俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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69・ファイブショーナンから雪を見に来る

第206話 凍った海では泳げません

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 さて、お城に到着した。
 バルバラ女王の姿を確認した兵士たちが、大慌てで門を開ける。
 年に何回か遊びに来るから、すっかり顔を覚えてしまったな。

 まあ、こんな南国風美女はアーランにいないから、一発で覚えるだろうけれど。

 そして城を眺めたファイブショーナン一行。

「石造りの城というものは、雪と合うと実に荘厳なのじゃな。絵になるわ」

「これを覚えていって、帰ったら絵に起こしますか」「やろうやろう」「手伝うぞ」

 盛り上がっていらっしゃる。
 女王陛下本来の目的である、アーランとの貿易関係強化はすぐに行われた。
 デュオス殿下が出てきて、バルバラ女王と城の前で話し込んだのである。

 中で話をしようと誘われたが、女王陛下は雪に満ちた外が物珍しく、ここでやろうと聞かなかった。
 で、ファイブショーナン側から魚をたくさん収めることで、存在感を示す方向で終了したらしい。

 アーランでも魚は捕れるが、主に分かりやすい魚らしい形をした魚と、ちょっとの貝くらいのものだ。
 ファイブショーナンは多種多様な魚介類で攻めるつもりらしい。

 アーランを舞台にした、各国の外交戦が始まろうとしているな……。
 そして僕はこの国にいるままで、変わった魚介類を食べられるようになる……。

 タコとかイカとかな!
 ここで公務は終わり。
 また山の手を通って、これからは観光だ。

 軽く屋台で煮物を食べた。
 冬の煮物は美味いぞー。

 遺跡の畑で採れた根菜類と、ツーテイカーから輸入したキノコとソーセージのぶつ切りを雑に煮込んだやつだったが、美味かった。
 醤油に魚醤に塩にハーブに味噌。
 アーランは調味料が充実しているからね!

 屋台の主人は僕の顔を見るとニヤッとして、

「ナザルさん、おかげさまでうちの煮物は最高に美味いって評判だぜ」

 なんて言って、僕に根菜を一個おまけしてくれた。
 ありがたい!

「そなた、いつの間にか有名人になってしまっておるな! まああの活躍ぶりでは無理もなかろう……。美食のためには手段を選ばぬ男じゃからな。あっあっ、この具沢山スープが美味いのじゃ」

 女王陛下とおつきの人々が、夢中になって煮物を食べている。
 腹にも溜まるし、体も暖まる。
 いい事づくしなのだ。

「これを食べた翌々日はお通じがいい」

「それは耳寄りな情報ですな。殿下にもお伝えしよう」

 リップルとシャザクで情報が共有されているようだね……。
 コゲタは子供用により分けられたのを、ふうふう冷ましながら食べている。
 煮物も一人で食べられるようになって、本当に偉いなあ。

「さて、腹ごしらえも終わったところで、港に行きましょう。実はこの間まで氷が張っていて、我々は釣りなどをしていたのですが」

「おお、氷が! ということは、今はそうでもないのでは?」

「氷が浮かんではいますが、そこまで壮観な光景ではなくなってますね。でも、冬の海はファイブショーナンの常夏の海とは違うはずですよ」

「それもそうか! では行くぞ!」

 わいわいとたくさん引き連れて、港にやってきた。
 海風が厳しいですなあ。

 ファイブショーナンの方々は、「泳げる?」「せっかくだから海に入っていこう」なんて洒落にならないことを言っておられる。
 僕は慌てて彼らの前に立ちふさがった。

「ノーノー! 泳げません!」

「だって海なのに」

「冬の海は存在そのものが凶器です。入ったら凍えて死にます」

 きょとんとする南国の人々なのだった。
 ピンと来ないかー。

 では、桶にちょっと水を入れてきて手を差し入れてもらった。

「うわーっ」「痛い痛い、手が痛い」

「これが冬の海です。浸かると死にますぞ」

「ひぃーっ」

 どれほど恐ろしいものかお分かりいただけたようだ。
 なお、バルバラ女王は、そんなこと知ってるもんとでもいいたげな顔であったが。

 桶の中の氷水に指を突っ込んだら、思った以上に冷たかったらしくて「ひぃー」とか言っていた。
 やはり冷たいのは苦手か。

 ではここから、冬の魚を釣ろうではないかという話になり、みんなで並んで釣り糸を垂らした。
 北国の魚が釣れて、これをその場で焼いて食った。

「味が強いですなあ」「うちらの魚は淡白だもんね」「味、濃いよね」

 そういう感想になるのか。
 ファイブショーナンの作物はこっちに流れてくるから、干し魚なんかも食べたりするが、かの南国はあまり海外の食品系を受け入れていない。
 調味料ばかりだった気がする。

 だから、アーランで食べるこちらの味が珍しいのだろう。
 彼らの反応を楽しんだ後、宿に送り届けることにした。

 僕の住まいとは違い、隙間風が無いタイプのお店である。
 女王陛下もいるので、ランクとしては山の手にあってもおかしくないくらいのレベル。

 扉の前にスタッフがずらりと並んで出迎えてくれた。
 一国の女王が宿泊するもんなあ。

 ここで、エリィとドロテアさんも観光チームを率いて合流。
 今夜はファイブショーナンの観光チームは、この宿で大宴会予定なんだとか。
 いいですなあ。

 冬のグルメをめちゃくちゃに楽しんでいって欲しい。

「よし、それじゃあ我々もちょっと良い物を食べに行きましょうか」

 おっと、シャザクからの提案だ!

「いいものって?」

 エリィがちょっと期待している風に尋ねる。

「いつも真の美食ばかりしてるでしょう。ここは、古来からのアーラン料理を格式ばって食べようじゃないですか」

 つまり、フランス料理みたいなやつってことだ。
 たまにはそう言うのもいいなあ。

 今夜の食事は、ゆったりとしたものになりそうだった。

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