12 / 337
5・新人面接手伝い
第12話 三人の面接官
しおりを挟む
下町、商業地区の冒険者ギルドを総動員した半グレ掃討作戦は成功を収めたらしい。
盗賊ギルドの全面協力が強かった。
どうやら、盗賊ギルド内には数名の間者が入り込んでいたようで、彼らも一掃された。
半グレは言うなれば、盗賊ギルドに所属できないような、最低限のルールも守れない底辺の犯罪者やギルドに届け出ずに犯罪を行っているもぐりだったりする。
彼らを組織化しようという人物が現れて今回のような事件を起こしたそうだが……。
「みんな盗賊神の治める地獄に送ってやった」
緑色のバンダナの人が、事もなげに言った。
ゴールド級冒険者のアーガイルさんだ。
盗賊ギルドの幹部でもあるらしいのだが……。
今は乾き物をつまみつつ、酒を少し口にしては実に不味そうな顔をしている。
ところで、どうして安楽椅子冒険者と同席しているんだろう……?
僕の疑問をアーガイルさんは感じ取ったらしい。
「おい、このお人はな。かつてアーランを襲ったレッサードラゴンをただ一人で退治し、それ以降、この国に守り神として住み着いた大魔法使い様なんだぞ」
「うっわ、目がマジだ」
このゴールド級、本気でリップルを尊敬してるぞ。
「なんだその顔は。まさかお前……リップルさんを舐めてるんじゃないだろうな……? いくら油使いのナザルと言えど、許せることと許せねえことがあるぞ……!」
「はっはっは、モテる女はつらいねえー」
リップル、これはモテじゃないから。
そしてアーガイルさんはマスターが出してきた酒を飲んで、また悲しそうな顔をした。
「なんでここの酒はこんなに不味いんだ……」
「やる気がないからです」
マスターが身も蓋もない事を言った。
そうだね。
マスターの店はお茶が美味しい酒場だもんね。
ということで、結局僕とリップルとアーガイルさんで、並んでお茶を飲むという奇妙な光景が広がることになった。
異様な雰囲気なので誰も近づいてこないのだが。
一人、勇気ある人物が話しかけてきた。
「あのう」
誰あろう、いつも受付にいる、おさげの受付嬢だ。
「ナザルさん、実はお仕事をお願いしたくてですね」
「はいはい。この季節のお願いということは……今年もあれだね?」
「はい。春先ということで田舎から上京してきた新人の面接のお手伝いをお願いします」
「油使い、そんな事を毎年やっていたのか……」
「ええ。ベテランカッパー級ですからね」
「自慢できないだろそれは……」
アーガイルさんは色々常識人だな。
結局、アーガイルさんは半グレの件を片付けた手柄を得たことで、ちょっとした休日なんかの裁量権を得たそうで。
「俺も休みを利用して参加しよう」
「えっ、ゴールド級のアーガイルさんが!?」
驚くおさげの受付嬢。
「なんだなんだ、なんだか楽しそうに見えてきたじゃないか。私も参加するぞ」
「えっ、安楽椅子冒険者を名乗る人が!?」
驚くおさげの受付嬢。
一瞬うんうん頷いたリップルは、すぐにムキーッと怒った。
「なんで私はプラチナ級って言わないんだー!!」
それが人徳というものだぞリップル。
さて、冒険者ギルドの新人面接だが。
基本的に、ギルドはやって来た全ての人間を受け入れる。
新人は全てアイアン級となり、そこから冒険者として食べていけるカッパー級を目指すことになるのだ。
面接は、下町地区、商業地区のどちらに配置するかを決定するものだ。
新人の八割は食べていけなくて、冒険をやめてアーランで日雇いの仕事を始めるか、無茶して死ぬ。
無事に里帰りできるのが一割くらいか。
周辺の田舎からは、アーランは若者を吸い込んで帰さない蟻地獄と呼ばれたりもしている。
畑を継げなかった次男坊以下が出ていって、そのうち九割は永遠に戻ってこないんだもんね。
冒険者、そう考えると危険な仕事だなあ。
ちなみに、商業地区だとちょっとしたお使いや短距離の護衛などの仕事が多い。
安全そうでしょう?
