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第43話 魔力暴走と地下研究所の秘密
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朝の陽射しが石畳に踊る迷宮都市クロイツの街並みを眺めながら、トウマは冒険者ギルドの重厚な扉を押し開いた。
「おはようございます、トウマさん」
受付嬢のミラが笑顔で出迎える。昨夜エリィの件で世話になったばかりだが、彼女の対応は相変わらず丁寧だった。
「おはよう。今日は何か面白そうな依頼はあるか?」
「そうですね……」
ミラは依頼書の束を手に取りながら、少し困ったような表情を浮かべる。
「実は、最近あるダンジョンで奇妙な現象が続いているんです」
「奇妙な現象?」
「ええ。『蒼穹の迷宮』の第三層で、魔力の乱れが観測されているそうで。調査に向かった冒険者パーティーも、なぜか途中で引き返してきてしまうんです」
蒼穹の迷宮は、クロイツ郊外にある中級者向けのダンジョンだ。名前の通り、天井が蒼い光を放つ美しい迷宮として知られている。
「なるほど、それは確かに気になるな」
「報酬は金貨三枚です。どうされますか?」
「やってみるよ。ちょうど久しぶりにダンジョンを攻略したい気分だったんだ」
依頼書を受け取ったトウマは、ギルドを後にした。蒼穹の迷宮までは徒歩で一時間ほどの距離。のんびりと歩いて向かうことにする。
――――――
街の門を出て、草原の道を歩いていると、前方に見覚えのある人影が立っているのが見えた。
茶色の髪を三つ編みにした少女が、道端でうずくまっている。
「ん?あれは……」
すぐに飛ばされてしまったため印象は薄かったが、確かに昨日あの転送罠から助けた少女だった。
「おい、大丈夫か?」
トウマの声に、少女が顔を上げる。涙で頬が濡れていた。
「あ……あなたは昨日の……」
「また何かあったのか?」
少女は慌てて涙を拭いながら立ち上がる。
「あの、昨日は本当にありがとうございました。私、サレナっていいます」
「俺はトウマだ。それで、今度は何があったんだ?」
トウマがそう聞くと、サレナの表情が再び曇った。
「実は……あのあと、何とか街まで戻ってきたんですけど、研究室に戻ったら師匠が居なくて、街で話を聞いたら、どうやら蒼穹の迷宮で行方不明になってしまったらしいんです……」
「師匠?」
「はい。私、魔道具の研究をしているんです。師匠のアルベルト先生と一緒に、ダンジョンの魔力を研究していたんですけど……」
サレナはそこで一瞬言葉に詰まったが、震える声で続きを話した。
「昨日から帰ってきてないみたいで……トウマさんの件と合わせて、ギルドに捜索依頼を出したんです。でも、そのダンジョンでは現在異常が起きているらしくて、どのパーティーも途中で引き返してきてしまうらしいんです」
「なるほど……」
状況が繋がった。ダンジョンの異常現象と、行方不明になった研究者。偶然にしては出来すぎている。
「それはまた縁があるな。俺、ちょうどそのダンジョンの調査依頼を受けたところなんだ」
「ほ、本当ですか?」
サレナの表情が明るくなる。
「ああ。君の師匠のことも一緒に探してみよう」
「ありがとうございます!あの、私も一緒に……」
「それはダメだ」
トウマは即座に首を振る。
「昨日も危険な目に遭ったばかりだろ?今度は本格的なダンジョンだ。素人が入る場所じゃない」
「でも……」
「心配なのは分かるが、君まで行方不明になったら意味がないからな」
サレナは悔しそうに唇を噛む。しかし、トウマの言葉が正論だということも理解しているようだった。
「分かりました……。師匠のことをお願いします」
「あぁ、任せておけ」
――――――
蒼穹の迷宮の入り口は、小高い丘の上にある洞窟だった。入り口付近には魔法陣が描かれており、ダンジョン内の魔力を調整する役割を果たしている。
「確かに、魔力の流れがおかしいな」
