俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
48 / 337
18・呉越同舟焼き鳥パーティー

第48話 山の中での遭遇

しおりを挟む
 シルバー級冒険者として、出来うる限り目立たず生きていきたい僕である。
 だが、やはり等級というものは勝手に仕事を運んでくるものだ……。

「ナザルさん、ギルド本部から名指しであなたに、ファイブスターズとの境界近辺に立てた旗のメンテナンスの依頼が来ています」

「うわあ面倒くさい」

「シルバー級なんですからごちゃごちゃ言わずに受けてください」

 お下げの受付嬢は、僕の反論は受け付けてくれないのだ!
 ええい、なんということだ。
 報酬はそれなりに出るようだが、正直出張が絡む仕事はプライベートが潰されてよろしくない。

 僕は精一杯の抵抗として、コゲタ同伴を認めさせた。

「ナザルさんが従者にしているコボルドですよね? でしたら、冒険者の仲間ではなく装備として認められますから……」

 つまり、コゲタ分の報酬は出ないよというわけだ。
 けちめ!

 まあいい。
 僕はこの遠出をプライベートのように楽しむつもりだ。

 宿に帰り、出発の準備をする。

「ご主人、お出かけ?」

「そうだぞ、コゲタも一緒に行こう」

「行く! 行く!」

 コゲタが尻尾をぶんぶん振りながら、ぴょんぴょん飛び跳ねた。
 ははは、かわいいかわいい。

 こうしてコゲタを連れ、僕は旅立ったのだった。
 のんびりとしたものだ。
 食事は最小限。

 保存食と、水と粉。
 これだけあればいい。
 どうせ途中で狩りをするのだ。

 アーランから出て、ファイブスターズ方面へちょっと行ったところで、谷と山に向かう道が分かれる。
 今回は山道。
 緑が生い茂り、たくさんの動物たちがいる。

 つまり、食べ物いっぱいだ。
 僕は解体用の山刀とナイフくらいしか持っていない。
 狩りに道具は必要ないからだ。

「ご主人、鳥のにおい」

「食べられる鳥かい?」

「食べられる。コゲタ、前、食べた」

 コゲタの嗅覚によって獲物を探り、その経験から食べられることを知り。
 油を伸ばして鳥へと近づけていく。

 枝をしならせながら、僕らの様子を伺うその鳥は、それなりに大きい。
 生前の世界では、大きなカラスくらいはあるんじゃないだろうか。
 茶色とくすんだ緑の混じった羽は、なるほど枝葉に擬態してしまえば目立たない。

 逆に言えば、その鳥は俊敏に飛行することが苦手で、擬態して外敵をやり過ごすタイプだということである。
 木の幹を音もなく這い上がっていく油。
 やがて、油は鳥の足までたどり着くと……。

「捕縛!」

 一気に広がって、鳥を包みこんだ。
 鳥がギャアギャア叫びながら、飛び立とうとする。
 だが、油に包まれた翼は風をはらむことはない。

 落ちてきた。
 ここを、山刀でがつっと一撃。

 新鮮な鳥肉が手に入った。

「ご主人、すごい」

「まあね、さんざん、ギフトを私利私欲のために使ってるからね」

 流れ出る血を油に混ぜて吸い出してしまえば、血抜きもあっと言う間。
 ちょっと開けたところで羽をむしろうと思い、僕は山を登っていった。

 すると、降りる方へ続く獣道があるではないか。
 これはいい。
 登りと降りる獣道が交差する辺りでキャンプをしよう。

 本来ならば、獣が集まる場所だ。
 危険だと言えるだろう。
 だが、僕はギフトの力でその辺りは解決しているのだ。

 全ては油……!

 あとはコゲタが警戒してくれているしね。

 僕がテントと調理道具を背負い、コゲタは水と粉と保存食を担当している。
 荷物を下ろし、テントを立て……。

 さて、腰を落ち着けて羽をむしろう。
 これはなかなか食いでがある鳥だぞ。
 生前の世界のブロイラーよりは全然だが、それでも可食部がキログラム単位である。

 これを、この間覚えた焼き鳥にして食べる……。
 いいじゃないかいいじゃないか。

 山は調味料の宝庫でもあるので、僕はその辺りから刺激の強い香りを放つ木の実などを採取する。
 唐辛子もどきみたいなやつだ。
 一部の鳥だけがこれを食べることができて、それ以外の生き物には辛くて堪らない。

 好んで食べるのは、唐辛子もどきが種を運ばせたい鳥か、あるいは人間くらいのものだ。

 いやあ、好きなんだよね、この辛さ。
 コゲタがこの実を見て、「からから」と嫌そうな顔をした。

「僕だけに使うから。コゲタは辛いのなしね」

「コゲタ、からからいやー」

 うんうん、コボルドは嗅覚……すなわち味覚も鋭敏なので、こういう強烈な味のものが苦手なのだ。
 さて、この他に山椒っぽいものなどもゲットしたところで、いよいよ羽むしりの本番だ。
 バリバリとむしる。
 むしった後の羽を、コゲタがふわーっと空に浮かべて追いかけたりしている。

 平和だ。
 平和な時間だ。

 だが、そんな平和も長くは続かなかった。

「わんわん!!」

 コゲタが吠え始めた。
 なんだろう。
 僕がそちらを見ると……。

 山間から、ふらふらと数人の男が現れたところだった。
 あれは……ファイブスターズ側の兵士ではないだろうか。

 何をしているのだ。

「おお……! 人がいる……!」

「頼む! 助けてはくれまいか! 山に住むモンスターと戦って、怪我をした者がいるんだ……!」

 男たちの中の二人ほどがぐったりとし、一人は背負われ、一人は肩を借りてようやく歩いているところだ。
 なるほど、これは大変だ。
 冷戦中の敵国の兵士とは言え、眼の前で困っているものを見捨てるのも寝覚めが悪い。

「助けてもいい」

「おお!」

「だが……何か食材を提供してもらいたいな……!」

 全てはギブアンドテイクだ!

しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。

あけちともあき
ファンタジー
冴えない高校生女子、きら星はづき(配信ネーム)。 彼女は陰キャな自分を変えるため、今巷で話題のダンジョン配信をしようと思い立つ。 初配信の同接はわずか3人。 しかしその配信でゴボウを使ってゴブリンを撃退した切り抜き動画が作られ、はづきはSNSのトレンドに。 はづきのチャンネルの登録者数は増え、有名冒険配信会社の所属配信者と偶然コラボしたことで、さらにはづきの名前は知れ渡る。 ついには超有名配信者に言及されるほどにまで名前が広がるが、そこから逆恨みした超有名配信者のガチ恋勢により、あわやダンジョン内でアカウントBANに。 だが、そこから華麗に復活した姿が、今までで最高のバズりを引き起こす。 増え続ける登録者数と、留まる事を知らない同接の増加。 ついには、親しくなった有名会社の配信者の本格デビュー配信に呼ばれ、正式にコラボ。 トップ配信者への道をひた走ることになってしまったはづき。 そこへ、おバカな迷惑系アワチューバーが引き起こしたモンスタースタンピード、『ダンジョンハザード』がおそいかかり……。 これまで培ったコネと、大量の同接の力ではづきはこれを鎮圧することになる。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

処理中です...