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9・令嬢殿下のカッパー級
第22話 男爵家、招いてくる
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フォーエイブル男爵家を覚えておいでだろうか。
猫探しの仕事を依頼してきた、騎士団長の家である。
そこのご令嬢たるソフィエラは、僕とリップルをえらく気に入ったようで……。
「名指しの依頼ですねえ……。下町のギルドにわざわざ……!」
戦慄する、お下げの受付嬢。
何を震えているのだね……?
「全ては僕の人徳みたいなものでは?」
「いやいや、私の人徳……。というか、私最近出ずっぱりでギルドにいないことが多くない……? どこかのカッパー級と関わってからなんだけど……」
「ははは、いい運動になるだろうリップル」
「私は毎朝ランニングしていると言っただろ……! 望まぬ運動だあ」
男爵家の馬車が迎えに来て、執事のヨハン氏が僕らに挨拶してきた。
「詳しいお話はお嬢様から。どうぞお乗りください」
促されて馬車に乗り込むのだ。
男爵家とは言え、領地を持たない騎士団長の家だ。
馬車は質実剛健という外見。
具体的には、あちこちに装甲を取り付けられる構造になっており、有事にはこの馬車が戦車に早変わりするのだろう……。
「私が想像していた貴族の馬車とかなり違う……」
「リップルならこれくらいのことは推理しているものだと思ったけど?」
「そりゃあ推理してあるさ! フォーエイブル男爵家が贅沢を好まず、質素に暮らす貴族だということも知っている! だから依頼も価格が抑えられる下町に出したのだろう! だけど、貴族に夢を見たっていいじゃないか! 美味しいお茶とお菓子を期待してもいいじゃないか!」
熱弁してくるリップル。
現実は見えていても、夢を見たいものなのだ。
気持ちはよく分かる……。
ガラガラと馬車が石畳を走る。
こころなしか、引いている馬もゴツい気がする。
いや、これ、馬車用の馬ではなく戦馬だろ。
フォーエイブル男爵家、常在戦場なのではないだろうか?
山の手地区に到着した馬車は、とある大きなお屋敷の前で止まった。
質実剛健とは言っても、さすがは貴族。
冒険者ギルドの三倍はある大きさの建物と、そこに馬でレースができそうな広場がある。
「山を削り出して作った広場だね。ここはエルダードラゴンが襲ってきて、家並ごと焼き払った場所だったんだが、とある魔法使いがそれを落とした場所なんだ」
「リップルのことだろ?」
「うう、あの頃の私はイキっていたんだ……。ああ恥ずかしい恥ずかしい……。人前でメテオストライクなんか使ってしまって、得意げに英雄みたいな顔をして……」
王都を襲ったドラゴンを撃退したんだ。
立派に英雄だろう。
それに、英雄パーティの一員だったことも確かなのだ。
彼女がプラチナ級にいるのは、これが冒険者としての試験を受けたわけではなく、王国から与えられた名誉職としてのランクだからだ。
ちなみに彼女が参加していたパーティのリーダーだった英雄はマスター級らしい。
マスター級の下にはダイヤ級というランクがあるが、これはやっぱり名誉賞みたいなものなんだとか。
リップルにプラチナ級が与えられたということは、もっと活躍してダイヤ級になって欲しいという願いが込められていたんではないだろうか。
だが……リップルは働くのをやめて、安楽椅子冒険者を目指すようになってしまった。
世の中はままならないなあ。
僕がまだ幼い頃に見たこのハーフエルフは、神秘的で余裕のある大人の女性に見えたものだが。
馬車の扉が開けられ、リップルが嫌そうに降りていった。
おお、立ち並ぶ騎士たちが一様に敬礼するじゃないか。
彼らが訓練するのが、男爵邸の広場らしい。
そこをドラゴンから取り戻した英雄がリップルなのだ。
そりゃあ敬礼もする。
安楽椅子冒険者殿は、なんか大変にいづらそうだ。
もじもじしている。
仕方ない、ここは僕がフォローするとしよう。
「やあ皆さん、お出迎えありがとうございます! 僕です! 僕? カッパー級冒険者ナザル、ナザルです! よろしくお願いします!」
僕は大きな声で挨拶しながらリップルの横に並んだ。
「君はなんというか妙に度胸があるやつだなあ!」
リップルは呆れ半分、フォローしてもらったありがたさ半分。
「虚勢は張っておくだけ損は無いからね。僕はまあ、実力が無いわけでもないし」
騎士たちは戸惑いながら、敬礼の姿勢を解いた。
とりあえずカッパー級冒険者なんぞに礼を尽くさなくてもいいだろう、みたいな考えかも知れない。
露骨に見下す視線を送ってくる者もいる。
人間、相手そのものではなく肩書で判断するのが自然な姿だからね。
「来たわね!! リップル!! あとナザル!!」
令嬢ソフィエラの登場だ。
僕はついで扱いされている。
「依頼の話をするわよ! 私、お父様に連れられて狩りに行くことになったの! 私、コンポジットボウの使い方が上手いのよ! だけど私が狩りに集中する間に護衛は必要だわ! だから私、あなたたちを指名したの! 私を守ってちょうだいな」
屋敷に入る前に一息に言いきったな!
全て分かった。
さすがは騎士団長の御息女。
屋敷で待つのではなく、狩りに参加する立場になるわけか。
僕らが護衛に選ばれた、ということは面白くないらしく、露骨に不満げな騎士もいる。
そんな彼も、リップルがひょいっと視線を向けるとびしっと背筋が伸びるのだが。
僕が視線を向けると、だらりとだらける。
舐められてますねえ~!!
