一流冒険者トウマの道草旅譚

黒蓬

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第39話 竜商人の意地と誇り

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翌朝、トウマは宿の一階で朝食を摂りながら、外の様子を窺っていた。マーカントの朝は早い。商人たちが既に露店の準備を始めており、魔法陣の上に浮かぶ街全体が活気に満ちている。

「トウマさん、おはようございます!」

階段から駆け下りてきたクレメーセの声が響く。彼女の表情は昨日とは打って変わって明るく、希望に満ち溢れていた。

「おはよう。よく眠れたか?」

「はい!すごくよく眠れました」

クレメーセは嬉しそうに微笑みながら、トウマの向かいの席に座る。昨夜の不安はどこへやら、今朝の彼女は生き生きとしていた。

「じゃあ、朝飯を食ったら裁判所に行こう」

「はい!」

――――――

マーカントの裁判所は、街の東側に位置する立派な建物だった。白い大理石で作られた威厳のある外観に、入り口には正義の女神像が立っている。

「緊張します……」

クレメーセは建物を見上げながら、小さく呟いた。

「大丈夫だ。あの契約書を見れば、誰だって無効だと判断するさ」

トウマの励ましに、クレメーセは勇気を振り絞るように頷く。

建物の中に入ると、受付の女性職員が丁寧に対応してくれた。

「不当契約の無効申し立てですね。こちらの書類に記入をお願いします」

「ありがとうございます」

クレメーセは震える手で書類に記入していく。トウマは隣で見守りながら、時折アドバイスを送った。

「あの、証人の方の署名もお願いします」

職員がトウマに向かって言う。

「ああ、わかった」

トウマが署名を終えると、職員は書類に目を通して頷いた。

「内容を確認いたします。確かに、この契約書は一般的な基準から見て不当な条項が多く含まれているようですね」

「やはりそうですか」

「はい。審理は明後日に行われる予定です。それまでは、申立人の身柄を保護する措置を取らせていただきます」

「保護?」

クレメーセが不安そうに聞き返す。

「相手方が強制的に連れ戻そうとする可能性があります。裁判が終わるまでは、安全な場所で過ごしていただくのが良いでしょう」

職員の説明に、トウマは納得した様子で頷く。

「それは助かるな。クレメーセも良いか?」

「は、はい。よろしくお願いします」

「承知いたしました。では、こちらが一時保護施設のご案内です」

――――――

手続きを終えた後、トウマとクレメーセは裁判所の外に出た。昼の陽射しが強く、砂漠の街らしい暑さが肌を刺す。

「本当に、ありがとうございました」

クレメーセは深々と頭を下げる。

「まだ裁判は済んでないぞ」

「でも、希望が見えました。トウマさんが助けてくれなかったら、私、どうなってたか……」

彼女の目に涙が滲む。しかし、それは昨日の絶望とは違う、希望に満ちた涙だった。

「気にするな。困った時はお互い様だろ」

「でも……」

「それより、これからどうするかは決まったか?」

トウマは話題を変える。クレメーセの感謝の気持ちは十分に伝わっているが、あまり重い雰囲気にはしたくなかった。

「歌手になる夢は、まだ諦めてません。でも、少し考えようと思います。今度は失敗しないように」

「そうだな。焦る必要はない。まずは基盤を作ることから始めた方がいい」

「基盤、ですか?」

「人脈とか、経験とか。いきなり大きな舞台を目指すより、小さなところから始めて実力をつけていく方が確実だ」

トウマの助言に、クレメーセは真剣に聞き入る。

「街の酒場で歌わせてもらったり、お祭りで歌ったり……そういうところから始めればいいんじゃないか?」

「なるほど……」

「あと、今度は契約する時は慎重にな。誰か信頼できる人に立ち会って貰った方が良い」

「は、はい。ちゃんと契約書もしっかり確認するようにします」

クレメーセは反省した様子で、少し恥ずかしそうにそう答えた。

「まぁ、何かあったら冒険者ギルドに連絡してくれ。伝言を残してもらえば、いずれ届くだろう」

「え?もう出て行かれるんですか?」

「う~ん、ギルドで何か依頼があればもう数日はいるかもしれないが、元々俺は旅人だからな」

実際のところ、トウマに明確な目的地があるわけではない。しかし、一つの街に長居をするのは彼の性に合わなかった。

「そうですか……寂しいです」

「また会えるさ。その時は、素晴らしい歌手になった君の歌を聞かせてくれ」

「はい!絶対に!」

トウマの期待を込めた言葉に、クレメーセは力強く頷いた。

――――――

保護施設でクレメーセと別れた後、トウマは冒険者ギルドに向かった。

マーカントの冒険者ギルドは、他の街と比べて少し変わった造りをしていた。建物自体は通常通りだが、内装に砂漠地域特有の装飾が施されている。壁には色とりどりのタイルが使われ、異国情緒を醸し出していた。

