一流冒険者トウマの道草旅譚

第102話 遺跡の奥に潜む陰謀

夜明けと共に、二人の冒険者は洞窟を後にした。朝霧が山の斜面を静かに包み込み、鳥たちの鳴き声が清々しい空気に響いている。

「よし、出発だ」

「ああ。今日中には遺跡に到着できるだろう」

シガートは大剣を背負い直しながら、期待に満ちた表情を浮かべた。

――――――

昨夜の休息で体力を回復した二人は、さらに険しくなった山道を登り始めた。標高が上がるにつれて、周囲の景色も変化していく。針葉樹が増え、岩場が多くなり、空気も次第に薄くなってきた。

「くそっ、この岩壁は厄介だな」

「ロープを使って登るしかないか」

シガートがピッケルを岩に打ち込みながら、慎重に高度を上げていく。

「気をつけろよ。落ちたら笑えないぞ」

「分かってるさ。お前こそ、下で油断するなよ」

二人は互いに声を掛け合いながら、困難な登攀を続けた。

岩壁を登り切ると、目の前に古い石造りの建造物が姿を現した。

「あれが遺跡か……」

「思ったより大きいな」

遺跡は山の斜面に沿って建てられており、その規模は相当なものだった。石材の継ぎ目から苔や蔦が生え、長い年月の経過を物語っている。

「入り口はあそこか」

「ああ。それにしても、不気味な雰囲気だな」

遺跡の周囲には、山道で出会った以上に多くの魔物たちがうろついていた。

「本当に数が多いな。しかも、やっぱり様子がおかしい」

トウマは剣の柄に手を掛けながら呟いた。

「どうする？正面から行くか？」

「他に道もないしな。行くしかないだろう」

――――――

遺跡の入り口に近づくと、数匹の魔物が二人に気づいて襲い掛かってきた。

「来るぞ！」

「おう！」

最初に飛び出してきたのは、見たこともない種類の魔物だった。狼のような体躯に、鱗のような皮膚を持つ奇怪な生物。

「なんだ、あれは？」

「知らん。とりあえず倒すしかないな」

トウマの剣が魔物の首を狙うが、鱗に阻まれて思うように切れない。

「硬いな、この鱗は」

「俺の方も同じだ。普通の魔物じゃないぞ、これは」

シガートの大剣も、魔物の防御を完全には破れずにいた。

「関節を狙え！」

「了解だ！」

二人は連携を取りながら、魔物の弱点を突いていく。激しい戦いの末、ようやく魔物を倒すことができた。

「思ったより手強かった」

「ああ。普通の魔物なら、もっと簡単に倒せるはずなんだがな」

二人は汗を拭いながら、遺跡の入り口へと向かった。

――――――

遺跡の内部は、外観以上に複雑な構造をしていた。

「松明の準備はいいか？」

「ああ。それにしても、真っ暗だな」

二人は松明の明かりを頼りに、慎重に奥へと進んでいく。しばらく進んだ先で二人は異変に気づいた。

「おい、トウマ」

「ああ、気づいてる。魔物の鳴き声が聞こえるな」

遺跡の奥から、様々な魔物の鳴き声が響いてくる。それも、一匹や二匹ではない。相当な数の魔物が潜んでいるようだった。

「本当に多いな。どうなってるんだ？」

「来るぞ」

二人は武器を構え、臨戦態勢を取った。

最初の通路から、大きな野猪型の魔物が現れた。その後ろには、山狼や山猫、さらには見たこともない種類の魔物たちが続いている。

「はああああっ！」

シガートの大剣が、野猪の頭部を一刀両断する。

「俺は左を。そっちは頼んだ」

「了解だ」

トウマは右側から迫る山狼の群れに向かった。片手剣を振るい、次々と魔物を倒していく。二人は背中を合わせながら、魔物たちと戦い続けた。

――――――

何とか魔物たちの群れを倒し、引き続き遺跡の奥へ進んでいくと、やがて大きな部屋のような空間に出た。

「ここは……」

「広いな。何かの儀式場か？」

部屋の中央には、古い祭壇のような石造りの台座があった。そして、その周りには――

「ん？……あれは人間か？」

薄暗い松明の光の中に、数人のローブ姿の人影が見えた。

「どうやらそのようだな」

二人が近づこうとした時、ローブの男たちが振り返った。

「誰だ、お前たちは？」

「なぜここまで来れた？外の魔物たちはどうした？」

ローブの男たちは明らかに動揺している様子だった。

「それはこっちの台詞だ。お前たち、こんな場所で何をしているんだ？」

トウマは剣を構えながら問いかけた。

「まさか、魔物たちが異常な行動を取ってるのは、お前たちの仕業か？」

シガートも大剣を抜いて警戒態勢を取る。

「ちっ、邪魔が入ったか」

「どうする？」

ローブの男たちは互いに視線を交わした。

「逃げるぞ！」

「待て！」

男たちは後ろの扉へと駆け出した。

「追うぞ、シガート！」

「ああ！」

二人は慌てて男たちの後を追った。

――――――

扉の向こうは、さらに大きな部屋になっていた。

「うわっ、何だこれは」

そこには、これまで以上に強力そうな魔物たちが待ち構えていた。角の生えた大型の獣、翼を持つ爬虫類、そして見たこともない異形の生物たち。

「こいつら、明らかに普通の魔物じゃないぞ」

「ああ、それに……」

不思議なことに、魔物たちはローブの男たちを襲おうとしなかった。

「奴らを始末しろ」

ローブの男の一人が命令すると、魔物たちは一斉にトウマたちに向かってきた。

「やっぱりか」

「こいつら、魔物を操ってやがるな！」

二人は背中合わせになり、襲い掛かる魔物たちを迎え撃った。

「くそっ、数が多すぎる！」

「仕方ない。まずはこいつらを片付けるぞ！」

角を持つ獣が突進してくる。トウマは間一髪で避けながら、反撃の剣を叩き込んだ。

「硬い！」

「こっちも同じだ！普通の魔物より遥かに強いぞ！」

シガートの大剣が翼を持つ爬虫類と激突する。火花が散り、金属音が響いた。

「くそっ、きりがない！」

戦いの最中、ローブの男たちはさらに奥の部屋へと逃げていった。

異形の生物が触手のような腕を振り回してくる。二人は連携を取りながら、その攻撃をかわしていく。

「シガート、左から行くぞ！」

「了解だ！」

そうして長い戦いの末、二人はようやく魔物たちを全て倒すことができた。

「はあ、はあ……思ったより手強かった」

「ああ。やっぱりこいつらも普通の魔物じゃなかった」

二人は息を整えながら、奥の部屋を見つめた。

「間違いない。あいつらが魔物を操っている」

「それに、この遺跡で何かを企んでいるな。急ごう」

二人は決意を新たに、男たちが逃げた方向へと向かった。

――――――

奥の部屋の扉の向こうには、下への階段が続いていた。

「地下か」

「曰くつきの遺跡の地下に魔物を操る怪しい連中か、嫌な予感しかしないな……」

二人は慎重に階段を下り始めた。

「気をつけろ。罠があるかもしれない」

「ああ。それに、あいつらがまた魔物を用意してる可能性もある」

階段は思ったより長く、相当深い地下まで続いているようだった。

「どこまで続いてるんだ？」

「古代の遺跡だからな。地下神殿でもあるのかもしれない」

二人は更に慎重になりながら、階段を下り続けた。

「トウマ、奴らいったいなんだと思う？」

「分からない。だが、あいつらが何かを企んでるのは確かだ」

「遺跡で見られた光とも関係があるのかもしれないな」

「そうだな。それに、魔物を操る能力……普通じゃない」

二人が階段を下りながらそんな考察をしていると、やがて階段の終点が見えてきた。そこには、古代の技術で作られたと思われる扉があった。

「準備はいいか？」

「ああ。何が出てきても対応できるようにしておこう」

トウマは片手剣を、シガートは大剣を構えた。

「それじゃあ、行くぞ」

二人は扉を開け、遺跡の最深部へと足を踏み入れた。