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30・安楽椅子冒険者、走る
第88話 リップルの忙しい仕事
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「大変だ。大変なことになった」
リップルが椅子に深々と腰掛けながら、そんなことを言った。
最近、お尻から根っこが生えて椅子にくっついていると思ったら。
とあるゴールド級冒険者が持ち込んだ依頼が、どうやら厄介だったらしい。
「ゴールド級!? 下町のギルドなんかシルバー級が上限みたいなもんだろ。なんでゴールド級がやってくるんだ。アーガイルさんみたいな変わり者もいるけど」
「誰が変わり者だ、誰が!」
「いた!!」
僕が驚いていたら、そのアーガイルさんが入ってきたところだった。
バンダナの下の鋭い目が僕を睨むが、すぐに、リップルに向けられた。
「リップルさん! なんかゴールド級の冒険者が下町ギルドに入って行ったって聞いて来たんですが……」
「おおアーガイルくん! ナザルと合わせて、私と三人いれば事足りるだろう。いやいや、とても面倒な仕事を受けてしまったんだ。聞いてくれよ」
「なんだろうなんだろう」
「なんでも手伝いますよ!」
興味本位の僕と、リップルの熱狂的なファンであるアーガイルさん。
僕らは彼女の対面の席に座った。
無言で、おさげの受付嬢エリィも座る。
僕とアーガイルさんの視線を受けても、全く動じないエリィ。
「お仕事はですね、ギルドを通してして欲しいんですけど」
「ああ、ごめんごめん! 今度から依頼者には言っておくから。今回も場所代は支払うよ」
リップルが、先払いでもらったらしいお金をちょっと手渡すと、エリィがニコッと笑った。
「ごゆっくり~」
去っていく。
「こえー」
アーガイルさんが呟いた。
ギルドの受付嬢は、基本的に肝が据わってるからね。
「ナザル、なんかお前に投げキスしてるぞ」
「最近僕が第二王子からの覚えがめでたいので、彼女は唾を付けておこうと考えてる気がするんですよね」
「そうかあ……。大変だな……」
「話ししてもいい?」
「どうぞどうぞ」
「どうぞどうぞ」
リップルが咳払いした。
ようやく本題だ。
「つまり、結論から話すとゴールド級パーティはとある遺跡から、そこで召喚されたデーモンを追いかけて来た。デーモンはアーランに逃げ込み、この国の民衆に紛れ込んでいるんだそうだよ。それを発見する手伝いをしてほしいと」
「ははあ」
アーガイルさんが顎を撫でた。
「デーモンってのがどんなもんなのかは分かりませんが、見た目で差があるならすぐに見つかるんじゃ?」
「古い文献でゼルケルと呼ばれているデーモンで、人間に化ける能力があるやつだ」
「あー」
「それは面倒くさそう」
つまり、変身能力があるやつを、この広いアーランから探し出さなければならないわけだ。
確かにこれは面倒くさい。
リップルが頭を抱えたのも無理はない。
「私はね……。さすがにこの仕事はギルドから外に出ないと行けないと思って、あまりに面倒だから困っていたんだ」
「そっちかあ」
「リップルさんはぶれないですねえ」
アーガイルさん、リップルを甘やかすのはやめるんだ。
盗賊ギルドの鬼幹部みたいなこの人が、リップルが絡むとてんでポンコツになるんだよな。
好きなのか……?
「ということでだ。諸君、私の嫌いな足で稼ぐ方針で行こうと思う。ついてきてくれるかな」
「もちろんですよ! お役に立てて嬉しいです!」
「へいへい。でも、リップル一人で十分なんじゃないかい? なんで僕らまでついていく必要があるんだ」
「ゼルケルは人間に完全に化けようと思ったら、その人間を丸ごと食べてしまうんだ。仮の変装ならまだ本人は無事だ。どこかに隠されてる。そういう情報を集めたり、搦め手を使ったりするのは……君らの得意分野じゃないか」
私は頭脳労働専門でね、とリップルは言う。
単身でエルダードラゴンを倒せるレベルの大魔法使いが、頭脳労働専門……?
