召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき

文字の大きさ
166 / 196
終末の王編

第166話 対ありからのUターン

しおりを挟む
「呆然として見ていました」

「謎の戦いだったのだなー」

「二人とも死の線が見えないんだもの。絶対やり合いたくないね……。これってつまり、運命を捻じ曲げてくるレベルの実力者が二人いるってことだよ」

 アカネル、カオルン、ナルカがため息をついている。
 眼の前でよく分からんものを見せられたからだろう。

 俺と達人はすっかり打ち解けた。

「正直、俺としては何度でも対戦して実力を確かめ合いたいところだが、これはゲームではなく現実だ。下手をするとどちらかが死ぬ」

「達人の口からまともなセリフが飛び出してきたぞ」

「なので魔導王を倒したら存分にやり合おう」

「やはりまともではなかった」

 まあ、そのうち安全に戦える手段を見つけたらやっても構わないんじゃないか。
 面倒だし、俺に何かメリットがあるとも思えないが……達人へのご褒美として付き合ってやるのもよかろう。

 俺からして、コンボの達人はもう身内判定なのである。

「それはそうと達人よ」

「なんだ」

「エリイはどうなんだ。ちょっとしか知らない俺から見てもいい女だぞ。めちゃくちゃいい女だ」

「うおーっ」

 達人がぐねぐねと身悶えした。
 反応に困っているな。
 俺がニヤニヤしていると、駆け寄ってきたアカネルとカオルンが俺のお尻をペチンと叩いた。

「ウグワーッなんだなんだ」

「マスターから浮気の気配を感じました!」

「ナルカまでで止めるのだー!」

「浮気しないよしないよ」

 今は城壁の上にある通路にいるのだが、その縁まで追い詰められてしまった。
 二人ともすごい迫力だ。

「女は怖いなあ」

 コンボの達人が呟く。
 こいつ、とにかくめちゃくちゃに女性が苦手なんだな。

「いいか二人とも。俺はな、身内判定した人間を誰かとくっつけるのが好きなんだ。だからコンボの達人とエリイをくっつけられないかという話をだな」

「あ、そういうことでしたか。確かにマスターはカプ厨なところがあります」

「アカネル、カプ厨ってなんなのだ?」

 カオルンが知らぬ言語に興味を示したようだ。

「なんでもかんでもカップルにしてしまおうとする人のことですよ。マスターの力で、オクタゴンとガガンはパートナーを見つけてカップルになったでしょう」

「おおーっ、確かにそうなのだー!」

 納得のカオルンなのだった。
 そんな知識を得ても何の役にも立たんぞ……。

 俺たちはルミイとエリイのところに行くべく、城壁内の階段を使って地上へ降りる。
 その途中で、達人と色々話をするのである。

「いいか達人。副交感神経が働いていないと、俺たちの愚息はおっきしないんだ。つまり今のお前のようにガチガチだといざ行為をする時にふにゃふにゃになる……」

「詳しいなあ……!」

「慣れるしかない! いや、そっちの趣味が無いなら無理は言わないが。マイノリチー的な性癖をお持ちだったりしない?」

「俺は至ってノーマルだ。格ゲーの女キャラのエロ同人とかたくさん持ってた」

「そうか! そうすると、エリイなんか実体化した格ゲーの女性キャラみたいなもんではないか」

「ゲームキャラはぐいぐい来ない……」

「面倒くさい男だな」

 こいつ、オクタゴンを凌ぐ超弩級の陰キャだぞ。
 だが、そんなストイックな陰キャだったからこそ世界最強まで上り詰めたとも言える。

 この世界に存在する妻帯者や陽キャで、こいつに勝てるやつは俺以外おるまい。
 魔導王はなんか一人だけっぽいから、陰キャとカウントしておく。

「別に取って食われるわけではない。エリイは気が早いのですぐにお前を押し倒してくるだろうが、そこは躱しながらちょっとずつ慣れていけ。慣れだ、慣れ! こっちの世界での行為、明らかに俺たちのいた現実と快楽度合いが違うぞ」

「そんなところまで研究してたのか……。恐ろしい男だ」

 そっち方面に関しては、恐れに満ちた目を向けてくるコンボの達人なのであった。

 こうして井戸端に到着。
 ここは魔法の井戸なので、汲み上げられる水が自動的に浄化される。

 周囲には袋などが散乱しているが、これはなにか。

「マスター、これは蛮族が使った毒です。井戸に毒を投げ込むことで、飲用水を使えないようにし、この都市を攻めようとしたようです。ですが井戸に浄化の魔法が掛かっていたので、全ての毒が消えて美味しい飲水になっています」

「魔法強いなあ」

 井戸水で戻した食料を、もりもり食べているルミイとエリイ。
 二人ともよく食うなあ。

 食べながらの会話内容は、男談義なのだ。
 エリイが今までの男がいかにヘタレだったかをまくし立てている。

「男としては魅力的でも、腕っぷしが全然で魔獣が裏切ったらお漏らしして泣き叫ぶのよ? ありえない! その場で頭を蹴ってふっ飛ばしてサッカーボールにしちゃった」

 怖いトークしてるなあ。
 エリイが学習したのは、平時の性的魅力ではなく、こういう異常事態で強さを発揮するタイプの方が好ましいということだろうか。

「マナビさんはですねー。普段から大胆不敵で、いかにして相手に舐められるかばかり考えてて、舐められると嬉しそうに大義名分を見つけたみたいな顔で、叩き潰すんですよー。性格は最悪ですけどすごく頼りになってですねー」

「いいなあ。ちょうだいよー」

「だめです! 姉さんだってこれは戦争ですよー!!」

 姉妹が大変仲良しだ。
 これを見て、コンボの達人が震え上がった。

「怖い」

「怖くないって。いかん、これは時間を掛けて慣れさせていかねばならんやつだ……!!」

 手間が掛かるぞ!

 ひとまず達人は仲間にした。
 バギーの後部座席に、達人、エリイ、カオルン。
 運転席にぶうぶう言うルミイ、助手席はナビゲーターのアカネル。

 俺の後ろにナルカ。

「またあたいがマナビの後ろなのかい!? そ、その、しがみついているのは照れくさくて……。あたいがラバーの手綱を握っちゃいけないのかい?」

「ラバーは俺のことが大好きだからな……。俺がこうして導いてやったほうが喜ぶんだ。なあラバー」

「ぶるるー」

 ラバーが俺に顔を近づけて、すりすりしてくるのだ。
 痛い痛い、鎧が当たってる。

 そして俺たちはUターン。
 ツーブロッカー帝国、フォーホース帝国を縦断するルートに入る。
 目指すはイースマスだ。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

【完結】腹ペコ貴族のスキルは「種」でした

シマセイ
ファンタジー
スキルが全てを決める世界。 下級貴族の少年アレンが授かったのは、植物の種しか生み出せない、役立たずの『種』スキルだった。 『種クズ』と周りから嘲笑されても、超がつくほど呑気で食いしん坊なアレンはどこ吹く風。 今日もスキルで出した木の実をおやつに、マイペースな学院生活を送る。 これは、誰もがクズスキルと笑うその力に、世界の常識を覆すほどの秘密が隠されているとは露ほども知らない、一人の少年が繰り広げる面白おかしい学院ファンタジー!

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

処理中です...