召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき

文字の大きさ
61 / 196
スリッピー帝国編

第61話 明日の活力は洋食風のご飯から

しおりを挟む
「シュッシュッ! どうかな、かっこいいかな」

 俺はもらった魔導ネクタイを拳に巻いて、シャドーボクシングしてみる。

「んー、なんでしょう。マナビさんを見てると、全然ドンデーンさんと違うんですよね。なんででしょう。もっとヘロヘロでナヨナヨに見えます」

「腰が全然入ってないのだなー。マナビは戦う才能が全然無いのだ。ど素人なのだ」

「マスター、無理はせずにオシャレとして身につけるだけにしましょう」

 こ、この女子たちは……。
 すっかりやる気を失った俺は、魔導ネクタイを頭に巻いて宴席に参加した。

「おお、それは君の故郷のスタイルなのかね」

「ある意味そうです」

 教授が興味深そうにしていたので、適当に答えた。
 オールド・エンカイ・ブレイコウスタイルだね。

 とりあえず、女子たち満場一致で俺にはかっこよく戦うセンスがゼロということになった。
 いいもんね、もう二度と戦いの練習とかしないもんね。
 俺は素人のまま突き進んでやるぞーっ。

「スリッピー帝国の贅を凝らした料理だ。楽しんでいってもらいたい。そして、国にこれ以上の被害をもたらさないでもらいたい」

 皇帝が本音を喋った。
 うんうん、部隊一つを潰されて、工業都市では醜態を見られて、挙げ句は国のシステムを掌握されて……踏んだり蹴ったりだもんな。
 でも、ワンザブロー帝国よりマシだぞ。あの国、もう無いからな。

「ほわあああ、マナビさん、これは大変なことですよー!!」

 ルミイが衝撃に打ち震えている。
 スリッピー帝国の宮廷料理が美味いのだ。

 言うなれば……ザ・洋食屋さんのご飯みたいな料理がずらりと並んでいる。

 チキンライス、エビフライ、ハンバーグ、スパゲッティ、フライドポテト、ポテトサラダ、真っ赤なウインナー……。
 デザートには、すぐ食べられるようになった切れ込み入りのオレンジが付いてきている。

 見た目は地球の食物に似ているが、実際は違う材料で料理の名前も異なるらしい。
 味は一緒だ。
 ルミイは終始ニコニコしながら、食べ物をパクパクやっていた。

「そんなに食べまくってると、またムチムチになるぞ」

「あ、そうですよねえ。ママは、たくさん食べてムチムチしてきたら、エネルギーが溜まってるので思いっきり魔法を使うか、赤ちゃんを作っちゃうって言ってました」

「赤ちゃんを!?」

 衝撃のあまり、座ったまま椅子ごと飛び上がる俺である。

「では俺と──」

「わたしはママがご飯食べまくってムチムチしてた時にパパと出会って、そのままムラムラっと来て作っちゃった子なんだそうです! なんかママ、パパとすっごく相性が良かったみたいでそれからずっといっしょですね!」

「ちょっと待つのだルミイ! マナビが何か言いかけてたのだ!」

「今のは触れないであげるのが優しさかと思われます」

 そうだぞ。
 カオルン、俺の発言はスルーしろ。アカネルが正しいぞ。

 くそー、まだルミイの中の好感度が上がりきって無いのか……。
 というかこのむちむちハーフエルフ、どうやったら好感度アップできるんだ……?

 どうやら言葉に出ていたらしく、俺のポケットからアカネルが囁いてきた。

「彼女は天然なので、既にマスターに対する好意は極めて高くなっているものと思われますが、本人が自覚していません。押して押して押しまくりましょう」

「そうか! アカネルは頼れるなあ」

「お二人の冒険をずっと見てきましたから」

「で、アカネルは飯食わないわけ?」

「当機能はアカシックレコードから直接エネルギーを供給されて活動していますので」

「食べないのか」

「ご希望とあらばご相伴に与りますが」

「よし、一緒に食おう」

「了解しました」

 アカネルは俺の胸ポケットから、ぴょーんと飛び出してくる。
 デフォルメされたようなその姿が、隣の席に飛び降りた瞬間、ピカッと光って人間に変わった。

「あっ」

「あっ」

 皇帝や取り巻きたち、そして教授が驚きの声をあげる。

「おおー、不思議な技なのだ!」

「お料理美味しいですー! 幸せー!」

 カオルンも驚き、若干一名は全く反応しない。
 ルミイ、大物だな……。

「ではいただきます。スパゲッティとハンバーグとエビフライとフライドポテトを」

「外見通り、食べ盛りの女子高生みたいな好みだ」

 アカネルはフォーク一本を自在に扱い、料理をむっしゃむっしゃと食べたのである。

 ちなみにスリッピー帝国の食事が基本的にどれもガッツリ飯なのは、魔法工業が盛んなガテン系の国でもあるかららしい。
 体が資本なんだな。

「それでマナビくん、君は次はどこに行くのかね? 私は国境線までは見送りに行こう」

 先に食事を終えた教授が、口元をナプキンで拭いながら聞いてくる。

「そうだなあ。フィフスエレ帝国だと思う。あそこはバーバリアンの里とも交流があるらしいし、いよいよルミイを送り届けられるだろ」

「ほう、魔獣の国フィフスエレか! 興味深い。魔法文明時代にありながら、高い知性を持つ魔獣達をモンスターではないとし、帝国民として迎え入れた国だ。かつてスリッピー帝国が蛮族の国だと言って攻め込んだが、魔法使いと魔獣の連携によって敗れ去った歴史が……」

「師よ!」

 皇帝がそれ以上喋るな、と釘を差してきた。
 国の恥ずかしい歴史なんだな。

 教授、ニヤリと笑う。

「君なら平気だとは思うが、油断はするなよ。かの国は理屈ではない。フィーリングが何よりも重要視される」

「おう、覚えとく!」

「それで君はいつ出国するのだね?」

「うーん、一日休んで明後日かな」

 俺の言葉に、皇帝と取り巻きたちがあからさまにホッとするのが分かった。
 厄介者が出ていってくれると思ってるのだろうな。

 まあ、俺としても色々あったが、この国は滅ぼすほどでもない。
 いい人もたくさんいたし、異世界は捨てたもんじゃないと認識させてくれた。

 気持ちよく旅立とうではないか。

「で、泊まるための部屋だが……。男女別々はやめてもらえると……」

「そうしようそうしよう」

 すぐに皇帝が受け入れてくれた。
 やったー!!

 俺のテンションは絶頂なんである。
 俺は下心でしか動いてないからな!
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

【完結】腹ペコ貴族のスキルは「種」でした

シマセイ
ファンタジー
スキルが全てを決める世界。 下級貴族の少年アレンが授かったのは、植物の種しか生み出せない、役立たずの『種』スキルだった。 『種クズ』と周りから嘲笑されても、超がつくほど呑気で食いしん坊なアレンはどこ吹く風。 今日もスキルで出した木の実をおやつに、マイペースな学院生活を送る。 これは、誰もがクズスキルと笑うその力に、世界の常識を覆すほどの秘密が隠されているとは露ほども知らない、一人の少年が繰り広げる面白おかしい学院ファンタジー!

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

処理中です...