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第88話 真夜中の密談
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翌朝、トウマは「銀の竜亭」で朝食を摂りながら、昨日の調査結果を整理していた。パンをちぎりながら、頭の中で怪しい人物の順位を付けていく。
「一番怪しいのは、やっぱりライアンだな」
薬草商と名乗っていたライアンの話には、色々と気になる点が多かった。
「よし、今日はライアンの素行を調べてみるか」
トウマはミルクを一口飲むと、今日の予定を立て始めた。
――――――
朝食を済ませたトウマは、ライアンの薬草店の近くにある小さな喫茶店に陣取った。窓際の席から、薬草店の入口がよく見える。
「いらっしゃいませ」
店の女性が温かいお茶を持ってきてくれた。トウマは適当に注文したハーブティーを飲みながら、薬草店の様子を観察した。
午前中、ライアンは何人かの客を相手に商売をしていた。一見すると、普通の薬草商のように見える。客との会話も自然で、特に怪しい様子は感じられなかった。
「流石にそう簡単には尻尾は出さないか」
しかし、トウマは諦めなかった。真昼間に怪しい行動を取る奴なんて、そうそういるものじゃない。
昼食時になると、ライアンは店を一旦閉めて、近くの食堂に向かった。トウマも距離を置いて後を追う。
「普通に飯を食ってるだけだな」
食事を終えたライアンは、午後も薬草店で商売を続けた。時折、薬草を整理したり、新しい薬草を仕入れたりしている。その仕事ぶりに怪しい様子は見られなかった。
「うーん……」
トウマは腕を組んで考えた。もしかすると、認識などの違いがあっただけで、ライアンを怪しいと思ったのは勘違いだったのかもしれない。
「でもまあ、今日一日くらいは様子を見てみるか」
――――――
夕方になると、ライアンは店を閉め、自宅に戻った。薬草店の二階が彼の住居になっているようだった。
トウマは喫茶店を出て、薬草店の向かいにある路地に身を潜めた。街灯の明かりが届かない暗がりで、建物の影に隠れながらライアンの家を見張る。
「さてと、ここからだな」
時間が経つにつれ、街は静寂に包まれていく。商店の明かりが一つずつ消え、人通りも少なくなった。
ライアンの家の明かりも、夜の十時頃には消えた。
「今日はもう動きはなさそうかな」
トウマは欠伸を噛み殺しながら、そう呟いた。長時間の見張りで、少し疲れを感じ始めていた。
「あと三十分だけ様子を見て、何もなければ今日は引き上げるか」
そう考えた時だった。
消えていたはずのライアンの家から、小さな明かりが漏れてきた。しかし、それは表の窓からではなく、建物の裏側からだった。
「おっ?」
トウマは身を乗り出した。すると、家の裏口から人影が現れた。月明かりの下で、その人物がライアンであることが確認できる。
「これは、当たりか?」
ライアンは辺りを警戒するように見回すと、静かに歩き始めた。足音を殺し、まるで誰かに見つからないよう細心の注意を払っている。
「どこに向かう気だ?」
ライアンは街の中心部を避け、人通りの少ない細い路地を選んで歩いている。トウマも音を立てないように気を付けながら、その後を追った。
やがて辿り着いたのは、街外れにある古い邸宅だった。かつては裕福な商人の家だったのかもしれないが、今は使われていない様子で、建物全体が荒れ果てている。
「あんな場所で何をする気だ?」
ライアンは邸宅の正面玄関ではなく、裏側の勝手口から中に入っていった。建物の窓からは、僅かな明かりが漏れている。
トウマは邸宅の周囲を回り、様子を窺った。すると、建物の中から複数の人の声が聞こえてくる。
「他にも誰かいるのか」
トウマは慎重に邸宅に近づいた。古い石造りの壁に背中を付け、窓の近くまで移動する。
「……計画は順調に進んでいる」
