俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
238 / 337
79・上陸! 南の島!

第238話 見えてきた! ケーキのような島だ

しおりを挟む
「見えてきたぞー!!」

 朝、そんな叫び声で目を覚ました。
 船に取り付けられたドラがジャーンジャーン!と鳴らされる。
 これは本来、海のモンスターや海賊が現れた時に鳴らすものなのだが……。

 こうやって大きなイベントが起こった際にも鳴らすのだ。

「リップル、起きるんだ」

「う、ううーん。もう少しだけ……」

「毎日ハンモックでゴロゴロしててお腹に肉が付いてきてるんじゃないか」

「なにおう」

 目覚めた。
 やっぱり気にしてるんじゃないか。
 日々寝転がってて、よく夜も眠れるものだ。

 コゲタはドラが鳴る前に飛び起きて、トテトテトテーッと甲板を見に行ったようだった。
 マキシフがコゲタをリードしてくれているので安心。
 持つべきものは良き先輩だなあ。

 僕も着替えてホイホイと出てくる。
 船の上では、水夫たちが体を洗っているところだった。
 リップルの力で大量の真水に恵まれた今回の航海。
 船員たちは毎日体が洗えると大喜びだった。

 で、僕が出てくるとみんなが「ナザルさんだ!」「おはようナザルさん!」「ついに島だぜ!」と親しげに話しかけてくる。
 ははは、僕の人望かな。
 まあ、僕が美味しいものをやたらと彼らに提供したからだと思うのだが。

 マキシフにリードを握ってもらいつつ、コゲタが甲板のあちこちをトテトテ走っている。
 島への到着で沸き立つ船員たちに紛れて、わあわあ騒ぐのた楽しいらしい。
 あっちに行ってはぴょんぴょん跳ねて、こっちでは船員とハイタッチしている。

 お祭り好きだなあ。

「すまんねマキシフ」

「いえ、妹が小さかった頃を思い出します」

 ははあ、マキシフはお兄ちゃんだったか!
 子供コボルドの世話はお手の物ということだ。

 まあ、コゲタは人間に換算すると多分13~4歳くらいで、この天真爛漫さは種族が本来持っている特徴なんだろう。
 野生だとそういう性質は抑えられるが、人間と一緒に暮らしていると小型コボルドはものすごく明るくなる。

「ごしゅじーん!」

「おうコゲター。島だなー」

「しま! しま! いっぱいはしるの!」

「船の中だと危なくてあんまり走れなかったもんなー」

 水平線に、小さいものが見えている。
 あれが目的の島か。
 まだ遠いようだが、追い風を上手く捉えたのでぐんぐん近づいているそうだ。

 これは楽しみだ。
 コゲタと並んで、島が近づいてくる様をじっと眺める。

 厨房係が朝食を運んできてくれた。

「悪いね!」

「いえいえ、航海中はお世話になりましたからね、これくらい! 最高の眺めで最高の朝食をどうぞ!」

 干し肉のスープとパンという、いつものメニューだ。
 これに酸っぱい果実を絞った汁がついてくる。

 だが、ぐんぐん近づく島影を見ながら食べる朝飯は美味い!
 味と香りだけではなく、目から入ってくる情報もまた美味しさになるのだなあ。

「ふおーい」

「ねぼすけなハーフエルフが来たぞ」

 ふらふら歩いてくるリップル。
 もう、航海の始まった頃のまま、リップルに好色な目線を向ける男はいない。
 みんな敬意に満ちた目で、アーラン最強の魔法使いを見ているのだ!
 またモテから遠ざかったな……!!

 なんか敬礼までされてるじゃないか。
 リップル、おざなりに礼を返しながら歩いてくる。

 そして僕らの横にどっかり座った。
 サッとやってきた調理係氏が、リップルの分の朝食を用意する。

 パンはなしで、スープと果汁だけ。
 好みを分かっておられる。

 リップルは干し肉を戻したしょっぱいスープを飲んで、「うー」とか唸った。
 そして酸っぱい果汁を飲み干して、「ひー」とか呻いた。
 目が覚めたらしい。

「陸が近いんだって?」

「ようやく会話できるようになったな。あれだよ、あれ。どんどん近づいてくる。僕の目にはこう……空に向かって伸びる円錐状の島に見えるんだが」

「ああ、円錐みたいな形をしている島だねえ」

「イメージしてたのはのどかな南の島だったので、全然違った。というか思ったよりもずっと大きいぞ、あの島。円錐は山か。てっぺんが雲に隠れるくらい高くて、半分が真っ白だ。あれは雪だな……? で、麓に森と、金色に揺れる草原みたいなものが……」

 ここまで見えているものを言語化した後、僕は気付いた。
 あれは、黄金の草原などではない!!

 あの色は、風に揺られる黄金色の作物は……!

「米……!! 米だあれは!! 米が、この世界にあった……!!」

 思わず立ち上がっていた。
 なんということだ!
 島の正面の七割を覆う黄金。
 大量に作られた田んぼがそこには存在しており、僕を出迎えるように揺れているのだった。

「ご主人うれしい!? うれしい!?」

「嬉しい! すごく嬉しいぞ! うおおおおおテンションが上がってきたああああ!! はるばる海をわたってここまで連れてきてもらった甲斐があったぞー!!」

 僕が大喜びしていると、船主が出てきた。

「米というのは、あの島で作っているあの白っぽい食べ物だろう? 茹でてもらったが、味がしなくて、そこまで旨いものでは無かったと思うが……」

「ははは、食材はどれも食べ方というのがあるんですよ。僕がそれをお目にかけましょう」

 どんな米があるのか?
 それを考えるだけで、ワクワクしてくる。

 こうして往路は終わる。
 目的としている、米と垂れ耳コボルドの島に、僕らは到着したのだ。

しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。

あけちともあき
ファンタジー
冴えない高校生女子、きら星はづき(配信ネーム)。 彼女は陰キャな自分を変えるため、今巷で話題のダンジョン配信をしようと思い立つ。 初配信の同接はわずか3人。 しかしその配信でゴボウを使ってゴブリンを撃退した切り抜き動画が作られ、はづきはSNSのトレンドに。 はづきのチャンネルの登録者数は増え、有名冒険配信会社の所属配信者と偶然コラボしたことで、さらにはづきの名前は知れ渡る。 ついには超有名配信者に言及されるほどにまで名前が広がるが、そこから逆恨みした超有名配信者のガチ恋勢により、あわやダンジョン内でアカウントBANに。 だが、そこから華麗に復活した姿が、今までで最高のバズりを引き起こす。 増え続ける登録者数と、留まる事を知らない同接の増加。 ついには、親しくなった有名会社の配信者の本格デビュー配信に呼ばれ、正式にコラボ。 トップ配信者への道をひた走ることになってしまったはづき。 そこへ、おバカな迷惑系アワチューバーが引き起こしたモンスタースタンピード、『ダンジョンハザード』がおそいかかり……。 これまで培ったコネと、大量の同接の力ではづきはこれを鎮圧することになる。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

処理中です...