俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
144 / 337
50・油使い、本領を発揮する

第144話 油揚げのままで美味いのだが

しおりを挟む
 揚げたての油揚げは、パリッとしていて、しかしタレが染みてじゅわーっと旨味が出てくるのだ。
 淡白が豆腐がここまで美味しくなるとは。
 油パワー大したものだ!

「ナザル、君の油の味が変わってないかい? オブリーオイルとも、ゴマ油とも違う気がするんだ。なんというか……豆腐や油揚げにとてもマッチした味だ」

「なんだって!? 何の油だろうか……」

 僕は僕自身の能力をよく分かっていないところがある。
 何か、油になる食物を口にしたから、それが油として出せるようになったということだろうか。
 それにしても、リップルがはっきりと違う味だと分かる油……。

 僕の別種の油は、該当の食材をそれなりの量で食べていなければ完全再現できない。
 これは……。
 もしかして、大豆から油が採れる……?
 そうだったのか!?

「そう言えば、フォーゼフでも油を使っていた……。獣脂ではない、サラサラの油で、あそこではオブリーもゴマも育ててないはずだから、つまり……大豆油を使ってたのか!」

 だが、フォーゼフはまあまあ閉鎖的で、豆腐のレシピを報酬で手に入れられただけでラッキーだったからな。
 醤油の話をしただけで睨まれたし。

 しかしこの大豆油……サラサラとしてキラキラ輝き、どこかで見たことが……。
 僕の髪の色に似ている……。

「まさか、サラダ油……!? こ、こんなところにいたのか、サラダ油!! それじゃあ、マーガリンが作れちゃうじゃないか!!」

 おいおいおい、なんということだ!
 大豆を手に入れた瞬間に、開発できる料理や食材の幅が爆発的に広がったぞ!
 僕が意識する大豆は、豆腐と味噌と醤油くらいだったのに、想像を絶するほどの広範囲に大豆は使われていたのだ……。

 ほえー、勉強になるなあ……。

「ナザルが呆けてしまった」

 リップルにぺちぺちとほっぺたを叩かれ、ハッとする。
 
「あまりに膨大な今後のタスクが脳内を駆け巡り、ちょっと昇天してた……」

「せっかく君はここじゃない世界から第二の生を受けてやって来たんだから、死んでしまったらもったいないじゃないか」

「さらっと僕が転生者だと分かってるカミングアウト来たな……。だが、まあいい。大豆の前では些事だ」

「なあナザル、私はこの油揚げも嫌いじゃないが、豆腐を分厚いまま揚げたらなかなか美味しくなるんじゃないかと睨んでいるんだ。どうだい?」

「厚いまま……厚揚げだと……!? 無からその発想を!?」

 やはりこのハーフエルフ、天才かもしれない。
 厚揚げにしょっぱいソースを掛けて、お茶と一緒にやりたいらしい。

 良かろう、その願いを叶える!
 僕はスッとギルドを飛び出すと「あーっ、ナザルさん! また最近仕事してないんだから何か仕事をー!」エリィが何か言っているな。だが、僕はこれから厚揚げを作らねばならないのだ。

 きちんとした調理設備がある場所へ……。
 そう!
 あそこしかない!

「ギルボウ!! 力を貸してくれ!!」

「うわーっ!? ナザル!? お前、今度は面倒事を持ってきてないだろうな……?」

 ちょうど昼の営業が終わり、のんびりまかないと酒を楽しんでいたらしいギルボウ。
 座ったまま飛び上がったんだから、そうとうびっくりしたのだろう。

「悪い悪い。今回は大丈夫だ。リップルに厚揚げをご馳走したくてな」

「リップル……? リップルと言うと、あのハーフエルフの姉ちゃんか。お前が一番仲の良い女だよな。なに? そういう関係じゃない? お前はいい年なんだからそろそろ身を固めてだな……。えっ俺!? 俺はいいの。俺は料理が恋人で女房なんだから」

