俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
18 / 337
7・ポテト・ウォー

第18話 アザービーストとエマルジョン

しおりを挟む
 ここで気付く。
 モンスターは足跡がついていなかった。
 これはどういうことだろう?

「ナザル、あれを見るんだ。モンスターは足で歩いているんじゃない。全身が液体のようなものでできていて、地面を流れて移動していたんだ。私が足跡を発見できなかったはずだ。いや、決して畑の雄大さに気を取られて足元をおろそかにしていたわけじゃないぞ」

「言い訳部分はともかくとして、なるほど! つまりあいつは……!」

 さっきまで雲に隠れていたらしい月が顔を出す。
 途端に、辺りが明るくなった。
 姿を現したのは、ドロドロとした黒い液体が獣のような姿をしているモンスターだ。

「知らないモンスターだな。ということは……この辺りの存在じゃないだろう。自慢じゃないが、私はモンスターにも詳しいんだ」

 液体でできたモンスターは、油の上をつるつると滑って戸惑いを隠せない様子だ。
 なるほど、僕の能力が、バッチリあいつのメタだったってわけだ。

「おっ、お前らはなんだ!? 警備か!? 聞いていないぞ! こんな芋畑なんか、せいぜいカッパー級の冒険者しか守りに来ないはずだ! そんな連中に、元シルバー級の俺が負けるはずが……」

「つるつる滑りながら言っても説得力がないぞ。それに僕はカッパー級だが、怒れるカッパー級だ。犬が死んだんだからな」

「いっ、犬くらいがなんだ!? たかが畜生じゃないか! 俺はこのブラストに芋を食わせたかっただけだぞ! それなのにお前は、こんな理由の分からない攻撃を仕掛けてきて……! ブラスト、やっちまえ!」

『ぶおおおっ!!』

 液体モンスターが叫ぶ。
 そして一部がぐにゃりと膨らんだ。
 月明かりがあるとよく見える……。
 いや、これはどうやら、リップルが暗視の魔法を掛けてくれていたらしい。

 地味にいい仕事をする人だ。
 あとで山程、揚げた芋を食わせてやろう。

 僕は油の玉を生み出した。
 これを、モンスター目掛けて飛ばす。
 個体の攻撃であれば、このモンスターを通過してしまうだろう。
 だが、油ならば別だ。

 膨らみながら攻撃してこようとしたモンスターが、油に包まれた。

『ぶぼぼぼぼぼぼっ』

 液体モンスターが何か叫んでいる。

「ブ、ブラスト!! てめえ、何をしやがった!? ブラストの破裂攻撃ができなくなるなんて……! お、俺はまだ人を殺しちゃいないだろ! そんな本気で攻撃しなくていいだろ!」

「妙に怯えてるな……」

「そりゃあそうさ。ナザル、君の能力は知らない人間からすると完全に理解不能なんだ。知っていたとしても、絶対に一対一でやり合いたくなんかない。その気があればすぐにでもゴールド級以上に昇格できるだろうに……」

「いやいやいや、僕がこの立場が気に入っているんで。程よく侮られるしね。それに……カッパー級だからこいつに会えただろ。おい、犬が死んだ以上、そのモンスターを僕が倒しても文句は言えないんだよ」

「や、やめろーっ! ブラストは、ブラストはせっかく、教団から与えられたアザービーストで……!!」

「ほう!」

 リップル、なんかその単語知ってるのか!?
 いや、聞くのは後にしよう。
 僕は彼らに近づきつつ、腰から武器を抜く。

 なんの変哲もない、棒だ。
 これをブラストという液体モンスター目掛けて突っ込み……。

『ぶぼぼぼぼぼぼ!!』

 そこから油を流し込んだ。

『ぼばばばばば!』

 油をブラストの中で高速で回転させる。
 そうすると……一時的に液体と油が混ざり合う。
 エマルジョンという状態だ。

 液体でありながら生命体となっていたモンスターは、果たして油と混ざりあったエマルジョンでも生命を保てるのか?

 声がなくなり、モンスターの動きが消えた。
 油と液体が混ざりあったそれが、泡立ちながらどろりと地面に広がる。

「ぶ、ぶ、ブラストー!? て、てめえ! ぶっ殺してやる! 命までは取らないで置こうと思ったが、もうやめだ! 人のアザービーストを殺しやがって!!」

「油っ」

「ウグワーッ!?」

 男は再び、すてーんと派手に転んだ。
 打ちどころが悪かったようで、立ち上がれない。
 僕は油を回収し、男を縛り上げた。

 しばらくして、あちこちからランタンの明かりがやってくる。

 農夫たちだ。

「やあ皆さん、捕まえましたよ。これが芋泥棒です。そしてここにある液体が、犬を殺したモンスター……だったものです。僕の油と混ざり合って死にましたけど」

 油を回収して魔力に戻す。
 残ったのは黒い水たまりだ。 

「アザービーストと言っていたな。それは、暗黒神教団が呼び出す異世界のモンスターのことだ。より強大な存在、デーモンに繋がると言われている。災いを呼ぶ獣だ。そんなものがここにいるなんてなあ」

 リップルがすっかり呆れている。
 全くだ。
 芋泥棒退治だと思ったら、なんだかとんでもないものの尻尾を掴んでしまったような。

 暗黒神教団は、あちこちに信者がいる。
 冒険者をやめて、そちらに下ったのがこの男なんだろう。
 彼の処遇は、農夫たちに任せるものとする。

 みんな、怒りに燃えている。
 これは棒で叩かれるな。
 任せた……!

 僕とリップルは、これから別の用事があるのだ。
 そう。
 これから晴れて、フライドポテトを作るのである!

しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。

あけちともあき
ファンタジー
冴えない高校生女子、きら星はづき(配信ネーム)。 彼女は陰キャな自分を変えるため、今巷で話題のダンジョン配信をしようと思い立つ。 初配信の同接はわずか3人。 しかしその配信でゴボウを使ってゴブリンを撃退した切り抜き動画が作られ、はづきはSNSのトレンドに。 はづきのチャンネルの登録者数は増え、有名冒険配信会社の所属配信者と偶然コラボしたことで、さらにはづきの名前は知れ渡る。 ついには超有名配信者に言及されるほどにまで名前が広がるが、そこから逆恨みした超有名配信者のガチ恋勢により、あわやダンジョン内でアカウントBANに。 だが、そこから華麗に復活した姿が、今までで最高のバズりを引き起こす。 増え続ける登録者数と、留まる事を知らない同接の増加。 ついには、親しくなった有名会社の配信者の本格デビュー配信に呼ばれ、正式にコラボ。 トップ配信者への道をひた走ることになってしまったはづき。 そこへ、おバカな迷惑系アワチューバーが引き起こしたモンスタースタンピード、『ダンジョンハザード』がおそいかかり……。 これまで培ったコネと、大量の同接の力ではづきはこれを鎮圧することになる。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

処理中です...