異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬

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第16話 森の実とルナの秘密

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朝焼けがまだ残る空を見上げながら、悠真は深く息を吸い込んだ。澄んだ空気が肺に満ちる感覚が心地よい。

「今日も良い天気になりそうだな」

悠真は納屋の扉を開け、中の動物たちに挨拶した。ヘラクレスは大きな体を伸ばし、ベルは眠そうに「メェー」と鳴いている。

「おはよう、みんな。今日も元気かい?」

一番奥では、新しく仲間に加わったエルフのリーフィアが、サクラの毛並みを優しく梳かしていた。銀色の長い髪を一つに結び、作業しやすい緑色の服に着替えている。

「あ、悠真さん。おはようございます」

リーフィアの透き通るような声が納屋に響いた。彼女が牧場に来てから一週間が経つ。記憶は戻っていないものの、牧場の仕事にはすっかり慣れたようだ。

「おはよう、リーフィア。今日は何をするつもりだ?」

「森の周辺で薬草を探そうと思っています。ミリアムさんが教えてくれた本に、この辺りにしか生えない珍しい薬草があるとありました」

リーフィアの顔には好奇心が輝いていた。エルフである彼女は、植物に関する知識が豊富だ。

「そうか。気をつけてな。あまり深入りしないように」

「はい、わかっています」

悠真はリーフィアの頭をポンと撫でた。彼女は少し照れた様子で微笑んだ。

「それじゃあ、行ってきますね」

リーフィアが納屋を出て行くと、黒猫のルナが不思議そうに彼女の後を追った。

「おや、ルナも行くのか?」

ルナは振り返って一度鳴き、それから再びリーフィアの方へ走っていった。

「まあ、ルナがいれば大丈夫か」

悠真は微笑みながら、残りの家畜たちの世話を始めた。

――――――

森の中、リーフィアは慎重に足を進めていた。地面に生える草や苔をじっくりと観察している。

「これは……違うわね。もう少し奥に行ってみましょうか」

ルナはリーフィアの足元でクルクルと回り、時々立ち止まっては何かの匂いを嗅いでいる。

「ルナも何か探してるの?」

リーフィアが問いかけると、ルナは「ニャー」と返事をして、少し先の茂みへと走っていった。

「あ、待って!」

リーフィアはルナを追いかけた。茂みの向こうには、小さな空き地があった。そこには、キラキラと光る赤い実をつけた低木が生えている。

「これは……!」

リーフィアは思わず息を呑んだ。その実は、本に載っていた貴重な薬草「ルビーベリー」に間違いなかった。高熱を一晩で下げる効果があるという貴重な実だ。

「ルナ、よく見つけたわね!」

リーフィアが喜ぶと、ルナは誇らしげに尻尾を立てた。リーフィアはそっと手を伸ばし、実を数個摘み取った。

「これで薬が作れるわ。ミリアムさんも喜ぶでしょうね」

彼女が実を小さな袋に入れていると、突然ルナが警戒するように耳を立てた。

「どうしたの?」

リーフィアが周囲を見回すと、森が急に静かになったことに気がついた。鳥の鳴き声も、虫の音も聞こえない。

「何か来るの……?」

その時、茂みが揺れ、一匹の大きな黒い狼が姿を現した。赤い目が鋭く光り、牙をむき出しにしている。

「狼!?」

リーフィアは身体が硬直するのを感じた。狼は低くうなり、ゆっくりと近づいてくる。

「に、逃げないと……」

恐怖で足が動かない。リーフィアは目を閉じた。その時、突然「シャー!」という鋭い声が響いた。

目を開けると、ルナが自分の前に立ち、狼に向かって威嚇していた。小さな黒猫が、何倍もの大きさの狼に立ち向かっている。

「ルナ、危ない!」

リーフィアが叫んだ瞬間、信じられない光景が広がった。ルナの体が青白い光に包まれ、その姿が変わり始めたのだ。小さな猫の体が膨らみ、伸び、そして——

