異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬

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第72話 神殿調査とホビット族の研究員

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 エイドから剣を預かって数日が経ったある朝、悠真は納屋の掃除を終え、庭に出ると、アースがのんびりと日向ぼっこをしているのを見つけた。白い鱗に金色の模様が朝日を受けて美しく輝いている。

「おはよう、アース。良い天気だな」

 悠真が声をかけると、アースは赤い瞳をゆっくりと開け、「シュルル」と小さく鳴いて挨拶を返した。背中の小さな翼のような鰭をふわりと動かし、悠真の方へゆっくりと這い寄ってくる。

 そんな穏やかな朝の風景に微笑んでいると、牧場の門の方から人の気配がした。振り向くと、エイドが大きな荷物を背負いながら歩いてくるのが見えた。そして意外なことに、その隣には小さな女の子が一人、同じように大きな荷物を背負って歩いている。

「おはようございます、白石さん!」

 エイドは遠くから手を振って挨拶した。眼鏡を直しながら笑顔で近づいてくる。

「ああ、エイドさん。おはよう」

 悠真も手を振り返し、近づいてくる二人を迎えた。アースは物珍しそうに首を傾げながら、二人の様子を見つめている。

「神殿の調査のために早速準備を整えてきました。あ、こちらは……」

 エイドは隣の小さな女の子を紹介するように手を添える。

 悠真は眉を上げ、エイドの横にいる可愛らしい少女を見た。金色の三つ編みを両側に垂らし、明るい茶色の瞳をした少女は、年齢は10歳くらいにしか見えない。小柄な体に、研究員らしき服装を着ているが、どことなく違和感がある。

「もしかして、お子さんですか?」

 悠真が無邪気に尋ねると、途端にその少女の表情が一変した。

「むっ!若造、わっちはお主よりよほど年上なのじゃ!」

 少女の声は予想外に渋く、語尾も特徴的だった。怒りに満ちた目で悠真を睨みつけている。

「え……?」

 一瞬理解できずに悠真が問い返すと、エイドが慌てて説明を始めた。

「あの、白石さん。彼女はミルフィ・シールと言って、ホビット族なんです。見た目は少女のようですが、実は王国でも最年長の研究員なんですよ」

「何が最年長じゃ! わっちはまだまだ若いのじゃ!」

 ミルフィは今度は別の理由で怒り出した。エイドの表情からは、これがよくあることだと伝わってくる。

「ちなみに正確な年齢は……」

 悠真が小声で尋ねると、エイドも小声で返した。

「それは私も知らないんです。聞くと大変なことになるので……」

 うんうんと頷きながら、悠真は状況を理解した。子供扱いも年寄り扱いも嫌うタイプらしい。

「失礼しました、ミルフィさん。私が無知でした」

 悠真は誠実に謝罪した。心の中では「人は見かけによらぬもの」という言葉を再認識していた。

「ふん、分かればよいのじゃ」

 ミルフィは腕を組み、少し機嫌を直した様子を見せた。そのぷんぷんとした様子が、実は可愛らしくも見える。

――――――

 悠真は同じことが起きぬよう、先にリーフィアとリオンにも説明してから、彼女を家に招き入れた。

「リーフィア、リオン、こちらがミルフィさんです」

 悠真の紹介を聞いて、リーフィアとリオンは理解ある対応をした。

「ようこそお越しくださいました。ミルフィさん」

 リーフィアは穏やかに微笑みながら挨拶をした。

「牧場での滞在、楽しんでくださいね!」

 リオンも明るい笑顔で迎えた。

「うむ、よろしく頼むのじゃ」

 ミルフィは満足したように頷いた。

 エイドたちは神殿調査のために数日、二階の部屋を貸してほしいという話だった。

「もちろん構わないよ。使っていない部屋だし、好きなだけ使ってくれ」

 悠真は快く引き受けた。エイドの顔が明るくなる。

「ありがとうございます! 本当に助かります」

「じゃあ、リオン。部屋の用意を手伝ってくれるか?」

「はい、お任せください!」

 リオンは元気よく返事をし、エイドとミルフィの荷物を運ぶのを手伝った。

――――――

 牧場を案内していると、シャドウとミストが遊びに現れた。漆黒の毛並みのシャドウと、灰色の霧のような模様のミストは、悠真たちを見るとこちらに駆け寄ってきた。

「おや、この子らは?」

 ミルフィは目を輝かせた。

「シャドウとミストだよ。子熊たちだ」

 シャドウが悠真の足元に擦り寄り、ミストはミルフィの前で立ち止まって、好奇心いっぱいの目で見上げている。

「なるほどの。エイドの報告に合ったシャドウベアーの子か」

 ミルフィはミストの頭をそっと撫でた。ミストはその手に頭を擦り付け、喜んでいる様子だ。

 その後も牧場の案内を続けていると、新しい人が気になるのか次々と動物達が近寄ってくる。ミルフィは彼らに思いの外優しい態度で接していた。

「わっちも長年研究しておるが、本当にこんな特殊な能力を持つ生き物たちが一箇所に集まっておるとはの……」

――――――

 牧場の案内を軽く終えたあと、二人は例の洞窟の方に調査に向かった。夕食時になり戻ってきた二人とともに食事を始めると、リーフィアの作った料理を前にエイドは心から満足そうな表情を浮かべた。

