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83・垂れ耳もふもふ、来たる
第253話 いざ、雪山へ
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山へ向かう朝が来た。
大柄なコボルドたちはみんな米俵を二俵とか三俵とか背負い、小さいコボルドたちも二人で一俵を運んでいく。
これで雪山を行くのだ。
僕らも藁を使って防寒具を作ってもらい、これを着込んでいくことになった。
おお、笠地蔵の世界だ。
非常に日本昔ばなしチックな防寒具。
何もかも藁で完成する世界。
あとは滑らないように棒を杖にして……。
出発なのである。
棒術スケアクロウたちに手を振って別れる。
まあ、どうせ数日でここに帰ってくるんだが。
考えてみると、とんでもなく忙しい旅だなあ。
アーランからはるばる海を超えてやってきたと思ったら、熱帯雨林のコボルドの村へ、そして棒術スケアクロウの里に行き、ついには大魔道士カズテスの謎が眠っていると言う雪山へ登るのだ。
この間、十日くらい。
早すぎる。
なお、この島には山は一つしか無い。
だからあの山はただの雪山でいいのだ。
「私は楽をしても?」
「僕に許可をもらう前に既に楽をしてるじゃないか」
すぐ横のリップルが、宙に浮かびながらスイーっと横移動している。
コゲタと小さいコボルドたちが面白がって、リップルの後をついていくのだ。
他のコボルドたちもどよめいているな。
あまりみんなの動揺を誘わないでいただきたい!
雪山は外から見ると円錐形なのだが、その実、登山道みたいなのがグルグルと山を巻いている。
ここをコツコツ上がっていくわけなのだが……。
おお、横殴りの風が!
「ひゃあー」
雪山と風に不慣れなコゲタが悲鳴をあげた。
僕はコゲタを影に隠すのだが、同時にコボルドたちがスクラムして風よけになってくれた。
なんと素晴らしいチームワークか!
感動してしまった。
「不味いですね。今季の山は温暖だ。雪が崩れやすくなっています」
カクトスがそんな事を言う。
「雪崩が起きやすいってことか」
「そうですね。我々もそれで分断されました。行きは手ぶらだから良かったですが、帰りは米を背負っていますから……」
「小回りが効かないな。だが安心してくれ。うちには大魔法使いがいる」
僕はプカプカ浮いているハーフエルフを指さした。
「あ、私? いいよいいよ。これから面白いものを見せてもらうんだもの。君たちの手助けくらいいくらでもやるよ」
こんなにやる気になっているリップルは珍しい。
環境は人を変えるなあ。
「でも浮いていると風に流されるから引っ張ってほしいな」
やっぱり楽をすることしか考えていないかも知れない。
リップルに紐をつけてみんなで引っ張りつつ移動だ。
ざくざくと雪の中を歩いていく。
コボルドたちは毛を編んで作った靴を履いており、それに油を塗って水分が染み込まないようにしている。
そして靴の底には特殊な石を貼り付けて滑り止めにしているのだ。
僕とコゲタは油を塗っただけの普通の靴だからね。
まあ、油層が寒さと水気を弾く、僕の特別製油だが!
「コゲタさむくない?」
「へーき! ご主人のあぶらがあるから!」
「すごーい!」
ハムソンとコゲタの会話は可愛くていいね。
とか言っていたら、早速遠くからゴゴゴゴゴゴと音がし始めた。
「雪崩の予兆だ。みんな静かに」
カクトスが囁く。
大きな声は雪崩を呼んでしまう。
ここからは大声禁止だ。
それでも、今年の雪山の気温が雪の結合を緩ませる。
向かう先で、ゆっくりと積み上がった雪がこちらに動きつつあった。
これは大変な状況らしい。
普段なら、米を一旦放り出して避難するらしい。
その後、雪の中から何日もかけて掘り出すのだとか。
大変な労力だ。
今回はイージーモードで参りましょう。
「リップル」
「ほいきた。フォースフォールド!」
彼女は僕らの前に、光の壁を作った。
「これで進んでも大丈夫だよ。雪崩とやらが押し寄せてきても、光の壁が左右に除けてしまうから」
物理法則とか、質量とか。
本来ならそう言うのが問題になるのだが……。
案の定滑り落ちてきた雪が、光の壁に当たった瞬間、左右に逸れていくのを見てコボルドたちがどよめいた。
「これならどんどん進める!」「雪崩の中を進むだって?」「聞いたこともない!」「すっごーい!」
わしわしと進んでいく一行なのだ。
激しい雪の流れが、左右に分かれる。
その中央を、まるで無人の野を行くかの如く僕らとコボルド一同が突き進むのだ。
「驚くべき速さです! 普段なら雪崩を恐れて、ゆっくり進むんです。あるいは吹雪に遭ったりする。今がまさにそれなのですが、吹雪さえもこの光の壁は防いでしまう……!」
「完全に無風になってるねえ。さすがアーラン最強の魔法使い」
浮いているのを紐で引っ張ってもらう見返りに、リップルはみんなに完璧な防御を約束した。
お陰で旅は大変快適なのだ。
本来なら三日掛けて里まで行くのを……。
なんとその日の夕方に到着することになった!
信じられない速度らしい。
僕はてっきり、イグルーが立ち並ぶ平原みたいな感じなのかなーと思っていたのだが……。
そこはどう見たって岸壁だった。
確かに、雪を固めて作った住居、イグルーが幾つかある。
だがコボルドたちが暮らしているのはそこではなく……。
「ようこそ、我らの村へ!」
カクトスが、岸壁に口を開けた大きな洞穴を指し示した。
すると……。
洞穴から、物凄い数の垂れ耳コボルドたちがひょこっと顔を出したのである!
