僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ

文字の大きさ
8 / 21

しおりを挟む
「いつもの持ち帰りで!」
「あ、これください!」
「これとこれとこれ、三つずつ!」
「ここから全部ください!」

レンはお気に入りの食堂や屋台を周り、目星をつけていたものを買い漁ると片っ端からマジックバッグに詰め込んだ。
ホクホク顔で教会へと向かう。

教会の入口にはすでに人が集まっていた。ただ、まだ出立の準備が終わったわけではないようだ。
内心ホッとしながらも気配を消して、目的の人物に近づく。

「おはようございます」

沙織の身体がビクリと跳ね上がる。
そして、ゆっくりと振り向いた。沙織の顔を見て驚く。

「だ、大丈夫ですか?」

思わず聞いてしまうくらいに沙織の顔色は悪かった。
沙織はコクコク頷きながら、唇の端を震わせて言う。

「だ、だだだだだい、だいじょうぶでふ!」

一瞬の沈黙の後、絶望の表情を浮かべる沙織。俯いてしまった沙織にどう声をかければわからず、レンは救いを求めるように沙織の後ろにいたアメリアを見た。
けれど、アメリアは顎で『おまえがフォローしろ』とジェスチャーを送ってくる。正直、聖女がする顔ではないが今は指摘している場合ではない。

レンは意を決して、震える沙織の手をそっと握った。
すると、沙織は驚いたように顔を上げる。

レンは今にも泣き出しそうな沙織にできるだけ優しく声をかけた。
「安心してください。僕もアメリアもついていますから」

ね?と言ってアメリアに同意を促す。沙織もアメリアに視線を移した。すると、アメリアは胸を張り、ドヤ顔を浮かべる。

「当たり前でしょう。私を誰だと思っているの? 聖女であり、サオリの親友よ?! 何があっても私とレンが何とかしてみせるんだから!」 

レンはハハハと笑いながらも否定はしない。実際の所、レンとアメリアがいれば大抵のことはなんとかなるだろう。その二人の自信が沙織にも心の余裕を与えたのか、沙織の手の震えは止まった。沙織は嬉しそうに微笑んだ。

レンはもう大丈夫だろうと沙織の手を放す。後はアメリアに任せてレンは沙織から離れ、空を見上げた。
天気は良好だ。沙織の初陣にはぴったり。
そう……今日は沙織の初陣の日。最初は沙織とレンと騎士団から派遣された護衛騎士のみで討伐隊が組まれていた。
けれど、アメリアが待ったをかけた。沙織の性格を考慮して自分も一緒についていくと言い出したのだ。

形だけとはいえ王妃であるアメリアの意見。安易に却下はできない。
ただ、そうなると護衛騎士を増員しなければならない。上層部が迷っている中、レンもアメリアの意見を後押しした。この世界にまだ馴染み切れていない沙織に、万が一のことがあったらどうするのか、と言えばさすがに皆頷くしかなかった。
その結果、大所帯での討伐隊が組まれることになったのだ。

あの時は少々上層部と揉めたりして大変だったが、今日の沙織を見たら、やっぱりアメリアの提案が正解だと思う。
――――サオリ様の緊張もすっかり解けている。これなら大丈夫そうだ。

「じゃあ、そろそろ行こっか? 今日の討伐隊の隊長って誰かな?」

きょろきょろと辺りを見渡す。てっきり近くにいるものだと思っていたがそれらしき人物は見当たらない。
アメリアが眉根を寄せて口を開きかけたその時、甲高い声がレンの耳に届いた。

「ユウキ様が行くのでしたら私も行きますわ!」

面倒な予感しかしない。見たくはなかったが、見なければ始まらない。
レンは渋々視線をざわめきの中心部に向けた。
案の定、見覚えのある姿が目に入ってくる。その側にはおそらく今回の討伐隊隊長とおもわしき三番隊団長トビアス・ケートマンがいた。側には副団長のペーターもいて、こちらをちらちらと見ている。

「うーん」と唸るレン。――――出来れば行きたくない。
でも、放置してもただ時間の無駄になるだけだ。仕方なくレンは嵐の中心へと向かう。

「どうされました?」

レンの一声でいっせいに皆の視線が集まった。その視線に込められた感情はバラバラだが、騒ぎを起こしている本人のクリスティーヌはあからさまにレンへの不快感を露わにしている。

「あら、レン様」
「お久しぶりです。クリスティーヌ様。相変わらずお元気そうですね」

ニコリと笑ったレンに、クリスティーヌの片眉がピクリと上がる。
言いたいことは山ほどありそうな顔をしているが、表立ってレンと言い合うことはさすがにしない。
クリスティーヌはわざとらしくレンの上から下まで眺め、ニコリと微笑んだ。

「レン様も相変わらずですこと」

そして、隣に立っている勇気の無駄にお金をかけていそうな装備を見て満足気に微笑む。
レンはハハハと愛想笑いを返した。ちっとも悔しがる様子がないレンにクリスティーヌはつまらないと視線を逸らす。
クリスティーヌの期待に応えられなくて申し訳ないが、レンにとっては今の装備で充分。こう見えて、今身に纏っている装備は外装がシンプルなだけで機能はハイクオリティ。レン自ら素材を集めて信頼できる鍛冶屋にお願いをしたのだから間違いない。

それに、どちらにしろレンにはあまり意味がない装備代物だ。

「それで、どうされたんですか?」

レンの質問に答えたのはペーター。そっとレンに近づいて話す。

「クリスティーヌ様がユウキ様が討伐に行くなら自分も一緒にいくって言い張っているんです。隊長も自分がついているから大丈夫だと言って話を聞いてくれません」
「え?」

――――なぜ? 普段は討伐どころか狩猟大会にすら興味を示さないクリスティーヌ様が?

