俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
92 / 337
31・もう一人の転生者

第92話 アヒージョ伝説

しおりを挟む
「う、う、うまぁぁぁぁい!!」

 シズマが叫んだ。
 なんという大仰なリアクション!
 だが、本気のようだ。

「パルメディアまで来て、本当に食べ物が美味しくなくて困ってたんだ。少しでも美味いものを食べるためには偉くなるしか無かった。俺の能力も、直接食べ物には関係ない能力だったし……。最近アーランの食事が美味しくなってきたんだが、それでも物足りない。旨味が……油っけが……全然足りなかった! その、俺がずっと求めた来たものが、ここにある!!」

「分かる。あんたの気持ちが痛いほどよく分かる」

「分かるか! 分かってくれるか! おおお、心の友よ!」

 僕とシズマでガッチリと握手する。
 ゴールド級の三人はこれを見て肩をすくめたりため息をついたり。

 うんうん、日頃からシズマのエキセントリックな言動を食らっていると見える。
 変なやつだと思ってるんだろうが、ゴールド級に到れるほどの実力者は極めて希少なので付き合いを続けているに違いない。

「ま、まあ、彼も変わり者だけど悪いやつじゃないから……。今回みたいな失敗をすることもあるけどさ」

 とはゴールド級パーティのリーダーの人のお言葉。
 人間関係はまあまあ良好と見える。

 どんな仕事も、人間関係で全て決まるからね。

 ちなみにワカメのアヒージョは、この場にいるお歴々にも大好評だった。

「あー、美味い。こりゃあ美味いねえ……。なんというかこのオブリーオイルというのはお腹にも優しい気がする……」

「ああ。獣脂はそりゃあ腹に重いもんな……。こっちは植物由来だから、油の重さが気になるリップルにももうバッチリだ」

「ナザルの能力で出したものだからそう変わらないと思うんだけど……」

「僕のもともとのは謎の油だよ。食用ではあるが、今思うと旨味がこう、明らかに足りなかった……」

 僕は遠い目をした。
 ドロテアさんはニコニコしながらアヒージョを食べている。

「これ、美味しい油ね。アーランで良く使われている森のハーブとマッチするのねえ。とっても美味しいわ!」

「お喜びいただけて幸いです! 後は、ファイブショーナンのあの旨辛なピーカラを使うのもいいと思うんですよね。それから、こう、パンチのある薬味がもう少し欲しい……」

「にんにく……だよな?」

 シズマが実に鋭いことを言った。

「まさしく」

「やはり」

 僕らはガシッとまた握手した。

 ゴールド級の三名が、うわあ、同類が増えたぞ、という顔をする。
 僕らは無害な変人なので多めに見ていただきたい。

「シズマさん、何か知らないか? 今まで冒険した先で、にんにくになりうるような食材があったとか、そういうのは……」

「そうだな……。ああいう強力に精がつく感じの食べ物は……。あっ、一つだけあった」

「おお! それは一体!?」

 流石は、世界を旅して冒険するゴールド級だ。
 アーランを拠点にし、国家からの依頼をこなしているとは言え、それさえ終えれば自由なのが冒険者だ。
 彼ら四人は、本当にこの大陸を飛び回っているらしい。

 お陰でにんにくっぽいものの在り処が判明した。
 ぜひ行かねば。

「都市国家のワンダバーってあるだろ。氷に包まれたあの極寒都市で、めちゃくちゃ体が温まるスープが出たんだ。あれの香りと後味が、にんにくに近かった。詳しいことを聞いたらよそ者には教えられないって言われたが」

「なるほどぉ……!!」

 僕が唸ると、リップルがビシッと指さしてきた。

「ナザル、君は新たな食材を求めてワンダバーに行こうと考えているね!?」

「な、なぜそれが……!!」

「話の流れから普通に分かるだろう? 一人で行くのかい? コゲタを連れて行くにしても、ワンダバーは遠いし、環境も過酷だぞ」

「う、ううーむ」

 そうだ、そこが問題だった。
 今の僕は一人の体ではないのである。

「なるほど、確かにそれは問題だ……。俺も今やゴールド級となり、自由な立場……。おや? 自由だぞ?」

「シズマさん、一つ頼まれてくれないか」

「分かった、引き受けた」

 再び固い握手を交わす僕らである。

 残る三人のゴールド級が、またシズマが余計なことを!という顔になった。

「あ、今回は俺が一人で行くんで問題ない」

「問題あるだろ」

「一人で戦争引き起こせる、常識知らずが外国に行くなんて悪夢でしかないでしょ」

「うちらも行くって」

 おお、ゴールド級の友情。
 みんな仕方ないなあ、という風でありながら、どこかニコニコしている。

「あのレベルの冒険者になると、冒険そのものが趣味になるからね。今、新しい目標が出現して、ちょっとワクワクしているのかも知れないよ?」

「そうなの!? 冒険者ってのは物好きだなあ……」

「君が言うな」

 リップルにペチッとどつかれた。
 確かに。

 ということで、にんにくの代用品はシズマとゴールド級の面々が探してくれることになった。
 僕の野望はまた一歩、先に進んだことになる。

 持つべきものは異世界転生仲間だ。
 転移だって大して変わらないだろう。

 アヒージョも美味かったし!
 わかめ……もとい、海藻の美味さに助けられはしていたが、オブリーオイルそのもののポテンシャルは馬鹿にできない。
 市場ですぐに手に入るハーブを使っても、あれほど美味いのだ。

 ピーカラやにんにくが入れば、その美味さは天元突破することだろう。
 絶対に用意してやるぞ……!!

 それはそうと、アヒージョの完成まではしばらく掛かりそうだ。
 僕は僕で、新たなオブリーオイルの可能性を追求するとしよう。

しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。

あけちともあき
ファンタジー
冴えない高校生女子、きら星はづき(配信ネーム)。 彼女は陰キャな自分を変えるため、今巷で話題のダンジョン配信をしようと思い立つ。 初配信の同接はわずか3人。 しかしその配信でゴボウを使ってゴブリンを撃退した切り抜き動画が作られ、はづきはSNSのトレンドに。 はづきのチャンネルの登録者数は増え、有名冒険配信会社の所属配信者と偶然コラボしたことで、さらにはづきの名前は知れ渡る。 ついには超有名配信者に言及されるほどにまで名前が広がるが、そこから逆恨みした超有名配信者のガチ恋勢により、あわやダンジョン内でアカウントBANに。 だが、そこから華麗に復活した姿が、今までで最高のバズりを引き起こす。 増え続ける登録者数と、留まる事を知らない同接の増加。 ついには、親しくなった有名会社の配信者の本格デビュー配信に呼ばれ、正式にコラボ。 トップ配信者への道をひた走ることになってしまったはづき。 そこへ、おバカな迷惑系アワチューバーが引き起こしたモンスタースタンピード、『ダンジョンハザード』がおそいかかり……。 これまで培ったコネと、大量の同接の力ではづきはこれを鎮圧することになる。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

処理中です...