17 / 337
7・ポテト・ウォー
第17話 夜の警備と自由についての話
しおりを挟む
夜になった農場は静まり返っている。
遠くの森から、獣たちの鳴き声が聞こえてくるくらい。
で、森との境界には大きくて頑丈な柵が設けられている。
草食動物とかは、この柵に阻まれて諦めるんだよな。
モンスターと呼ばれる類の連中はほとんどが肉食になる。
モンスターとしての能力や肉体を維持するカロリーは、肉じゃないと摂取できないんだろう。
野菜しか無い畑は、モンスターにとって美味しくない。
草を食っていい感じに消化してくれた草食動物を、丸ごと美味しくいただくほうが効率的だからだ。
ということで……。
そこまでの危険性が無いのが農場の夜間警備なんだが……。
きっと襲われた農夫も、自分が殺されそうになるなんて夢にも思っていなかっただろう。
柵に囲まれた農場の安全さはかなりのもの……のハズだったのだ。
「夜の空気は美味しいねえ……。私は普段、早寝早起きをモットーとしているから、夜に起きているのはとても新鮮だよ」
「意外だ。リップルみたいなタイプは長々と夜ふかししてそうなのに」
「夜に起きて何をすると言うんだい? 灯りのための油も余計に使う、腹は減るし、節約のためにも寝てしまうのが一番なんだよ……」
「プラチナ級冒険者から出たとは思えない寂しい発言だ」
「安楽椅子冒険者として生きていく道は辛く険しい……。楽をするためだったのに……」
楽をするために死物狂いの努力が必要とかいうのは、普通のこと……。
「僕は日々エンジョイしているよ」
「ナザルはそんな大変そうな生き方をしているのに、なんでエンジョイなんだ……」
「全ては気の持ちようだね。僕は以前、大きな組織に所属し、そこで三十年ほどの時間を過ごして身を粉にして働いてきた……」
「三十年!? 年齢と時間が合わない。だが君の口調、そして動きを見るに、その言葉は真実……」
「冒険者の与太話と思って聞いて欲しい。人間関係こそが仕事の要だ。僕はこれを良好な状態で維持しようと、日々心を割いてきた。自分の仕事をしながら、同僚や先輩、後輩のメンタルケアもしようとしてきたんだ。これを三十年……。そして残ったものは、年金貰う前に異世界転生したこの僕だ……」
いやあ、経験は無駄ではなかったが、現世では何も手の中に残らなかったな!
「夜の与太話として流しておくよ。それでナザル。君は今の、ちまちま小銭を稼ぎながら小さい仕事をこなしてく毎日が自由だと思うのかい?」
「それはもちろん! 今の僕は誰よりも自由だよ! 本当に……本当に毎日が楽しくて楽しくて仕方ない……!」
個性的な友人たちとも知り合えたし、次々入ってくる新人たちの未来も楽しみだし。
異世界パルメディアはこれと言って大きな世界的異変も起こらない。
というか、僕がこの世界に生まれ落ちる前にそういうイベントは終わってしまったらしい。
いや、実にいい時に生まれてきたものだ。
冗談でも、古代から蘇った邪悪な魔導王とか、召喚された星一つを滅ぼす力を持つ魔竜とか、宇宙から降り立った魔王だとか、そんなものと会いたくない。
僕はこの世界で!
平々凡々と楽しく暮らすのだ!
さて、そんな話をしていたら、完全に目が星明かりに慣れてきた。
今夜は二つの月が雲に覆われていて、とても暗い。
この世界の僕の瞳孔は色が薄いから、昼の日差しは眩しいが、夜闇には実にマッチするのだ。
油使いの本領は夜と暗闇なのかも知れない……。
掘り返された芋畑を歩き回る。
この数日間で、掘られたのは一区画の半分くらい。
数にして百本ちょいか。
まあまあ多いね。
僕とリップルはここで地べたに座り込み、芋泥棒の到着を待った。
足音がする。
忍び足ではあるのだろうが、他に物音が少ない夜間では、とても分かりやすい。
僕とリップルは目配せし合った。
ともに、何も言わなくても能力と魔法を使える。
犯人が来たら、即座に無力化するつもりなのだ。
何やら、ぐふう、ぐふう、と荒い息が聞こえる。
なんだろう?
僕がちょっと背筋を伸ばしてみてみると……。
大きなぐにゃぐにゃとうごめく生き物がいる。
そいつが、芋畑に首を突っ込んでガツガツ食べているのだ。
いや、芋の茎を咥えて引っ張り出し、これを口の中に吸い込んでからボリボリかじる。
引っこ抜いていたのではない。
ここで食べていたのだ。
じゃあ、これはなんだろう?
