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7・ポテト・ウォー
第17話 夜の警備と自由についての話
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夜になった農場は静まり返っている。
遠くの森から、獣たちの鳴き声が聞こえてくるくらい。
で、森との境界には大きくて頑丈な柵が設けられている。
草食動物とかは、この柵に阻まれて諦めるんだよな。
モンスターと呼ばれる類の連中はほとんどが肉食になる。
モンスターとしての能力や肉体を維持するカロリーは、肉じゃないと摂取できないんだろう。
野菜しか無い畑は、モンスターにとって美味しくない。
草を食っていい感じに消化してくれた草食動物を、丸ごと美味しくいただくほうが効率的だからだ。
ということで……。
そこまでの危険性が無いのが農場の夜間警備なんだが……。
きっと襲われた農夫も、自分が殺されそうになるなんて夢にも思っていなかっただろう。
柵に囲まれた農場の安全さはかなりのもの……のハズだったのだ。
「夜の空気は美味しいねえ……。私は普段、早寝早起きをモットーとしているから、夜に起きているのはとても新鮮だよ」
「意外だ。リップルみたいなタイプは長々と夜ふかししてそうなのに」
「夜に起きて何をすると言うんだい? 灯りのための油も余計に使う、腹は減るし、節約のためにも寝てしまうのが一番なんだよ……」
「プラチナ級冒険者から出たとは思えない寂しい発言だ」
「安楽椅子冒険者として生きていく道は辛く険しい……。楽をするためだったのに……」
楽をするために死物狂いの努力が必要とかいうのは、普通のこと……。
「僕は日々エンジョイしているよ」
「ナザルはそんな大変そうな生き方をしているのに、なんでエンジョイなんだ……」
「全ては気の持ちようだね。僕は以前、大きな組織に所属し、そこで三十年ほどの時間を過ごして身を粉にして働いてきた……」
「三十年!? 年齢と時間が合わない。だが君の口調、そして動きを見るに、その言葉は真実……」
「冒険者の与太話と思って聞いて欲しい。人間関係こそが仕事の要だ。僕はこれを良好な状態で維持しようと、日々心を割いてきた。自分の仕事をしながら、同僚や先輩、後輩のメンタルケアもしようとしてきたんだ。これを三十年……。そして残ったものは、年金貰う前に異世界転生したこの僕だ……」
いやあ、経験は無駄ではなかったが、現世では何も手の中に残らなかったな!
「夜の与太話として流しておくよ。それでナザル。君は今の、ちまちま小銭を稼ぎながら小さい仕事をこなしてく毎日が自由だと思うのかい?」
「それはもちろん! 今の僕は誰よりも自由だよ! 本当に……本当に毎日が楽しくて楽しくて仕方ない……!」
個性的な友人たちとも知り合えたし、次々入ってくる新人たちの未来も楽しみだし。
異世界パルメディアはこれと言って大きな世界的異変も起こらない。
というか、僕がこの世界に生まれ落ちる前にそういうイベントは終わってしまったらしい。
いや、実にいい時に生まれてきたものだ。
冗談でも、古代から蘇った邪悪な魔導王とか、召喚された星一つを滅ぼす力を持つ魔竜とか、宇宙から降り立った魔王だとか、そんなものと会いたくない。
僕はこの世界で!
平々凡々と楽しく暮らすのだ!
さて、そんな話をしていたら、完全に目が星明かりに慣れてきた。
今夜は二つの月が雲に覆われていて、とても暗い。
この世界の僕の瞳孔は色が薄いから、昼の日差しは眩しいが、夜闇には実にマッチするのだ。
油使いの本領は夜と暗闇なのかも知れない……。
掘り返された芋畑を歩き回る。
この数日間で、掘られたのは一区画の半分くらい。
数にして百本ちょいか。
まあまあ多いね。
僕とリップルはここで地べたに座り込み、芋泥棒の到着を待った。
足音がする。
忍び足ではあるのだろうが、他に物音が少ない夜間では、とても分かりやすい。
僕とリップルは目配せし合った。
ともに、何も言わなくても能力と魔法を使える。
犯人が来たら、即座に無力化するつもりなのだ。
何やら、ぐふう、ぐふう、と荒い息が聞こえる。
なんだろう?