「あら、トウマさんじゃないですか」

受付嬢が気づいて声をかけてくる。彼女は褐色の肌にエメラルドグリーンの瞳をした美女だった。

「よう、セリア。元気そうだな」

「ええ、おかげさまで。今回はどちらへ?」

「まだ決めてない。何か面白そうな依頼はあるか?」

セリアは苦笑いを浮かべる。

「トウマさんらしいですね。……実は、少し困った依頼があるんです」

「ほう?」

「『竜牙商会』という老舗の商会からの依頼なんですが……」

「竜牙商会?聞いたことがあるな」

「砂漠地域では有名な商会です。でも、最近業績が悪化しているようでして……」

話ながら、セリアは奥の棚から依頼書を取り出す。

「商会の若い当主が、起死回生を狙って危険な取引を画策しているらしいんです。それを止めてほしいという依頼が、商会の古参役員から出されています」

「ふむ……」

トウマは依頼書に目を通す。依頼主は竜牙商会筆頭役員のグラント・ベルナード。依頼内容は、当主の無謀な取引を阻止すること。報酬は金貨五枚となっている。

「当主っていうのは?」

「エドワード・ドラクール。まだ二十二歳の若い方です。先代が亡くなった後、急遽跡を継いだのですが……」

「なるほど、経験不足か」

「そのようです」

トウマは少し考えてから頷く。

「面白そうだな。受けよう」

「ありがとうございます。依頼主のグラントさんには、午後に竜牙商会の本店でお会いできます」

「分かった。場所は?」

「商業区の中央通りです。大きな建物なので、すぐに分かると思います」

依頼を受けたトウマは、ギルドを後にした。時刻はまだ昼前だったので、街を軽く見て回ることにする。

――――――

マーカントの商業区は、砂漠の交易都市らしく活気に満ちていた。各地からの商人たちが行き交い、珍しい品物が露店に並んでいる。

「やっぱり交易都市は面白いな」

トウマは興味深そうに露店を見て回る。東方の絹織物、北方の毛皮、南海の珊瑚細工など、世界各地の品々が一堂に会していた。

そんな中、ひときわ大きな建物が目に入る。三階建ての立派な石造建築で、正面には「竜牙商会」の看板が掲げられていた。

「あれが竜牙商会か」

建物は確かに立派だが、どことなく活気が感じられない。出入りする人の数も、他の商会と比べて少ないようだった。

「本当に業績が悪化しているみたいだな」

トウマは建物を眺めながら呟く。その時、建物の中から怒鳴り声が聞こえてきた。

「だから、その取引は危険すぎると言っているでしょう!」

「うるさい!俺が当主だ!文句があるなら辞めろ!」

若い男の声と、年配の男の声が激しく言い合っている。

「あれが当主と役員か」

トウマは眉をひそめる。声の調子からして、かなり深刻な対立があるようだった。

その時、建物の正面扉が勢いよく開いて、一人の青年が飛び出してきた。金髪で整った顔立ちの青年だが、その表情は怒りに歪んでいる。

「くそっ!あの老害どもめ!」

青年は悔しそうに呟きながら、足早に立ち去っていく。恐らく、先ほどの若い声の主だろう。

「彼がエドワード・ドラクールか」

トウマは青年の後ろ姿を見送る。その直後、建物から白髪の老人が出てきた。疲れ切った表情をしている。

「すみません。グラント・ベルナードさんは居ますか?」

トウマは老人に声をかける。

「あの……どちら様でしょうか?」

「冒険者ギルドから来た。トウマだ」

「ああ!お待ちしておりました。私がグラント・ベルナードです」

そう答えたグラントの表情が明るくなる。

「早速ですが、詳しい話を聞かせてもらえるか?」

「はい。こちらへどうぞ」

――――――

竜牙商会の応接室は、かつての栄華を物語る豪華な内装だった。しかし、よく見ると所々に傷みが見られ、維持管理に苦労している様子が窺える。

「まず、当商会の現状をご説明します」

グラントは重い口調で話し始める。

「竜牙商会は、先代のオーガスト・ドラクール様が一代で築き上げた商会です。砂漠地域の交易を一手に担い、最盛期には従業員が二百人を超えておりました」

「最盛期には、ということは……」

「ええ。ここ数年で急激に業績が悪化しています。他の商会との競争激化、交易ルートの変更、そして先代の急逝……」

グラントの表情が曇る。

「現在の従業員は五十人程度。ですが、このままでは年内にも倒産の危機です」

「それで、若い当主が焦っているわけか」

「その通りです。エドワード様は優秀な方ですが、まだ経験が浅く……そして何より、プライドが高すぎるのです」

「プライド?」

「父親である先代への憧れが強く、『父のように商会を立て直す』という想いが強すぎるのです。そのせいで、無謀な取引に手を出そうとしています」

グラントは深い溜息をつく。

「具体的には、どんな取引だ?」

「……これは内密にお願いしたいのですが、実は『闇商人』との取引なのです」

「闇商人?」

トウマは眉をひそめる。明らかに全うな相手ではなさそうだった。

「砂漠の奥地で活動している集団です。正体不明で、扱っている商品も怪しいため、多くの商会が関わりを避けている相手なのですが……」

「そいつらと取引しようとしているのか」

「ええ。彼らが持ちかけてきた『特別な商品』の取引に乗ろうとしています。利益は確かに大きいのですが、リスクを考えれば取引するべきでないのは明白です」

「どのくらいのリスクだ?」

「最悪の場合、商会が完全に彼らの支配下に置かれる可能性があります。噂ですが、それが理由で倒産した商会も存在するようで……」

グラントの表情は深刻だった。

「なるほど。それは確かに危険だな」

「はい。我々役員は必死に反対しているのですが、エドワード様は聞く耳を持ちません。『お前たちは保守的すぎる』『これくらいのリスクを取らなければ商会は立て直せない』と……」

