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第76話 砂漠の地底に眠る魔石
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翌朝、トウマは砂漠の月亭の食堂で朝食を摂っていた。金砂を使った目玉焼きは見た目にも美しく、口の中でほのかな甘みが広がる。
「やっぱり、この街の料理は面白いな」
そんなトウマの前に、一人の男が現れた。
「トウマさんですね。私、冒険者のラクスと申します」
振り返ると、そこには褐色の肌に鋭い目つきをした男が立っていた。年齢は三十代前半といったところで、背中には大きな斧を背負っている。
「ああ、君がギルドマスターの言ってた相棒か」
「はい。砂漠の調査は一人では危険すぎるということで、私も同行させていただくことになりました」
ラクスは丁寧にお辞儀をした。トウマは彼の装備を見回す。斧以外にも、砂漠用の装備がしっかりと整っている。
「この辺りの出身か?」
「ええ。生まれも育ちもエルドラードです。砂漠のことなら任せてください」
「頼もしいな。じゃあ、朝飯が終わったら出発するか」
「承知しました」
――――――
二人は街を出ると、砂漠の奥へと向かった。朝の砂漠は比較的過ごしやすいが、太陽が昇るにつれて気温も上昇していく。
「それにしても、この辺りで魔獣が暴れるなんて珍しいことなんだよな?」
「そうですね。普段なら人間を避けて行動するのが常なのですが……」
ラクスは砂漠を見渡しながら答えた。
「あ、そうそう。聞きたいことがあるんだが、金砂の採掘場ってどんなところなんだ?」
「金砂の採掘場は、砂漠の地下に広がる洞窟で行われています。魔力を帯びた砂が自然に堆積している場所なんです」
「へぇ、魔力を帯びた砂が自然に……」
トウマは興味深そうに頷いた。
「実は、エルドラードの繁栄も、この金砂があってこそなんです。調味料としてだけでなく、魔法の触媒としても重宝されているので」
「なるほど。それで商業都市として栄えてるってわけか」
二人が話していると、前方から砂埃が舞い上がった。
「おっと、来たな」
砂の中から現れたのは、体長三メートルほどのサンドワームだった。普通なら人間を見つけると地中に潜って逃げるはずなのに、このサンドワームは明らかに攻撃的な姿勢を見せている。
「やはり異常ですね。普通じゃありません」
「ああ、確かにな」
トウマは剣を抜いた。サンドワームは大きな口を開けて、二人に向かって突進してくる。
「ラクス、左に回り込め!」
「了解!」
二人は左右に分かれて、サンドワームを挟み撃ちにした。ラクスの斧がサンドワームの側面に食い込み、トウマの剣がその首筋を切り裂く。
「やるじゃないか」
「トウマさんこそ、さすがです」
サンドワームは倒れたが、二人の表情は晴れない。
「しかし、本当に異常だったな。目が充血してたし、明らかに興奮状態だった」
「ええ。何かに操られているような……」
ラクスは倒れたサンドワームを調べながら言った。
「操られている?」
「魔獣を操る魔法というのは存在しますが、この規模で行うとなると相当な魔力が必要です」
トウマは考え込んだ。確かに、個体レベルでの異常ではない。砂漠全体の魔獣が影響を受けているとなると、何か大きな原因があるはずだ。
「とりあえず、地鳴りの発生源を探そう」
「はい」
――――――
二人は砂漠の奥へと進んでいった。途中、興奮したサンドスピダーやデザートリザードに何度か遭遇したが、連携を取って撃退していく。
「ラクス、君は結構やるな。長いこと冒険者やってるのか?」
「五年ほどですが、この砂漠での経験は豊富です。トウマさんの方こそ、噂に違わぬ実力ですね」
「噂って何だよ」