男性の声が聞こえてきた。ライアンの声ではない。
「そうか。それで、例の件はどうなっている?」
今度はライアンの声だった。しかし、昼間に聞いた時とは全く印象が違う。冷たく、計算的な響きがある。
「もう少し時間が必要だ。聖獣の警戒は思った以上に厳しい」
「急がなければならない。時間をかけすぎると、気づかれる可能性が高くなる」
トウマは眉をひそめた。聖獣という単語が出てきたことで、この連中が聖獣から依頼された件に関わっていることは間違いない。
「しかし、焦りは禁物だ。一歩間違えれば、全てが水の泡になる」
「分かっている。だが……」
「どうした?」
「昨日、妙な男が俺の店に来た。取材と称して、移住の理由を聞いてきたんだ」
トウマは身を強張らせた。それは明らかに自分のことだった。
「取材? どんな男だ?」
「二十代半ばくらいの男だった。琥珀色の瞳をしていて、冒険者風の格好をしていた」
「冒険者……まさか」
別の男の声が、緊張を帯びた。
「聖獣が手を回したのかもしれない。気をつけろ」
「ああ、分かってる」
トウマは更に身を寄せ、会話の内容を聞き逃さないよう集中した。
「計画の変更が必要かもしれない。もし本当に聖獣の差し金なら……」
その時だった。
「そこにいるのは誰だ!」
突然、男の声が響いた。
トウマは舌打ちをした。気づかれてしまったのだ。
「逃げようとしても無駄だ。大人しく出てこい!」
建物の中から、数人の足音が聞こえてくる。逃げる選択肢もあったが、トウマは逆に開き直った。
「やれやれ、バレちまったか」
トウマは隠れていた場所から姿を現した。
「よう、ライアン。夜中にお疲れさん」
――――――
邸宅の裏口から、四人の男が現れた。ライアンと、見たことのない三人の男たちだった。
「昨日の男……」
ライアンは顔を青ざめさせながら、トウマを見つめた。
「まさか、本当に聖獣の……」
「まあ、そんなところかな」
トウマは軽い口調で答えた。
「で、おまえたちは何をしてたんだ? 深夜にこんな場所で密談なんて、普通じゃないよな」
「貴様……どこまで聞いていた?」
三人の男のうち、リーダー格らしき男が前に出てきた。四十代くらいの男で、鋭い目つきをしている。
「さあ、どこまでかな」
トウマは肩をすくめた。
「聖獣がどうとか、計画がどうとか、そんな話だったっけ?」
男たちの表情が一気に険しくなった。
「やはり、聖獣の手先か」
「手先っていうか、依頼を受けただけなんだけどな」
トウマは腰の剣に手を置いた。
「まあ、おまえたちが人に擬態した何かってことは、もうバレバレだし」
「……やるしかないな」
リーダー格の男が、仲間たちに合図を送った。
「幸い、この辺りには他の民家はほとんどない。誰にも気づかれずに始末できる」
「おいおい、物騒なことを言うなよ」
トウマは苦笑しながら、剣を抜いた。
「まあ、確かに一般人に被害が及ぶ心配がないのは助かるけどな」
――――――
四人の男たちは、それぞれ武器を取り出した。ライアンは短剣を、他の三人は剣を手にしている。
「気を付けろ。聖獣が依頼したのなら、ただの素人ではないはずだ」
リーダー格の男は、トウマを値踏みするような目で見つめた。
「分かっている。だが、四対一だ。油断さえしなければ……」
「はたして、そうかな?」
軽口をたたくとトウマは剣を構えた。
「ふん。その余裕いつまでもつかな」
リーダー格の男が合図を送ると、四人は一斉にトウマに向かってきた。
しかし、トウマは慌てることなく、最初に襲いかかってきた男の剣を軽やかに受け流した。続いて、横から迫る別の男の攻撃を避けながら、カウンターで短剣を投げる。
短剣は狙い通り男の肩に命中し、男は痛みで怯んだ。
「やるじゃないか」
リーダー格の男は、トウマの実力を認めるような口調で言った。
「だが、まだ序の口だ」
そう言うと、男の体が徐々に変化し始めた。人間の姿が崩れ、本来の姿を現そうとしている。
