俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
15 / 337
6・助っ人依頼

第15話 ゴブリンの退治と考察

しおりを挟む
 マスダ村遊撃隊とともに、串に刺した鹿フライを食べながら行くのである。

「ナザルさん、俺らもっと、ゴブリン退治はヤバい感じだと思ってたんですけど……。分布図にゴブリン寄せのお香にお弁当まで……」

「ぶっちゃけピクニック気分になってますよ」

「ああ、気負う必要はないよ。同時に、油断はしないでおいた方がいい。自然体で行こう。ゴブリンの行動プログラムは決まっているからね」

「ぷろぐらむ……?」

「この世界のゴブリンは、魔法や装置で生み出される魔力ロボットみたいなものなんだけど……うーん、説明が難しいな」

 僕は、リップルが魔法でゴブリンを召喚して使役するのを見て、疑問に感じたことがある。
 魔法で呼び出されるゴブリンは召喚されるのか?
 それとも、作り出されるのか?

 どうやら後者らしい。
 リップルは好みの形のゴブリンをデザインし、その場に作り出しているのだ。

 その他、密林に時折発生するゴブリンの群れを追っていくと、大抵がリーダー格のゴブリンシャーマン、ホブゴブリン、稀にゴブリンキングがいて、他は全てクローンのように全く同じ姿のゴブリンだけなのだ。
 なお、ゴブリンには性別がない。
 生殖器が存在しない。
 これは彼らが生殖で増える存在ではないことを現しているのだ。

 ……という持論を話そうと思ったけど、難しそうだからやめておいた。

「ゴブリンはこの香に寄せられてくる習性があり、近くに他の生物がいないと香の周りをぐるぐる回り続けるんだ」

「へえー!」

「知らなかった……」

「ゴブリンに見つからないようにずっと観察してるとかないですもんね」

「ああ、これも全て僕がソロで、まあまあ暇を持て余してる時があるからできることなんだ。ゴブリンの動きを1日中物陰から眺め続けている……」

「暇人……」

 ソロはね、自分が最低限食っていければそれでいいから、仕事をしたくない時はそうやって日がな一日時間を潰していたりできるのだ。
 その結果、僕の中には多くの知見が溜まっていくのだ。

 前世の知識と経験は現実社会で活用できるが、こうして趣味で広めた知見は冒険で活用できる。
 人生に無駄なものなどない……!

 ということで、実際に活かしていってみよう。
 僕は油を噴霧し、火を付けた。
 ここに香をくべる。

「森の中で火を使っていいんすか!?」

「ああ。燃え広がりそうなら油を回収するから大丈夫。それに密林は湿度が高いからね」

 香を焚くと、虫や獣が遠ざかり、ゴブリンが集まってくる。
 僕がここで活躍してもいいが、その辺りの戦闘は遊撃隊に任せるべきだろう。

 そして本日は予備の油を持ってきてある。
 僕の油使いは、油と魔力の交換である。
 つまり……市販の油が魔力になり、これをまた油に変えられる。

 使用した分の魔力をすぐに補充した。
 遊撃隊を連れて、木々の影に隠れる。

『ギャッギャッ』『ギャギャア』

 ゴブリンがやって来た。
 集団だ。

 めいめい勝手に動いているように見えて、よく見ると実は3パターンしか動きがない。
 これがゴブリンロボット説の理由の一つだ。

 稀にエラーが起きて、群れからはぐれるゴブリンがいる。
 そういうのを村の若い衆がやっつけて自信を付け、冒険者になったりするのだが……。
 エラーが起きてるゴブリンは本当に弱いので、この間の面接では本物とやってもらったわけだ。

 そして今回のゴブリンの中で、自由意志に近いものを持っているのはただ一体。

「ゴブリンシャーマンはいないな。このゴブリンたちを幾ら相手にしても無駄だ」

 僕は遊撃隊に告げる。
 彼らは頷き、木々の間を音をなるべく立てぬよう、ゆっくりと移動する。
 ゴブリンがやって来た方角に向かって遡る。

 バキバキと枝が音を立てそうだが、そこは僕が油をぬるりと発して、茂みをヌルヌルと移動するのだ。 
 遊撃隊が油まみれで泣きそうになっている。
 堪えろ……!!

 森はネットリとして、乾いた音を一切立てない。
 油バンザイ。

 やがて、森の先でじっと香の辺りを見据える影が見つかった。
 ボロボロのローブを纏ったゴブリンだ。
 これがゴブリンシャーマン。

 シルバー級の魔法使いに匹敵する魔法を使う、ゴブリンの上位種なのだ。
 どうやら風の魔法を使い、周囲を警戒していたらしい。
 ちょっと先に行ったタロスが勘付かれた。

『ギィーッ!!』

 ゴブリンシャーマンが警戒の声を上げる……!

