一流冒険者トウマの道草旅譚

黒蓬

文字の大きさ
91 / 105

第91話 月夜の奇襲

しおりを挟む
トウマは盗賊たちの隠れ家を慎重に観察し続けていた。夜の帳が降りると、盗賊たちの酒盛りはさらに盛り上がった。

「こりゃあ、長引きそうだな」

焚き火の周りで盗賊たちが大声で歌い、踊り、酒を飲み続けている。一方で、檻の中の獣人たちは身を寄せ合い、震えていた。

「おい、お前たち、静かにしろ!」

見張りの一人が檻を蹴りつけた。

「明日には奴隷商人に売り飛ばされるんだから、今のうちに大人しくしてろ」

「うるさいぞ!」

もう一人の見張りも檻を棒で叩いた。獣人たちは怯えて、さらに身を寄せ合う。

「あいつら……」

トウマの拳が自然と握られた。だが、今は冷静さを保つ必要があった。救出作戦を成功させるためには、感情に任せて行動するわけにはいかない。

「もう少し待つか」

――――――

夜が深くなり、盗賊たちの宴も終わりに近づいていた。多くの者が酔い潰れて、テントの中で寝息を立てている。

「よし、今がチャンスだ」

トウマは音を立てないように、檻の近くに移動した。見張りの二人は、焚き火の前で居眠りをしている。

「完全に油断してるな」

トウマは短剣を手に取ると、静かに二人に近づいた。そして、剣の柄で二人の後頭部を軽く打ち、気絶させる。

「よし」

檻の鍵を見つけると、トウマは慎重に錠を開けた。中にいた獣人たちは、突然現れたトウマに驚いて身を寄せ合う。

「静かに。俺はあんたたちを助けに来た」

トウマは小声で言った。

「大丈夫だ。ライカとエニーにあんたたちの案内を頼んだから」

その時、森の中からライカとエニーが現れた。

「トウマさん!」

「シー!」

トウマは慌てて手で制止した。

「さっき言った通り二人は、みんなを連れて村に帰るんだ。俺は盗賊どもを片付ける」

「一人で大丈夫ですか?」

ライカが心配そうに尋ねた。

「任せておけ。心配なのはそっちの方だ。気は引くが、奴らに見つからないようにな」

「はい!」

エニーが小さく頷いた。

「行くぞ、みんな!」

ライカが獣人たちを先導し、一行は静かに森の中に消えていった。

――――――

獣人たちが去ったのを確認すると、トウマは行動を開始した。

「さて、それじゃここからは俺の時間だ」

トウマは最も大きなテントに向かった。そこには、おそらく盗賊のボスが寝ているはずだ。

「派手にやらせてもらうぜ」

トウマは短剣を取り出すと、魔力を込めて刃を伸ばした。そして、テントの布を切り裂いて中に火をつける。

「なっ!?か、火事だ!」

「何事だ!」

盗賊たちが次々にテントから飛び出してきた。

「おい、誰だ貴様は!」

一番大きなテントから、体格の良い男が出てきた。顔に大きな傷があり、左目は眼帯で覆われている。どうやら、こいつがボスのようだ。

「俺か?通りすがりの冒険者だ」

トウマは剣を抜いて、軽く振った。

「おまえらの悪行を止めに来たんだよ」

「悪行だと?はっ!正義感ぶりやがって」

ボスは大きな両手剣を構えた。

「俺はゼルドランだ。覚えておけ、貴様を殺した男の名前をな」

「ゼルドラン?知らねえな。悪人の名前なんて覚える気もねえけどな」

そう言ってトウマは肩をすくめた。

「何だと!」

ゼルドランの顔が怒りで歪んだ。

「殺せ!このガキを八つ裂きにしろ!」

盗賊たちが一斉にトウマに向かってきた。

「さぁ、来いよ。まとめて相手してやる」

――――――

トウマは軽やかに跳躍し、最初の盗賊の攻撃を避ける。着地と同時に、剣を横に薙ぎ払った。

「うぐあああ!」

二人の盗賊が同時に倒れた。

「歯応えがないな」

「くそっ、素早い奴だ!」

「囲め!逃がすな!」

盗賊たちはトウマを取り囲もうとしたが、トウマは短剣を投げつけた。短剣は魔力の誘導で正確に標的を捉え、盗賊の肩を貫く。

「ぎゃああああ!」

「化け物め!」

「落ち着け!」

ゼルドランが大声で部下たちを叱咤した。