僕がちょっと背筋を伸ばしてみてみると……。
大きなぐにゃぐにゃとうごめく生き物がいる。
そいつが、芋畑に首を突っ込んでガツガツ食べているのだ。
いや、芋の茎を咥えて引っ張り出し、これを口の中に吸い込んでからボリボリかじる。
引っこ抜いていたのではない。
ここで食べていたのだ。
じゃあ、これはなんだろう?
『ぶふぅ~』
「そうかそうか。芋が美味いか。良かったなあ……。しかしお前も変なやつだな。食事は別の獣を食べて足りてるだろうに、芋を食いたいだなんて」
人の声もする。
僕はリップルと目配せした。
シュッと油を走らせる。
リップルは、芋泥棒の近くで大きな破裂音を慣らした。
『ぶおぉっ!?』「うおわーっ!?」
慌てた一頭と一人、動こうとしたところで、僕が地面に広げた油に引っかかる。
ずるりと滑って人間の方が転んだ。
「ウグワーッ! な、なんだこれはーっ!? 地面に染み込まないで、油がまるで浮いてるみたいに……」
「僕の油は染み込むか染み込まないかを選択できるんだ」
僕は立ち上がる。
『ぶっ、ぶおおっ!!』
モンスターらしき影が僕に向き直る。
やる気は満々。
だが、足元は油でツルッツル。
とても態勢を整えるどころではない。
僕の油使いは、こういう少人数戦においてはある意味無敵の力だぞ……?
リップルはひと仕事終えた……みたいな雰囲気を漂わせながら、大の字になって星を眺め始めてるじゃないか。
まあ実際に、これで終わらせるつもりだが。
「では芋泥棒諸君、大人しく出頭したまえよ」
僕は彼らに降伏勧告をするのだった。
遠くの森から、獣たちの鳴き声が聞こえてくるくらい。
で、森との境界には大きくて頑丈な柵が設けられている。
草食動物とかは、この柵に阻まれて諦めるんだよな。
モンスターと呼ばれる類の連中はほとんどが肉食になる。
モンスターとしての能力や肉体を維持するカロリーは、肉じゃないと摂取できないんだろう。
野菜しか無い畑は、モンスターにとって美味しくない。
草を食っていい感じに消化してくれた草食動物を、丸ごと美味しくいただくほうが効率的だからだ。
ということで……。
そこまでの危険性が無いのが農場の夜間警備なんだが……。
きっと襲われた農夫も、自分が殺されそうになるなんて夢にも思っていなかっただろう。
柵に囲まれた農場の安全さはかなりのもの……のハズだったのだ。
「夜の空気は美味しいねえ……。私は普段、早寝早起きをモットーとしているから、夜に起きているのはとても新鮮だよ」
「意外だ。リップルみたいなタイプは長々と夜ふかししてそうなのに」
「夜に起きて何をすると言うんだい? 灯りのための油も余計に使う、腹は減るし、節約のためにも寝てしまうのが一番なんだよ……」
「プラチナ級冒険者から出たとは思えない寂しい発言だ」
「安楽椅子冒険者として生きていく道は辛く険しい……。楽をするためだったのに……」
楽をするために死物狂いの努力が必要とかいうのは、普通のこと……。
「僕は日々エンジョイしているよ」
「ナザルはそんな大変そうな生き方をしているのに、なんでエンジョイなんだ……」
「全ては気の持ちようだね。僕は以前、大きな組織に所属し、そこで三十年ほどの時間を過ごして身を粉にして働いてきた……」
「三十年!? 年齢と時間が合わない。だが君の口調、そして動きを見るに、その言葉は真実……」
「冒険者の与太話と思って聞いて欲しい。人間関係こそが仕事の要だ。僕はこれを良好な状態で維持しようと、日々心を割いてきた。自分の仕事をしながら、同僚や先輩、後輩のメンタルケアもしようとしてきたんだ。これを三十年……。そして残ったものは、年金貰う前に異世界転生したこの僕だ……」
いやあ、経験は無駄ではなかったが、現世では何も手の中に残らなかったな!