「道草癖があるけど、実力は確かだって」
トウマは苦笑いした。
「それ、褒められてるのかけなされてるのか分からないな」
「褒めてますよ。実際、頼りになります」
二人が談笑していると、突然地面が震えた。
「地鳴りだ!」
「この辺りですね」
周囲を見回すと、砂地のあちこちに亀裂が走っている。そして、二人の前方約五十メートルほどの場所に、ぽっかりと開いた穴が見えた。
「あれか」
「間違いないでしょう」
二人は慎重に穴に近づいた。直径は約三メートルほどで、深さは底が見えないほどだ。
「結構深そうだな」
「ええ。それに、この穴……」
ラクスは穴の縁を調べながら言った。
「どうした?」
「人工的に掘られたものではないようです。何かが内側から突き破って作られた穴に見えます」
トウマも穴を覗き込んだ。確かに、壁面は内側から外側に向かって削られているように見える。
「内側から……ってことは、地中に何かがいるってことか」
「そういうことになりますね」
二人は顔を見合わせた。
「危険だが、調査が目的だからな。降りてみるか」
「私も同感です。ただし、慎重にいきましょう」
トウマは背中からロープを取り出した。
「これで降りよう」
「分かりました」
――――――
ロープを使って穴を降りていくと、思ったより浅く、十メートルほどで底に着いた。しかし、底には横に伸びる洞窟が口を開けている。
「洞窟になってるのか」
「地下水脈の跡かもしれません。この辺りは昔、大きな川が流れていたという話もありますから」
ラクスがランプを点けると、洞窟の奥が照らし出された。
「とりあえず、進んでみよう」
「はい」
二人は洞窟を歩いていった。洞窟の壁には、金砂が混じった砂が堆積している。
「これ、金砂だよな」
「ええ。この洞窟自体が金砂の鉱脈だったのかもしれません」
歩いていると、洞窟の奥から微かに光が漏れているのが見えた。
「あれは……」
「何でしょう?」
二人は慎重に光の方向へ向かった。すると、洞窟は大きな空洞に続いていた。
「うわあ……」
トウマは思わず声を上げた。
空洞の中央には、巨大な水晶のような石が浮かんでいた。その石は青白い光を放ち、周囲の金砂を幻想的に照らしている。
「これは……魔導石?」
「いや、違う。これは……『魔力の源石』だ!」
慎重に近づいて確認していたラクスが、驚きの声を上げた。
「魔力の源石?」
「私も実物を見るのは初めてですが、周囲の魔力を集めて増幅させる効果があると言われています」
トウマは石を見上げた。確かに、石の周りには魔力が渦巻いているのが感じられる。
「なるほど。この石が増幅している魔力が魔獣たちを興奮させてるのか」
「えぇ恐らく。魔力が異常に増幅されているので、魔獣たちの本能が刺激されているのでしょう」
魔獣たちの凶暴化の理由と思われるものが見つかったところで納得しかけたトウマだったが、ふとあることに気づいた。
「……でも、何で今頃になって地上に影響が出始めたんだ?」
「それは……多分、あの亀裂です。源石の封印が破れかかっているんです」
ラクスが石の表面を見つめながら答える。
「封印?」
「魔力の源石はそのままでは危険すぎるため、その力を影響を抑えるために特殊な魔法によって封印されることが殆どなんです。けど、これは長い間放置されていたために封印が弱まって……」
「それで、最近になって魔力が漏れ始めたってことか」
「だと思います。封印の一部が崩れたことで、周辺の魔獣たちに影響が出始めてしまったのでしょう」
納得のいく説明だった。しかし、それは新たな問題を生み出していた。
「ってことは、急いで対処しないと封印が完全に破れる可能性があるってことだな」
「ええ。そうなれば、魔獣の異常行動どころの話ではなくなります」