「え……?」

光が消えると、そこには優雅な黒豹が立っていた。漆黒の体に、神秘的な青い紋様が浮かび上がっている。

「ルナ……?」

豹と化したルナは低くうなり、狼に飛びかかった。その動きは水の流れのように滑らかで、狼は反応する間もなく吹き飛ばされた。

立ち上がった狼は、一度だけルナを見て、それから慌てて森の中へと逃げ去った。

ルナはしばらく狼の去った方向を見つめていたが、やがて緊張がほぐれたように体の力を抜いた。そして再び青白い光に包まれ、元の黒猫の姿に戻った。

「ルナ……あなた……」

リーフィアは言葉を失った。ルナはゆっくりと彼女に近づき、いつものように足にすり寄った。

「こんな力を持っていたなんて……」

リーフィアはルナを抱き上げ、その目をじっと見つめた。ルナの瞳には、普通の猫にはない知性の光が宿っていた。

「これは悠真さんに伝えないと」

リーフィアは急いでルビーベリーを袋に入れ、牧場への帰路についた。

――――――

「変身した!?」

夕暮れ時、小屋の中で悠真はリーフィアの話を聞いて驚いた表情を浮かべていた。テーブルには採れたてのルビーベリーが並び、その隣でルナが丸くなって眠っている。

「はい。大きな黒豹に。しかも体に青い模様があって……」

「そうなのか。何か普通じゃないと思ってたけど変身できるなんてな」

悠真はルナの頭を優しく撫でた。黒猫は気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らした。

「普通じゃない、ですか?」

「ああいや、偶に不思議な行動をとるからさ、明らかに俺達の言葉を理解していたり、他の動物たちと意思疎通しているような…」

リーフィアは驚いた目でルナを見つめた。

「もしかして精霊だったりするのでしょうか?」

「精霊?」

「精霊は時に動物の姿を借りて現世に現れると言われているんです」

悠真は考え込んだ。

「へぇ、そんなことがあるのか。……まぁ、もしそうだったとしてもルナはルナだ」

二人がそんな会話をしていると、突然ドアがノックされた。

「はい?」

ドアが開き、緑のドレスを着た少女が入ってきた。亜麻色の髪と澄んだエメラルドグリーンの瞳が印象的だ。

「こんばんは、悠真さん!薬草を届けに来たの…あら、リーフィアさんもいた」

「ミリアム、いらっしゃい」

ミリアムは笑顔で入ってきたが、テーブルの上のルビーベリーを見るとハッとした表情になった。

「それって…まさかルビーベリー!?どこで見つけたの?」

「森の奥よ。ルナが教えてくれたの」

「すごい!これって本当に珍しいのよ。高熱の特効薬になるし、市場でもほとんど出回らないの」

ミリアムはルビーベリーを手に取り、熱心に観察している。

「そうなのか。じゃあ、半分くらいミリアムにもあげるよ」

「ほんと?ありがとう!これで素晴らしい薬が作れるわ」

ミリアムが喜んでいる間に、悠真はリーフィアに小声で尋ねた。

「ルナのことは…」

リーフィアはわずかに首を振った。

「秘密にしておきましょう。ルナ自身が明かしたい時まで」

悠真はうなずいた。

「そうだな」

その時、テーブルの上で眠っていたルナが、ふと目を開けた。その瞳は一瞬だけ青く光り、それからまた眠りについた。

「不思議な仲間が増えたもんだ」

悠真は微笑みながら呟いた。外では夕日が沈み、満月が昇り始めていた。静かな牧場に、新たな秘密が宿った夜だった。

「ねえ、悠真さん!このルビーベリーで何か作らない?ジャムとか、お菓子とか」

ミリアムの明るい声が部屋に響く。

「いいね。リーフィア、一緒に作ってみるか?」

「はい、喜んで」

三人は台所へと移動し、夜の料理会が始まった。テーブルの上では、ルナが満足そうに丸くなったまま、月の光を浴びていた。
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