うわーっ、パラダイスかここは!
大柄なコボルドたちはみんな米俵を二俵とか三俵とか背負い、小さいコボルドたちも二人で一俵を運んでいく。
これで雪山を行くのだ。
僕らも藁を使って防寒具を作ってもらい、これを着込んでいくことになった。
おお、笠地蔵の世界だ。
非常に日本昔ばなしチックな防寒具。
何もかも藁で完成する世界。
あとは滑らないように棒を杖にして……。
出発なのである。
棒術スケアクロウたちに手を振って別れる。
まあ、どうせ数日でここに帰ってくるんだが。
考えてみると、とんでもなく忙しい旅だなあ。
アーランからはるばる海を超えてやってきたと思ったら、熱帯雨林のコボルドの村へ、そして棒術スケアクロウの里に行き、ついには大魔道士カズテスの謎が眠っていると言う雪山へ登るのだ。
この間、十日くらい。
早すぎる。
なお、この島には山は一つしか無い。
だからあの山はただの雪山でいいのだ。
「私は楽をしても?」
「僕に許可をもらう前に既に楽をしてるじゃないか」
すぐ横のリップルが、宙に浮かびながらスイーっと横移動している。
コゲタと小さいコボルドたちが面白がって、リップルの後をついていくのだ。
他のコボルドたちもどよめいているな。
あまりみんなの動揺を誘わないでいただきたい!
雪山は外から見ると円錐形なのだが、その実、登山道みたいなのがグルグルと山を巻いている。
ここをコツコツ上がっていくわけなのだが……。
おお、横殴りの風が!
「ひゃあー」
雪山と風に不慣れなコゲタが悲鳴をあげた。
僕はコゲタを影に隠すのだが、同時にコボルドたちがスクラムして風よけになってくれた。
なんと素晴らしいチームワークか!
感動してしまった。
「不味いですね。今季の山は温暖だ。雪が崩れやすくなっています」
カクトスがそんな事を言う。
「雪崩が起きやすいってことか」
「そうですね。我々もそれで分断されました。行きは手ぶらだから良かったですが、帰りは米を背負っていますから……」
「小回りが効かないな。だが安心してくれ。うちには大魔法使いがいる」
僕はプカプカ浮いているハーフエルフを指さした。
「あ、私? いいよいいよ。これから面白いものを見せてもらうんだもの。君たちの手助けくらいいくらでもやるよ」
こんなにやる気になっているリップルは珍しい。
環境は人を変えるなあ。
「でも浮いていると風に流されるから引っ張ってほしいな」
やっぱり楽をすることしか考えていないかも知れない。
リップルに紐をつけてみんなで引っ張りつつ移動だ。
ざくざくと雪の中を歩いていく。
コボルドたちは毛を編んで作った靴を履いており、それに油を塗って水分が染み込まないようにしている。
そして靴の底には特殊な石を貼り付けて滑り止めにしているのだ。
僕とコゲタは油を塗っただけの普通の靴だからね。
まあ、油層が寒さと水気を弾く、僕の特別製油だが!
「コゲタさむくない?」
「へーき! ご主人のあぶらがあるから!」
「すごーい!」
ハムソンとコゲタの会話は可愛くていいね。
とか言っていたら、早速遠くからゴゴゴゴゴゴと音がし始めた。
「雪崩の予兆だ。みんな静かに」
カクトスが囁く。
大きな声は雪崩を呼んでしまう。
ここからは大声禁止だ。
それでも、今年の雪山の気温が雪の結合を緩ませる。
向かう先で、ゆっくりと積み上がった雪がこちらに動きつつあった。
これは大変な状況らしい。
普段なら、米を一旦放り出して避難するらしい。
その後、雪の中から何日もかけて掘り出すのだとか。
大変な労力だ。
今回はイージーモードで参りましょう。
「リップル」
「ほいきた。フォースフォールド!」
彼女は僕らの前に、光の壁を作った。
「これで進んでも大丈夫だよ。雪崩とやらが押し寄せてきても、光の壁が左右に除けてしまうから」
物理法則とか、質量とか。
本来ならそう言うのが問題になるのだが……。
案の定滑り落ちてきた雪が、光の壁に当たった瞬間、左右に逸れていくのを見てコボルドたちがどよめいた。
「これならどんどん進める!」「雪崩の中を進むだって?」「聞いたこともない!」「すっごーい!」
わしわしと進んでいく一行なのだ。
激しい雪の流れが、左右に分かれる。
その中央を、まるで無人の野を行くかの如く僕らとコボルド一同が突き進むのだ。
「驚くべき速さです! 普段なら雪崩を恐れて、ゆっくり進むんです。あるいは吹雪に遭ったりする。今がまさにそれなのですが、吹雪さえもこの光の壁は防いでしまう……!」
「完全に無風になってるねえ。さすがアーラン最強の魔法使い」
浮いているのを紐で引っ張ってもらう見返りに、リップルはみんなに完璧な防御を約束した。
お陰で旅は大変快適なのだ。
本来なら三日掛けて里まで行くのを……。
なんとその日の夕方に到着することになった!
信じられない速度らしい。
僕はてっきり、イグルーが立ち並ぶ平原みたいな感じなのかなーと思っていたのだが……。
そこはどう見たって岸壁だった。
確かに、雪を固めて作った住居、イグルーが幾つかある。
だがコボルドたちが暮らしているのはそこではなく……。
「ようこそ、我らの村へ!」
カクトスが、岸壁に口を開けた大きな洞穴を指し示した。
すると……。
洞穴から、物凄い数の垂れ耳コボルドたちがひょこっと顔を出したのである!
うわーっ、パラダイスかここは!
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