俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
20 / 337
8・冒険者ギルド大掃除

第20話 春の風物詩

しおりを挟む
 冒険者ギルド春の風物詩は二つある。
 一つは、新人面接。
 もう一つは、ギルド構成員総出での大掃除だ。

 これはギルドへの帰属意識を確認したり高めたりする意味があるのと、この場に全員が集まることで、ギルド構成員がお互いの顔を知っておくという意味がある。
 僕はなにげに、この掃除が大好きだ。

 なぜなら、僕の油が大活躍するからである。
 油で汚れを浮かせて落とす!!
 油使いの独壇場と言っても過言ではあるまい。

「へえ! ナザル、お前暗黒神の信者と戦ったのか。春だなあ……。またあいつらが出てくる季節になったのかあ」

 シルバー級重戦士のバンキンも、今日は普段着だ。
 タンクトッパーのような服から、鍛え上げられたムキムキの腕が覗いている。
 彼は僕と一緒にギルドの床掃除や、古くなった床板の張替えを担当していた。

 暗黒神教団。
 それは教団と言うが、統率されているわけではない。
 暗黒神を信じるに至る経緯はこうだ。

 暗黒神のフリーダスという神が、フィーリングで人を選んで神託を下して回る。
 フリーダスが選ぶ人間は大体自我が弱かったりするので、彼らは神の声が聞こえた自分は特別なのだと思い、フリーダスを信仰するようになる。
 そして彼らの中で、よりフリーダスと同調できる者が上位の神官になる。

 こういうシステムになっている……らしい。
 なんともまあ、マメな神様がいたものだ。
 フリーダスの教えは、『全ての束縛を断ち切り、汝自由となれ』だ。

 つまり、やりたいようにやれ。ルールなんかぶっちぎれ、である。
 そんなもの、人間社会と軋轢を起こすに決まっている。
 というわけで、フリーダスは人を悪に落とす暗黒神として忌み嫌われている。

 フリーダス自体には善悪は無いんだけどね。
 それ以外には、逆恨みと復讐の女神ヘイティア、不死と蘇りの神エタニス、独善と束縛の神ジャスタルがおり、この四柱を暗黒神と呼ぶ。
 ちなみに四柱の神々の仲は最悪で、フリーダス信者、ヘイティア信者、ジャスタル信者が遭遇すると殺し合いに発展することが多い。

 エタニスはマイペースらしいが……。
 人間に無用な不死への執着を与える神であり、あらゆるアンデッドはこのエタニスから始まっているので、やはりろくでもない神だ。
 例えば長寿は喜ばしいが、多くの者が長寿になれば彼らは人的にも食料的にも資源を消費する。
 エタニスの好きにさせると、色々崩壊するわけだ。

「どうしたナザル、物思いにふけって」

「いやあ、頭の中で暗黒四大神のことを整理してた」

「ああ、あれなあ。俺も地元でガキの頃、先生をしてくれてた神官様に習ったぜ。最悪だよな全く。しかもみんなそれっぽい事言って勧誘してくるんだろ? ひどいもんだぜ。ちなみにナザルが会ったのはフリーダス信者だろ?」

「ああ、間違いないね。ヘイティア信者なら殺し合いになってるし、エタニスはアンデッドを引き連れてるだろ? ジャスタルはこそこそしない」

「春先になると、厳しい冬からの解放感でフリーダスの声が聞こえちまうやつが増えてくるんだよなあ。新人どもにも言っておかねえとなあ……」

 そんな話をしながら、僕は床に油を染み込ませ、汚れを浮かせる。
 これをバンキンがボロ布で吸い取るのだ。
 汚れはずいぶん落ちる。

 板の間の張替えは他の冒険者の仕事だ。
 僕らは隅々まで、床を掃除していく。

 酒場コーナーでマグカップをピカピカに磨いているマスターと目が合った。
 彼はにっこり微笑みながら会釈してくる。
 僕も会釈を返す。

 最近は、彼にドーナッツの作り方を伝授し、オリジナルの美味しいドーナッツが出来上がってくるのが楽しみな毎日なのだ。
 今のところ、マスターは完璧なオールドファッションドーナッツを仕上げてきた。
 お菓子に対する彼の情熱は本物だ。

