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第87話 移住者たちの調査
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翌朝、トウマは「銀の竜亭」で朝食を取った後、街の中心部にある冒険者ギルドへと向かった。石造りの立派な建物の前には、既に多くの冒険者たちが集まっている。
「いらっしゃいませ」
受付カウンターでは、金髪の若い女性が笑顔で迎えてくれた。
「情報を集めたいんだが、最近この街で変わったことはないか?」
「変わったこと、ですか?」
受付嬢は首を傾げた。
「そうですね……特に大きな事件などは起きていませんが」
「じゃあ、小さなことでもいい。何か気になることはあるか?」
トウマは粘り強く尋ねた。
「うーん……そういえば、最近この街への移住者が増えているという話は聞きますね」
「移住者?」
「はい。商売を始めたり、職人として働いたり、様々な理由でこの街に住み着く人が増えているんです。聖獣様の加護で平和な街として有名になったせいか、安全な場所を求めて移り住んでくる方が多いみたいで」
「なるほど……その移住者の情報を教えてもらえるか?」
「申し訳ありませんが、個人情報になりますので……」
「いや、別に詳しい情報じゃなくていいんだ。どんな人がいて、どこに住んでるかぐらいで」
トウマは彼女に少し身を寄せると声を潜めて話した。
「実は聖獣の依頼で、街の治安に関わる調査をしてるんだ」
そう言ってギルド証を見せると、受付嬢の表情が変わった。
「あっ、もしかして……トウマ様でいらっしゃいますか?」
「そうだが、知ってるのか?」
「えぇ、少しですがお話は伺っています。そういうことでしたら、問題のない範囲で移住者の方々の情報をお調べしますね」
受付嬢は緊張を解いた様子でそう答えた。
「あぁ、よろしく頼む」
――――――
「最近移住してきた方は、全部で十二名いらっしゃいます」
受付嬢は手元の資料を見ながら説明した。
「商人のクラウス・ベルガーさん、靴職人のアンナ・シュミットさん、薬草商のライアン・ホワイトさん……」
トウマは名前を聞きながら、メモを取っていく。
「みなさん、それぞれ街の商業区や職人街に住まいを構えていらっしゃいます」
「ありがとう。助かった」
「いえいえ、お役に立てて光栄です」
受付嬢は嬉しそうに微笑んだ。
「何かあったら、また遠慮なくお声をかけてください」
「ああ、そうさせてもらう」
――――――
ギルドを出たトウマは、まず商業区へと向かった。石畳の通りには、様々な商店が軒を連ねている。
「クラウス・ベルガーの店は……あったあった」
「ベルガー商会」と書かれた看板を掲げた店の前で、トウマは立ち止まった。店内からは、男性の声が聞こえてくる。
「いらっしゃいませ」
店に入ると、四十代ほどの男性が笑顔で迎えてくれた。がっしりとした体格で、商人らしい人懐っこい雰囲気を持っている。
「何かお探しですか?」
「いや、実はちょっとした取材で少し話を聞きたくて来たんだ。あなたがクラウスさんか?」
「はい、そうですが……」
クラウスは不思議そうな表情を浮かべた。
「最近この街に移住してきたって聞いたんだが、どうしてアルティアを選んだんだ?」
「あぁ、アルティアを選んだ理由ですか……?私は元々、隣の街で商売をしていたんです。しかし、そこは盗賊団の襲撃が頻繁にあって、商売どころではなくなってしまいまして……。それで、聖獣の加護で平和だと評判のアルティアに移住することにしたんですよ」
クラウスは少し悲しそうな表情でそう答えた。しかし、その後、気を取り直したように続ける。
「おかげで、今は安心して商売に専念できています」
トウマは男性の表情や話し方を注意深く観察した。自然な表情で、話の内容にも矛盾がない。普通の商人のようだった。
「なるほど。この街に来て正解だったわけだ」
「ええ、本当に」
「参考になった。ありがとう」
そう言ってトウマは店を後にした。
――――――
次に向かったのは、靴職人のアンナ・シュミットの工房だった。職人街の一角にある小さな建物から、トントンと靴を作る音が聞こえてくる。
「すみません」
トウマが声をかけると、工房の奥から一人の女性が現れた。二十代後半ぐらいで、短く切った茶色の髪が印象的だった。
「はい、何でしょうか?」
「あなたがアンナ・シュミットさんか?」
「はい、そうですが……」
「実はちょっとした取材で、最近この街に移住してきた人に話を聞いてるんだが、良ければ少しお話を聞かせてくれないか?」
トウマがそう聞くと、アンナは警戒するような表情を浮かべた。
「すみませんが、プライベートなことはちょっと……」
「そうか。突然訪問して悪かったな」
トウマは大人しく引き下がった。気難しい性格なのか、それとも何か隠しているのか。今の段階では判断が難しい。
――――――
