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1 出会ってみた
しおりを挟む今日もいつもと変わらない一日のはずだった。
毎朝の習慣である水汲みに出向き、自宅の前まで戻ってくると、見知らぬ物がそこにあった。
いや――物、ではない。
あれは……人?
この辺りでは見たこともないような極上の絹が、砂で汚れている。それは絹をまとった人が、うつ伏せで道端に倒れているからだ。
「なにこれ」
思わず心の声がもれた。
入り口の前に、その人と思われる物体が転がっているために、家に入るにはどけるか跨ぐか踏み潰すしかない。
めんどうだなと思いながら、三つの選択肢のどれでもないものを選んだ。
「あの、大丈夫ですか」
声をかけてみるが反応はない。
もしかして死んでいるのかも、なんて思って指先でつついてみると、わずかにぴくりと動いた。
死体ではないことに安堵しつつ、このままでは本当に死体になってしまいそうだったので、控えめに身体をゆすってみる。
「うう……」
すると小さく呻きながら、横に一回転して仰向けになった。
あらわれた死体もどきの顔を見て息をのむ。人とは思えないような美しい造形がそこにあった。
うっすらと光り輝く白銀の長い髪に、滑らかな白磁のような肌。日に焼けて小麦色になったわたしの肌よりもずっと白い。
道端に倒れていたせいか頬は砂で汚れていたが、美麗な整いすぎた顔立ちが、砂の存在を完全に忘れさせている。
そしてある一点に目が留まる。
左右の耳のうえ辺りから、まっしろな角が生えていた。獣人やエルフといった種族はそれほど珍しくはないが、角を有し、かつ人とほぼ変わらない姿をした種族は限られてくる。
「竜族なんて……初めてみた」
竜。最古から存在する、最強の種族。
本来の姿は鱗に覆われたトカゲのよう見た目をしているが、力の強い者は人の姿をとることができるらしい。人里に降りてくることはほとんどなく、山奥でひっそりと暮らしているか、土地の守り神として神殿に住んでいると聞いたことがある。
そんな高貴なお方が、なぜこんな道端でゴミのように倒れて……?
「あのう」
もう一度声をかけてみると、形のいい唇が少しだけ動き、掠れた声を発する。
「み……みずを」
「……ミミズ?」
竜族がミミズを食べるなんて初耳だ。ミミズを主食にするトカゲもいるらしいし、もしかして竜も似たようなものなのかも?
だとしたらこの人は、お腹が減って行き倒れて……?
「ミミズは今すぐに用意するのは難しいのですが」
「違う……水を、」
「ああなんだ、水ですか」
どうやら勘違いだったらしい。このまま死なれても困るので、先ほどバケツに汲んできた水をあげることにした。
一瞬迷って、まあいいかとそのまま手で水を掬う。この人がどいてくれないと家の中に入れないため、いまは容器がないのだから許してほしい。
「どうぞ、お水です」
口元に持っていき、お椀がわりにした自分の手を傾けて、少しずつ飲ませていく。
この村では水はとても貴重だ。雨がめったに降らず、数年前から村に唯一ある井戸が枯れかけている。干ばつの影響で作物も育たないし、食料と水不足の問題は年々深刻さを増していた。
「ん……」
すべて飲み干すのを確認して、手を引こうとする。一瞬指先が唇に触れてしまって、あっと思った時には身体中が不思議な感覚に襲われていた。
例えるなら、雷に打たれたような衝撃だろうか。指先からなにかビリビリとしたものが伝わり、そのまま心臓を痺れさせるような。
まあ、実際に雷に打たれた経験はないのだけれど。あったら死んでるし。
「なに、これ」
痛みのような不思議な感覚に身体を震わせていると、手のひらに温かい感触が。いつの間にか白くてきれいな長い指が、わたしの右手を掴んでいた。
「ひ」
反射的に手を引こうとしたが、逆に強く握り込まれる。
何が起きているのか理解が追いつかず、急に動き出した死体もどきの顔を見ると、ずっと閉じられていたまぶたがゆっくりと開かれていく最中だった。
そうして長い睫毛の下から琥珀色の透き通った瞳が顔を出し、こちらを見――……ようとして白目をむいた。
「え、あの」
身体をゆすってみるが、全く反応がない。
どう見ても完全に意識を失っている。
「……は? ちょっ……死ぬなら他のところで死んでくださいーーーーーーっっ!」
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