俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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62・冷凍の時代が見えてきた

第185話 ツーテイカーの未来のために

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 宴が開かれた。
 とは言っても、この国はあれだろう。
 キノコとソーセージと漬物とビールの国……。

 と思っていたら、既にキノコのかき揚げをモノにしていたようで僕は大変驚いた。

「こ、これはキングキノコの傘だけのかき揚げ!? こっちは柄の素揚げ……! 工夫している!!」

 あまりの衝撃に震える僕。
 オリジナリティが来ちまったか……。
 これだから、料理の伝導はやめられないんだ。

 早速冷凍魔法でキンキンに冷やされたビールも出てくる。
 うおお、樽から真っ白な冷気が立ち上っているぜ!!

「ぬおおおおお」

 シズマが耐えきれず叫んだ。
 僕も感無量だ。
 冷えたビール! まさかパルメディアで飲めるとはなあ……。

 宴の形式は立食式。
 宴会であり会食でもあるので、自由に動き回って会話をしてもらうためなんだそうだ。
 座りたい人には、椅子も用意してある。

 宴席の上座に立つベンクマンが、酒杯を掲げて始まりの文句を口にする。

「さあ、今宵はこれからのツーテイカーの未来を祝う宴だ。技巧神イサルデの名において、我らに繁栄を!」

「繁栄を!!」

 手にした陶製やガラス製のジョッキを掲げる一同。
 僕とシズマは当然、ガラスである。
 透明度が地球のものほど高くないジョッキだが、黄金に輝くピルスナーの美しいこと!!

 キンキンに冷えたやつをぐーっと喉に流し込むと、最高に美味かった。
 周囲からも驚きの声が上がっている。
 美味いだろう美味いだろう!

 ここでザクザクに上がった傘のかき揚げを特製ソースでざくっと食って、油っこさをビールで流し込む!
 美味い!

 茹でたてのソーセージをさらに炒めたやつをガブッと食って、ビール!
 美味い!

 ……これはあれだぞ。
 ツーテイカーにビール腹の人が大量に爆誕するぞ。
 それくらい悪魔的な美味さだ。

 美味いつまみに冷たいビール。
 どんどん食と酒が進み、僕もシズマも、その場に集ったツーテイカーの偉い人たちも饒舌になっていった。

 なお、コゲタはお酒のにおいが苦手なので、飼い主氏とアララちゃんと一緒にごはんを食べているのだ。
 今夜は僕はお酒臭くなるぞーと伝えたら、すぐに納得してくれた。

 すまんなコゲタ。
 この埋め合わせは酒が抜けたらやるから。

 だが、今宵は飲んで飲んでのみまくるのだ!
 あっ、幹部の一人が酔いつぶれた転がった!

 そのまま部屋の隅に運ばれていく。
 なるほど、床で寝ててもいいんだな。

「あなたがナザルさんですか!」

 僕を呼ぶ者がいる。
 マントを身に着けた初老の男性だ。
 隣にベンクマンがやって来て、男性を紹介してくれた。

「ツーテイカーの魔法大臣を努めている、ジューダスだ」

「ジューダスです。我が国に冷凍魔法をもたらして下さったこと、感謝いたします。私もこの魔法の力には懐疑的だったのですが、よく冷えたビールを飲んで分かりました。これは前代未聞の体験だ……!!」

 鼻息を荒くするジューダス。
 お分かりになりましたか……。

「恐らく、ビールをワンダバーに持ち込んでさえしまえば同じものは幾らでも量産できる。だが、ワンダバーまでは遠すぎます。ほとんどの人々は、あの旅路を行くことはできないでしょう。だからこそ、我々が出向くのです。冷凍魔法の専任者が付き添うことで、冷えたビールを飲む……。これこそ体験を売るということ!」

「その通り!」

 僕は大いに盛り上がり拍手した。

「人間、体験で感動を得るとそこに特別感を覚えるからね。冷えたビールを売るよりも、冷えたビールを体験してもらう。これでツーテイカーは天下を取れる!」

 僕の宣言で、みんなうおおおおーっ!と盛り上がった。

「わはははは! ナザル、まるでツーテイカーの軍師か何かみたいな物言いじゃないか!」

「僕は美味いものが食べられるようになるなら、どの国にだって肩入れするのだ!」

「偉い! そのお陰で俺も美味いもの食いまくれてるもんな! パルメディアの飯は不味くてなあ……。本当に日本に帰りたかったぜ……。だけど、食事が美味くなったなら話は別だ! こっちにいたって全然構いやしねえ!」

「アーシェもいるもんな」

「そうなんだよ……。俺、日本だと彼女いない歴=年齢でさ。アーシェが初めての女なんだよ……。日本に戻ったらまたゼロからスタートだぞ? いや、転移して失踪してた分、マイナスからスタートだ。飯が美味くてアーシェがいるならパルメディアの方がずっといいって」

 男は、食と女が満たされたらそこに骨を埋めても良くなるものである!
 シズマは完全に日本に帰る気をなくしたようだった。

「……そう言えば一ヶ月半くらいアーシェの顔を見てないから帰りたくなってきた」

「酔っ払ってホームシックになってる」

「ナザルさん! 今後のツーテイカーについて大いに語り合いましょう! 我々でこの国をもっと豊かにするのです!」

「あっはい! シズマ、ちょっと僕は行ってくるから……。あっ、寝てやがる」

 シズマは座り込んで、夢の中に旅立ったところだった。
 なんとも幸せそうに笑っている。

 この男に、異世界にいる理由を作ってやったことになるんだろうか?
 それがいいことか悪いことかは分からないが、今が楽しくなっているなら何よりだ。

 さて、商談が始まると思ったらすっかり酔いも醒めてしまった。
 回るようになった頭で、難しい話でもするとしようか。

 僕はチェイサーにノンアルのドリンクを頼み、ベンクマンとジューダスとともにテーブルを囲むことにするのだった。

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