ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。

あけちともあき

文字の大きさ
399 / 517
年度末私のイベントもりもり編

第400話 大魔将一族、驚嘆する伝説

しおりを挟む
 イベントとやらが始まった。
 大魔将の一族は思う。
 魔王殿からの侵略を受けているのに、この世界の住人たちはどうしてこんなに呑気なことをしていられるのか?

 イベントとやらは何かの戦力を鍛える効果などは無いようにしか見えない。
 それとも、強い戦力を集めているのか?
 いや、リハーサルとやらを見たが、地の大魔将一族には普通に歌って踊ってわあわあ騒いでいるだけにしか見えなかった。

『なんぞ、これは……?』『明らかに遊んでいるだけでは?』『遊びにここまで真剣になるとは……!!』『これほど全力で遊びに挑む人類だぞ。油断できぬ……!!』

 これには、一族の中央に座す大魔将も頭を抱える。

『知らぬ世界だ……。彼らを観察するために孫を行かせたが、正解だった。これは……魔王殿の予測すら覆すとんでもない世界だぞ……』

「お祖父様、このまま見ていてよろしいのですか?」

『うむ、観察を続けよ。このこなれたイベントとやら、明らかに初めてではない……。何度もこのようなことが開催されているのだろう』

「お祖父様、なんなら以前のスーパースタンピードの時にもイベントの真っ最中で、その副次効果で……」

『副次効果でわしがやられたの!?』

『えっ!?』『眷属の力を使っていないとは言え、現地に召喚されたモンスターを徹底強化したというのに……』『確かに、あの妙な音が流れ始める前までは我らが圧倒していた……』

 その通りだ。
 あれは完全に、他の世界を制圧した流れのままだった。

 その世界の戦士たちが対応しきれぬほどの数で飽和攻撃を仕掛ける。
 これによって戦士たちの防衛網を押し切り、銃後の民間人を襲う。

 民間人さえいなくなれば、その戦争を継続することはできない。

『わしらの世界のルールを押し付けた。奴らの世界を否定し、魔法が支配する世界に変えつつある。忌まわしき火の輩じゃが、あれが行ったダメ押しは決定的なはずであった……。だが……火の輩の気配がもう無い。何者かが世界の外まで飛び出していって、あれを滅ぼしたというのか? 存在するだけで他の世界を滅ぼす怪物を』

『あっ、頭領! イベントとやらで歌が始まります!』『なんだかこう、腹の奥がざわざわしてくるな』『力が抜けていく……』

「わらわはなんだか力が漲ってくる気がするのですが」

 ステージ上では、四人の冒険配信者が歌って踊っている。
 そこに、スファトリーの師となった女が加わる。

 その瞬間、地の大魔将一族が受けるプレッシャーが増大した。

『ぐおおおおお!!』『動けぬ!』『な、なんだこれは……!』『まずいまずいまずい』『こんなものを流されて戦えるか!?』『これか! これがスタンピードを止めた歌か!!』

『ぬう……。恐るべき力よな』

 地の大魔将本人は、さすがにデバフが通用しない。
 だが、周囲の眷属が苦しんでいる様を見て、これは不味いなと呻くのだった。

『火の輩と違い、本来の戦は一人でやるものではない。わしらは数をこそ頼みとする。だが、これはその天敵と言えよう。恐るべき戦士がおるものよ……! 孫が伝えてくれた、きら星はづきとか言う……』

 その名を口にした瞬間、大魔将周辺の空間に波紋が生まれた気がした。

『いかん! この名を口にするな! 認識した段階でやつの影響下に置かれるぞ!!』

 地の大魔将はすぐに気づいた。
 スファトリーに教えを授けているあの女、その名を呼んではいけない部類だ。
 本来なら、この流れてきている歌を耳にし続けることも良くはない。

 だが……地の大魔将は疑問を抱いていた。

『スファトリー、そなた……。あの歌を聞いて力が漲ると言っていたな?』

「はい。わらわには不快なものには思えぬのですが」

『聞く者の立場に寄って、毒にもなり薬にもなるというのか……? それはつまり……我ら神の如き所業ではないか』

 大魔将とは。
 それぞれが、強大な権能を持つ神である。
 己の世界を失った彼らは、己の世界を獲るために魔王とともに征き、様々な世界を征服して己のためのものに作り変える。
 だが、それは理想とする世界にはならない。

 環境であったり、気候であったり。
 戦いによって世界そのものの寿命が尽きてしまったりもする。
 故に、彼らは戦い続けているのだ。

『……この世界は外れだ。とびきりの外れだ。大魔将の三柱が滅ぼされる世界など前代未聞ぞ……? 世界の強度が高すぎるのか? いや、あやつらは皆、世界を破壊して作り変える一歩手前まで行っていた。最後の一手を打つ時に何かがあって、一瞬で巻き返されて滅ぼされた』

 画面の向こうでは歌が終わっている。
 またミニゲームが始まった。

 大魔将の一族は、すっかりゲームのルールを理解してわいわいと楽しんでいる。
 さきほどまで、きら星はづきの歌で苦しんでいた様子など欠片もない。

『まさか、我が一族をも取り込み始めているのではあるまいな……? まずい。これはまずいぞ……。だが、全てはわしの想像に過ぎん。スファトリー、引き続き情報を集めよ』

「はい、お祖父様!」

 いいお返事だった。
 そして孫の横にきら星はづきが来て、

「スファトリーさんは来月にはデビューしなくちゃねえ」

 などとニコニコしながら言うのだ。
 この女、孫娘をどこに連れて行く気なのだ……!?
 戦慄する大魔将なのだった。
しおりを挟む
感想 189

あなたにおすすめの小説

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました

御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。 でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ! これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!

石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。 クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に! だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。 だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。 ※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...