トウマの確認に、ラクスも僅かながら焦りの表情を浮かべて頷く。
「最悪の場合、砂漠全体が魔力の嵐に包まれるかもしれません」
そんな時、洞窟の奥から大きな音が響いた。
「何だ?」
二人が振り返ると、洞窟の奥から巨大な影が現れた。
「あれは……古代のゴーレム?」
「なぜゴーレムがこんな場所に?」
古代のゴーレムは、魔力の源石を守るように立っていた。そして、二人を侵入者と認識したのか、ゆっくりと近づいてくる。
「まずいな。時間が無いってのに……」
「トウマさん、どうしましょう?」
ラクスにそう問われたトウマは、静かに剣を構えた。
「戦うしかないだろう。見逃してくれそうもないしな」
「そうですね。でも、魔力の源石に被害が出ないように気を付けないと……」
二人が相談している間に、ゴーレムは両腕を振り上げると、こちらへ攻撃してきた。
「避けろ!」
二人は左右に分かれて、ゴーレムの攻撃を避けた。
「ラクス、足を狙え!」
「了解!」
ラクスは斧を振るって、ゴーレムの足首を攻撃した。しかし、古代のゴーレムは思った以上に頑丈で、斧の刃が弾かれてしまう。
「硬い!」
「こりゃ、普通にやってたらきりがなさそうだ」
トウマは剣に魔力を込めた。さらに【真力解放】によりその瞳が金色に輝く。
「悪いが今回は急いでるんだ。じゃあな!」
その言葉と共に突き出されたトウマの剣がゴーレムの胸部を貫いた。ゴーレムは大きく後退し、動きが鈍くなる。
「今だ、ラクス!」
「はい!」
ラクスは魔力を込めた斧で、ゴーレムの首の部分を攻撃した。ゴーレムは崩れ落ち、動かなくなった。
「よし、上手くいったな」
「ええ。ですが、これで問題が解決したわけではありません」
そう言うとラクスは魔力の源石を見上げた。
「この石をどうするかですね」
「そうだな……」
トウマは考え込んだ。石を壊してしまえば魔獣たちは元に戻るかもしれないが、この石自体は貴重な発見だ。
「とりあえず、ギルドに報告しよう。この石の処理は専門家に任せた方がいい」
「そうですね。私たちだけでは判断できません」
二人は洞窟から出て、エルドラードへと戻った。
――――――
ギルドマスターのガレスは、二人の報告を聞いて驚いた。
「魔力の源石だって?」
「はい。間違いありません」
「それは……とんでもない発見だな」
ガレスは興奮気味に言った。
「この石をどうするかは、慎重に判断する必要がある……」
「そうですね。でも、封印を施せば一先ず魔獣たちの異常行動自体は収まるはずです」
「うむ。君たちのおかげで、その問題は解決できそうだ。感謝する」
ガレスは安堵の表情を浮かべた。
「報酬は約束通り用意してある。受け取ってくれ」
「ありがとうございます」
二人は報酬を受け取った。
「それにしても、こうもあっさり解決してくれるとはな。即席のコンビとは思えない活躍だ」
そう言うとガレスは二人を見て満足そうに笑った。
「そうですね。トウマさんとの連携は、とても勉強になりました」
「俺も、ラクスの知識には助けられた。砂漠のことは、やっぱり地元の人に聞くのが一番だな」
ラクスは素直にそう答え、トウマも笑いながら頷いた。
「トウマさん、また機会があれば、一緒に冒険しましょう」
「ああ、その時はよろしく頼むよ」
そうして二人は固い握手を交わした。
――――――
その夜、「砂漠の星」で夕食を摂りながら、今日の冒険を振り返っていた。
「ここは面白い街だ。金砂の料理も、魔力の源石も、初めての経験だった」
隣のテーブルでは、昨日と同じ商人たちが話をしている。
「おい、聞いたか?砂漠の魔獣たちが大人しくなったって」
「本当か?それは良かった」
「ああ、冒険者の人たちが問題を解決してくれたらしい」
トウマは微笑んだ。
「まあ、これも良い思い出だな」
料理を食べ終えると、トウマは宿に戻った。