 ここで、僕はゴブリンシャーマンに向けて油を霧状に噴射した。

 さらに振り返り、ゴブリンたちの方角に向けて地面をたっぷりとした油で覆う。
 やれやれ、これで本日分の魔力は切れた。

「ナザルさん! 俺たち行きます!」

「ああ、魔法に気をつけて」

「はい!」

 盾を構えて、走っていくタロスとゴサック。
 盾は木製だから、石の魔法などをぶつけられたらいちころだろう。
 普段なら。

 案の定、ゴブリンシャーマンは木の盾を撃ち抜くべく、石弾投射の魔法を使った。
 ゴブリンシャーマンの腰の袋から飛び出した石の弾丸が、回転しながら飛来する……!

 そこに、油がたっぷり噴霧されていた。
 ねっとりと油に包まれた石弾が、やはり森を突っ切った時に油まみれになっていた盾の表面をヌルーリと滑っていく。

『ギィィ!?』

 驚愕するゴブリンシャーマン。
 僕らの背後からは、ゴブリンたちがバタバタ走ってくる。
 だが、彼らは僕が張った油地帯に入り込み、つるんと滑って転ぶ。

 前の者が転ぶと、そこに引っかかって後ろのも転ぶ。
 また後ろも転び……。
 立ち上がろうとして転び、這い進もうとした者の頭に転ぶ者がいて、大混乱になる。

 そもそも、ゴブリンは油でつるつるになった場所で転倒するというケースが想定されていないらしい。
 何度か僕が試して分かった結果だ。

 彼らは油地帯で転ばせると、そこでスタックする。

「ゴブリンがやってこない! 今だ!」

 ヤースケが叫び、ゴブリンシャーマンの背後に回り込みながら石を投げつける。
 石もまた油でヌルリとなっているが、シャーマンの気を引く力はある。

『ギィィーっ! ギッ、ギギィッ!!』

 ゴブリンシャーマン、お次はとっておきの魔法を使う気になったようだ。
 それは、爆裂火球。
 まともに命中すれば、腕の一本も吹き飛ぶようなとんでもない威力の魔法だ。

 ゴブリンシャーマンは優秀な魔法使いだが、やはりゴブリンなのだ。
 周囲の空気が油まみれになっているという想定ができない。
 反射的に、ヤースケを攻撃しようと爆裂火球を生み出し……。

 それがシャーマンを取り囲む油に発火し、燃え上がった。

『ギャギャギャー!?』

 ここで、遊撃隊は素早く後ろに下がり、ひたすら石を投げつける。
 偉いぞ。
 油まみれの君たちが突っ込んだら燃え上がって大やけどだ。

 やがて、炎に包まれ、石を何発かぶつけられたゴブリンシャーマンが、崩れ落ちていった。
 それと同時に、司令塔を失ったゴブリンたちがバタバタとめいめい勝手に動き始める。

 僕はあれを逃走モードと呼んでいる。
 とにかく逃げて逃げて、新しい指揮ユニットのところに向かう行動だ。

「よし、遊撃隊、逃げるゴブリンを追いかけろ!」

「うす!」「おっす!」「よっしゃ!」

 三人が走った。
 僕は三人の体から油を吸い上げて、魔力を補充しておく。

 あとはもう、油から立ち上がろうとするゴブリンを倒すだけだ。
 彼らの動きはなかなか洗練されている。
 三人でのコンビネーションに特化しているのだろう。

 これなら、次からは僕の油がなくても上手くやるかも知れない。
 頑張ってほしい。
 そしてまた困った時、何でも屋のナザルに高い報酬で依頼してきて欲しい……!

 心からそう願うのだった。
 依頼人はこうして育てるのだ。
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。

あけちともあき
ファンタジー
冴えない高校生女子、きら星はづき(配信ネーム)。 彼女は陰キャな自分を変えるため、今巷で話題のダンジョン配信をしようと思い立つ。 初配信の同接はわずか3人。 しかしその配信でゴボウを使ってゴブリンを撃退した切り抜き動画が作られ、はづきはSNSのトレンドに。 はづきのチャンネルの登録者数は増え、有名冒険配信会社の所属配信者と偶然コラボしたことで、さらにはづきの名前は知れ渡る。 ついには超有名配信者に言及されるほどにまで名前が広がるが、そこから逆恨みした超有名配信者のガチ恋勢により、あわやダンジョン内でアカウントBANに。 だが、そこから華麗に復活した姿が、今までで最高のバズりを引き起こす。 増え続ける登録者数と、留まる事を知らない同接の増加。 ついには、親しくなった有名会社の配信者の本格デビュー配信に呼ばれ、正式にコラボ。 トップ配信者への道をひた走ることになってしまったはづき。 そこへ、おバカな迷惑系アワチューバーが引き起こしたモンスタースタンピード、『ダンジョンハザード』がおそいかかり……。 これまで培ったコネと、大量の同接の力ではづきはこれを鎮圧することになる。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

処理中です...