「どれだけ強かろうがこいつは一人だ!冷静に戦えば勝てる!翻弄されるんじゃねぇ!」

「さすがボスだけあって、冷静だな」

トウマは感心したような声で言った。

「だが、もう遅い」

【真力解放】、トウマの瞳が金色に輝いた。

「な、何だこいつ!?さらに、動きが別人みたいに……」

「ば、化け物だ……本物の……」

「逃げろ!」

「おい待て!」

ゼルドランが部下たちを止めようとしたが、すでに遅かった。

「逃がすかよ」

トウマは剣を大きく振り上げると、魔力を込めた斬撃を放った。

「【烈風斬】!」

巨大な風の刃が盗賊たちを襲った。十数人の盗賊が同時に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

「うぐああああ!」

「ぎゃああああ!」

盗賊たちの悲鳴が夜の森に響いた。

「馬鹿な……一撃で……」

ゼルドランは絶句していた。

「さて、残るはおまえだけだな」

トウマは金色の瞳でゼルドランを見つめた。

「こ、この化け物が!死ねぇ!」

ゼルドランはやけになって、トウマに向かって突進した。

「俺はゼルドランだぞ!こんなところで死ぬわけがねえんだ!」

「そうか。なら、派手に散らせてやる」

トウマは剣を構えると、ゼルドランに向かって突進した。

「終わりだ」

「くそっ!」

ゼルドランは必死に剣を振ったが、トウマはその剣を弾き飛ばすと、剣の柄でゼルドランの顎を打ち上げた。

「がぁっ!?」

防御も回避もできず、トウマの一撃を受けたゼルドランは意識を失って倒れた。

「終わったか。盗賊どもは殆ど片付けたはずだが、ライカ達の方は大丈夫かな」

トウマは【真力解放】を解除すると、ライカ達が逃げた村の方に目を向けた。

――――――

獣人の集落に戻ると、村人たちが家の前で話し合いをしていた。

「あ、トウマさん!」

エニーが気づいて、手を振った。

「お疲れ様でした!」

「お疲れ様。みんな無事に帰れたようだな」

「はい!」

ライカが駆け寄ってきた。

「トウマさんのおかげです。本当にありがとうございました」

「気にするな。当然のことをしただけだ」

その時、一人の老人がトウマの前に歩いてきた。

「あなたが、私たちを助けてくださった方ですね」

「あぁ、そうだ」

「私は、この村の長老をしているバルトと申します」

バルトは深々と頭を下げた。

「本当に、ありがとうございました」

「頭を上げてくれ。俺は、ライカ達に頼まれて手を貸しただけだ」

「そうは言っても、命の恩人であることには変わりません。何かお礼を……」

バルトは真剣な表情でトウマを見つめた。

「お礼なんていい」

「そうはいきません。せめて、今夜は我が家に泊まって行ってください」

バルトは頑固そうに首を振ると、そう提案してきた。

「うーん……まぁ、それくらいならお言葉に甘えるとするか」

「ありがとうございます」

バルトは嬉しそうに微笑んだ。

――――――

バルトの家で、トウマは獣人たちと一緒に夕食を取った。

「美味しいな、この料理」

「ありがとうございます」

バルトの妻が嬉しそうに答えた。

「森の恵みをふんだんに使った、我が村の自慢料理なんです」

「なるほど、美味いわけだな」

トウマは満足そうに頷いた。

「トウマさん」

トウマが料理を堪能していると、ライカが真剣な表情で声を掛けてきた。

「あの、僕も、もっと強くなりたいです」

「強くなりたい?」

「はい。今回みたいなことがあった時に、村のみんなを守れるように」

「そうか」

トウマは少し考えた。

「なら、毎日鍛錬することだな。まずは基礎体力をつけて、技術も学んでいけ。獣人ならその身体能力を存分に生かせるはずだ」

トウマのアドバイスに、ライカの目が輝いた。

「はい!頑張ります!」

「あぁ、おまえならきっと良い守り人になれるさ」

――――――

翌朝、トウマは村を出発する準備をしていた。

「もう行かれるのですか?」

