俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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62・冷凍の時代が見えてきた

第184話 再びツーテイカーへ

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 フレンチトーストを山程ごちそうになり、お土産でチーズとバターをもらった。
 バター、かなり食べたからそろそろ出せるぞ……!!
 かなりの再現度だと思う。

「おいしかったねー!」

「ぶるるー」

 コゲタがポーターに話しかけている。
 フレンチトーストの事を言っているんだと思うが、ポーターは牧草の話をしていると思うぞ。
 まあ、二人とも農園の滞在に大満足してるようだからいいか。

 コボルドと荷馬で話が通じたりするんだなあ。

 こうしてまたしばらく旅をする。
 チーズがあり、バターを召喚できるようになったので旅の食事に広がりが出たぞ。

 狩りはシズマが大変得意で、獲物を沈めたら窒息死するので、綺麗なままゲットできるのだ。
 これを僕とコゲタを入れた三人で、わいわいと解体する。

 肉や臓物を、様々な油で炒めていただくのだ。
 うまいうまいうまい。

 ワンダバーで本場のにんにくをもらってきたから、これと一緒に炒めても実にうまい。
 食が豊かなら、旅は楽しくなるのだ。

「ゆうごはんたのしみねー」

 コゲタがニコニコしながら横を歩いているのだ。
 うんうん、夕食はあの肉料理をそのへんの山菜と一緒に煮込んでスープにしようかと思ってるからな!

 こうしてみるみる旅程は消化され、空が薄ぼんやりと曇っている地域に到着した。
 ツーテイカーである。

「ぶるるー」

「なんだポーター、故郷に帰ってきたのが分かるのか。そうか、ポーターにとっては、この曇った空の下が懐かしい光景なんだなあ」

 わしわしと撫でると、ポーターが顔を寄せてきた。
 僕の胸板をすりすりしてくる。
 この荷馬は大変人懐っこい。

 ツーテイカーでさぞ大事にされていたんだろう……。

 こうして到着すると、ちょっと懐かしくなってきたスラムが見えてくる。
 おお、前に来たときと構造が全然違う。
 日々有機的に形を変えているんだな、このスラムは……。

 この辺りで一番治安が悪いのがスラムなので、気を付けて進むのである。

「その荷物をよこせぇーっ!!」

「油だ」

「沈め沈め」

「ウグワーッ!!」

 襲ってきた不届き者がいたので、油ですべらせてから半身沈めてやった。
 いやあ、本当に治安が悪い。
 もしコゲタに怪我でもさせたら、お前ら全員油で窒息か沈んで窒息だからな。

 周囲に睨みを効かせつつ、先を急ぐのだ。
 やっとツーテイカーの都市部への入口だと思ったら……。

 既にベンクマンが待ち構えていた。
 数名の護衛を引き連れていて、これは多分本物ではないだろうか。

「よく戻ってきたな!」

「僕らが到着したのなんで分かったんですか」

「俺の手駒はこの国のあちこちに潜んでいる。お前たちを発見した一人が俺に情報を伝達したというわけだ」

「なるほど……」

「で、どうなんだ? その顔は……手に入れたようだな」

「ええ、その通りです。こちらです」

 僕が荷台から冷凍の魔導書を取り出すと、ベンクマンが凄みのある笑みを浮かべた。

「よしよしよし……!! これでツーテイカーは世界に対して大いなる力を手に入れたことになる。冷凍して食物を運ぶ技術を独占できれば、莫大な儲けになるぞ……!!」

「ところがベンクマンさん、冷凍の魔法はワンダバーでは特に価値のないありふれた魔法で」

「な、なにっ!?」

 驚愕するベンクマン。
 貴重な魔法を手に入れて、よし、これからこの魔法で荒稼ぎだぞと思った矢先のことである。
 まさか、冷凍の魔法なんていう高度っぽく感じるものが、ワンダバーではごく初歩的な、しかも使い道のない魔法扱いされてるとは思うまい。

「だからワンダバーに気づかれると、一気に権益がパーに」

「ああ~」

 なんて情けない声を漏らすんだ。

「なので僕からの提案なんですが、ちょっと大人しめに、比較的良心的に商売をしましょう……! 冷凍の魔法を覚えた魔法使いを養成し、ビールの輸出に使う。キンキンに冷えたビールを飲ませて虜にさせ、冷えたビールはツーテイカーから運ばれてくるものが一番美味い、というイメージを持たせるんです。せいぜい、外国は井戸水で冷やしたビールまでしか飲めない」

「なるほど、なるほど……。つまり、わざわざ他の国まで行って冷えたビールを売る……。体験を売るわけか! そのための冷凍魔法。なるほどな……!」

「後は傭兵として活躍している魔法使いが冷凍魔法をマスターしたら、彼らが各国の商人の生鮮食品運搬に欠かせなくなるでしょう」

「おっ、なるほど、なるほど……!!」

「世界がちょっとよくなりつつ、ツーテイカーが一番得をする……。その上で誰からも恨まれない……」

 ベンクマンが僕をじっと見た。

「お前……うちの幹部にならないか? 謀略の素質がある」

「あっあっ、やめてください。僕は何にも縛られず楽しく愉快に過ごすつもりなんで……」

「そうか、残念だ……」

 今の言葉は本音みたいに聞こえたぞ。

「まあいい。ナザル、シズマ。それとコボルド。コゲタと言ったか? 宴を用意してやる。毒は入っていないぞ、安心しろ。お前らと付き合いを持てば、また俺に大きな利益をもたらしてくれそうだからな。なに、俺からのほんの礼というやつだ」

 ベンクマンは怖い笑みを見せると、都市の奥へと去って行ってしまった。
 その背中と、僕の顔を交互に見るシズマ。

「お前、本当に口が上手いなあ……!!」

「長年会社の中で、潤滑油やりながら生きてきたからね……!」

「前世の経験って本当に生きるんだな! なるほど、そういう意味でも油使いだ! おっしゃ、行こうぜ。ごちそうが俺等を待ってる!」

「ごちそう!」

 コゲタがピョンピョン跳ねた。
 よーし、たらふく食べちゃうぞ。

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