 そろそろ、砂糖を溶かしたクリームでコーティングしたドーナッツ辺りを編み出してくるんじゃないだろうか。
 マスターと言えば。
 安楽椅子冒険者がいないな。

 どうやら外の掃除担当に回されたらしい。
 今頃ぶうぶう言いながら側溝の掃除なんかしているのだろう。

「ナザルさん、ナザルさん」

 いつものお下げの受付嬢がやって来た。

「先日は暗黒神信者の報告ありがとうございます。また暗黒神の季節が来たということで、本部まで通達が回りました」

「あ、それは良かった。みんな注意喚起しないとね。そうしても、毎年何人か勧誘されて堕ちるんだけど」

「ええ。ほんとに困ったものです」

 むー、と唸る受付嬢。
 そこへ、油を吸わせた布を片付けたバンキンが戻ってくる。

「おっ! お嬢、ナザルと何の話だ? 万年カッパー級のこいつと仲良くしても、美味い飯は奢ってもらえないぜ。どうだい、俺と飯でも食いに……」

「遠慮しておきます、バンキンさん!」

「ガーン! また振られてしまった」

「バンキン、毎回僕をダシに使うのかなり向こうからすると感じ悪いぞ」

「そうかなあ……。そうかも……。なんでカッパー級のお前はいつも周りにちょこちょこ女子がいるんだ……?」

「リップルと受付嬢とドロテアさんくらいだが」

「ドロテアさん……そうだ!」

 お下げの受付嬢が、ポンと手を叩いた。

「ナザルさん、最近ドロテアさんと一緒に御飯を食べに行ったりしてるでしょう! それ、ギルマスの耳に入ったんですよ!」

「なにぃっ!!」

 僕は飛び上がるほど驚いた。
 我が最大の理解者たるドロテアさんと仲良くなるべく、ちょこちょこお誘いしていたのだが……。
 目撃されていたとは。

「そりゃあ見つかるだろ。アーランは広いが、どこにだって冒険者はいるぞ。それにドロテアの奥さんはすげえ美女だからな……」

 そこで、ギルマスの部屋の扉が大きな音を立てて開いた。

「ナザル!! ちょっと話を聞かせろ! うちのと随分仲良くしてたみたいじゃねえか!!」

「うおわーっ!! ぼ、僕はこれから外の清掃に向かうよ! 安楽椅子冒険者に任せてはおけないからね! それじゃあ!」

 僕は猛スピードでギルドを飛び出すのだった。



しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。

あけちともあき
ファンタジー
冴えない高校生女子、きら星はづき(配信ネーム)。 彼女は陰キャな自分を変えるため、今巷で話題のダンジョン配信をしようと思い立つ。 初配信の同接はわずか3人。 しかしその配信でゴボウを使ってゴブリンを撃退した切り抜き動画が作られ、はづきはSNSのトレンドに。 はづきのチャンネルの登録者数は増え、有名冒険配信会社の所属配信者と偶然コラボしたことで、さらにはづきの名前は知れ渡る。 ついには超有名配信者に言及されるほどにまで名前が広がるが、そこから逆恨みした超有名配信者のガチ恋勢により、あわやダンジョン内でアカウントBANに。 だが、そこから華麗に復活した姿が、今までで最高のバズりを引き起こす。 増え続ける登録者数と、留まる事を知らない同接の増加。 ついには、親しくなった有名会社の配信者の本格デビュー配信に呼ばれ、正式にコラボ。 トップ配信者への道をひた走ることになってしまったはづき。 そこへ、おバカな迷惑系アワチューバーが引き起こしたモンスタースタンピード、『ダンジョンハザード』がおそいかかり……。 これまで培ったコネと、大量の同接の力ではづきはこれを鎮圧することになる。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

処理中です...