洞窟に近づくと、空気中に不自然な魔力の波動を感じた。まるで何かが暴走しているような、不安定な感覚だ。
「これは……予想以上に厄介かもしれない」
剣の柄に手をかけながら、トウマは迷宮の中に足を踏み入れた。
第一層は見慣れた構造だった。石造りの通路が続き、天井からは蒼い光が降り注いでいる。魔物の気配もない。
第二層も同様だった。しかし、第三層に降りた途端、状況が一変した。
「うわっ!」
突然、強烈な魔力の嵐が吹き荒れた。壁に刻まれた古代文字が激しく明滅し、床が振動する。
「これは……魔力暴走か?」
魔力暴走は、ダンジョン内の魔力バランスが崩れた時に起こる現象だ。放置すれば、ダンジョン全体が崩壊する可能性もある。
慎重に進んでいると、通路の奥から微かな光が漏れているのが見えた。しかし、それは蒼穹の迷宮特有の蒼い光ではなく、赤い光だった。
「何だ、あれは?」
光の方向に向かうと、隠し扉が開いているのを発見した。扉の向こうには、ダンジョンの地図にはない通路が続いている。
「隠し部屋?それとも……」
興味を引かれて通路を進むと、広い地下室に出た。そこは明らかに人工的に作られた研究室だった。
錬金術の道具や魔法陣が所狭しと並び、壁には研究資料が貼られている。そして、部屋の中央には巨大な魔法陣が描かれており、その中心で一人の男性が倒れていた。
「おい、大丈夫か?」
急いで近づくと、中年の男性が苦しそうに呻いている。白いローブを着た、いかにも研究者といった風貌だ。
「君は……冒険者か?」
「ああそうだ。もしかして、あんたがアルベルトか?」
「そうだが……君は?」
「サレナから頼まれて探しに来た。トウマだ」
アルベルトの表情が安堵に変わる。
「サレナが……そうか、心配をかけてしまったな」
「それで、何があったんだ?」
アルベルトは体を起こしながら説明を始めた。
「私は、このダンジョンの魔力構造を研究していたんだ。ところが、三日前に実験中に魔法陣が暴走してしまって……」
部屋の中央の魔法陣を見ると、確かに異様な光を放っている。
「この魔法陣が暴走の原因か?」
「そうだ。魔力を増幅する実験をしていたのだが、制御を失ってしまった。このままでは、ダンジョンにどんな影響が出るか……」
「止める方法は?」
「魔法陣の中心部に魔力を注入して、暴走を鎮める必要がある。しかし、それには相当な魔力と技術が……」
アルベルトが言いかけた時、魔法陣が再び激しく光り始めた。
「まずい、また始まった!」
「急がないとマズそうだな」
トウマは魔法陣の前に立った。
「待て!危険すぎる!」
「他に方法は無いんだろう?サポートを頼む!」
そう返すとトウマは手を魔法陣に向けて、自分の魔力を注ぎ始めた。暴走している魔力と自分の魔力を調和させ、徐々に鎮めていく。
「こんな精密な魔力制御を……君は一体?」
「ただの冒険者だよ」
汗を流しながら、トウマは魔力の注入を続ける。暴走している魔力は想像以上に強力で、制御には相当な集中力が必要だった。
「よし……これなら、何とかなりそうだ」
トウマの予想通り、魔法陣の光が徐々に弱くなり始めた。暴走していた魔力が安定し、やがて完全に沈静化する。
「成功した……?」
アルベルトが驚愕の表情を浮かべる。
「信じられない。これほどの魔力制御技術を持つ冒険者がいたなんて……」
「運が良かっただけですよ。あとはアルベルトさんのサポートのおかげです」
トウマは苦笑いを浮かべながら、魔法陣から手を離した。
「ところで、この研究室は何のために?」
「実は、古代の魔法技術を復元する研究をしていたんだ。このダンジョンには、失われた魔法陣の技術が眠っていると考えていてね」
アルベルトは立ち上がりながら説明する。
「今回の実験も、その一環だったのだが……過信していたな」
「まぁともかく、無事で良かったです。サレナが心配していましたから」
「そうだな。早く戻って安心させてやらないと」