「さて、明日はどうするかな」
砂漠の夜風が窓から流れ込んでくる。トウマは満足そうに頷くと、明日の出発に備えて休むことにした。
「やっぱり、この街の料理は面白いな」
そんなトウマの前に、一人の男が現れた。
「トウマさんですね。私、冒険者のラクスと申します」
振り返ると、そこには褐色の肌に鋭い目つきをした男が立っていた。年齢は三十代前半といったところで、背中には大きな斧を背負っている。
「ああ、君がギルドマスターの言ってた相棒か」
「はい。砂漠の調査は一人では危険すぎるということで、私も同行させていただくことになりました」
ラクスは丁寧にお辞儀をした。トウマは彼の装備を見回す。斧以外にも、砂漠用の装備がしっかりと整っている。
「この辺りの出身か?」
「ええ。生まれも育ちもエルドラードです。砂漠のことなら任せてください」
「頼もしいな。じゃあ、朝飯が終わったら出発するか」
「承知しました」
――――――
二人は街を出ると、砂漠の奥へと向かった。朝の砂漠は比較的過ごしやすいが、太陽が昇るにつれて気温も上昇していく。
「それにしても、この辺りで魔獣が暴れるなんて珍しいことなんだよな?」
「そうですね。普段なら人間を避けて行動するのが常なのですが……」
ラクスは砂漠を見渡しながら答えた。
「あ、そうそう。聞きたいことがあるんだが、金砂の採掘場ってどんなところなんだ?」
「金砂の採掘場は、砂漠の地下に広がる洞窟で行われています。魔力を帯びた砂が自然に堆積している場所なんです」
「へぇ、魔力を帯びた砂が自然に……」
トウマは興味深そうに頷いた。
「実は、エルドラードの繁栄も、この金砂があってこそなんです。調味料としてだけでなく、魔法の触媒としても重宝されているので」
「なるほど。それで商業都市として栄えてるってわけか」
二人が話していると、前方から砂埃が舞い上がった。
「おっと、来たな」
砂の中から現れたのは、体長三メートルほどのサンドワームだった。普通なら人間を見つけると地中に潜って逃げるはずなのに、このサンドワームは明らかに攻撃的な姿勢を見せている。
「やはり異常ですね。普通じゃありません」
「ああ、確かにな」
トウマは剣を抜いた。サンドワームは大きな口を開けて、二人に向かって突進してくる。
「ラクス、左に回り込め!」
「了解!」
二人は左右に分かれて、サンドワームを挟み撃ちにした。ラクスの斧がサンドワームの側面に食い込み、トウマの剣がその首筋を切り裂く。
「やるじゃないか」
「トウマさんこそ、さすがです」
サンドワームは倒れたが、二人の表情は晴れない。
「しかし、本当に異常だったな。目が充血してたし、明らかに興奮状態だった」
「ええ。何かに操られているような……」
ラクスは倒れたサンドワームを調べながら言った。
「操られている?」
「魔獣を操る魔法というのは存在しますが、この規模で行うとなると相当な魔力が必要です」
トウマは考え込んだ。確かに、個体レベルでの異常ではない。砂漠全体の魔獣が影響を受けているとなると、何か大きな原因があるはずだ。
「とりあえず、地鳴りの発生源を探そう」
「はい」
――――――
二人は砂漠の奥へと進んでいった。途中、興奮したサンドスピダーやデザートリザードに何度か遭遇したが、連携を取って撃退していく。
「ラクス、君は結構やるな。長いこと冒険者やってるのか?」
「五年ほどですが、この砂漠での経験は豊富です。トウマさんの方こそ、噂に違わぬ実力ですね」
「噂って何だよ」
「道草癖があるけど、実力は確かだって」
トウマは苦笑いした。
「それ、褒められてるのかけなされてるのか分からないな」
「褒めてますよ。実際、頼りになります」
二人が談笑していると、突然地面が震えた。
「地鳴りだ!」
「この辺りですね」