いや、彼女としては、派手な魔法を使うことは若気の至りであり、恥ずかしいと考えている様子だ。
多分、派手なことはかつて英雄だった頃にやり尽くし、今は日々、そんな過去を思い出して恥ずかしさにのたうち回っているのかも知れない。
絶対にそうだ。
「ナザル! 私の内心を読み取るのはやめてもらえないか!」
「何も言ってないが?」
「目がすべてを語ってるんだ……。ああ、これだから付き合いの長いやつは……」
ぶつぶつ言いながら、まず僕らが立ったのは三叉路。
やって来た側が下町。
右手が商業地区。
左手が住宅地区。
左手に行けばドロテアさんの家があり、右手には僕が粉を仕入れているドワーフの親方がいる。
「さて、どうします? 今のところ、何の手がかりもないようですけど」
「最初の手がかりはあるんだ。今、ゴールド級の冒険者たちが商業地区で活動している。デーモンは馬鹿じゃない。人一人とまるごと入れ替わろうと言うのに、敵が嗅ぎ回っている上に人の流れが多い場所を選ぶ理由は無いんだよ」
「ははあ、つまり住宅地区というわけですね! さすがリップルさんだ!」
「うんうん! もっと私を褒めてくれたまえ!」
わっはっは、と気分良さそうなリップルなのだった。
すっかり甘やかされている……!!
「ナザルはずいぶんやる気がなさそうじゃないか」
「そりゃあ、僕は巻き込まれただけだからね。今はね、僕は料理研究家として名を馳せているところでさ……」
「なるほど。ちなみにゼルケルは人に化けるんだが、別名海藻の悪魔と呼ばれていて……」
「海藻!?」
「異世界の海からやって来るデーモンで、人を食べる前ならば大変美味しいという……」
「誰かを食べる前にそいつを捕まえて食ってやらないといけないじゃないか!!」
僕のやる気に火がついたぞ!
リップルが椅子に深々と腰掛けながら、そんなことを言った。
最近、お尻から根っこが生えて椅子にくっついていると思ったら。
とあるゴールド級冒険者が持ち込んだ依頼が、どうやら厄介だったらしい。
「ゴールド級!? 下町のギルドなんかシルバー級が上限みたいなもんだろ。なんでゴールド級がやってくるんだ。アーガイルさんみたいな変わり者もいるけど」
「誰が変わり者だ、誰が!」
「いた!!」
僕が驚いていたら、そのアーガイルさんが入ってきたところだった。
バンダナの下の鋭い目が僕を睨むが、すぐに、リップルに向けられた。
「リップルさん! なんかゴールド級の冒険者が下町ギルドに入って行ったって聞いて来たんですが……」
「おおアーガイルくん! ナザルと合わせて、私と三人いれば事足りるだろう。いやいや、とても面倒な仕事を受けてしまったんだ。聞いてくれよ」
「なんだろうなんだろう」
「なんでも手伝いますよ!」
興味本位の僕と、リップルの熱狂的なファンであるアーガイルさん。
僕らは彼女の対面の席に座った。
無言で、おさげの受付嬢エリィも座る。
僕とアーガイルさんの視線を受けても、全く動じないエリィ。
「お仕事はですね、ギルドを通してして欲しいんですけど」
「ああ、ごめんごめん! 今度から依頼者には言っておくから。今回も場所代は支払うよ」
リップルが、先払いでもらったらしいお金をちょっと手渡すと、エリィがニコッと笑った。
「ごゆっくり~」
去っていく。
「こえー」
アーガイルさんが呟いた。
ギルドの受付嬢は、基本的に肝が据わってるからね。
「ナザル、なんかお前に投げキスしてるぞ」
「最近僕が第二王子からの覚えがめでたいので、彼女は唾を付けておこうと考えてる気がするんですよね」
「そうかあ……。大変だな……」
「話ししてもいい?」
「どうぞどうぞ」
「どうぞどうぞ」
