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第73話 泉に響く歌声
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初冬の風が牧場の周りを優しく撫でていく季節。雪がちらつき始め、森に採取に行くには少し厳しい時期になってきていた。しかし、牧場内は「気温調整機能」のおかげで、いつでも快適な温度が保たれていた。
「最近は牧場内の畑や果樹園も充実してきたから、わざわざ寒い森に行かなくても済むようになりましたね」
リオンが夕食の食器を片付けながら言った。テーブルにはまだハーブティーの入った湯気の立つカップが並んでいる。
「そうね。特に冬場は安全面でも助かるわ」
リーフィアが微笑みながら頷き、自分のカップを手に取った。銀色の髪が暖炉の光に照らされて、淡い輝きを放っている。
「でも、たまには採取に行かないとな。冬だからこそ取れる素材もあるし」
悠真はそう言って窓の外を見やった。外はもう真っ暗で、月明かりだけが雪の積もり始めた地面を照らしていた。
「そうですよね。冬の薬草は効能も強いと聞きますし」
リーフィアが同意する。しかし、その言葉の途中で、彼女は突然耳を澄ませるような仕草をした。
「どうした?」
「聞こえませんか? なにか歌声のようなものが……」
三人は耳を澄ませる。確かに、どこかから美しい歌声が風に乗って聞こえてくる。澄んだ高い声が、夜の静けさの中に溶け込むように響いている。
「牧場の中から聞こえてくるみたいですね」
リオンが立ち上がり、窓の方に歩み寄る。
「泉の方からかもしれないな」
悠真も立ち上がり、外套を手に取った。
「見に行ってみましょう」
リーフィアも同意し、三人は暖かい家を出て、牧場内の泉へと向かった。
月明かりの中、泉へ続く小道を進むと、次第に歌声はより鮮明に聞こえてきた。まるで天使の歌声のように、美しく、どこか切ない旋律が夜の空気を震わせている。
「あ、あれ!」
リオンが指差した先には、驚くべき光景が広がっていた。
泉の上空では、レインが青白い光の軌跡を描きながら優雅に空を泳いでいる。その周りには、アースやアズール、シャドウとミスト、そして普段なら夜はあまり活動しないサクラやアクアまでもが集まっていた。まるで小さなコンサートを楽しむように、みな静かに歌に聞き入っている。
そして泉の中心には、長い水色の髪を持つ少女の姿があった。月明かりに照らされた彼女の肌は真珠のように輝き、上半身は人間の少女そのものだが、腰から下は――魚のような尾びれになっている。
「人魚……?」
悠真が思わず呟いた瞬間、歌声が途切れた。少女は人間の気配に気づいたのか、驚いた表情を見せると、すぐさま「ぽちゃん」と音を立てて泉の中に潜り込んだ。
――――――
しばらくすると、泉の端から少しだけ顔を出して、恐る恐る三人の様子を窺っている。大きな青い瞳が月明かりに反射して、まるで宝石のように輝いていた。
「こんばんは」
悠真は優しく微笑みながら、ゆっくりと泉の縁に腰を下ろした。急な動きで彼女を怖がらせないよう、慎重に声を掛ける。
「驚かせてすまない。俺たちは敵じゃない。この牧場の住人だ」
リーフィアも同じように腰を下ろし、温かな微笑みを向ける。
「素敵な歌声でしたね」
リオンは少し距離を取りながらも、友好的な態度を示した。
少女はしばらく迷っていたが、三人が敵意を持っていないと判断したのか、少しずつ泉から上半身を出してきた。
「ご、ごめんなさい。勝手に歌っていて……」
小さな声だったが、それでも透明感のある美しい声色だった。彼女の頬は少し赤く染まっている。
「謝ることはないよ。素敵な歌声だった」
悠真は優しく言った。
「どうしてここで歌っていたんですか?」
リオンがそう聞くと、少女は恥ずかしそうに水面を指先でさざ波立てながら答えた。
「この泉を見つけて……とても綺麗で澄んでいたから、ついお気に入りの歌を口ずさんでいたの。気づいたらみんなが集まってきて……つい楽しくなってきて声が大きくなってしまったの」
「そういうことか。君、名前は?」
「セリーナです」
彼女は少し自信を取り戻したように、はっきりと答えた。
「セリーナ、この泉が気に入ったなら、いつでも来ていいよ」
悠真の言葉に、セリーナの表情が明るくなった。
「本当ですか?」
「もちろん。せっかくだから、歌の続きも聞かせてくれないかな?」
セリーナは嬉しそうに微笑み、ゆっくりと泉の中心へと戻った。深呼吸をしてから、再び歌い始める。