周囲を見回すと、砂地のあちこちに亀裂が走っている。そして、二人の前方約五十メートルほどの場所に、ぽっかりと開いた穴が見えた。
「あれか」
「間違いないでしょう」
二人は慎重に穴に近づいた。直径は約三メートルほどで、深さは底が見えないほどだ。
「結構深そうだな」
「ええ。それに、この穴……」
ラクスは穴の縁を調べながら言った。
「どうした?」
「人工的に掘られたものではないようです。何かが内側から突き破って作られた穴に見えます」
トウマも穴を覗き込んだ。確かに、壁面は内側から外側に向かって削られているように見える。
「内側から……ってことは、地中に何かがいるってことか」
「そういうことになりますね」
二人は顔を見合わせた。
「危険だが、調査が目的だからな。降りてみるか」
「私も同感です。ただし、慎重にいきましょう」
トウマは背中からロープを取り出した。
「これで降りよう」
「分かりました」
――――――
ロープを使って穴を降りていくと、思ったより浅く、十メートルほどで底に着いた。しかし、底には横に伸びる洞窟が口を開けている。
「洞窟になってるのか」
「地下水脈の跡かもしれません。この辺りは昔、大きな川が流れていたという話もありますから」
ラクスがランプを点けると、洞窟の奥が照らし出された。
「とりあえず、進んでみよう」
「はい」
二人は洞窟を歩いていった。洞窟の壁には、金砂が混じった砂が堆積している。
「これ、金砂だよな」
「ええ。この洞窟自体が金砂の鉱脈だったのかもしれません」
歩いていると、洞窟の奥から微かに光が漏れているのが見えた。
「あれは……」
「何でしょう?」
二人は慎重に光の方向へ向かった。すると、洞窟は大きな空洞に続いていた。
「うわあ……」
トウマは思わず声を上げた。
空洞の中央には、巨大な水晶のような石が浮かんでいた。その石は青白い光を放ち、周囲の金砂を幻想的に照らしている。
「これは……魔導石?」
「いや、違う。これは……『魔力の源石』だ!」
慎重に近づいて確認していたラクスが、驚きの声を上げた。
「魔力の源石?」
「私も実物を見るのは初めてですが、周囲の魔力を集めて増幅させる効果があると言われています」
トウマは石を見上げた。確かに、石の周りには魔力が渦巻いているのが感じられる。
「なるほど。この石が増幅している魔力が魔獣たちを興奮させてるのか」
「えぇ恐らく。魔力が異常に増幅されているので、魔獣たちの本能が刺激されているのでしょう」
魔獣たちの凶暴化の理由と思われるものが見つかったところで納得しかけたトウマだったが、ふとあることに気づいた。
「……でも、何で今頃になって地上に影響が出始めたんだ?」
「それは……多分、あの亀裂です。源石の封印が破れかかっているんです」
ラクスが石の表面を見つめながら答える。
「封印?」
「魔力の源石はそのままでは危険すぎるため、その力を影響を抑えるために特殊な魔法によって封印されることが殆どなんです。けど、これは長い間放置されていたために封印が弱まって……」
「それで、最近になって魔力が漏れ始めたってことか」
「だと思います。封印の一部が崩れたことで、周辺の魔獣たちに影響が出始めてしまったのでしょう」
納得のいく説明だった。しかし、それは新たな問題を生み出していた。
「ってことは、急いで対処しないと封印が完全に破れる可能性があるってことだな」
「ええ。そうなれば、魔獣の異常行動どころの話ではなくなります」
トウマの確認に、ラクスも僅かながら焦りの表情を浮かべて頷く。
「最悪の場合、砂漠全体が魔力の嵐に包まれるかもしれません」
そんな時、洞窟の奥から大きな音が響いた。
「何だ?」
二人が振り返ると、洞窟の奥から巨大な影が現れた。
「あれは……古代のゴーレム?」