しかも、見たところ勇気も止める気はなさそうだ。おかげで三番隊の部下達が戸惑っている。ただでさえ、今日は護衛対象が多いというのに、これ以上増やしてどうするのか……。

少し考えた後、レンは勇気に声をかけた。

「お疲れ様です」
「ん、あ、ああ」

勇気は一瞬怯んだ顔をしたが、すぐにレンをジッと睨みつけるように見つめ返す。身長差があるので自ずとレンを見下す形になる。
勇気の視線を受けてレンは確信した。どうやら勇気はレンに対抗意識を抱いているようだ。
けれど、レンはその視線をさらりと受け流して微笑む。

「このところユウキ様はお忙しかったそうですね。今日くらいは休まれてはどうでしょうか? クリスティーヌ様をつれて」
「は? いや、俺は沙織を守らないといけないから絶対についていくぞ。俺と沙織は家族ぐるみで仲のいい幼なじみなんだ。俺にとって沙織は家族も同然。沙織を守るのは俺の役目だからな」

そう言い切った勇気。その後ろではクリスティーヌがまるでオークのような形相になっている。勇気は気付いていないようだが、周りにいる護衛達は顔を引き攣らせてそっと距離をとっている。

「確かに、ユウキ様はレン様と違って働き過ぎだわ。今日くらいコイツ……ごほん、レン様に任せて休みましょうよ。ね?」

クリスティーヌは勇気の服を引っ張りながら上目遣いでおねだりをする。先程の表情は幻かというくらいの豹変ぶり。ていよくレンに沙織を押し付けようとしたのだが、そう簡単にはいかなかった。

「ふん! こんなガキに沙織を任せられるかよ! だが、まあ……クリスティーヌが俺と離れたくないっていう気持ちもわかる。姫であるクリスティーヌを連れて行くのは俺の本意ではねえんだが……どうしてもついてくるっていうなら俺がクリスティーヌも守ってやるよ」

クリスティーヌに流し目を送る勇気。クリスティーヌはうっとりした顔で勇気を見つめているが周りはドン引きだ。寒暖差でぶるりと周囲が震える中、冷たい声が響いた。

「私のことは守らなくて結構よ。だいたい最近まで私のことなんてすっかり忘れていたくせに。今更何を言っているのよ」

呆れたように溜息を吐く沙織。もう、関わりたくないとばかりに返事を待たずに踵を返した。

「沙織?! お、俺は別に忘れていたわけじゃなくて、忙しくて連絡が取れなかっただけで……俺は本当におまえを心配してっ……」

勇気は何とか言い訳をしようとしたが沙織の足は少しも止まらない。全く勇気の話を聞く気がないのだと気づき、悔しげに顔を歪ませ、何故かレンを睨みつけた。
レンも心の中で溜息を吐きつつ、決して勇気と視線を合わせないように身体ごと向きを変えた。

言いたいことを言ってすっきりした沙織だったが、後になって少し言い過ぎたかなという気持ちも浮かんでくる。けれど、アメリアはよくやったとばかりに沙織を褒めたたえた。

「さっきのサオリかっこよかったわ!」
「ほ、本当?」
「もちろん! 聞いててスカッとしちゃった。それにユウキ様とクリスティーヌのあの顔」

プププと笑うアメリアにつられて沙織も思い出してしまい笑いが込み上げてくる。


――――――


ひとまず意見はまとまったのでレンは最終確認をする為に団長に声をかけた。それだけだというのに貴族至上主義のトビアスはレンに侮蔑の眼差しを向ける。
ただ、レンは全く気にしていない。むしろ、ペーターがずっとそわそわしていた。
事務的な会話をかわして出発を始める。
各々が動き出した隙を見計らってペーターがそっとレンに近づいた。

「うちの隊長がすみません」
「ん? ああ、気にしてないから大丈夫だよ。ペーターは真面目だなあ」

いつも通りのレンにペーターはホッとした様子で戻って行った。

元々大所帯だったがクリスティーヌも行くことになった今、馬車が二台と馬が数頭というとても討伐隊とは思えない状態になっている。

しかも、討伐の緊迫というよりは王族であるクリスティーヌの反感を買わないようにと別の緊迫感が生まれている。
第三部隊は団長と同じように貴族至上主義が多いからだろうか。第三部隊でペーターのような実力重視の者はまれなのだ。
本来、聖女につけるはずだった護衛のほとんどをクリスティーヌにつけている。しかも、クリスティーヌの希望で勇気はクリスティーヌと一緒に馬車に乗っている。実質レン一人で聖女二人を護衛している状態だ。


別にそれでもレンは二人を守り切る自信はある。ただ、何となく……嫌な予感がぬぐえなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

神眼の鑑定師~女勇者に追放されてからの成り上がり~大地の精霊に気に入られてアイテム作りで無双します

すもも太郎
ファンタジー
 伝説級勇者パーティーを首になったニースは、ギルドからも放逐されて傷心の旅に出る。  その途中で大地の精霊と運命の邂逅を果たし、精霊に認められて加護を得る。  出会った友人たちと共に成り上がり、いつの日にか国家の運命を変えるほどの傑物となって行く。  そんなニースの大活躍を知った元のパーティーが追いかけてくるが、彼らはみじめに落ちぶれて行きあっという間に立場が逆転してしまう。  大精霊の力を得た鑑定師の神眼で、透視してモンスター軍団や敵国を翻弄したり、創り出した究極のアイテムで一般兵が超人化したりします。  今にも踏み潰されそうな弱小国が超大国に打ち勝っていくサクセスストーリーです。  ※ハッピーエンドです

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

処理中です...