俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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7・ポテト・ウォー

第16話 芋泥棒を許すな

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「ほう? 芋泥棒が!? やりましょう」

 そう言うことになった。
 カッパー級あてに来た依頼だ。
 これを僕がサクッと受注した。

 一人で向かうのも何である、
 暇そうなのが酒場にいる。連れて行くのもいいだろう。

「安楽椅子冒険者ー」

「えっ、なんで私?」

 リップルがキョトンとする。

「あまり椅子にしがみついていると、尻に根っこが生えちゃうぞ。芋の採りたてを揚げてやるから」

「取りたて揚げたての揚げ芋かい!? 行く行く!!」

 よし、釣れた。

 僕とリップルでこの件はどうにかすることになった。
 芋は大事である。
 なぜなら揚げられるからだ。

 揚げた芋は美味い。
 だが、ただ揚げるだけではない。
 カットの仕方によって揚げ芋の美味さが違う……。

「刮目せよ、リップル……」

「そこまでかい!? では期待しておく!」

 僕としても、揚げ芋を食べたリップルのリアクションが楽しみで誘ったみたいなところはある。

 僕たちは農場へ向かう。
 そして農場主と状況の相談などをした。

「芋泥棒は夜に来る。姿は見えないが……多分人間の仕業だと思う。足跡は人間のものしかない」

「なるほど……」

 昼間ならば、農場で働いている農夫たちが発見することだろう。
 ここは大農場であり、多くの農夫たちを雇って働かせている。
 夜間にやって来る人間が犯人だと見るのが自然だろう。

 この農場は、食料に関しては自給自足が可能なので、そこは金が掛かっていない。
 農夫たちは己が生産する野菜に誇りを持っており、泥棒が出たらみんなで棒で叩くのである。
 だから、泥棒は農夫がいない夜を狙う。

「夜間は警備のために犬を走らせていたんだが、それがやられてな」

「犬が!?」

 農場で可愛がられていた犬がいて、それが殺されたらしい。
 まるで地上で溺れ死んだような死に方だったとか。

 それは罪深い。
 犬が殺されたと聞くと、実に胸が痛む……。

 さて、ここで聴き込んだ詳しい事情をまとめていこう。

 数日前から、芋泥棒が毎晩現れるようになった。
 奴らは芋をごっそり掘り返して持って行く。

 すぐさま警備をつけたのだが、犬は殺され、夜通し見張っていた農夫は何者かに襲われて大怪我をしたのだそうだ。
 これはプロの犯行であろうと考えた農場主は、すぐさま冒険者に依頼をかけた。

「どう思うリップル」

「可能性的には、食い詰めた冒険者が犯人じゃないかと私は思っているけどね」

 リップルが目をキラーンと輝かせる。

「ほう、その心は」

「慣れていない人間は犬に勝てないんだよ。モンスター相手に慣れているなら、武器があれば犬に勝てる」

「思ったより簡単な理由だったがなるほど」

「それに、人間一人をそんなに簡単に手にかけられるはずはない。だけど見張りの農夫は生き残っている。これはつまり……人間以外を殺すことには慣れているが、人間を手に掛けるには抵抗があるということだ」

「安楽椅子冒険者の本領を発揮してきたな……!」

「まあ私の推測だけどね。私としては、魔法を使わずにこういう推理だけで生きていきたいと思っている……。魔法は使わないことで価値が上がるし」

 何か生臭いことを言い始めた。
 そんなリップルとともに、昼のうちは証拠を集めて回る。

「芋の掘り返しは慣れていないな。力任せだ。これでは売り物になるまいね」

「どういうことだリップル?」

「売るために芋を盗んでいるんじゃないということだね。自分で食べるにしても量が多い。何か大きな生き物を養っているのか、それとも……」

「それとも?」

「自分で新しく芋畑を作ろうとしているかだ」

「そっちかあ」

 ちょっとした証拠から、どんどんリップルの推理が飛び出してくる。
 彼女の頭の回転は大変早い。
 日がな一日、ギルドの酒場でマスターと喋ったり、人間観察しているだけなのは実に勿体ないではないか。

 怪我人にも聞き込みをした。
 姿は見ておらず、いきなり背後から殴られてうずくまったところを、首を絞められて意識を失ったという。

「ほら。いつでも犯人は彼を殺すことができたんだ。だが、殺さなかった。これはつまり、犯人は人間を殺すことに抵抗を覚えているということになる」

「次々にリップルの推理の証拠が出てくる。大したもんだ……」

 感心せざるを得ない。
 だがそれにしたって、野菜泥棒は見つかれば棒で百叩き。
 まあ死ぬ。

 命がかかっているのだから、農夫を殺したっておかしくないのではないかと思えてくる。

 よほど、犯人は育ちがちゃんとしているのか……?

「と言う辺りで今日集められる証拠は全部かな」

「そうだな。犬の墓に行ってから夜まで寝よう」

 僕たちは殺された番犬の墓に行き、野菜くずやジャーキーの切れっ端を供えた。
 現実世界ではお供え物などは、そのままだと腐っていくから寺が回収、廃棄したりなどしている。
 だがこの世界は本当に神様がいて、しかも八百万に近いくらいいろいろいるので……。

 供えた野菜くずやジャーキーが消えていく。
 魔力の流れとなり、この世界の一部となるのだ。
 まあ、野菜くずもジャーキーも世界の一部なんだけどね。

 神様がお供えを見ていて、これを犬の墓を通じて魔力の流れへと分解した……みたいなことが起きたわけだ。
 これが、異世界パルメディアの面白いところだ。

 そして僕らは農夫たちがお昼に食べている、肉を挟んだパンをもらい。

「これを……油で揚げる!」

「うわああナザル! なんと冒涜的なんだ!」

 二人で大騒ぎしながら揚げパンを作り、これを食って、寝た。
 年を取っていれば、油ものを食べてすぐの睡眠なんか受け付けない。

 だが……今の僕の胃腸は若いのだ!
 とても若い!
 怖いものなど何も無い!

 リップルも胃腸が若いらしく、揚げ物を食べてすぐにぐうぐうと寝てしまっていた。
 男女が同じ部屋、何も起こらぬはずは……。
 何も起こらないんだな。

 こうして僕らは夜を迎える。
 芋泥棒を待ち伏せする時がやって来た。
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