二人は研究室を後にした。隠し扉を閉めると、ダンジョンの魔力も正常に戻っているのが感じられた。
――――――
蒼穹の迷宮から出ると、既に夕方になっていた。夕日が草原を橙色に染めている。
「本当にありがとう、トウマ君」
アルベルトが深々と頭を下げる。
「いえいえ、俺も勉強になりました」
「君のような冒険者がいることを、サレナにも教えてやりたいな。きっと彼女の励みになるだろう」
クロイツに戻る道中、アルベルトは自分の研究について詳しく話してくれた。古代魔法の復元という壮大なプロジェクトの話は、トウマの好奇心を大いに刺激した。
「面白そうな研究ですね」
「そうだろう?君も興味があるなら、いつでも研究室に遊びに来てくれ」
「ありがとうございます。機会があったら、ぜひ」
――――――
クロイツの街に戻ると、サレナが門の前で待っていた。師匠の姿を見つけると、彼女は涙を浮かべて駆け寄ってくる。
「先生!」
「サレナ、心配をかけてすまなかった」
師弟の再会を見守りながら、トウマは満足そうに微笑んだ。
「トウマさん、本当にありがとうございました」
サレナが涙を拭きながら礼を言う。
「気にするな、俺も面白い経験をさせてもらったよ」
「あの、これ全然足りないかもしれませんがお礼です」
そう言ってサレナが小さな袋を差し出す。中身は銀貨が数枚だった。
「いや、気持ちだけで十分だ」
「でも……」
「良いって。ギルドの依頼をこなしたついでだからな。それより二人とも、今後はもう少し慎重にな」
トウマの言葉に、師弟の二人は申し訳なさそうに頭を下げた。
――――――
翌朝、トウマは冒険者ギルドで依頼の報告を済ませた。
「お疲れ様でした。魔力暴走の件も解決したようで、安心しました」
ミラが笑顔で報酬の金貨を渡す。
「ありがとう。それじゃ、また何かあったらよろしく」
「はい。お気をつけて」
ギルドを出ると、トウマは街を歩きながら集めた情報を確認した。
「さて、今日はどうするかな」
クロイツの周辺には他にもいくつかのダンジョンが存在している。トウマはどのダンジョンに挑むか考えながら、まずは朝飯だなと近くの食堂に足を向けた。
「おはようございます、トウマさん」
受付嬢のミラが笑顔で出迎える。昨夜エリィの件で世話になったばかりだが、彼女の対応は相変わらず丁寧だった。
「おはよう。今日は何か面白そうな依頼はあるか?」
「そうですね……」
ミラは依頼書の束を手に取りながら、少し困ったような表情を浮かべる。
「実は、最近あるダンジョンで奇妙な現象が続いているんです」
「奇妙な現象?」
「ええ。『蒼穹の迷宮』の第三層で、魔力の乱れが観測されているそうで。調査に向かった冒険者パーティーも、なぜか途中で引き返してきてしまうんです」
蒼穹の迷宮は、クロイツ郊外にある中級者向けのダンジョンだ。名前の通り、天井が蒼い光を放つ美しい迷宮として知られている。
「なるほど、それは確かに気になるな」
「報酬は金貨三枚です。どうされますか?」
「やってみるよ。ちょうど久しぶりにダンジョンを攻略したい気分だったんだ」
依頼書を受け取ったトウマは、ギルドを後にした。蒼穹の迷宮までは徒歩で一時間ほどの距離。のんびりと歩いて向かうことにする。
――――――
街の門を出て、草原の道を歩いていると、前方に見覚えのある人影が立っているのが見えた。
茶色の髪を三つ編みにした少女が、道端でうずくまっている。
「ん?あれは……」
すぐに飛ばされてしまったため印象は薄かったが、確かに昨日あの転送罠から助けた少女だった。
「おい、大丈夫か?」
トウマの声に、少女が顔を上げる。涙で頬が濡れていた。
「あ……あなたは昨日の……」
「また何かあったのか?」
少女は慌てて涙を拭いながら立ち上がる。
「あの、昨日は本当にありがとうございました。私、サレナっていいます」
「俺はトウマだ。それで、今度は何があったんだ?」
トウマがそう聞くと、サレナの表情が再び曇った。