リップルが咳払いした。
ようやく本題だ。
「つまり、結論から話すとゴールド級パーティはとある遺跡から、そこで召喚されたデーモンを追いかけて来た。デーモンはアーランに逃げ込み、この国の民衆に紛れ込んでいるんだそうだよ。それを発見する手伝いをしてほしいと」
「ははあ」
アーガイルさんが顎を撫でた。
「デーモンってのがどんなもんなのかは分かりませんが、見た目で差があるならすぐに見つかるんじゃ?」
「古い文献でゼルケルと呼ばれているデーモンで、人間に化ける能力があるやつだ」
「あー」
「それは面倒くさそう」
つまり、変身能力があるやつを、この広いアーランから探し出さなければならないわけだ。
確かにこれは面倒くさい。
リップルが頭を抱えたのも無理はない。
「私はね……。さすがにこの仕事はギルドから外に出ないと行けないと思って、あまりに面倒だから困っていたんだ」
「そっちかあ」
「リップルさんはぶれないですねえ」
アーガイルさん、リップルを甘やかすのはやめるんだ。
盗賊ギルドの鬼幹部みたいなこの人が、リップルが絡むとてんでポンコツになるんだよな。
好きなのか……?
「ということでだ。諸君、私の嫌いな足で稼ぐ方針で行こうと思う。ついてきてくれるかな」
「もちろんですよ! お役に立てて嬉しいです!」
「へいへい。でも、リップル一人で十分なんじゃないかい? なんで僕らまでついていく必要があるんだ」
「ゼルケルは人間に完全に化けようと思ったら、その人間を丸ごと食べてしまうんだ。仮の変装ならまだ本人は無事だ。どこかに隠されてる。そういう情報を集めたり、搦め手を使ったりするのは……君らの得意分野じゃないか」
私は頭脳労働専門でね、とリップルは言う。
単身でエルダードラゴンを倒せるレベルの大魔法使いが、頭脳労働専門……?
いや、彼女としては、派手な魔法を使うことは若気の至りであり、恥ずかしいと考えている様子だ。
多分、派手なことはかつて英雄だった頃にやり尽くし、今は日々、そんな過去を思い出して恥ずかしさにのたうち回っているのかも知れない。
絶対にそうだ。
「ナザル! 私の内心を読み取るのはやめてもらえないか!」
「何も言ってないが?」
「目がすべてを語ってるんだ……。ああ、これだから付き合いの長いやつは……」
ぶつぶつ言いながら、まず僕らが立ったのは三叉路。
やって来た側が下町。
右手が商業地区。
左手が住宅地区。
左手に行けばドロテアさんの家があり、右手には僕が粉を仕入れているドワーフの親方がいる。
「さて、どうします? 今のところ、何の手がかりもないようですけど」
「最初の手がかりはあるんだ。今、ゴールド級の冒険者たちが商業地区で活動している。デーモンは馬鹿じゃない。人一人とまるごと入れ替わろうと言うのに、敵が嗅ぎ回っている上に人の流れが多い場所を選ぶ理由は無いんだよ」
「ははあ、つまり住宅地区というわけですね! さすがリップルさんだ!」
「うんうん! もっと私を褒めてくれたまえ!」
わっはっは、と気分良さそうなリップルなのだった。
すっかり甘やかされている……!!
「ナザルはずいぶんやる気がなさそうじゃないか」
「そりゃあ、僕は巻き込まれただけだからね。今はね、僕は料理研究家として名を馳せているところでさ……」
「なるほど。ちなみにゼルケルは人に化けるんだが、別名海藻の悪魔と呼ばれていて……」
「海藻!?」
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僕のやる気に火がついたぞ!
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