは早く、夕暮れが近づき始めた。フロードが空を見上げる。
「そろそろこの地域を離れる時間です。風の流れが変わり始めています」
名残惜しさを感じながらも、悠真たちは帰る準備を始めた。エアーラートは悠真の肩に乗り、新しい仲間入りを果たしていた。
「今日は貴重な体験をさせていただき、ありがとうございました」
悠真が深々と頭を下げると、フロードも同じように応えた。
「また機会があれば、ぜひ訪れてください。私たちはあなたたちを歓迎します」
ウィンドとレインに乗り、空島を後にする悠真たち。振り返ると、フリーティアは徐々に透明になり、やがて空の彼方へと消えていった。
地上に戻る途中、エアーラートは翼をバタつかせ、悠真の肩から飛び立った。しかし、すぐに戻ってきて、安心したように彼の肩に再び収まった。
「おまえにも名前を付けてやらないとな」
悠真が考えていると、エアーラートが小さく「クルルー」と鳴き声を上げた。
「……ラクル。どうだ?」
そう呼ばれたラクルは嬉しそうに頷いた。
「ラクル。いい名前ですね」
牧場に着くと、他の動物たちがスカイを興味深く見つめた。特にフレアとアクアが近づき、新しい仲間を歓迎するかのように鳴いた。
その夜、悠真は窓から星空を見上げながら、今日の出来事を振り返っていた。エアーラート——ラクルは、その横で丸くなって眠っている。
「空島か、貴重な経験だったな……」
悠真がつぶやくと、ルナが足元で「ニャ」と鳴き、同意するかのように頭を擦りつけてきた。
「この世界には、まだまだ知らないことがたくさんあるな」
悠真の言葉に、牧場は静かな夜の闇に包まれていった。
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