『ぶふぅ~』
「そうかそうか。芋が美味いか。良かったなあ……。しかしお前も変なやつだな。食事は別の獣を食べて足りてるだろうに、芋を食いたいだなんて」
人の声もする。
僕はリップルと目配せした。
シュッと油を走らせる。
リップルは、芋泥棒の近くで大きな破裂音を慣らした。
『ぶおぉっ!?』「うおわーっ!?」
慌てた一頭と一人、動こうとしたところで、僕が地面に広げた油に引っかかる。
ずるりと滑って人間の方が転んだ。
「ウグワーッ! な、なんだこれはーっ!? 地面に染み込まないで、油がまるで浮いてるみたいに……」
「僕の油は染み込むか染み込まないかを選択できるんだ」
僕は立ち上がる。
『ぶっ、ぶおおっ!!』
モンスターらしき影が僕に向き直る。
やる気は満々。
だが、足元は油でツルッツル。
とても態勢を整えるどころではない。
僕の油使いは、こういう少人数戦においてはある意味無敵の力だぞ……?
リップルはひと仕事終えた……みたいな雰囲気を漂わせながら、大の字になって星を眺め始めてるじゃないか。
まあ実際に、これで終わらせるつもりだが。
「では芋泥棒諸君、大人しく出頭したまえよ」
僕は彼らに降伏勧告をするのだった。
遠くの森から、獣たちの鳴き声が聞こえてくるくらい。
で、森との境界には大きくて頑丈な柵が設けられている。
草食動物とかは、この柵に阻まれて諦めるんだよな。
モンスターと呼ばれる類の連中はほとんどが肉食になる。
モンスターとしての能力や肉体を維持するカロリーは、肉じゃないと摂取できないんだろう。
野菜しか無い畑は、モンスターにとって美味しくない。
草を食っていい感じに消化してくれた草食動物を、丸ごと美味しくいただくほうが効率的だからだ。
ということで……。
そこまでの危険性が無いのが農場の夜間警備なんだが……。
きっと襲われた農夫も、自分が殺されそうになるなんて夢にも思っていなかっただろう。
柵に囲まれた農場の安全さはかなりのもの……のハズだったのだ。
「夜の空気は美味しいねえ……。私は普段、早寝早起きをモットーとしているから、夜に起きているのはとても新鮮だよ」
「意外だ。リップルみたいなタイプは長々と夜ふかししてそうなのに」
「夜に起きて何をすると言うんだい? 灯りのための油も余計に使う、腹は減るし、節約のためにも寝てしまうのが一番なんだよ……」
「プラチナ級冒険者から出たとは思えない寂しい発言だ」
「安楽椅子冒険者として生きていく道は辛く険しい……。楽をするためだったのに……」
楽をするために死物狂いの努力が必要とかいうのは、普通のこと……。
「僕は日々エンジョイしているよ」
「ナザルはそんな大変そうな生き方をしているのに、なんでエンジョイなんだ……」
「全ては気の持ちようだね。僕は以前、大きな組織に所属し、そこで三十年ほどの時間を過ごして身を粉にして働いてきた……」
「三十年!? 年齢と時間が合わない。だが君の口調、そして動きを見るに、その言葉は真実……」
「冒険者の与太話と思って聞いて欲しい。人間関係こそが仕事の要だ。僕はこれを良好な状態で維持しようと、日々心を割いてきた。自分の仕事をしながら、同僚や先輩、後輩のメンタルケアもしようとしてきたんだ。これを三十年……。そして残ったものは、年金貰う前に異世界転生したこの僕だ……」
いやあ、経験は無駄ではなかったが、現世では何も手の中に残らなかったな!
「夜の与太話として流しておくよ。それでナザル。君は今の、ちまちま小銭を稼ぎながら小さい仕事をこなしてく毎日が自由だと思うのかい?」
「それはもちろん! 今の僕は誰よりも自由だよ! 本当に……本当に毎日が楽しくて楽しくて仕方ない……!」
個性的な友人たちとも知り合えたし、次々入ってくる新人たちの未来も楽しみだし。
異世界パルメディアはこれと言って大きな世界的異変も起こらない。
というか、僕がこの世界に生まれ落ちる前にそういうイベントは終わってしまったらしい。
いや、実にいい時に生まれてきたものだ。
冗談でも、古代から蘇った邪悪な魔導王とか、召喚された星一つを滅ぼす力を持つ魔竜とか、宇宙から降り立った魔王だとか、そんなものと会いたくない。
僕はこの世界で!
