俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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63・帰るぞ帰るぞ

第189話 いよいよアーランへ

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 ファイブショーナンの夜は大変心地いい。
 さほど大きくない島の中にある国なので、どこにいても静かな夜には潮騒が聞こえてくる。

「すぴょー」

「おっ、コゲタがもう寝てる」

「アララも寝たね。ハンモックのほどよい揺れと潮騒……。酒を飲んでいたら私も一瞬で寝ていたところだ……」

「……ということは、現地の果実酒を飲んでいたシズマは……」

「ぐおおお……」

「爆睡している」

 夜のファイブショーナンは海風が優しく吹き、ずっと25度くらいの気温を維持する。
 そう、昼間は30度くらいで、常に温度が一定なのだ!

 過ごしやすーい。
 あまりにも快適な環境なので、この国の寝台はハンモックから全く成長がないのだ。
 ハンモックで必要十分だからね。

 飼い主氏も眠気が襲ってきているようだ。

「本当に素晴らしいところだ、この国は……。でも、私たち以外に外国人がいないようだし……移住を許してくれないからこそ、この生活が維持されているんだろうなあ……。いいなあ……。私もこの国に生まれたかった……」

 ぶつぶつ言いながら、彼も寝てしまった。
 気持ちは分かるぞ。
 発展する必要がないという、完成した環境。

 普通にここはパラダイスだ。
 食のバリエーションが豊かなら完璧だったな……。

 基本的に焼き魚と果実だけで暮らしてる国だからな……。
 その食では満足できないから、僕はここにいられないんだよなあ。

 そんな事を考えたら、寝てしまった。
 夢の中で僕は、コゲタと一緒に密林を旅していた。
 見たことがない植生の森の中で、僕とコゲタは新たなコボルドに出会う……。

 招かれたのは垂れ耳コボルドの村。
 そこで僕らは、現地の芋料理をご馳走になるのだった……。
 えっ、芋でパンを!?

 ……というところで目覚めた。
 明晰夢である。
 知識神が僕の枕元に立って、予知夢を見せたのかも知れない。

 さて、朝食だ。
 普通に果物と魚の干物を刻んだやつだった。

 果物をパクパク食べ、干物をつまむ。
 美味い美味い。
 食のバリエーションは少ないが、食い物は全体的に美味いんだよな。

「ナザル、昨夜そなた、変なものと接触しなかったかや? わらわがいるところに入るなって言ってるのに、神がちょっと降りてきたような」

「やっぱり!! 知識神は僕に新しいグルメと出会うことを望んでいるようだ……」

「ほうほう! どんなグルメなのかや?」

「芋で作るパン」

「芋で!? パン!?」

 不思議だよねえ。
 ファイブショーナンはハワイみたいな気候だとすると、あそこはアマゾンのような気候だった。
 そんな場所に住む垂れ耳コボルド一族から、芋のパンを伝授される。

 これは僕の運命であろう。
 どうやれば行ける?
 船かなあ。

 船……。
 あっ、ダイフク氏!!
 そうだ、ダイフク氏に頼んで船に乗ろう。
 そうしよう。

 今後の流れを決める僕なのだった。

「今一瞬で今後の人生の一大事を決定したのじゃな?」

「さすが女王陛下、よくお分かりで」

 バルバラ女王、長く生きているだけあって色々鋭い!
 こうして僕らは、ファイブショーナン土産のドライフルーツをもらって旅に戻ったのだった。

「いやあいいところだったなあ」

「そうだなあ」

 シズマと飼い主氏がしみじみと呟いている。
 だがあの国は、旅人には寛容だが、移住を許さない。
 僕くらいだろうな、あそこに住むのを許されるのは。

 だが、僕は食の楽しみが少ないあの国には住まないのだ!

 今も待た、アーランに着く前から旅立つ腹づもりでいる。

 こうしてファイブショーナンを発つこと数日。
 ようやく見えてきたぞ、アーラン!
 とても懐かしい……。

 巨大な遺跡の上に乗っかっている、遺跡の王国。
 幾つもの国を見てきたが、アーランが一番ぶっ飛んだ形をしてるな。
 しかも見えている遺跡はほんの一部だからな。
 あの地下に、未踏破の広大な空間がひたすらに広がっている。

 上に載せた人間たちの魔力を吸って、今も活動を続ける生きている遺跡。
 それがアーランだ。

 で、魔力を応用して様々な酪農やらを行い、自給率150%を誇るのがアーランなのである!

「いやあ、今からアーランの美食が楽しみだよ。なんだかんだ言って、世界中の料理が食べられる場所だったからね……」

「おっ、じゃあ一緒に飲もうぜ」

「いいね」

 いつの間にか意気投合している飼い主氏とシズマ。
 都合一ヶ月も一緒に旅をしていたら仲良くなるよなあ。

 コゲタとアララちゃんもさらに仲良しになったようである。
 二人で手をつなぎながら、「それー!」「それー!」とアーランに向かってダッシュしている。
 しばらくして疲れたらしく、道端にぺたんと座って僕らを待っていた。

「よーし行くぞー」

「はーい!」

「はーい!」

 二人が立ち上がってついてくる。
 アーランはあまりにも大きいので、姿が見えてからちょっと長い。

 あと二時間は歩くであろう。
 なに、二ヶ月の旅を思えば、二時間なんてあっという間なのだ。

「また少ししたら旅立つつもりだけど、しばらくの間はのんびりさせてもらってもいいかも知れない……」

 僕が独り言を口にしたら、シズマが信じられないものを見る目を向けてきた。

「二ヶ月も旅して、また旅をする気なのか!?」

「全ては美食のためだよ……」

「美食モンスターじゃん……」

 美味いもののためなら、体力の続く限り頑張る所存だぞ。
 こうして僕らは帰還した。

 アーランに入って早々、遠くからシズマの彼女のアーシェが走ってきて、ハグで迎えようとしたシズマに強烈なドロップキックをぶちかましたのだった。
 そりゃあ、二ヶ月も留守にしてたら怒るよなあ!

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