三軒目は、薬草商のライアン・ホワイトの店だった。薬草の香りが漂う小さな店の中で、三十代前半の男性が薬草を整理していた。
「いらっしゃいませ」
ライアンは丁寧に挨拶した。痩せた体格で、知的な印象を与える男性だった。
「薬草商のライアン・ホワイトさんですか?」
「はい、そうです」
「最近この街に移住してきた人にちょっとした取材をさせて貰ってるんだが、少し話を聞かせてもらえないか?」
「ああ、構いませんよ」
ライアンは快く応じた。
「それで、何をお聞きになりたいんでしょう?」
「まず、どうしてアルティアの街に?」
「それは……」
ライアンは少し考えるような仕草を見せた。
「故郷の村が、魔物の襲撃で壊滅してしまったんです。その時に、家族も……みんな亡くなってしまいました」
「それは……大変でしたね」
「ええ。それで、一人でこの街にやってきました。聖獣の加護があるこの街なら、安全だと思ったんです」
ライアンの話は自然で、表情にも嘘があるようには見えなかった。しかし、トウマは何か微妙な違和感を感じた。
「薬草商をしているのは、昔からですか?」
「はい。村にいた頃から、薬草の知識には自信がありましたので」
「なるほど。この辺りで採れる薬草についても詳しいんですか?」
「ええ、もちろんです。アルティア近郊の森にもよく採取に行っていますから」
トウマはライアンの態度に再び違和感を感じたが、表情を変えずに相づちを打った。
「ありがとうございました。参考になりました」
「いえいえ、お役に立てて何よりです」
ライアンは笑顔で見送ってくれた。
――――――
その後、トウマは残りの移住者たちにも話を聞いて回った。しかし、大部分の人たちは、ごく普通の人間のようだった。
だが、話を聞いたうちの何人かには微妙な違和感があった。話の内容に矛盾があったり、この地域の常識を知らなかったり、職業に関する知識が曖昧だったり……。薬草商のライアンの話も後でギルドで確認したところ、やはり薬草の種類や採取場所に一部齟齬があった。
「怪しいのは何人か居たが、さてどうするかな」
トウマは日が沈み始めた空を見上げながら、トウマは腕を組んで考えた。確証がない以上、いきなり問い詰めるわけにもいかない。
「とりあえず、今日はここまでにするか」
トウマは「銀の竜亭」に向かった。
――――――
夕食を取りながら、トウマは今日の出来事を振り返っていた。
「聖獣の依頼……思った以上に厄介だな」
トウマは小さくため息をついた。人に擬態した何かを見つけるのは、想像以上に困難な作業だった。
「まあ、人数は絞り込めたし、明日はもう少し踏み込んだ調査をしてみるか」
そう考えながら、トウマは残った料理を口に運んだ。
「いらっしゃいませ」
受付カウンターでは、金髪の若い女性が笑顔で迎えてくれた。
「情報を集めたいんだが、最近この街で変わったことはないか?」
「変わったこと、ですか?」
受付嬢は首を傾げた。
「そうですね……特に大きな事件などは起きていませんが」
「じゃあ、小さなことでもいい。何か気になることはあるか?」
トウマは粘り強く尋ねた。
「うーん……そういえば、最近この街への移住者が増えているという話は聞きますね」
「移住者?」
「はい。商売を始めたり、職人として働いたり、様々な理由でこの街に住み着く人が増えているんです。聖獣様の加護で平和な街として有名になったせいか、安全な場所を求めて移り住んでくる方が多いみたいで」
「なるほど……その移住者の情報を教えてもらえるか?」
「申し訳ありませんが、個人情報になりますので……」
「いや、別に詳しい情報じゃなくていいんだ。どんな人がいて、どこに住んでるかぐらいで」
トウマは彼女に少し身を寄せると声を潜めて話した。
「実は聖獣の依頼で、街の治安に関わる調査をしてるんだ」
そう言ってギルド証を見せると、受付嬢の表情が変わった。
「あっ、もしかして……トウマ様でいらっしゃいますか?」
「そうだが、知ってるのか?」
「えぇ、少しですがお話は伺っています。そういうことでしたら、問題のない範囲で移住者の方々の情報をお調べしますね」
受付嬢は緊張を解いた様子でそう答えた。
「あぁ、よろしく頼む」
――――――
「最近移住してきた方は、全部で十二名いらっしゃいます」
受付嬢は手元の資料を見ながら説明した。
「商人のクラウス・ベルガーさん、靴職人のアンナ・シュミットさん、薬草商のライアン・ホワイトさん……」
トウマは名前を聞きながら、メモを取っていく。
「みなさん、それぞれ街の商業区や職人街に住まいを構えていらっしゃいます」
「ありがとう。助かった」
「いえいえ、お役に立てて光栄です」
受付嬢は嬉しそうに微笑んだ。
「何かあったら、また遠慮なくお声をかけてください」
「ああ、そうさせてもらう」
――――――
ギルドを出たトウマは、まず商業区へと向かった。石畳の通りには、様々な商店が軒を連ねている。