「実は……あのあと、何とか街まで戻ってきたんですけど、研究室に戻ったら師匠が居なくて、街で話を聞いたら、どうやら蒼穹の迷宮で行方不明になってしまったらしいんです……」
「師匠?」
「はい。私、魔道具の研究をしているんです。師匠のアルベルト先生と一緒に、ダンジョンの魔力を研究していたんですけど……」
サレナはそこで一瞬言葉に詰まったが、震える声で続きを話した。
「昨日から帰ってきてないみたいで……トウマさんの件と合わせて、ギルドに捜索依頼を出したんです。でも、そのダンジョンでは現在異常が起きているらしくて、どのパーティーも途中で引き返してきてしまうらしいんです」
「なるほど……」
状況が繋がった。ダンジョンの異常現象と、行方不明になった研究者。偶然にしては出来すぎている。
「それはまた縁があるな。俺、ちょうどそのダンジョンの調査依頼を受けたところなんだ」
「ほ、本当ですか?」
サレナの表情が明るくなる。
「ああ。君の師匠のことも一緒に探してみよう」
「ありがとうございます!あの、私も一緒に……」
「それはダメだ」
トウマは即座に首を振る。
「昨日も危険な目に遭ったばかりだろ?今度は本格的なダンジョンだ。素人が入る場所じゃない」
「でも……」
「心配なのは分かるが、君まで行方不明になったら意味がないからな」
サレナは悔しそうに唇を噛む。しかし、トウマの言葉が正論だということも理解しているようだった。
「分かりました……。師匠のことをお願いします」
「あぁ、任せておけ」
――――――
蒼穹の迷宮の入り口は、小高い丘の上にある洞窟だった。入り口付近には魔法陣が描かれており、ダンジョン内の魔力を調整する役割を果たしている。
「確かに、魔力の流れがおかしいな」
洞窟に近づくと、空気中に不自然な魔力の波動を感じた。まるで何かが暴走しているような、不安定な感覚だ。
「これは……予想以上に厄介かもしれない」
剣の柄に手をかけながら、トウマは迷宮の中に足を踏み入れた。
第一層は見慣れた構造だった。石造りの通路が続き、天井からは蒼い光が降り注いでいる。魔物の気配もない。
第二層も同様だった。しかし、第三層に降りた途端、状況が一変した。
「うわっ!」
突然、強烈な魔力の嵐が吹き荒れた。壁に刻まれた古代文字が激しく明滅し、床が振動する。
「これは……魔力暴走か?」
魔力暴走は、ダンジョン内の魔力バランスが崩れた時に起こる現象だ。放置すれば、ダンジョン全体が崩壊する可能性もある。
慎重に進んでいると、通路の奥から微かな光が漏れているのが見えた。しかし、それは蒼穹の迷宮特有の蒼い光ではなく、赤い光だった。
「何だ、あれは?」
光の方向に向かうと、隠し扉が開いているのを発見した。扉の向こうには、ダンジョンの地図にはない通路が続いている。
「隠し部屋?それとも……」
興味を引かれて通路を進むと、広い地下室に出た。そこは明らかに人工的に作られた研究室だった。
錬金術の道具や魔法陣が所狭しと並び、壁には研究資料が貼られている。そして、部屋の中央には巨大な魔法陣が描かれており、その中心で一人の男性が倒れていた。
「おい、大丈夫か?」
急いで近づくと、中年の男性が苦しそうに呻いている。白いローブを着た、いかにも研究者といった風貌だ。
「君は……冒険者か?」
「ああそうだ。もしかして、あんたがアルベルトか?」
「そうだが……君は?」
「サレナから頼まれて探しに来た。トウマだ」
アルベルトの表情が安堵に変わる。
「サレナが……そうか、心配をかけてしまったな」
「それで、何があったんだ?」
アルベルトは体を起こしながら説明を始めた。
「私は、このダンジョンの魔力構造を研究していたんだ。ところが、三日前に実験中に魔法陣が暴走してしまって……」
部屋の中央の魔法陣を見ると、確かに異様な光を放っている。
「この魔法陣が暴走の原因か?」
「そうだ。魔力を増幅する実験をしていたのだが、制御を失ってしまった。このままでは、ダンジョンにどんな影響が出るか……」