お使いと護衛失敗すると、罰金が発生することがあるのね。
下町の方が、命の危険はあるけど金銭的には安全だから。
金は命より重い。
それが、アイアン級冒険者なのだ……!
ということで、僕の仕事は、中途半端な気分で冒険者になろうとする若者を脅し、怖がらせ、辞退させることである!
これを聞いて、アーガイルさんもリップルも悪い笑みを浮かべた。
どうやら僕らはご同輩だったらしい。
「お、お、お手柔らかにお願いしますね? 素晴らしい才能がある方もいるかも知れませんし、その方が辞退したらギルドの損失ですから……!」
あわわわわ、と震えるおさげの受付嬢なのだった。
今回の冒険者ギルド新人面接は、面接官にビッグゲストを迎えて開催されるということで、ちょっとした話題になった。
このギルドには、僕が面接した冒険者も何人かいるからね。
「ナザルさんがめっちゃ脅してくるけど、そんなん嘘やろって思ってアイアン級になったら一通り経験したからなあ」
「まあまあ誇張だったけど、ちょいちょい誇張の中に洒落にならない真実が混じってるんだよな」
「たちが悪いわよね、ナザルさんの脅し。バカにしてると死ぬけど、真に受けると動けなくなるもんね……」
「僕は君たちの新たな人生が順調な滑り出しを迎えるよう、足元に油をまいてあげたんだよ……」
「スリップして死ぬやつ!!」
「お陰でバランス感覚身につけて未だに生きてるわ」
良かった良かった。
今回も、こういう有望な若者たちを迎え入れたいところだ。
盗賊ギルドの全面協力が強かった。
どうやら、盗賊ギルド内には数名の間者が入り込んでいたようで、彼らも一掃された。
半グレは言うなれば、盗賊ギルドに所属できないような、最低限のルールも守れない底辺の犯罪者やギルドに届け出ずに犯罪を行っているもぐりだったりする。
彼らを組織化しようという人物が現れて今回のような事件を起こしたそうだが……。
「みんな盗賊神の治める地獄に送ってやった」
緑色のバンダナの人が、事もなげに言った。
ゴールド級冒険者のアーガイルさんだ。
盗賊ギルドの幹部でもあるらしいのだが……。
今は乾き物をつまみつつ、酒を少し口にしては実に不味そうな顔をしている。
ところで、どうして安楽椅子冒険者と同席しているんだろう……?
僕の疑問をアーガイルさんは感じ取ったらしい。
「おい、このお人はな。かつてアーランを襲ったレッサードラゴンをただ一人で退治し、それ以降、この国に守り神として住み着いた大魔法使い様なんだぞ」
「うっわ、目がマジだ」
このゴールド級、本気でリップルを尊敬してるぞ。
「なんだその顔は。まさかお前……リップルさんを舐めてるんじゃないだろうな……? いくら油使いのナザルと言えど、許せることと許せねえことがあるぞ……!」
「はっはっは、モテる女はつらいねえー」
リップル、これはモテじゃないから。
そしてアーガイルさんはマスターが出してきた酒を飲んで、また悲しそうな顔をした。
「なんでここの酒はこんなに不味いんだ……」
「やる気がないからです」
マスターが身も蓋もない事を言った。
そうだね。
マスターの店はお茶が美味しい酒場だもんね。
ということで、結局僕とリップルとアーガイルさんで、並んでお茶を飲むという奇妙な光景が広がることになった。
異様な雰囲気なので誰も近づいてこないのだが。
一人、勇気ある人物が話しかけてきた。
「あのう」
誰あろう、いつも受付にいる、おさげの受付嬢だ。
「ナザルさん、実はお仕事をお願いしたくてですね」
「はいはい。この季節のお願いということは……今年もあれだね?」
「はい。春先ということで田舎から上京してきた新人の面接のお手伝いをお願いします」
「油使い、そんな事を毎年やっていたのか……」
「ええ。ベテランカッパー級ですからね」
「自慢できないだろそれは……」
アーガイルさんは色々常識人だな。
結局、アーガイルさんは半グレの件を片付けた手柄を得たことで、ちょっとした休日なんかの裁量権を得たそうで。
「俺も休みを利用して参加しよう」
「えっ、ゴールド級のアーガイルさんが!?」
驚くおさげの受付嬢。