その歌声は、夜の冷たい空気を温めるかのように響き渡った。レインは再びセリーナの歌に合わせるように、光の軌跡を描き始める。青や銀、時には虹色の光が泉の上空を舞い、まるで星々が降りてきたかのような幻想的な光景が広がった。
悠真たちは草の上に座り、この予期せぬ素晴らしいコンサートを楽しんだ。リーフィアの表情は柔らかく、リオンの目は興奮と感動で輝いている。
星空の下、レインの描く光の軌跡、そしてセリーナの澄んだ歌声。牧場の夜が神秘的な一体感に包まれていた。
――――――
翌日の朝、悠真が納屋の掃除をしていると、リオンが駆け込んできた。
「悠真さん! セリーナがまた来てますよ!」
悠真は驚いて作業の手を止めた。
「本当か? 昨日の夜だけかと思ってたけど」
二人は急いで泉へと向かった。確かにそこにはセリーナがいて、リーフィアが泉の縁で彼女と話をしていた。
「おはよう、セリーナ」
悠真が挨拶すると、セリーナは少し慣れた様子で微笑んだ。
「おはようございます、悠真さん」
リーフィアが昨日の夜に紹介してくれたのだろう、彼女は既に悠真の名前を覚えていた。
「こんなに早く来てくれるとは思わなかったよ」
「この泉がとても気に入ったので……」
セリーナは照れたように尾びれを水中で揺らした。その動きは優雅で、水面に小さな波紋を作る。その様子を見ていた悠真はふとあることに気づいた。
「そういえば、セリーナはどうやってここまで来たんだ?」
リーフィアとリオンも首を傾げた。人魚が陸地の真ん中にある牧場にどうやって移動してきたのか、確かに不思議だった。
「私、ある程度の水があるところなら、直接渡ってくることができるんです」
セリーナの答えに、三人は驚きの表情を浮かべた。
「それって、水を介して瞬間移動ができるってことか?」
悠真が確認すると、セリーナは照れながらも頷いた。
「すごいですね!」
リオンの目は輝いていた。
「またびっくりするような能力だけど……なるほど、それで牧場に来れたのか」
悠真は感心しながら言った。この牧場に集まる生き物たちは、いつも予想を超える能力を持っている。
――――――
そうして、セリーナは牧場に時折訪れるお客さんとなった。彼女は主に夕暮れ時や満月の夜に現れ、美しい歌声で牧場を包んだ。時にはリーフィアがハープを弾いて伴奏をすることもあった。人魚の歌が聞こえる牧場。それもまた、この不思議な場所ならではの日常の光景の一つとなっていった。
「最近は牧場内の畑や果樹園も充実してきたから、わざわざ寒い森に行かなくても済むようになりましたね」
リオンが夕食の食器を片付けながら言った。テーブルにはまだハーブティーの入った湯気の立つカップが並んでいる。
「そうね。特に冬場は安全面でも助かるわ」
リーフィアが微笑みながら頷き、自分のカップを手に取った。銀色の髪が暖炉の光に照らされて、淡い輝きを放っている。
「でも、たまには採取に行かないとな。冬だからこそ取れる素材もあるし」
悠真はそう言って窓の外を見やった。外はもう真っ暗で、月明かりだけが雪の積もり始めた地面を照らしていた。
「そうですよね。冬の薬草は効能も強いと聞きますし」
リーフィアが同意する。しかし、その言葉の途中で、彼女は突然耳を澄ませるような仕草をした。
「どうした?」
「聞こえませんか? なにか歌声のようなものが……」
三人は耳を澄ませる。確かに、どこかから美しい歌声が風に乗って聞こえてくる。澄んだ高い声が、夜の静けさの中に溶け込むように響いている。
「牧場の中から聞こえてくるみたいですね」
リオンが立ち上がり、窓の方に歩み寄る。
「泉の方からかもしれないな」
悠真も立ち上がり、外套を手に取った。
「見に行ってみましょう」
リーフィアも同意し、三人は暖かい家を出て、牧場内の泉へと向かった。
月明かりの中、泉へ続く小道を進むと、次第に歌声はより鮮明に聞こえてきた。まるで天使の歌声のように、美しく、どこか切ない旋律が夜の空気を震わせている。
「あ、あれ!」
リオンが指差した先には、驚くべき光景が広がっていた。
泉の上空では、レインが青白い光の軌跡を描きながら優雅に空を泳いでいる。その周りには、アースやアズール、シャドウとミスト、そして普段なら夜はあまり活動しないサクラやアクアまでもが集まっていた。まるで小さなコンサートを楽しむように、みな静かに歌に聞き入っている。
そして泉の中心には、長い水色の髪を持つ少女の姿があった。月明かりに照らされた彼女の肌は真珠のように輝き、上半身は人間の少女そのものだが、腰から下は――魚のような尾びれになっている。
