俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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73・カレーコを求めて

第219話 そして砂漠の王国へ

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 ベヒーモス効果か、賊の襲撃はずーっとなかった。
 僕らはのんびりと旅をし、だだっ広いステップの夜空を堪能したりなどした。

 背の高い建物や山や木々が無いから、見上げるすべてが空なのだ。
 どこまで行っても星空。
 満点の星。

 そもそも雨が少ない地域だから、常に晴れてる。
 いやあ、夜は寝るのが惜しくなるくらい、素晴らしい星空だった。
 コゲタは僕の横で寝転びながら空を見て、ポカーンとしていた。

 で、気がつくとぐうぐう寝るのだ。
 寝る子は育つ!

 そんなわけで、そろそろステップを抜けるぞ。
 日差しが強くなってくる。
 砂漠だ。

 不思議なことに、砂漠になったほうが背の高い植物や岩山などが出現するようになる。
 日陰があるってわけだ。
 それに、ステップよりも地面が柔らかいと言うか、サンドワームというでかい砂蟲がしょっちゅう地面を掘り返してて柔らかい。

 つまり地下水を手に入れやすい。

「案外砂漠のほうが過ごしやすいな」

「砂漠のモンスターたちから身を守れる僕らならそうだろうね」

 僕の感想に、ツインが頷くのだった。
 コゲタとルリアは、二人で水をちびちび飲みながら一緒に後ろを歩いている。

「コゲタちゃんは暑くないの~?」

「あっついよ!」

 コゲタは暑くても元気だからなあ。
 だが、黒豆柴なコゲタは太陽光を吸収しやすいので、僕はコゲタ用のフードを作って装備させているのだ。

 これは市場で端切れを買ってきて、宿の女将さんに仕立ててもらったやつだ。
 色とりどりの端切れが繋がっているから、カラフルでなかなかかわいい。

 コゲタもこれはお気に入りらしくて、フードを被ってふんふん鼻歌を歌いながら歩いている。

「コゲタちゃんはおしゃれねえ~」

「コゲタおしゃれ? いいでしょー!」

「いいなあ~」

「おかみさんにおねがいして、ルリアのもつくってあげる!」

「ほんとう~? うれしいなあ~」

 仲良くなってる。

「ルリアは相手の懐にすっと入り込むタイプだからな。様々な人とすぐに仲良くなれる」

「それは凄いスキルだ……」

「君も同じだろう」

「そうですかね?」

 どうやら端から見るとそうらしい。
 僕はグルメや手練手管を使って相手の懐に入り込み、ウィンウィンになるように話を持っていっているだけなのに。

「言葉の魔術師とか、相手の脳に油を送り込んで思考を滑らせて操るとか、色々な説がある」

「人を化け物みたいに言う説があるなあ!」

 失敬な。
 だが、お陰で僕は今、あちこちで畏敬を持って語られたりしてるらしい。
 道理で最近、様々な交渉が実にやりやすい。

 僕はアーラン人としては極めて特徴的な、金髪に褐色の肌、オリーブ色の瞳をしているので、誰でもひと目で僕だと分かる。
 この容姿と組み合わせて、大いに武器として活用させてもらっているところはあるな。

 実は怪物扱いに大いに助けられていたか!

「あっ、ご主人ー!! まちのによいがするよ!」

「おお、もうか!」

 コゲタがトテトテトテー!と先に走っていった。
 僕もあとを小走りで追いかける。

 ツインがルリアを連れて、

「しかし……全くモンスターの襲撃もなかった。まるで、誰かを恐れているかのようだ。ここまで平和な旅になるとは……」

「う~ん、私はですね~。ナザルさんの人徳というか、なんというか~。あの方、とてもいいオイルの香りがするでしょう~? でも、ナザルさんに怖い目に合わされた方には、そのオイルの香りはトラウマになっちゃうかな~って」

「なるほどな……。見た目で区別がつきづらい人間でも、においが極端に特徴的ならば、モンスターだろうと判別がつくというわけか」

 なんだなんだ。
 誰が恐れられているって?

 砂漠の王国に到着したら、兵士たちが僕らを止めてきた。
 ここで僕は、デュオス殿下の特使である書類を見せる。

 これは殿下の資金援助とともにもらったものなのだ!
 ざわつく兵士たち。
 一旦奥に引っ込んで、偉そうな兵士が出てきた。

 この国の騎士に当たる人物かな?

「ふむ、よそ者がこのような書類を……うーん。間違いなくアーラン王国王家の紋章……。ちょっと待っていて下さいね」

「はあ」

 いきなり物腰が丁寧になったぞ!
 地位というのは大事だなあ。

「流石に地の果ての王国までは、ナザル殿の威光も届いていなかったな」

「ははは、やめてくださいよ。僕なんかそんな大したものでは」

 凄い勢いで、偉そうなターバンのおじさんが走ってきた。

「あ、あ、あなたが噂の、美食の伝道師ナザル殿ですかーっ!!」

「知られている!! なんでだ!?」

 やってきたターバンのおじさんは、アブサムと名乗った。
 砂漠の王国の執政官の一人らしい。
 偉い人じゃないか。

「実は、街道に出現するモンスターが大人しくなりましてな。お陰でアーランに向かう隊商の数が増えたのです。そして、アーランに向かった者たちがペペロンチーノなる料理を仕入れてきましてな。我らの国のオブリーをふんだんに使って、さらにピーカラをパスタで食べると言う料理。まさに砂漠の国のためにあるものではありませんかな」

「ここの材料で作りましたからねえ……。気に入っていただけましたか」

「今や我が国の主食です。にんにくとやらも導入し、独自に栽培も始めています」

「本場のペペロンチーノが誕生していた!!」

 砂漠の王国恐るべし。
 そして、このペペロンチーノなる食物を生み出したのが僕と言うことで、砂漠の王国に知れ渡っているそうだった。

 兵士たちの目がリスペクトに満ちたものになる。

「それでナザル殿! どのような御用向きで我らの王国へ? もしや……新たなグルメを伝導に……」

「まあそんなもんです……!!」

 おおーっ!!とどよめく、砂漠の人々なのだった。
 こりゃあ、カレーコの前に何かグルメを仕立ててやらないと収まりがつかなそうだぞ。

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