「止める方法は?」
「魔法陣の中心部に魔力を注入して、暴走を鎮める必要がある。しかし、それには相当な魔力と技術が……」
アルベルトが言いかけた時、魔法陣が再び激しく光り始めた。
「まずい、また始まった!」
「急がないとマズそうだな」
トウマは魔法陣の前に立った。
「待て!危険すぎる!」
「他に方法は無いんだろう?サポートを頼む!」
そう返すとトウマは手を魔法陣に向けて、自分の魔力を注ぎ始めた。暴走している魔力と自分の魔力を調和させ、徐々に鎮めていく。
「こんな精密な魔力制御を……君は一体?」
「ただの冒険者だよ」
汗を流しながら、トウマは魔力の注入を続ける。暴走している魔力は想像以上に強力で、制御には相当な集中力が必要だった。
「よし……これなら、何とかなりそうだ」
トウマの予想通り、魔法陣の光が徐々に弱くなり始めた。暴走していた魔力が安定し、やがて完全に沈静化する。
「成功した……?」
アルベルトが驚愕の表情を浮かべる。
「信じられない。これほどの魔力制御技術を持つ冒険者がいたなんて……」
「運が良かっただけですよ。あとはアルベルトさんのサポートのおかげです」
トウマは苦笑いを浮かべながら、魔法陣から手を離した。
「ところで、この研究室は何のために?」
「実は、古代の魔法技術を復元する研究をしていたんだ。このダンジョンには、失われた魔法陣の技術が眠っていると考えていてね」
アルベルトは立ち上がりながら説明する。
「今回の実験も、その一環だったのだが……過信していたな」
「まぁともかく、無事で良かったです。サレナが心配していましたから」
「そうだな。早く戻って安心させてやらないと」
二人は研究室を後にした。隠し扉を閉めると、ダンジョンの魔力も正常に戻っているのが感じられた。
――――――
蒼穹の迷宮から出ると、既に夕方になっていた。夕日が草原を橙色に染めている。
「本当にありがとう、トウマ君」
アルベルトが深々と頭を下げる。
「いえいえ、俺も勉強になりました」
「君のような冒険者がいることを、サレナにも教えてやりたいな。きっと彼女の励みになるだろう」
クロイツに戻る道中、アルベルトは自分の研究について詳しく話してくれた。古代魔法の復元という壮大なプロジェクトの話は、トウマの好奇心を大いに刺激した。
「面白そうな研究ですね」
「そうだろう?君も興味があるなら、いつでも研究室に遊びに来てくれ」
「ありがとうございます。機会があったら、ぜひ」
――――――
クロイツの街に戻ると、サレナが門の前で待っていた。師匠の姿を見つけると、彼女は涙を浮かべて駆け寄ってくる。
「先生!」
「サレナ、心配をかけてすまなかった」
師弟の再会を見守りながら、トウマは満足そうに微笑んだ。
「トウマさん、本当にありがとうございました」
サレナが涙を拭きながら礼を言う。
「気にするな、俺も面白い経験をさせてもらったよ」
「あの、これ全然足りないかもしれませんがお礼です」
そう言ってサレナが小さな袋を差し出す。中身は銀貨が数枚だった。
「いや、気持ちだけで十分だ」
「でも……」
「良いって。ギルドの依頼をこなしたついでだからな。それより二人とも、今後はもう少し慎重にな」
トウマの言葉に、師弟の二人は申し訳なさそうに頭を下げた。
――――――
翌朝、トウマは冒険者ギルドで依頼の報告を済ませた。
「お疲れ様でした。魔力暴走の件も解決したようで、安心しました」
ミラが笑顔で報酬の金貨を渡す。
「ありがとう。それじゃ、また何かあったらよろしく」
「はい。お気をつけて」
ギルドを出ると、トウマは街を歩きながら集めた情報を確認した。
「さて、今日はどうするかな」
クロイツの周辺には他にもいくつかのダンジョンが存在している。トウマはどのダンジョンに挑むか考えながら、まずは朝飯だなと近くの食堂に足を向けた。
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