「やっぱり、人間じゃなかったのか」
トウマは男たちの変化を見ながら呟いた。戦いは、まだ始まったばかりだった。
「一番怪しいのは、やっぱりライアンだな」
薬草商と名乗っていたライアンの話には、色々と気になる点が多かった。
「よし、今日はライアンの素行を調べてみるか」
トウマはミルクを一口飲むと、今日の予定を立て始めた。
――――――
朝食を済ませたトウマは、ライアンの薬草店の近くにある小さな喫茶店に陣取った。窓際の席から、薬草店の入口がよく見える。
「いらっしゃいませ」
店の女性が温かいお茶を持ってきてくれた。トウマは適当に注文したハーブティーを飲みながら、薬草店の様子を観察した。
午前中、ライアンは何人かの客を相手に商売をしていた。一見すると、普通の薬草商のように見える。客との会話も自然で、特に怪しい様子は感じられなかった。
「流石にそう簡単には尻尾は出さないか」
しかし、トウマは諦めなかった。真昼間に怪しい行動を取る奴なんて、そうそういるものじゃない。
昼食時になると、ライアンは店を一旦閉めて、近くの食堂に向かった。トウマも距離を置いて後を追う。
「普通に飯を食ってるだけだな」
食事を終えたライアンは、午後も薬草店で商売を続けた。時折、薬草を整理したり、新しい薬草を仕入れたりしている。その仕事ぶりに怪しい様子は見られなかった。
「うーん……」
トウマは腕を組んで考えた。もしかすると、認識などの違いがあっただけで、ライアンを怪しいと思ったのは勘違いだったのかもしれない。
「でもまあ、今日一日くらいは様子を見てみるか」
――――――
夕方になると、ライアンは店を閉め、自宅に戻った。薬草店の二階が彼の住居になっているようだった。
トウマは喫茶店を出て、薬草店の向かいにある路地に身を潜めた。街灯の明かりが届かない暗がりで、建物の影に隠れながらライアンの家を見張る。
「さてと、ここからだな」
時間が経つにつれ、街は静寂に包まれていく。商店の明かりが一つずつ消え、人通りも少なくなった。
ライアンの家の明かりも、夜の十時頃には消えた。
「今日はもう動きはなさそうかな」
トウマは欠伸を噛み殺しながら、そう呟いた。長時間の見張りで、少し疲れを感じ始めていた。
「あと三十分だけ様子を見て、何もなければ今日は引き上げるか」
そう考えた時だった。
消えていたはずのライアンの家から、小さな明かりが漏れてきた。しかし、それは表の窓からではなく、建物の裏側からだった。
「おっ?」
トウマは身を乗り出した。すると、家の裏口から人影が現れた。月明かりの下で、その人物がライアンであることが確認できる。
「これは、当たりか?」
ライアンは辺りを警戒するように見回すと、静かに歩き始めた。足音を殺し、まるで誰かに見つからないよう細心の注意を払っている。
「どこに向かう気だ?」
ライアンは街の中心部を避け、人通りの少ない細い路地を選んで歩いている。トウマも音を立てないように気を付けながら、その後を追った。
やがて辿り着いたのは、街外れにある古い邸宅だった。かつては裕福な商人の家だったのかもしれないが、今は使われていない様子で、建物全体が荒れ果てている。
「あんな場所で何をする気だ?」
ライアンは邸宅の正面玄関ではなく、裏側の勝手口から中に入っていった。建物の窓からは、僅かな明かりが漏れている。
トウマは邸宅の周囲を回り、様子を窺った。すると、建物の中から複数の人の声が聞こえてくる。
「他にも誰かいるのか」
トウマは慎重に邸宅に近づいた。古い石造りの壁に背中を付け、窓の近くまで移動する。
「……計画は順調に進んでいる」
男性の声が聞こえてきた。ライアンの声ではない。
「そうか。それで、例の件はどうなっている?」
今度はライアンの声だった。しかし、昼間に聞いた時とは全く印象が違う。冷たく、計算的な響きがある。
「もう少し時間が必要だ。聖獣の警戒は思った以上に厳しい」