エニーが寂しそうに尋ねた。

「あぁ、俺は旅人だからな」

「そうですか……」

「まぁ、またこの辺りに来ることがあったら、顔を出すよ」

「本当ですか?」

「ああ、約束だ」

そう言ってトウマは微笑んだ。

「それまでに、強くなっておけよ」

「はい!」

ライカが元気よく答える。

「それじゃ、世話になったな」

トウマは手を振って、村を後にした。

「トウマさん!」

「気をつけて!」

村人たちの声が、後ろから聞こえてきた。

「いい村だったな」

トウマは振り返ることなく、次の目的地に向かって旅を再開した。深緑都市シルヴァーリーフまでは、まだ数日の道のりがある。

「少し道を外れちまったが、そういえばこの途中には温泉があるって言ってたな」

トウマは地図を広げて確認した。

「せっかくだし、そこにも寄ってみるか」

相変わらず、トウマの旅は予定通りにはいかないのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

パワハラで会社を辞めた俺、スキル【万能造船】で自由な船旅に出る~現代知識とチート船で水上交易してたら、いつの間にか国家予算レベルの大金を稼い

☆ほしい
ファンタジー
過労とパワハラで心身ともに限界だった俺、佐伯湊(さえきみなと)は、ある日異世界に転移してしまった。神様から与えられたのは【万能造船】というユニークスキル。それは、設計図さえあれば、どんな船でも素材を消費して作り出せるという能力だった。 「もう誰にも縛られない、自由な生活を送るんだ」 そう決意した俺は、手始めに小さな川舟を作り、水上での生活をスタートさせる。前世の知識を活かして、この世界にはない調味料や保存食、便利な日用品を自作して港町で売ってみると、これがまさかの大当たり。 スキルで船をどんどん豪華客船並みに拡張し、快適な船上生活を送りながら、行く先々の港町で特産品を仕入れては別の町で売る。そんな気ままな水上交易を続けているうちに、俺の資産はいつの間にか小国の国家予算を軽く超えていた。 これは、社畜だった俺が、チートな船でのんびりスローライフを送りながら、世界一の商人になるまでの物語。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

『規格外の薬師、追放されて辺境スローライフを始める。〜作ったポーションが国家機密級なのは秘密です〜』

雛月 らん
ファンタジー
俺、黒田 蓮(くろだ れん)35歳は前世でブラック企業の社畜だった。過労死寸前で倒れ、次に目覚めたとき、そこは剣と魔法の異世界。しかも、幼少期の俺は、とある大貴族の私生児、アレン・クロイツェルとして生まれ変わっていた。 前世の記憶と、この世界では「外れスキル」とされる『万物鑑定』と『薬草栽培(ハイレベル)』。そして、誰にも知られていない規格外の莫大な魔力を持っていた。 しかし、俺は決意する。「今世こそ、誰にも邪魔されない、のんびりしたスローライフを送る!」と。 これは、スローライフを死守したい天才薬師のアレンと、彼の作る規格外の薬に振り回される異世界の物語。 平穏を愛する(自称)凡人薬師の、のんびりだけど実は波乱万丈な辺境スローライフファンタジー。

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった中学生、朝霧詠無。 彼の魂はそのまま天国へ……行くことはなく、異世界の住人に転生。 ゲームや漫画といった娯楽はないが、それでも男であれば心が躍るファンタジーな世界。 転生した世界の詳細を知った詠無改め、バドムス・ディアラも例に漏れず、心が躍った。 しかし……彼が生まれた家系は、代々ある貴族に仕える歴史を持つ。 男であれば執事、女であればメイド。 「いや……ふざけんな!!! やってられるか!!!!!」 如何にして異世界を楽しむか。 バドムスは執事という敷かれた将来へのレールを蹴り飛ばし、生きたいように生きると決めた。

処理中です...