いやあ、一波乱ありそうな護衛になりそうだ。
猫探しの仕事を依頼してきた、騎士団長の家である。
そこのご令嬢たるソフィエラは、僕とリップルをえらく気に入ったようで……。
「名指しの依頼ですねえ……。下町のギルドにわざわざ……!」
戦慄する、お下げの受付嬢。
何を震えているのだね……?
「全ては僕の人徳みたいなものでは?」
「いやいや、私の人徳……。というか、私最近出ずっぱりでギルドにいないことが多くない……? どこかのカッパー級と関わってからなんだけど……」
「ははは、いい運動になるだろうリップル」
「私は毎朝ランニングしていると言っただろ……! 望まぬ運動だあ」
男爵家の馬車が迎えに来て、執事のヨハン氏が僕らに挨拶してきた。
「詳しいお話はお嬢様から。どうぞお乗りください」
促されて馬車に乗り込むのだ。
男爵家とは言え、領地を持たない騎士団長の家だ。
馬車は質実剛健という外見。
具体的には、あちこちに装甲を取り付けられる構造になっており、有事にはこの馬車が戦車に早変わりするのだろう……。
「私が想像していた貴族の馬車とかなり違う……」
「リップルならこれくらいのことは推理しているものだと思ったけど?」
「そりゃあ推理してあるさ! フォーエイブル男爵家が贅沢を好まず、質素に暮らす貴族だということも知っている! だから依頼も価格が抑えられる下町に出したのだろう! だけど、貴族に夢を見たっていいじゃないか! 美味しいお茶とお菓子を期待してもいいじゃないか!」
熱弁してくるリップル。
現実は見えていても、夢を見たいものなのだ。
気持ちはよく分かる……。
ガラガラと馬車が石畳を走る。
こころなしか、引いている馬もゴツい気がする。
いや、これ、馬車用の馬ではなく戦馬だろ。
フォーエイブル男爵家、常在戦場なのではないだろうか?
山の手地区に到着した馬車は、とある大きなお屋敷の前で止まった。
質実剛健とは言っても、さすがは貴族。
冒険者ギルドの三倍はある大きさの建物と、そこに馬でレースができそうな広場がある。
「山を削り出して作った広場だね。ここはエルダードラゴンが襲ってきて、家並ごと焼き払った場所だったんだが、とある魔法使いがそれを落とした場所なんだ」
「リップルのことだろ?」
「うう、あの頃の私はイキっていたんだ……。ああ恥ずかしい恥ずかしい……。人前でメテオストライクなんか使ってしまって、得意げに英雄みたいな顔をして……」
王都を襲ったドラゴンを撃退したんだ。
立派に英雄だろう。
それに、英雄パーティの一員だったことも確かなのだ。
彼女がプラチナ級にいるのは、これが冒険者としての試験を受けたわけではなく、王国から与えられた名誉職としてのランクだからだ。
ちなみに彼女が参加していたパーティのリーダーだった英雄はマスター級らしい。
マスター級の下にはダイヤ級というランクがあるが、これはやっぱり名誉賞みたいなものなんだとか。
リップルにプラチナ級が与えられたということは、もっと活躍してダイヤ級になって欲しいという願いが込められていたんではないだろうか。
だが……リップルは働くのをやめて、安楽椅子冒険者を目指すようになってしまった。
世の中はままならないなあ。
僕がまだ幼い頃に見たこのハーフエルフは、神秘的で余裕のある大人の女性に見えたものだが。
馬車の扉が開けられ、リップルが嫌そうに降りていった。
おお、立ち並ぶ騎士たちが一様に敬礼するじゃないか。
彼らが訓練するのが、男爵邸の広場らしい。
そこをドラゴンから取り戻した英雄がリップルなのだ。
そりゃあ敬礼もする。
安楽椅子冒険者殿は、なんか大変にいづらそうだ。
もじもじしている。
仕方ない、ここは僕がフォローするとしよう。
「やあ皆さん、お出迎えありがとうございます! 僕です! 僕? カッパー級冒険者ナザル、ナザルです! よろしくお願いします!」
僕は大きな声で挨拶しながらリップルの横に並んだ。
「君はなんというか妙に度胸があるやつだなあ!」
リップルは呆れ半分、フォローしてもらったありがたさ半分。
「虚勢は張っておくだけ損は無いからね。僕はまあ、実力が無いわけでもないし」
騎士たちは戸惑いながら、敬礼の姿勢を解いた。
とりあえずカッパー級冒険者なんぞに礼を尽くさなくてもいいだろう、みたいな考えかも知れない。
露骨に見下す視線を送ってくる者もいる。
人間、相手そのものではなく肩書で判断するのが自然な姿だからね。
「来たわね!! リップル!! あとナザル!!」
令嬢ソフィエラの登場だ。
僕はついで扱いされている。
「依頼の話をするわよ! 私、お父様に連れられて狩りに行くことになったの! 私、コンポジットボウの使い方が上手いのよ! だけど私が狩りに集中する間に護衛は必要だわ! だから私、あなたたちを指名したの! 私を守ってちょうだいな」
屋敷に入る前に一息に言いきったな!
全て分かった。
さすがは騎士団長の御息女。
屋敷で待つのではなく、狩りに参加する立場になるわけか。
僕らが護衛に選ばれた、ということは面白くないらしく、露骨に不満げな騎士もいる。
そんな彼も、リップルがひょいっと視線を向けるとびしっと背筋が伸びるのだが。
僕が視線を向けると、だらりとだらける。
舐められてますねえ~!!
いやあ、一波乱ありそうな護衛になりそうだ。
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