「人魚……?」
悠真が思わず呟いた瞬間、歌声が途切れた。少女は人間の気配に気づいたのか、驚いた表情を見せると、すぐさま「ぽちゃん」と音を立てて泉の中に潜り込んだ。
――――――
しばらくすると、泉の端から少しだけ顔を出して、恐る恐る三人の様子を窺っている。大きな青い瞳が月明かりに反射して、まるで宝石のように輝いていた。
「こんばんは」
悠真は優しく微笑みながら、ゆっくりと泉の縁に腰を下ろした。急な動きで彼女を怖がらせないよう、慎重に声を掛ける。
「驚かせてすまない。俺たちは敵じゃない。この牧場の住人だ」
リーフィアも同じように腰を下ろし、温かな微笑みを向ける。
「素敵な歌声でしたね」
リオンは少し距離を取りながらも、友好的な態度を示した。
少女はしばらく迷っていたが、三人が敵意を持っていないと判断したのか、少しずつ泉から上半身を出してきた。
「ご、ごめんなさい。勝手に歌っていて……」
小さな声だったが、それでも透明感のある美しい声色だった。彼女の頬は少し赤く染まっている。
「謝ることはないよ。素敵な歌声だった」
悠真は優しく言った。
「どうしてここで歌っていたんですか?」
リオンがそう聞くと、少女は恥ずかしそうに水面を指先でさざ波立てながら答えた。
「この泉を見つけて……とても綺麗で澄んでいたから、ついお気に入りの歌を口ずさんでいたの。気づいたらみんなが集まってきて……つい楽しくなってきて声が大きくなってしまったの」
「そういうことか。君、名前は?」
「セリーナです」
彼女は少し自信を取り戻したように、はっきりと答えた。
「セリーナ、この泉が気に入ったなら、いつでも来ていいよ」
悠真の言葉に、セリーナの表情が明るくなった。
「本当ですか?」
「もちろん。せっかくだから、歌の続きも聞かせてくれないかな?」
セリーナは嬉しそうに微笑み、ゆっくりと泉の中心へと戻った。深呼吸をしてから、再び歌い始める。
その歌声は、夜の冷たい空気を温めるかのように響き渡った。レインは再びセリーナの歌に合わせるように、光の軌跡を描き始める。青や銀、時には虹色の光が泉の上空を舞い、まるで星々が降りてきたかのような幻想的な光景が広がった。
悠真たちは草の上に座り、この予期せぬ素晴らしいコンサートを楽しんだ。リーフィアの表情は柔らかく、リオンの目は興奮と感動で輝いている。
星空の下、レインの描く光の軌跡、そしてセリーナの澄んだ歌声。牧場の夜が神秘的な一体感に包まれていた。
――――――
翌日の朝、悠真が納屋の掃除をしていると、リオンが駆け込んできた。
「悠真さん! セリーナがまた来てますよ!」
悠真は驚いて作業の手を止めた。
「本当か? 昨日の夜だけかと思ってたけど」
二人は急いで泉へと向かった。確かにそこにはセリーナがいて、リーフィアが泉の縁で彼女と話をしていた。
「おはよう、セリーナ」
悠真が挨拶すると、セリーナは少し慣れた様子で微笑んだ。
「おはようございます、悠真さん」
リーフィアが昨日の夜に紹介してくれたのだろう、彼女は既に悠真の名前を覚えていた。
「こんなに早く来てくれるとは思わなかったよ」
「この泉がとても気に入ったので……」
セリーナは照れたように尾びれを水中で揺らした。その動きは優雅で、水面に小さな波紋を作る。その様子を見ていた悠真はふとあることに気づいた。
「そういえば、セリーナはどうやってここまで来たんだ?」
リーフィアとリオンも首を傾げた。人魚が陸地の真ん中にある牧場にどうやって移動してきたのか、確かに不思議だった。
「私、ある程度の水があるところなら、直接渡ってくることができるんです」
セリーナの答えに、三人は驚きの表情を浮かべた。
「それって、水を介して瞬間移動ができるってことか?」
悠真が確認すると、セリーナは照れながらも頷いた。
「すごいですね!」
リオンの目は輝いていた。
「またびっくりするような能力だけど……なるほど、それで牧場に来れたのか」
悠真は感心しながら言った。この牧場に集まる生き物たちは、いつも予想を超える能力を持っている。
――――――
そうして、セリーナは牧場に時折訪れるお客さんとなった。彼女は主に夕暮れ時や満月の夜に現れ、美しい歌声で牧場を包んだ。時にはリーフィアがハープを弾いて伴奏をすることもあった。人魚の歌が聞こえる牧場。それもまた、この不思議な場所ならではの日常の光景の一つとなっていった。
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