 ぶつくさ言いながら、さっさと調理の準備をしてくれるギルボウ。
 この男、料理が生きがいであり、趣味である。
 だからこそこうやって料理関係では極めて協力的なのだ。

「期待してるな? ご期待通りだ。僕は新しい料理のレシピを持ってここにやって来た。レシピは頭の中だけど、やり方を見せれば……」

「おう、一発だ。厚揚げとやらだな? お前が絡んでるってことは、トーフか。ありゃあ酒のあてにいいな。濾過したワインに合うぜ。魚醤を掛けて、生臭さが相殺されるくらいの淡白さが堪らん」

「ギルボウも豆腐を気に入っていたか……」

「癖がねえ食い物はな、保守的なこの国の人間でも受け入れやすいんだ。魚醤が先に来てたのがデカかったな。あれと合わせた豆腐は屋台のあちこちで出てるぜ」

 なんともまあ、豆腐というちょっと面倒くさい料理をみんなよく作るものだ。
 それくらい、アーランの人間は豆腐を気に入ってくれたんだろう。

 では、僕は豆腐と……そして大豆の新しい可能性を切り開くだけだ。

 ここに持ってくるまでの間に、豆腐から随分水分が抜けてしまった。
 ……厚めで水分がちょっと抜けた豆腐……これか!?

 僕はサラダ油を作り出し、そこに豆腐を入れた。
 全体がきつね色になるくらいに揚げていく……。

 簡単だ。
 実に簡単なものだ。
 だが、簡単だからこそ奥深い……!

「真っ白だった豆腐が、なんとも美味そうな色になっていくぜ……!! どんな食感になるんだ!? 早く食いてえ……!!」

「よし、一緒に食べよう」

 皿に取った厚揚げを二つに切ると、きつね色の外側と、真っ白な内側のコントラストが美しい。
 これを、ハーブを入れたゴマ油のソースにつけて食べるのだが……。

「ああ、美味いな。しみじみ美味い……」

「淡白だったトーフに、どっしりと芯が通った感じだな……! こりゃあ、メインディシュ張れるぜ! お前が用意したトーフは水分が抜けていた。つまり、上から重しを乗せるなりして水分を抜き、それを揚げるか。簡単なもんだ。だが、調理の複雑さと味は関係がねえ。トーフはシンプルな調理で、その美味さをどんどん変化させていける食材だってことだな!」

 なんと頼れる男なのだ、ギルボウ!
 完全に厚揚げをマスターしたな。
 後は油揚げを教えて、僕はこのメニューがまたアーラン中に広まる事を期待するのだった。

 おっと、リップルのところに持っていってやらないとな……。

しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。

あけちともあき
ファンタジー
冴えない高校生女子、きら星はづき(配信ネーム)。 彼女は陰キャな自分を変えるため、今巷で話題のダンジョン配信をしようと思い立つ。 初配信の同接はわずか3人。 しかしその配信でゴボウを使ってゴブリンを撃退した切り抜き動画が作られ、はづきはSNSのトレンドに。 はづきのチャンネルの登録者数は増え、有名冒険配信会社の所属配信者と偶然コラボしたことで、さらにはづきの名前は知れ渡る。 ついには超有名配信者に言及されるほどにまで名前が広がるが、そこから逆恨みした超有名配信者のガチ恋勢により、あわやダンジョン内でアカウントBANに。 だが、そこから華麗に復活した姿が、今までで最高のバズりを引き起こす。 増え続ける登録者数と、留まる事を知らない同接の増加。 ついには、親しくなった有名会社の配信者の本格デビュー配信に呼ばれ、正式にコラボ。 トップ配信者への道をひた走ることになってしまったはづき。 そこへ、おバカな迷惑系アワチューバーが引き起こしたモンスタースタンピード、『ダンジョンハザード』がおそいかかり……。 これまで培ったコネと、大量の同接の力ではづきはこれを鎮圧することになる。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

処理中です...