「まぁ、若い当主にありがちな話だな」

トウマはそう答えながら苦笑いを浮かべた。

「それで、俺は何をすれば良い?」

「エドワード様を説得していただきたいのです。我々では、もはや彼の言葉に届きません」

「分かった。やってみよう」

「ありがとうございます。ただ……」

グラントは申し訳なさそうな表情になる。

「急で申し訳ないのですが、実は取引の約束が今夜なのです」

「今夜?」

「ええ。街の外れにある廃墟で、闇商人と会う予定になっています」

「確かに、随分と急な話だな」

「実は、我々も今朝になって知ったのです。エドワード様が一人で決めてしまったため……」

トウマは時計を確認する。既に午後も遅い時間だった。

「場所は分かるか?」

「はい。街の南西、約一時間ほどの場所です」

「分かった。すぐに向かうが、最後に一つだけ教えてくれ」

「何でしょう?」

そう問うグラントにトウマは近づいて行った。

「彼の父親、オーガスト・ドラクールのことだ」

――――――

砂上都市マーカントを出ると、そこは見渡す限りの砂漠だった。夕日が砂丘を赤く染め、美しくも厳しい光景が広がっている。

「一時間か……結構な距離だな」

トウマは砂漠用のマントを羽織り、歩き始める。砂漠の夕方は意外に涼しく、歩くには適した時間帯だった。

約四十分ほど歩いたところで、遠くに廃墟らしき建物が見えてきた。かつては砂漠のオアシス都市だったのか、今では風化した石造建築が点在している。

「あれが約束の場所か」

廃墟に近づくと、既に数人の人影が見えた。一人は金髪の青年。先ほど見たエドワード・ドラクールだった。そして、彼の向かいには黒いローブを纏った人物が数人立っている。

「既に相手も来ているみたいだな」

トウマは廃墟の陰に身を隠し、様子を窺う。

「それで、商品はどこにある?」

エドワードの声が夜風に乗って聞こえてくる。

「焦るな、坊や。まずは契約書の確認からだ」

黒いローブの人物が答える。低く、どこか威圧的な声だった。

「契約書?話が違うじゃないか。商品を見せてから契約の話だったはずだ」

「計画に変更があった。まず契約を結んでもらう」

「ふざけるな!」

エドワードが怒りの声を上げる。

「商品も見ずに契約なんてできるか!」

「そうか。そんなに疑うなら、取引は中止だ」

闇商人はそのまま立ち去ろうとする。それを見てエドワードは慌てた。

「ま、待ってくれ!」

「どうする?」

「……分かった。契約書を見せろ」

エドワードの声には諦めが混じっていた。明らかに相手のペースに乗せられている。

「これはマズいな」

トウマは状況を理解した。闇商人は最初から契約を結ばせることが目的で、商品は二の次なのだろう。一旦契約書にサインしてしまえば、エドワードは彼らの思うがままになってしまう可能性が高い。