「なんだなんだ、なんだか楽しそうに見えてきたじゃないか。私も参加するぞ」
「えっ、安楽椅子冒険者を名乗る人が!?」
驚くおさげの受付嬢。
一瞬うんうん頷いたリップルは、すぐにムキーッと怒った。
「なんで私はプラチナ級って言わないんだー!!」
それが人徳というものだぞリップル。
さて、冒険者ギルドの新人面接だが。
基本的に、ギルドはやって来た全ての人間を受け入れる。
新人は全てアイアン級となり、そこから冒険者として食べていけるカッパー級を目指すことになるのだ。
面接は、下町地区、商業地区のどちらに配置するかを決定するものだ。
新人の八割は食べていけなくて、冒険をやめてアーランで日雇いの仕事を始めるか、無茶して死ぬ。
無事に里帰りできるのが一割くらいか。
周辺の田舎からは、アーランは若者を吸い込んで帰さない蟻地獄と呼ばれたりもしている。
畑を継げなかった次男坊以下が出ていって、そのうち九割は永遠に戻ってこないんだもんね。
冒険者、そう考えると危険な仕事だなあ。
ちなみに、商業地区だとちょっとしたお使いや短距離の護衛などの仕事が多い。
安全そうでしょう?
お使いと護衛失敗すると、罰金が発生することがあるのね。
下町の方が、命の危険はあるけど金銭的には安全だから。
金は命より重い。
それが、アイアン級冒険者なのだ……!
ということで、僕の仕事は、中途半端な気分で冒険者になろうとする若者を脅し、怖がらせ、辞退させることである!
これを聞いて、アーガイルさんもリップルも悪い笑みを浮かべた。
どうやら僕らはご同輩だったらしい。
「お、お、お手柔らかにお願いしますね? 素晴らしい才能がある方もいるかも知れませんし、その方が辞退したらギルドの損失ですから……!」
あわわわわ、と震えるおさげの受付嬢なのだった。
今回の冒険者ギルド新人面接は、面接官にビッグゲストを迎えて開催されるということで、ちょっとした話題になった。
このギルドには、僕が面接した冒険者も何人かいるからね。
「ナザルさんがめっちゃ脅してくるけど、そんなん嘘やろって思ってアイアン級になったら一通り経験したからなあ」
「まあまあ誇張だったけど、ちょいちょい誇張の中に洒落にならない真実が混じってるんだよな」
「たちが悪いわよね、ナザルさんの脅し。バカにしてると死ぬけど、真に受けると動けなくなるもんね……」
「僕は君たちの新たな人生が順調な滑り出しを迎えるよう、足元に油をまいてあげたんだよ……」
「スリップして死ぬやつ!!」
「お陰でバランス感覚身につけて未だに生きてるわ」
良かった良かった。
今回も、こういう有望な若者たちを迎え入れたいところだ。
43
あなたにおすすめの小説
ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。
あけちともあき
ファンタジー
冴えない高校生女子、きら星はづき(配信ネーム)。
彼女は陰キャな自分を変えるため、今巷で話題のダンジョン配信をしようと思い立つ。
初配信の同接はわずか3人。
しかしその配信でゴボウを使ってゴブリンを撃退した切り抜き動画が作られ、はづきはSNSのトレンドに。
はづきのチャンネルの登録者数は増え、有名冒険配信会社の所属配信者と偶然コラボしたことで、さらにはづきの名前は知れ渡る。
ついには超有名配信者に言及されるほどにまで名前が広がるが、そこから逆恨みした超有名配信者のガチ恋勢により、あわやダンジョン内でアカウントBANに。
だが、そこから華麗に復活した姿が、今までで最高のバズりを引き起こす。
増え続ける登録者数と、留まる事を知らない同接の増加。
ついには、親しくなった有名会社の配信者の本格デビュー配信に呼ばれ、正式にコラボ。
トップ配信者への道をひた走ることになってしまったはづき。
そこへ、おバカな迷惑系アワチューバーが引き起こしたモンスタースタンピード、『ダンジョンハザード』がおそいかかり……。
これまで培ったコネと、大量の同接の力ではづきはこれを鎮圧することになる。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる