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50・油使い、本領を発揮する
第145話 サラダ油爆誕
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「ということで見てくれ。これが大豆から採れる油、サラダ油だ……」
「厚揚げ、美味いねー! 最近作ってもらったナザルの料理で一番お気に入りだよ! ……で、なんで大豆の油なのにサラダ油……? 君の前世ではそうだったのかも知れないが、安楽椅子冒険者たる私の頭脳を納得させられないねえ……」
めんどくさいなリップル!!
でも確かに、どうしてサラダ油かと言われても、僕は良く分からん。
「じゃあ……大豆油……?」
「それがいいんじゃない?」
大豆油になってしまった。
リップルは僕の中のモヤモヤを特に気にせず、厚揚げに舌鼓を打っている。
そんなに美味しいか。美味しいよな。厚揚げだもんな。
「ああ美味しかった……。満足度もあるし、これかなりいいねえ。ナザルが研究してる、大豆を使った調味料が出てきたらさらに美味しくなるんだろうな。いやあ楽しみだ」
「魚醤の豆バージョンみたいなやつだよ。もうちょっと癖が少なくて、大豆のコクと塩味が効いたやつ。あと一つは……塩味の醗酵した大豆ペーストだね。そのまま調味料にしてよし、湯に溶かせばスープになり……」
「楽しみだなあー!」
なんか目をキラキラさせるリップルなのだった。
「いやね、百年も生きていると、世の中の楽しみは人間関係の観察くらいしか無くなるんだけどね。まさか君と出逢ってから、こんなにも食生活が劇的に変化していくとは思わなかった。アーランはこの一年で、恐らく五百年分くらいの変化をしているぞ」
そんなに。
その後、僕はいつもの醸造蔵へ向かい、大豆を搾って油を出す練習をした。
あっ、これ難しいぞ!!
ただ、僕の前世にあった本来の大豆よりも、油が割と多いようだ。
この油が青臭さの原因にもなっているようだが……同時に、頑張って絞ると油が出てくるようにもなっているのだ。
「うおおおおお!!」
「あ、たらりたらりと油が出てきたねー」
醸造蔵の圧搾機を使って、パワーによって油を抽出!
くそー、ギリギリまで頑張ったがこれ以上はどうにもならない。
こんな時はバンキンのパワーが欲しい。
だが、あいつは豆腐にはちみつ掛けて食べる男だからなあ……。
いやいや、この際、食の好みには目をつぶろうじゃないか。
「油を濾すねー。おお、いい感じの油だねえ! 全然キレイだ。オブリーと比べて……香りがアッサリしてる。いろいろな料理に使えそうだね?」
「でしょうねえ。こいつはサラダ……いや大豆油と言って、何にでも使えますよー。揚げてよし、焼いてよし、炒めてよし」
「いいねいいね! ……これ、うちで出していい?」
「どうぞどうぞ……。ただ、よそもすぐに真似すると思いますが」
「構わないよ。そうなったらうちはクオリティを上げて勝負するからさ!」
やる気に満ちているなあ!
いいことだ。
さて、これで大豆油が広がっていく下地ができた。
こういう原料系はこの醸造蔵へ、料理はギルボウの店へ。
伝手があるというのはいいもんだ。
やり方さえ教えたら、プロが生産してくれるようになるからな。
だが、大豆油という呼び名はあまり気に入ってはいない。
「実は、この油の名前を考えているんですよ」
「名前を?」
「サラダ油というのはどうですか……」
「サラダとは……?」
生で野菜を食べる習慣が少ないこの世界。
そりゃあそうだ。
野菜には虫がついたりしているし、土には寄生虫だっているかも知れない。
ということで、野菜は良く洗ってから火を通すのだ。
土に埋まっているもの、直に触れているものは必ず加熱だね。
だからサラダと言うのは、トマドをそのまま食べる人々が現れて、やっとアーランに定着し始めた……くらいの概念なのだ。
「野菜を生で並べた料理みたいな……」
「うわっ、ゲテモノだね」
「ああ、もちろん土や虫を落とした上でですね。それにアーランの野菜なら虫はいないでしょ」
「そりゃあそうか。だけど、あまり生では食わないよね。そういう料理の名前をつけていいものなのかい?」
「これから、生野菜という言葉の持つ意味が変わっていきますよ。なんなら、夏の暑い日に木に成った水野菜をそのまま食べたりするでしょう。あれ、サラダなんですよ」
「えっ!? そうだったのかい!? そうか、あれを連想させる言葉になってしまえば、サラダ油は爽やかな意味になるかもなあ……。ああ、大豆という野菜から採れる油だからサラダ油なのか! なるほどなあ!」
お察しの通り。
いや、でもここまで連想してもらうまで長かったなあ!
受付氏は僕をじっと見たあと、ニヤッと笑った。
「ナザルさんが善良な人で本当に良かったよ。あんたがその気になったら、この国はあんたの思うままに動かされてるところだ。それくらいあんた、口が上手いし……なんていうか聞く人の心を引き付ける性質をしてるんだよね」
「ああ、そりゃあもう。冒険者の便利屋をやってた時期があったんで意識して身につけたんですよ」
あとは前世で、人と人の間をつなぐ役割が多かったからね。
まさしく潤滑油というやつだ。
なので、僕はあえて潤滑油である自分に野心を持たせないようにしている。
「ところで……どうです、こっちでお任せしてる大豆は」
「あー」
受付氏が苦笑した。
「一回、糸を引いちゃって。それでそこにあった大豆が全部糸引きになっちゃったんだ。余計なのが入っちまったって担当の職人が言ってて。ああ、酒とは別に専任の職人を雇ってやってもらってるんですよ」
あー、納豆ができちゃったか!!
ちょっと食べさせてもらいたな……。
「厚揚げ、美味いねー! 最近作ってもらったナザルの料理で一番お気に入りだよ! ……で、なんで大豆の油なのにサラダ油……? 君の前世ではそうだったのかも知れないが、安楽椅子冒険者たる私の頭脳を納得させられないねえ……」
めんどくさいなリップル!!
でも確かに、どうしてサラダ油かと言われても、僕は良く分からん。
「じゃあ……大豆油……?」
「それがいいんじゃない?」
大豆油になってしまった。
リップルは僕の中のモヤモヤを特に気にせず、厚揚げに舌鼓を打っている。
そんなに美味しいか。美味しいよな。厚揚げだもんな。
「ああ美味しかった……。満足度もあるし、これかなりいいねえ。ナザルが研究してる、大豆を使った調味料が出てきたらさらに美味しくなるんだろうな。いやあ楽しみだ」
「魚醤の豆バージョンみたいなやつだよ。もうちょっと癖が少なくて、大豆のコクと塩味が効いたやつ。あと一つは……塩味の醗酵した大豆ペーストだね。そのまま調味料にしてよし、湯に溶かせばスープになり……」
「楽しみだなあー!」
なんか目をキラキラさせるリップルなのだった。
「いやね、百年も生きていると、世の中の楽しみは人間関係の観察くらいしか無くなるんだけどね。まさか君と出逢ってから、こんなにも食生活が劇的に変化していくとは思わなかった。アーランはこの一年で、恐らく五百年分くらいの変化をしているぞ」
そんなに。
その後、僕はいつもの醸造蔵へ向かい、大豆を搾って油を出す練習をした。
あっ、これ難しいぞ!!
ただ、僕の前世にあった本来の大豆よりも、油が割と多いようだ。
この油が青臭さの原因にもなっているようだが……同時に、頑張って絞ると油が出てくるようにもなっているのだ。
「うおおおおお!!」
「あ、たらりたらりと油が出てきたねー」
醸造蔵の圧搾機を使って、パワーによって油を抽出!
くそー、ギリギリまで頑張ったがこれ以上はどうにもならない。
こんな時はバンキンのパワーが欲しい。
だが、あいつは豆腐にはちみつ掛けて食べる男だからなあ……。
いやいや、この際、食の好みには目をつぶろうじゃないか。
「油を濾すねー。おお、いい感じの油だねえ! 全然キレイだ。オブリーと比べて……香りがアッサリしてる。いろいろな料理に使えそうだね?」
「でしょうねえ。こいつはサラダ……いや大豆油と言って、何にでも使えますよー。揚げてよし、焼いてよし、炒めてよし」
「いいねいいね! ……これ、うちで出していい?」
「どうぞどうぞ……。ただ、よそもすぐに真似すると思いますが」
「構わないよ。そうなったらうちはクオリティを上げて勝負するからさ!」
やる気に満ちているなあ!
いいことだ。
さて、これで大豆油が広がっていく下地ができた。
こういう原料系はこの醸造蔵へ、料理はギルボウの店へ。
伝手があるというのはいいもんだ。
やり方さえ教えたら、プロが生産してくれるようになるからな。
だが、大豆油という呼び名はあまり気に入ってはいない。
「実は、この油の名前を考えているんですよ」
「名前を?」
「サラダ油というのはどうですか……」
「サラダとは……?」
生で野菜を食べる習慣が少ないこの世界。
そりゃあそうだ。
野菜には虫がついたりしているし、土には寄生虫だっているかも知れない。
ということで、野菜は良く洗ってから火を通すのだ。
土に埋まっているもの、直に触れているものは必ず加熱だね。
だからサラダと言うのは、トマドをそのまま食べる人々が現れて、やっとアーランに定着し始めた……くらいの概念なのだ。
「野菜を生で並べた料理みたいな……」
「うわっ、ゲテモノだね」
「ああ、もちろん土や虫を落とした上でですね。それにアーランの野菜なら虫はいないでしょ」
「そりゃあそうか。だけど、あまり生では食わないよね。そういう料理の名前をつけていいものなのかい?」
「これから、生野菜という言葉の持つ意味が変わっていきますよ。なんなら、夏の暑い日に木に成った水野菜をそのまま食べたりするでしょう。あれ、サラダなんですよ」
「えっ!? そうだったのかい!? そうか、あれを連想させる言葉になってしまえば、サラダ油は爽やかな意味になるかもなあ……。ああ、大豆という野菜から採れる油だからサラダ油なのか! なるほどなあ!」
お察しの通り。
いや、でもここまで連想してもらうまで長かったなあ!
受付氏は僕をじっと見たあと、ニヤッと笑った。
「ナザルさんが善良な人で本当に良かったよ。あんたがその気になったら、この国はあんたの思うままに動かされてるところだ。それくらいあんた、口が上手いし……なんていうか聞く人の心を引き付ける性質をしてるんだよね」
「ああ、そりゃあもう。冒険者の便利屋をやってた時期があったんで意識して身につけたんですよ」
あとは前世で、人と人の間をつなぐ役割が多かったからね。
まさしく潤滑油というやつだ。
なので、僕はあえて潤滑油である自分に野心を持たせないようにしている。
「ところで……どうです、こっちでお任せしてる大豆は」
「あー」
受付氏が苦笑した。
「一回、糸を引いちゃって。それでそこにあった大豆が全部糸引きになっちゃったんだ。余計なのが入っちまったって担当の職人が言ってて。ああ、酒とは別に専任の職人を雇ってやってもらってるんですよ」
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ちょっと食べさせてもらいたな……。
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