平々凡々と楽しく暮らすのだ!
さて、そんな話をしていたら、完全に目が星明かりに慣れてきた。
今夜は二つの月が雲に覆われていて、とても暗い。
この世界の僕の瞳孔は色が薄いから、昼の日差しは眩しいが、夜闇には実にマッチするのだ。
油使いの本領は夜と暗闇なのかも知れない……。
掘り返された芋畑を歩き回る。
この数日間で、掘られたのは一区画の半分くらい。
数にして百本ちょいか。
まあまあ多いね。
僕とリップルはここで地べたに座り込み、芋泥棒の到着を待った。
足音がする。
忍び足ではあるのだろうが、他に物音が少ない夜間では、とても分かりやすい。
僕とリップルは目配せし合った。
ともに、何も言わなくても能力と魔法を使える。
犯人が来たら、即座に無力化するつもりなのだ。
何やら、ぐふう、ぐふう、と荒い息が聞こえる。
なんだろう?
僕がちょっと背筋を伸ばしてみてみると……。
大きなぐにゃぐにゃとうごめく生き物がいる。
そいつが、芋畑に首を突っ込んでガツガツ食べているのだ。
いや、芋の茎を咥えて引っ張り出し、これを口の中に吸い込んでからボリボリかじる。
引っこ抜いていたのではない。
ここで食べていたのだ。
じゃあ、これはなんだろう?
『ぶふぅ~』
「そうかそうか。芋が美味いか。良かったなあ……。しかしお前も変なやつだな。食事は別の獣を食べて足りてるだろうに、芋を食いたいだなんて」
人の声もする。
僕はリップルと目配せした。
シュッと油を走らせる。
リップルは、芋泥棒の近くで大きな破裂音を慣らした。
『ぶおぉっ!?』「うおわーっ!?」
慌てた一頭と一人、動こうとしたところで、僕が地面に広げた油に引っかかる。
ずるりと滑って人間の方が転んだ。
「ウグワーッ! な、なんだこれはーっ!? 地面に染み込まないで、油がまるで浮いてるみたいに……」
「僕の油は染み込むか染み込まないかを選択できるんだ」
僕は立ち上がる。
『ぶっ、ぶおおっ!!』
モンスターらしき影が僕に向き直る。
やる気は満々。
だが、足元は油でツルッツル。
とても態勢を整えるどころではない。
僕の油使いは、こういう少人数戦においてはある意味無敵の力だぞ……?
リップルはひと仕事終えた……みたいな雰囲気を漂わせながら、大の字になって星を眺め始めてるじゃないか。
まあ実際に、これで終わらせるつもりだが。
「では芋泥棒諸君、大人しく出頭したまえよ」
僕は彼らに降伏勧告をするのだった。
43
あなたにおすすめの小説
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
リヴァイヴ・ヒーロー ~異世界転生に侵略された世界に、英雄は再び現れる~
灰色キャット
ファンタジー
「君に今の時代に生まれ変わって欲しいんだ」
魔物の王を討伐した古き英雄グレリア・ファルトは死後、突然白い世界に呼び出され、神にそう言われてしまった。
彼は生まれ変わるという言葉に孫の言葉を思い出し、新しい人生を生きることを決意した。
遥か昔に生きていた世界がどう変わっているか、発展しているか期待をしながら700年後の時代に転生した彼を待ち受けていたのは……『英雄召喚』と呼ばれる魔法でやってきた異世界人の手によって破壊され発展した――変貌した世界だった。
歴史すら捻じ曲げられた世界で、グレリアは何を求め、知り……世界を生きるのだろうか?
己の心のままに生き、今を知るために、彼は再び歴史を紡ぐ。
そして……主人公はもう一人――『勇者』、『英雄』の定義すら薄くなった世界でそれらに憧れ、近づきたいと願う少年、セイル・シルドニアは学園での入学試験で一人の男と出会う。
そのことをきっかけにしてセイルは本当の意味で『勇者』というものを考え、『英雄』と呼ばれる存在になるためにもがき、苦しむことになるだろう。
例えどんな困難な道であっても、光が照らす道へと……己の力で進むと誓った、その限りを尽くして。
過去の英雄と現代の英雄(の卵)が交差し、歴史を作る!
異世界転生型アンチ異世界転生ファンタジー、ここに開幕!
――なろう・カクヨムでも連載中――
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる