俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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24・流石に盗賊ギルドのお手伝い

第70話 暗殺者を殺さないで捕らえよ!

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「大体どういう状況だか教えてもらえます?」

「ああ。向こうはツーテイカーの腕利き暗殺者というところだろう。かの都市国家は、アーラン盗賊ギルドと戦うために選りすぐりのメンバーを寄越したと予想されるな」

 だが、とアーガイルさんは続ける。

「頭数が違う。構成員の多さは、頂点の高さに比例する。アーランの盗賊ギルドは所属メンバー数が多い。詳しいことは言えんがな。裾野が広いからこそ、それを統括する実力者たちも多い。ツーテイカーがいかに頑張ろうが、たかが都市国家の盗賊ギルドだ。力ある者と言えどたかが知れているということだ」

 どうやら、交戦の末、アーガイルさんは敵の暗殺者を数名倒したらしい。
 バンダナにスカーフを纏っていて、顔があまり見えないことが多い御仁だが、今はニヤリと笑っているのが分かる。

「それじゃあ僕にも殺しを? あまり得意じゃないんですけどねえ」

「いや、それはこちらで手が足りている。お前には生け捕りを頼みたい」

「よしきた、得意ジャンルです」

 この言葉に、アーガイルさんが不思議そうな顔をした。

「こちらを殺しに来る相手だ。殺し返すよりもよほど難易度が高いだろうに、そっちの方が得意とは本当に変わった男だなあ……」

「まあ色々あって、殺しは寝覚めが悪いんですよ」

 僕はなんだかんだ、あの時代の日本の価値観を持ってるからね。
 みだりに殺しはやりたくない。
 アーランはこの世界では、比較的人間の生存権みたいなのが認められている国だ。
 だが、それでもあの時代の日本と比べると、ポコポコ人は死ぬ。

 ちなみに、こんな会話をしながら、僕とアーガイルさんはどんどん目的地に向かって歩いている。
 目指すは下水道。
 この下水は遺跡の一部に流れていき、やはり肥料として利用されているんだそうだ。

「暗殺者たちが遺跡内部に逃げ込む可能性があるんじゃないですか?」

「いや、それはないだろう。奴らは対人戦のプロだ。そんな奴らが、明らかにモンスターが出てきそうな遺跡のダンジョンに逃げ込むと思うか? まだ森や山に逃げたほうが生存確率が高いと考えるだろう。奴らは部外者だ。まさかアーランの遺跡の第三層までが開拓されているとは夢にも思うまい」

「ははあ。つまり、開拓されてて安全だよって情報を持ち帰られたらヤバい?」

「そういうことだ」

 確かにヤバい!
 野菜や家畜のピンチである。
 僕の悠々自適な生活が脅かされているぞ。

 ちょっと本気を出すきになったのだった。

「俺とお前のタッグで行くぞ。明かりは持て。どうせお前、武器を手にしないだろ」

「その通りでございます」

 油を使うためには、身振り手振りすら不要なんだよね。
 なので、ホイホイと明かりを担当することにした。

 これ、懐中電灯みたいに明かりを絞ったりビーム状にできるランタン。
 便利なものがあるもんだ。

 下水に踏み入ると、たいへん臭い。
 鼻が曲がりそうだ。

 なるほど、ここなら追跡は難しいだろう。
 盗賊ギルドにも、その鼻を買われて所属するコボルドたちがいる。
 彼らの追跡から逃れるのは困難だが、下水道ならば完璧に逃げ切ることができる。

 あまりの臭さでコボルドの鼻が利かなくなるからだ。

「どうやって探しますかね」

「目と指先だな。下水管理者ではない人間が入り込んでるんだ。必ず痕跡が残る」

 明かりで照らした部分を、じっくりと調べていくアーガイルさん。
 ゴールド級に到達した次元の盗賊である。
 その能力も一級品であろう。

「見ろ、土だ。地表のものだな。乾いていない。まだ落ちてから時間は経っていないだろう。向こう岸を照らしてくれ」

「はいはい」

 言われるままにランタンの明かりに指向性を持たせ、流れる下水の向こう側を照らす。
 そこには、歩けるスペースにべったりと汚れがこびりついていた。
 ちょうど人が下水から這い上がった跡のような。

「俺たちを撒くために、下水を渡ったらしい。無茶をするもんだ」

 アーガイルさんは鼻で笑うと、僕を連れて曲がり角に差し掛かる。

「頼むぞナザル!」

「よしきた。油を」

 つるりと、アーガイルさんを油が包み込む。
 次の瞬間、曲がり角の先から飛んできたナイフが、アーガイルさんの肌の上をつるりと滑って下水に落ちた。

「ちっ!!」

 声がする。
 僕は油を回収した。
 それと同時に、アーガイルさんが走り出す。

 襲撃してきた相手を追いかけていくのだ。
 相手の一手先、二手先を読んでいる人だ。
 流石だなあ。

「向こう岸に一人! そいつを捕まえろ!」

「かしこまり」

 僕は言われた通り、下水を挟んだ先の通路を目指す。
 足元に油を敷いて、助走からつるーっと滑って……ジャンプ!

 空中で、大量の油を足裏に生み出し、油のアーチを作った。
 その上をつるーっと滑りながら向こう岸に着地。
 油はすぐさま、魔力に回収だ。

「一瞬なら体重も支えられるな。優秀優秀」

 少しずつ、油使いの能力の可能性を探っていくようにしている。
 今のはその一環だ。
 これを活かせば、今後は短時間なら空中を走れるはず!

 いや、怖いからやらないけどね。

「げげえっ!?」

 奥から声が聞こえる。
 相手は夜目が利くようだ。
 僕はランタンを照らして……。

 おっと、ランタンめがけてダガーが飛んできた!
 だが、こんなこともあろうかと油でコーティング済みですよ。

 ダガーはつるりと滑って下水に落ちた。

 もったいない。

「無駄な抵抗はやめよう。大人しく僕に捕まるといい。盗賊ギルドに差し出されるまでは君は生きていることだろう」

「誰が従うかよ!」

 都市国家のなまりのある共通語が聞こえた。
 闇に紛れているようだが、無駄なこと。

 僕は今、明かりを使って目に頼った索敵をしていると思わせつつ……。
 実は足元から油を伸ばし、接触するものを探知しているのだ。
 油サーチ!
 僕の最強の知覚は、触覚だぞ。

「あ、いた」

 油が発見したのは、下水の奥まった通路に移動しようとする人物の姿。
 明かりが無いのによくやるものだ。
 夜目が利くと言うよりは、闇を見通す魔法の道具か何かを使っているに違いない。

「はっはっは、どこへ行こうと言うのだね」

 僕はまったりと彼を追うことにした。
 なに、こんなのは時間の問題です。

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