「クラウス・ベルガーの店は……あったあった」
「ベルガー商会」と書かれた看板を掲げた店の前で、トウマは立ち止まった。店内からは、男性の声が聞こえてくる。
「いらっしゃいませ」
店に入ると、四十代ほどの男性が笑顔で迎えてくれた。がっしりとした体格で、商人らしい人懐っこい雰囲気を持っている。
「何かお探しですか?」
「いや、実はちょっとした取材で少し話を聞きたくて来たんだ。あなたがクラウスさんか?」
「はい、そうですが……」
クラウスは不思議そうな表情を浮かべた。
「最近この街に移住してきたって聞いたんだが、どうしてアルティアを選んだんだ?」
「あぁ、アルティアを選んだ理由ですか……?私は元々、隣の街で商売をしていたんです。しかし、そこは盗賊団の襲撃が頻繁にあって、商売どころではなくなってしまいまして……。それで、聖獣の加護で平和だと評判のアルティアに移住することにしたんですよ」
クラウスは少し悲しそうな表情でそう答えた。しかし、その後、気を取り直したように続ける。
「おかげで、今は安心して商売に専念できています」
トウマは男性の表情や話し方を注意深く観察した。自然な表情で、話の内容にも矛盾がない。普通の商人のようだった。
「なるほど。この街に来て正解だったわけだ」
「ええ、本当に」
「参考になった。ありがとう」
そう言ってトウマは店を後にした。
――――――
次に向かったのは、靴職人のアンナ・シュミットの工房だった。職人街の一角にある小さな建物から、トントンと靴を作る音が聞こえてくる。
「すみません」
トウマが声をかけると、工房の奥から一人の女性が現れた。二十代後半ぐらいで、短く切った茶色の髪が印象的だった。
「はい、何でしょうか?」
「あなたがアンナ・シュミットさんか?」
「はい、そうですが……」
「実はちょっとした取材で、最近この街に移住してきた人に話を聞いてるんだが、良ければ少しお話を聞かせてくれないか?」
トウマがそう聞くと、アンナは警戒するような表情を浮かべた。
「すみませんが、プライベートなことはちょっと……」
「そうか。突然訪問して悪かったな」
トウマは大人しく引き下がった。気難しい性格なのか、それとも何か隠しているのか。今の段階では判断が難しい。
――――――
三軒目は、薬草商のライアン・ホワイトの店だった。薬草の香りが漂う小さな店の中で、三十代前半の男性が薬草を整理していた。
「いらっしゃいませ」
ライアンは丁寧に挨拶した。痩せた体格で、知的な印象を与える男性だった。
「薬草商のライアン・ホワイトさんですか?」
「はい、そうです」
「最近この街に移住してきた人にちょっとした取材をさせて貰ってるんだが、少し話を聞かせてもらえないか?」
「ああ、構いませんよ」
ライアンは快く応じた。
「それで、何をお聞きになりたいんでしょう?」
「まず、どうしてアルティアの街に?」
「それは……」
ライアンは少し考えるような仕草を見せた。
「故郷の村が、魔物の襲撃で壊滅してしまったんです。その時に、家族も……みんな亡くなってしまいました」
「それは……大変でしたね」
「ええ。それで、一人でこの街にやってきました。聖獣の加護があるこの街なら、安全だと思ったんです」
ライアンの話は自然で、表情にも嘘があるようには見えなかった。しかし、トウマは何か微妙な違和感を感じた。
「薬草商をしているのは、昔からですか?」
「はい。村にいた頃から、薬草の知識には自信がありましたので」
「なるほど。この辺りで採れる薬草についても詳しいんですか?」
「ええ、もちろんです。アルティア近郊の森にもよく採取に行っていますから」
トウマはライアンの態度に再び違和感を感じたが、表情を変えずに相づちを打った。
「ありがとうございました。参考になりました」
「いえいえ、お役に立てて何よりです」
ライアンは笑顔で見送ってくれた。
――――――
その後、トウマは残りの移住者たちにも話を聞いて回った。しかし、大部分の人たちは、ごく普通の人間のようだった。
だが、話を聞いたうちの何人かには微妙な違和感があった。話の内容に矛盾があったり、この地域の常識を知らなかったり、職業に関する知識が曖昧だったり……。薬草商のライアンの話も後でギルドで確認したところ、やはり薬草の種類や採取場所に一部齟齬があった。
「怪しいのは何人か居たが、さてどうするかな」
トウマは日が沈み始めた空を見上げながら、トウマは腕を組んで考えた。確証がない以上、いきなり問い詰めるわけにもいかない。
「とりあえず、今日はここまでにするか」
トウマは「銀の竜亭」に向かった。
――――――
夕食を取りながら、トウマは今日の出来事を振り返っていた。
「聖獣の依頼……思った以上に厄介だな」
トウマは小さくため息をついた。人に擬態した何かを見つけるのは、想像以上に困難な作業だった。
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