俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
145 / 337
50・油使い、本領を発揮する

第145話 サラダ油爆誕

しおりを挟む
「ということで見てくれ。これが大豆から採れる油、サラダ油だ……」

「厚揚げ、美味いねー! 最近作ってもらったナザルの料理で一番お気に入りだよ! ……で、なんで大豆の油なのにサラダ油……? 君の前世ではそうだったのかも知れないが、安楽椅子冒険者たる私の頭脳を納得させられないねえ……」

 めんどくさいなリップル!!
 でも確かに、どうしてサラダ油かと言われても、僕は良く分からん。

「じゃあ……大豆油……?」

「それがいいんじゃない?」

 大豆油になってしまった。
 リップルは僕の中のモヤモヤを特に気にせず、厚揚げに舌鼓を打っている。
 そんなに美味しいか。美味しいよな。厚揚げだもんな。

「ああ美味しかった……。満足度もあるし、これかなりいいねえ。ナザルが研究してる、大豆を使った調味料が出てきたらさらに美味しくなるんだろうな。いやあ楽しみだ」

「魚醤の豆バージョンみたいなやつだよ。もうちょっと癖が少なくて、大豆のコクと塩味が効いたやつ。あと一つは……塩味の醗酵した大豆ペーストだね。そのまま調味料にしてよし、湯に溶かせばスープになり……」

「楽しみだなあー!」

 なんか目をキラキラさせるリップルなのだった。

「いやね、百年も生きていると、世の中の楽しみは人間関係の観察くらいしか無くなるんだけどね。まさか君と出逢ってから、こんなにも食生活が劇的に変化していくとは思わなかった。アーランはこの一年で、恐らく五百年分くらいの変化をしているぞ」

 そんなに。
 その後、僕はいつもの醸造蔵へ向かい、大豆を搾って油を出す練習をした。
 あっ、これ難しいぞ!!

 ただ、僕の前世にあった本来の大豆よりも、油が割と多いようだ。
 この油が青臭さの原因にもなっているようだが……同時に、頑張って絞ると油が出てくるようにもなっているのだ。

「うおおおおお!!」

「あ、たらりたらりと油が出てきたねー」

 醸造蔵の圧搾機を使って、パワーによって油を抽出!
 くそー、ギリギリまで頑張ったがこれ以上はどうにもならない。
 こんな時はバンキンのパワーが欲しい。

 だが、あいつは豆腐にはちみつ掛けて食べる男だからなあ……。
 いやいや、この際、食の好みには目をつぶろうじゃないか。

「油を濾すねー。おお、いい感じの油だねえ! 全然キレイだ。オブリーと比べて……香りがアッサリしてる。いろいろな料理に使えそうだね?」

「でしょうねえ。こいつはサラダ……いや大豆油と言って、何にでも使えますよー。揚げてよし、焼いてよし、炒めてよし」

「いいねいいね! ……これ、うちで出していい?」

「どうぞどうぞ……。ただ、よそもすぐに真似すると思いますが」

「構わないよ。そうなったらうちはクオリティを上げて勝負するからさ!」

 やる気に満ちているなあ!
 いいことだ。
 さて、これで大豆油が広がっていく下地ができた。

 こういう原料系はこの醸造蔵へ、料理はギルボウの店へ。
 伝手があるというのはいいもんだ。
 やり方さえ教えたら、プロが生産してくれるようになるからな。

 だが、大豆油という呼び名はあまり気に入ってはいない。

「実は、この油の名前を考えているんですよ」

「名前を?」

「サラダ油というのはどうですか……」

「サラダとは……?」

 生で野菜を食べる習慣が少ないこの世界。
 そりゃあそうだ。
 野菜には虫がついたりしているし、土には寄生虫だっているかも知れない。

 ということで、野菜は良く洗ってから火を通すのだ。
 土に埋まっているもの、直に触れているものは必ず加熱だね。

 だからサラダと言うのは、トマドをそのまま食べる人々が現れて、やっとアーランに定着し始めた……くらいの概念なのだ。

「野菜を生で並べた料理みたいな……」

「うわっ、ゲテモノだね」

「ああ、もちろん土や虫を落とした上でですね。それにアーランの野菜なら虫はいないでしょ」

「そりゃあそうか。だけど、あまり生では食わないよね。そういう料理の名前をつけていいものなのかい?」

「これから、生野菜という言葉の持つ意味が変わっていきますよ。なんなら、夏の暑い日に木に成った水野菜をそのまま食べたりするでしょう。あれ、サラダなんですよ」

「えっ!? そうだったのかい!? そうか、あれを連想させる言葉になってしまえば、サラダ油は爽やかな意味になるかもなあ……。ああ、大豆という野菜から採れる油だからサラダ油なのか! なるほどなあ!」

 お察しの通り。
 いや、でもここまで連想してもらうまで長かったなあ!

 受付氏は僕をじっと見たあと、ニヤッと笑った。

「ナザルさんが善良な人で本当に良かったよ。あんたがその気になったら、この国はあんたの思うままに動かされてるところだ。それくらいあんた、口が上手いし……なんていうか聞く人の心を引き付ける性質をしてるんだよね」

「ああ、そりゃあもう。冒険者の便利屋をやってた時期があったんで意識して身につけたんですよ」

 あとは前世で、人と人の間をつなぐ役割が多かったからね。
 まさしく潤滑油というやつだ。
 なので、僕はあえて潤滑油である自分に野心を持たせないようにしている。

「ところで……どうです、こっちでお任せしてる大豆は」

「あー」

 受付氏が苦笑した。

「一回、糸を引いちゃって。それでそこにあった大豆が全部糸引きになっちゃったんだ。余計なのが入っちまったって担当の職人が言ってて。ああ、酒とは別に専任の職人を雇ってやってもらってるんですよ」

 あー、納豆ができちゃったか!!
 ちょっと食べさせてもらいたな……。

しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。

あけちともあき
ファンタジー
冴えない高校生女子、きら星はづき(配信ネーム)。 彼女は陰キャな自分を変えるため、今巷で話題のダンジョン配信をしようと思い立つ。 初配信の同接はわずか3人。 しかしその配信でゴボウを使ってゴブリンを撃退した切り抜き動画が作られ、はづきはSNSのトレンドに。 はづきのチャンネルの登録者数は増え、有名冒険配信会社の所属配信者と偶然コラボしたことで、さらにはづきの名前は知れ渡る。 ついには超有名配信者に言及されるほどにまで名前が広がるが、そこから逆恨みした超有名配信者のガチ恋勢により、あわやダンジョン内でアカウントBANに。 だが、そこから華麗に復活した姿が、今までで最高のバズりを引き起こす。 増え続ける登録者数と、留まる事を知らない同接の増加。 ついには、親しくなった有名会社の配信者の本格デビュー配信に呼ばれ、正式にコラボ。 トップ配信者への道をひた走ることになってしまったはづき。 そこへ、おバカな迷惑系アワチューバーが引き起こしたモンスタースタンピード、『ダンジョンハザード』がおそいかかり……。 これまで培ったコネと、大量の同接の力ではづきはこれを鎮圧することになる。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

処理中です...