「夜の与太話として流しておくよ。それでナザル。君は今の、ちまちま小銭を稼ぎながら小さい仕事をこなしてく毎日が自由だと思うのかい?」
「それはもちろん! 今の僕は誰よりも自由だよ! 本当に……本当に毎日が楽しくて楽しくて仕方ない……!」
個性的な友人たちとも知り合えたし、次々入ってくる新人たちの未来も楽しみだし。
異世界パルメディアはこれと言って大きな世界的異変も起こらない。
というか、僕がこの世界に生まれ落ちる前にそういうイベントは終わってしまったらしい。
いや、実にいい時に生まれてきたものだ。
冗談でも、古代から蘇った邪悪な魔導王とか、召喚された星一つを滅ぼす力を持つ魔竜とか、宇宙から降り立った魔王だとか、そんなものと会いたくない。
僕はこの世界で!
平々凡々と楽しく暮らすのだ!
さて、そんな話をしていたら、完全に目が星明かりに慣れてきた。
今夜は二つの月が雲に覆われていて、とても暗い。
この世界の僕の瞳孔は色が薄いから、昼の日差しは眩しいが、夜闇には実にマッチするのだ。
油使いの本領は夜と暗闇なのかも知れない……。
掘り返された芋畑を歩き回る。
この数日間で、掘られたのは一区画の半分くらい。
数にして百本ちょいか。
まあまあ多いね。
僕とリップルはここで地べたに座り込み、芋泥棒の到着を待った。
足音がする。
忍び足ではあるのだろうが、他に物音が少ない夜間では、とても分かりやすい。
僕とリップルは目配せし合った。
ともに、何も言わなくても能力と魔法を使える。
犯人が来たら、即座に無力化するつもりなのだ。
何やら、ぐふう、ぐふう、と荒い息が聞こえる。
なんだろう?
僕がちょっと背筋を伸ばしてみてみると……。
大きなぐにゃぐにゃとうごめく生き物がいる。
そいつが、芋畑に首を突っ込んでガツガツ食べているのだ。
いや、芋の茎を咥えて引っ張り出し、これを口の中に吸い込んでからボリボリかじる。
引っこ抜いていたのではない。
ここで食べていたのだ。
じゃあ、これはなんだろう?
『ぶふぅ~』
「そうかそうか。芋が美味いか。良かったなあ……。しかしお前も変なやつだな。食事は別の獣を食べて足りてるだろうに、芋を食いたいだなんて」
人の声もする。
僕はリップルと目配せした。
シュッと油を走らせる。
リップルは、芋泥棒の近くで大きな破裂音を慣らした。
『ぶおぉっ!?』「うおわーっ!?」
慌てた一頭と一人、動こうとしたところで、僕が地面に広げた油に引っかかる。
ずるりと滑って人間の方が転んだ。
「ウグワーッ! な、なんだこれはーっ!? 地面に染み込まないで、油がまるで浮いてるみたいに……」
「僕の油は染み込むか染み込まないかを選択できるんだ」
僕は立ち上がる。
『ぶっ、ぶおおっ!!』
モンスターらしき影が僕に向き直る。
やる気は満々。
だが、足元は油でツルッツル。
とても態勢を整えるどころではない。
僕の油使いは、こういう少人数戦においてはある意味無敵の力だぞ……?
リップルはひと仕事終えた……みたいな雰囲気を漂わせながら、大の字になって星を眺め始めてるじゃないか。
まあ実際に、これで終わらせるつもりだが。
「では芋泥棒諸君、大人しく出頭したまえよ」
僕は彼らに降伏勧告をするのだった。
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