「やるしかないか……」

トウマは隠れていた場所から出ると、堂々と彼らに近づいていった。

「おーい、エドワード」

「何っ?誰だお前は?」

突然の乱入者に、エドワードは驚く。

「竜牙商会から依頼を受けた冒険者だ。ちょっと話があるんだが」

「冒険者だと?一体なんの用だ?」

「君を止めに来た」

トウマの言葉に、エドワードの顔が赤くなる。

「ふざけるな!誰に頼まれたんだ!グラントか?」

「まあ、そんなところだ」

「くそっ!余計な真似を……」

エドワードは怒りに震えている。一方、闇商人たちは不穏な雰囲気を醸し出していた。

「邪魔者だな」

「始末するか?」

ローブの人物たちが物騒な会話を始める。

「おいおい、物騒だな」

トウマは苦笑いを浮かべながら、剣の柄に手をかける。

「エドワード、その契約書にサインする前に、ちょっと話を聞けよ」

「うるさい!俺の邪魔をするな!」

「君の商会のことを思って来たんだ」

「商会のことだと?笑わせるな!お前に何が分かる!」

エドワードの怒りは頂点に達していたが、トウマは冷静だった。

「君の父親のことなら、少し知ってるぞ」

「父さんを?」

エドワードの動きが止まる。

「オーガスト・ドラクール。かつて、砂漠一の商人と呼ばれた男だったな」

「……本当に知ってるのか?」

「何年か前、一度取引をしたことがある。立派な人だった」

トウマの言葉に、エドワードの表情が変わる。

「父さんと……取引を?」

「ああ。君とは違って、慎重で思慮深い人だったな」

「何だと?」

「彼ならこんなリスクの高い取引は絶対にしないだろう。『商会の看板を汚すような真似はしない』が信条だったみたいだしな」

エドワードの顔が青ざめる。

「それは……」

「君の父親なら、今の状況をどう思うだろうな?息子が正体不明の相手と怪しい契約を結ぼうとしているのを見て」

トウマの言葉が、エドワードの心に深く刺さった。彼の手が震え始める。

「俺は……俺は父さんのように……」

「父親のようになりたいなら、まず父親のやり方を学ぶべきじゃないか?」

その時、闇商人の一人が痺れを切らした。

「いい加減にしろ!」

ローブの人物がトウマに向かって魔法を放つ。しかし、トウマは軽やかにそれを避けると、瞬時に相手の懐に飛び込んだ。

「遅い」

トウマの剣がローブの人物の首元に当てられる。

「うっ……」

「他の奴らも動くなよ。次は本当に斬るからな」

トウマの琥珀色の瞳が鋭く光る。闇商人たちは身動きが取れなくなった。

「エドワード、今のうちにその契約書を見せてもらえ」

「あ、ああ……」

エドワードは震える手で契約書に目を向ける。トウマもそれを一瞥すると、苦笑いを浮かべた。

「やれやれ、これは酷いな」

契約書には、竜牙商会の全権限を闇商人側に委譲する内容が書かれていた。事実上の会社乗っ取り契約だった。

「これにサインしてたら、君の商会は完全に彼らのものになってたぞ」

「そんな……」

エドワードの顔が真っ青になる。

「手遅れにならずに済んで良かったな。まぁ、今回のことは勉強代だと思って諦めろ。それより、商会を立て直すことを考えた方がいい」

「でも、どうすれば……」

「まずは役員たちの話を聞くことからだな。彼らは君の父親の時代から商会を支えてきた人たちだ。経験も知識も豊富だろう」

エドワードは俯いて考え込む。

「俺は……間違っていたのか?」

「全部が間違いじゃない。ただ、やり方が拙速すぎただけだ」

トウマは優しく言う。

「君の父親への想いも、商会を立て直したいという気持ちも本物だ。だが、一人で背負い込む必要はない」

「一人で……」

「そうだ。君には頼れる仲間がいるだろう。君の父親だって、一人で何でもできたわけじゃない。彼らを信頼し協力し合ったからこそ、今の商会があるんだ」

エドワードの目に涙が浮かぶ。

「父さん……俺、間違ってた……」

その時、闇商人たちがそっと後退し始めた。契約が成立しないと分かって、逃げる準備をしているのだ。

「おっと、どこに行くんだ?」

トウマが声をかけると、闇商人たちは一斉に走り出した。砂漠の夜に紛れて、あっという間に姿を消してしまう。

「逃げられたか。まぁ、仕方ないな」

「すみません……俺のせいで……」

「気にするな。奴らの正体が掴めただけでも収穫だ」

そう言うとトウマは剣を鞘に収めた。

「さて、街に戻るか。グラントさんも心配してるだろう」

「はい……」

エドワードは、トウマに向き直ると深く頭を下げた。

「本当に、ありがとうございました。俺は……間違っていました」

「分かればいいさ。それより、これからが大事だぞ」

二人は廃墟を後にして、マーカントへの帰路についた。砂漠の夜空には満天の星が輝いている。

「父さんが生きていたら、俺のことをどう思うでしょうか……」

「きっと、『まだまだこれからだ』って言うんじゃないか?」

「そうですかね……」

「商売ってのは一朝一夕にはいかないものだ。君の父親だって、きっと沢山の失敗を重ねて今の地位を築いたんだろう」

「はい……そうですね」

エドワードの表情に、少しずつ希望の光が戻ってきた。

「明日から、もう一度やり直します。今度は役員のみんなと一緒に」

「それがいい。そうすればきっと道は開けるさ」

夜風が二人の頬を撫でていく。遠くに、砂上都市マーカントの灯りが見えていた。

――――――

翌日、トウマは竜牙商会を訪れた。依頼の報告をするためだ。

「本当にありがとうございました」

グラントは深々と頭を下げる。

「エドワード様も、すっかり落ち着かれて……昨夜は遅くまで我々と今後の方針について話し合われました」

「そうか。それは良かった」

「はい。まだまだ困難は多いでしょうが、きっと乗り越えられると思います」

グラントの表情は希望に満ちていた。

「こちらが報酬です」

「ありがとう」

トウマは金貨五枚を受け取る。

「また何かあったら、ギルドに連絡してくれ」

「はい。ぜひともお願いします」

竜牙商会を出たトウマは、ギルドに向かって歩いていた。

「さて、これで依頼は完了だな。ギルドに報告して、ついでに次の目的地の情報収集でもするかな」

青い空を見上げながら、トウマは呟いた。
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