「なぜゴーレムがこんな場所に?」
古代のゴーレムは、魔力の源石を守るように立っていた。そして、二人を侵入者と認識したのか、ゆっくりと近づいてくる。
「まずいな。時間が無いってのに……」
「トウマさん、どうしましょう?」
ラクスにそう問われたトウマは、静かに剣を構えた。
「戦うしかないだろう。見逃してくれそうもないしな」
「そうですね。でも、魔力の源石に被害が出ないように気を付けないと……」
二人が相談している間に、ゴーレムは両腕を振り上げると、こちらへ攻撃してきた。
「避けろ!」
二人は左右に分かれて、ゴーレムの攻撃を避けた。
「ラクス、足を狙え!」
「了解!」
ラクスは斧を振るって、ゴーレムの足首を攻撃した。しかし、古代のゴーレムは思った以上に頑丈で、斧の刃が弾かれてしまう。
「硬い!」
「こりゃ、普通にやってたらきりがなさそうだ」
トウマは剣に魔力を込めた。さらに【真力解放】によりその瞳が金色に輝く。
「悪いが今回は急いでるんだ。じゃあな!」
その言葉と共に突き出されたトウマの剣がゴーレムの胸部を貫いた。ゴーレムは大きく後退し、動きが鈍くなる。
「今だ、ラクス!」
「はい!」
ラクスは魔力を込めた斧で、ゴーレムの首の部分を攻撃した。ゴーレムは崩れ落ち、動かなくなった。
「よし、上手くいったな」
「ええ。ですが、これで問題が解決したわけではありません」
そう言うとラクスは魔力の源石を見上げた。
「この石をどうするかですね」
「そうだな……」
トウマは考え込んだ。石を壊してしまえば魔獣たちは元に戻るかもしれないが、この石自体は貴重な発見だ。
「とりあえず、ギルドに報告しよう。この石の処理は専門家に任せた方がいい」
「そうですね。私たちだけでは判断できません」
二人は洞窟から出て、エルドラードへと戻った。
――――――
ギルドマスターのガレスは、二人の報告を聞いて驚いた。
「魔力の源石だって?」
「はい。間違いありません」
「それは……とんでもない発見だな」
ガレスは興奮気味に言った。
「この石をどうするかは、慎重に判断する必要がある……」
「そうですね。でも、封印を施せば一先ず魔獣たちの異常行動自体は収まるはずです」
「うむ。君たちのおかげで、その問題は解決できそうだ。感謝する」
ガレスは安堵の表情を浮かべた。
「報酬は約束通り用意してある。受け取ってくれ」
「ありがとうございます」
二人は報酬を受け取った。
「それにしても、こうもあっさり解決してくれるとはな。即席のコンビとは思えない活躍だ」
そう言うとガレスは二人を見て満足そうに笑った。
「そうですね。トウマさんとの連携は、とても勉強になりました」
「俺も、ラクスの知識には助けられた。砂漠のことは、やっぱり地元の人に聞くのが一番だな」
ラクスは素直にそう答え、トウマも笑いながら頷いた。
「トウマさん、また機会があれば、一緒に冒険しましょう」
「ああ、その時はよろしく頼むよ」
そうして二人は固い握手を交わした。
――――――
その夜、「砂漠の星」で夕食を摂りながら、今日の冒険を振り返っていた。
「ここは面白い街だ。金砂の料理も、魔力の源石も、初めての経験だった」
隣のテーブルでは、昨日と同じ商人たちが話をしている。
「おい、聞いたか?砂漠の魔獣たちが大人しくなったって」
「本当か?それは良かった」
「ああ、冒険者の人たちが問題を解決してくれたらしい」
トウマは微笑んだ。
「まあ、これも良い思い出だな」
料理を食べ終えると、トウマは宿に戻った。
「さて、明日はどうするかな」
砂漠の夜風が窓から流れ込んでくる。トウマは満足そうに頷くと、明日の出発に備えて休むことにした。
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