「急がなければならない。時間をかけすぎると、気づかれる可能性が高くなる」
トウマは眉をひそめた。聖獣という単語が出てきたことで、この連中が聖獣から依頼された件に関わっていることは間違いない。
「しかし、焦りは禁物だ。一歩間違えれば、全てが水の泡になる」
「分かっている。だが……」
「どうした?」
「昨日、妙な男が俺の店に来た。取材と称して、移住の理由を聞いてきたんだ」
トウマは身を強張らせた。それは明らかに自分のことだった。
「取材? どんな男だ?」
「二十代半ばくらいの男だった。琥珀色の瞳をしていて、冒険者風の格好をしていた」
「冒険者……まさか」
別の男の声が、緊張を帯びた。
「聖獣が手を回したのかもしれない。気をつけろ」
「ああ、分かってる」
トウマは更に身を寄せ、会話の内容を聞き逃さないよう集中した。
「計画の変更が必要かもしれない。もし本当に聖獣の差し金なら……」
その時だった。
「そこにいるのは誰だ!」
突然、男の声が響いた。
トウマは舌打ちをした。気づかれてしまったのだ。
「逃げようとしても無駄だ。大人しく出てこい!」
建物の中から、数人の足音が聞こえてくる。逃げる選択肢もあったが、トウマは逆に開き直った。
「やれやれ、バレちまったか」
トウマは隠れていた場所から姿を現した。
「よう、ライアン。夜中にお疲れさん」
――――――
邸宅の裏口から、四人の男が現れた。ライアンと、見たことのない三人の男たちだった。
「昨日の男……」
ライアンは顔を青ざめさせながら、トウマを見つめた。
「まさか、本当に聖獣の……」
「まあ、そんなところかな」
トウマは軽い口調で答えた。
「で、おまえたちは何をしてたんだ? 深夜にこんな場所で密談なんて、普通じゃないよな」
「貴様……どこまで聞いていた?」
三人の男のうち、リーダー格らしき男が前に出てきた。四十代くらいの男で、鋭い目つきをしている。
「さあ、どこまでかな」
トウマは肩をすくめた。
「聖獣がどうとか、計画がどうとか、そんな話だったっけ?」
男たちの表情が一気に険しくなった。
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トウマは腰の剣に手を置いた。
「まあ、おまえたちが人に擬態した何かってことは、もうバレバレだし」
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「幸い、この辺りには他の民家はほとんどない。誰にも気づかれずに始末できる」
「おいおい、物騒なことを言うなよ」
トウマは苦笑しながら、剣を抜いた。
「まあ、確かに一般人に被害が及ぶ心配がないのは助かるけどな」
――――――
四人の男たちは、それぞれ武器を取り出した。ライアンは短剣を、他の三人は剣を手にしている。
「気を付けろ。聖獣が依頼したのなら、ただの素人ではないはずだ」
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「分かっている。だが、四対一だ。油断さえしなければ……」
「はたして、そうかな?」
軽口をたたくとトウマは剣を構えた。
「ふん。その余裕いつまでもつかな」
リーダー格の男が合図を送ると、四人は一斉にトウマに向かってきた。
しかし、トウマは慌てることなく、最初に襲いかかってきた男の剣を軽やかに受け流した。続いて、横から迫る別の男の攻撃を避けながら、カウンターで短剣を投げる。
短剣は狙い通り男の肩に命中し、男は痛みで怯んだ。
「やるじゃないか」
リーダー格の男は、トウマの実力を認めるような口調で言った。
「だが、まだ序の口だ」
そう言うと、男の体が徐々に変化し始めた。人間の姿が崩れ、本来の姿を現そうとしている。
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