「ここの食事は本当に美味しいですね!」

「うむ、見事な腕前じゃ」

 ミルフィも大きく頷いて同意した。

「ありがとうございます。でも、牧場の素材が良いからですよ」

 リーフィアは謙遜するようにそう答えた。食事を楽しみながら、エイドたちは神殿について分かったことを話してくれた。

「あの神殿は、恐らく千年以上前のものだと思われます。壁の文様は古代バストリア文字に近いのですが、解読は難しいですね」

「うむ。だが、興味深いのはその神殿が何のために建てられたかじゃ」

 ミルフィは小さな体で大きなスプーンを握りながら、熱心に話した。

「神殿内部には、他にも何か重要なものがあるかもしれないと考えています。ですから、すぐには難しいですが、土砂を取り除いて神殿を正規の道から訪れることができるように整備したいと思うのです」

 エイドは眼鏡を直しながら言った。

「それなら、土砂を取り除くのはテラに頼んでおくよ」

 悠真は提案した。テラの能力なら、短時間で効率よく作業できるだろう。

「それは助かります!」

「うむ。感謝するぞ」

 かなり人手が掛かるであろう作業に、悠真からその様な提案をされた二人は感謝の言葉を返した。

――――――

 翌朝、悠真はテラを連れて、エイドとミルフィと一緒に神殿がある場所へと向かった。テラは「ミュウ!」と元気に鳴きながら、前足で土を掘り始めた。その速さと正確さに、二人の研究員は感心した様子だ。

「カーバンクルの土を操る能力は聞いていたが、実際に見るのは初めてじゃ……」

 ミルフィが小声でつぶやいた。額の赤い宝石が太陽の光を受けて美しく輝くテラの姿に見入っている。

 数日間、エイドとミルフィは神殿の調査を続けた。その間、牧場の生き物たちも彼らに慣れ、特にミルフィはミストとすっかり仲良くなっていた。

 最終日、調査を終えた二人は荷物をまとめ始めた。

「今回の調査、本当にありがとうございました」

 エイドは悠真たちに深く頭を下げた。

「うむ、わっちも楽しい時間を過ごせたぞ」

 ミルフィも満足げな表情を浮かべている。

「一度街に戻って報告書をまとめますが、また来てもよろしいでしょうか?」

「もちろん。いつでも歓迎するよ」

 悠真は微笑みながら答えた。リーフィアとリオンも頷いている。

「それでは、その時もよろしくお願いします」

 エイドは嬉しそうに言った。

「次はもっと長く滞在するかもしれんぞ。その時はよろしく頼む」

 ミルフィも珍しく柔らかな表情で言った。

「ミルフィ先生、またぜひ来てください!」

 リオンが元気よく言うと、ミルフィは「先生とは言わんでよい」と照れたように言った。しかし、その表情には確かに喜びが浮かんでいた。

 牧場の門まで見送りに行くと、シャドウとミストも駆け寄ってきて、特にミストはミルフィの足元で鳴いていた。

「また会おうぞ、ミスト」

 ミルフィは珍しく優しい声で言った。

 こうして、エイドとミルフィは牧場を後にした。悠真たちは彼らが見えなくなるまで手を振り続けた。

――――――

 夕暮れ時、悠真は牧場の丘の上で夕日を眺めていた。今日も一日が穏やかに過ぎていく。オレンジ色に染まる空が、次第に深い藍色へと変わっていく様子は見飽きることがない。

「悠真さん」

 リーフィアの声が背後から聞こえた。振り返ると、彼女は銀色の髪を夕日に輝かせながら立っていた。

「ああ、リーフィア。どうした?」

「エイドさんたちが帰って、少し寂しくなりましたね」

「そうだな。特にリオンは楽しそうだったしな」

 二人は並んで夕日を眺めた。牧場では、サクラが草を食み、アースが岩の上で寝そべっている。平和な光景だ。

「さて、そろそろ晩御飯の時間ですよ。リオンもきっと待っています」

 リーフィアの言葉に、悠真は立ち上がった。

「そうだな。行こうか」

 月が昇り始め、牧場全体が銀色の光に包まれていく。またひとつ、牧場で過ごす穏やかな一日が終わろうとしていた。
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